溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

株式持ち合い解消の現状 クッキーの賞味期限との関係!?

www.nikkei.com 

『上場する3月期決算企業は、2016年3月期末までの1年間に、取引関係の維持などを目的に保有する持ち合い株式を実質で1兆円強削減した。効率化を促す企業統治指針の導入が背中を押し、利益の出にくい株安局面でも売却を優先した。企業数では約半分が持ち合い解消に取り組んだとみられる。』

『15年度末の合計は46兆5000億円で、14年度末(54兆4900億円)から8兆円近く減った。この年は中国景気の減速懸念などで東証株価指数が約13%下落。試算では、株安による目減り分を除いた実質的な売却額は1兆600億円になった。株式を減らしたとみられる企業は1024社と全体の47%になった。』

 

持ち合い株の解消が進んでいるようだ。

持ち合い株、株式持ち合いについては、以前こちら☟

株式持ち合いって何の意味があるの? - 溝口公認会計士事務所ブログ

でも書いたが、過去には安定株主対策などを目的に一世を風靡した(というか当たり前にやっていた)株式持ち合いも、今や忌まわしい過去の悪しき風習コーポレートガバナンスの御旗の前では速やかに解消すべし、を受けての会社の対応だ。

まあ、確かに、安定株主と言っても取引先がどれだけ役立っているかも分かりにくいし、実際のところ、じゃあといって安定株主でない株主がどれほどアクティビスト的に会社の経営者に要求を突き付けたり、株主総会が荒れたり、さらには買収の危険にさらされていたかというと、今と比べれば大したことないという会社が一般的だったのではないかと思う。また、取引関係強化と言っても、株式持ち合いがどれだけそれに見合う効果があったかも判然としないだろう。

多くの会社が、そういった期待(幻想?)はあるものの、まあ他社もやっているしということでの消極的対応ではなかっただろうか。

 

と言うことで、傾向としては株式持ち合いは減少(解消)傾向にあるのだが・・・

 『安定株主の確保にこだわり、持ち合い解消を先送りする企業はまだ多い』との指摘もある。

 

また、持ち合い株式は貸借対象表(B/S)では『投資有価証券』として表れ、上場株は決算ごとに時価で評価される。そして、含み損益は純資産に影響することになる。

 

『持ち合い株は減少傾向にあるとはいえ、全社の残高は前期の純資産合計(347兆円)の1割強もある。株式の含み損益のすべてが決算に反映されるわけではないが、株価低迷が長引いた場合に着実に財務をむしばんでいく。』

 

含み損の場合は、純資産の減少、そして配当可能額の減少にもなる。

(ちなみに、含み益の場合でも配当可能額は増えない)

 

と、言うことで、持ち合い株式を処分(売却)する場合、株価動向も会社としても気になるところだろう。

持ち合い株式を売却する場合に発生する売却損益は、損益計算書(P/L)の特別損益に反映される。そのため、持ち合い株の解消がある意味業績の調整弁に使われる傾向もあるように思う。つまり、株式持合いの解消と言う国全体の方針の中で、どのような時間軸で解消していくかは会社の方針による。

会社は、持ち合い株をある程度のカテゴリーに区分(即座に売却可能、原則継続保有など)して、即座に売却可能(と区分した)な持ち合い株式については、固定資産の減損損失が発生する場合に持ち合い株式を売却して含み益を実現させ減損損失インパクトを軽減するのだ。このような利益調整的な会計手法を、あたかも好きなだけクッキーをつまむに見立てて、クッキー・ジャー会計と言う。

ところが、IFRSでは、持ち合い株式(上場株)の含み損益は決算ごとに包括利益(P/L)、その他の包括利益累計額(B/S)に反映され(ここまでは日本の会計ルールも同様)、実際に持ち合い株式を売却した際の損益はP/Lに反映されない。ここが日本の会計ルールと異なるところだ。

一旦、包括利益で認識した利益を当期純利益に再計上することを

リサイクリング(組換調整)と言うが、日本の会計ルールでは現状、リサイクリングを認めている。だから、上記のように、含み損益が持ち合い株式売却により特別損益になるのだ。これに対して、

IFRSではリサイクリングは認められない。と、言うことは、部分的な持ち合い株式の売却によって他の損失の穴埋め(クッキー・ジャー)ができないのである。

日本の会計ルールが、昨今、IFRSに沿って変更されていることを考えると、クッキーがいつまで湿気らずに食べられるか・・・

賞味期限はそれほど長くないかも知れない。

東芝の改善状況報告書に思う

 

www.toshiba.co.jp

(改善状況報告書はこちら)

http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20160818_1.pdf#search='%E6%9D%B1%E8%8A%9D+%E6%94%B9%E5%96%84%E7%8A%B6%E6%B3%81%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8'

 

「・・・に思う」シリーズが一部で好評なので(笑)

 

昨日、8/18、「東芝が不適切会計問題への対応」プロセスの一環として「改善状況報告書」を公表した。

3/15に公表された「改善計画・状況報告書」に次ぐ進捗状況の報告だ。

改善計画・状況報告書では、不適切会計の要因とて以下が記載された。

歴代社長による目的達成へのプレッシャー

・当期利益重視の業績評価・予算制度

CFOや財務・経理部門等の業務執行部門における牽制機能の不全

・内部監査部門の機能不全

・取締役会等による歴代社長及び執行役への監督機能の不全

・歴代社長及び執行役における適切な財務報告に向けての意識の欠如や歴代社長らの意向を優先したことによる財務・経理部門における適切な財務報告に対する意識の低下

これら複合的な要因との認識だ。

要するに、経営トップのエゴ、つまり、地位や名声といった精神的な自己満足とお金などの経済的な自己満足のために会社利用し、会社内部の部門は保身のためにそれに従い、経営トップを監視監督すべき会社の機関は見て見ぬふりをした、とうことだ。

少しきつい書き方になるが、まあそう言わないと仕方がないということもあろう。

 

それに対して、どのような改善が図られたかというと、大きく4点

・経営トップらに対する監督強化

・内部統制機能の強化

・マネジメント・現場の意識改革

・開示体制の改善

 

特に印象的だったのが2点 

社外取締役の活用強化

横の連携強化

だ。

社外取締役の活用強化、については、例えば、

社外取締役の人数を過半数の6名(10名中)へ

・取締役会議長を社外取締役

・指名委員会、報酬委員会、監査委員会を社外取締役のみで構成

社外取締役のみで構成される取締役評議会の設置

・監査委員会室による社外取締役への支援体制

などが挙げられている。

経営トップの暴走を防ぐためには、社内から登用された役員では無理(自分を役員に引き上げてくれたいわば恩人に意見するなどありえない)やはり、経営トップとしがらみがなく、かつ社会的な地位や名声があり、その道のプロとして第一線で活躍している社外取締役こそその担い手として期待される(社長も耳を傾けるだろう)、ということだろう。東芝はもともと指名委員会等設置会社だったから、各委員会の過半数は社外取締役だったが、少数とはいえ代取が委員会にいると遠慮もあるかということで社外取締役のみで構成とした。社外取締役はどうしても社内の情報が不足するため、その支援体制もうなづける。また、取締役会議長を社外取締役にすることも取締役会の議論の活性化につながるだろう。

ちなみに、監査委員会の委員長が従前は元CFOだったため、自己監査になるためともすると自己弁護的になり監査が甘くなるとか、経理財務に精通した社外取締役がメンバーにいなかったというのは何とも残念だったが、その点も今回改善されたということだ。

 

それ以外にも、

内部通報制度の強化

内部通報先に監査委員会を追加。(従来も社外の法律事務所といった社外へのパスはあったのだが)社外取締役で構成される監査委員会へ直接内部通報(タレこみ)のパスを設けることで機能強化を図った。従来、執行側の社内部門(法務部など)が受け皿だとあったので、驚いた。社内にリークなんて危険なこと誰がするか、そちら側に関係者がいたらどうなることか・・・内部通報は社外の受け皿が必要だが、同時に、通報者保護が十分でないと実質的な機能は期待できない。通報者が裏切者、危険分子として会社から報復人事を受ける事例も少なくない。

(有名な事例は、オリンパス事件)

《判決全文》オリンパス内部通報者の配転を無効に、東京高裁 - 法と経済のジャーナル Asahi Judiciary

 

内部監査部門の強化

目的を従前の事業コンサル的な位置づけから会計監査・業務監査に集中(名称も、経営監査部から内部監査部へ変更)させ、人員も増強(約40人→約60名)。監査委員会に直結させ社内的な独立性も強化させた。

 

次に、横の連携強化については、以下が挙げられる。

 

 CFOと監査委員会の連携強化

CFO代表取締役に逆らえなく、言いなりになってしまうと不適切会計に繋がりかねないとの反省から、社外取締役と連携することによりそのようなリスクの発現を防止、あるいは早期発見を期待。

 

カンパニー経理部と本社財務部の関係

横の連携とは少し異なるが、カンパニー経理部は従前カンパニー(長)に帰属していたが、これを本社財務部に属させた。カンパニー主導の不正に関しては、カンパニー経理部は本社の隠密的な役割(という意味で横)になるので一定の牽制機能が期待できる。ただし、本社主導の不正についてはその限りではない。

 

CFO、監査委員会と外部会計監査人の連携強化

会計監査人も役員ではないが、外部のリソースであり、効果的に活用していきたい。会計監査で従来、CFO監査役または監査委員会とは年数回のコミュニケーションをとってはいるがその頻度、密度を上げるとのこと。

会計監査人は、事前に関与させることで会社にとってはコンサルや保険的な機能も期待できる。

 などなど

 

事業部やカンパニーなどの縦割り組織はどうしても情報が閉鎖的で外から見ると状況が把握しづらく、意図的でなくとも、気づいてみればコンプライアンス違反をしていた(ので隠ぺい・・・)なんてことにもなる可能性もある。縦割り組織に横の連携を入れていくのはそういったリスクを低減するには効果的だろう。

 

ここで紹介した以外にも、改善報告書には他にも様々な取り組みが記載されている。これでもか!と言わんばかりの取り組みだ。まあ、ああいった事件があった後だから、やり過ぎて過ぎることはないということだろうし、ステークホルダーを始め社会に対して一定の理解というか納得感を持ってもらうためにはこの位しないといけないんだろうな、というのが正直な感想だ。

 

ところで、だ。

東芝は、指名委員会等設置会社も他社に先んじて導入し、コーポレートガバナンスの優等生として評価されてきた会社だ(そういえば、内部統制の模範例として自社の取り組みを紹介していた書籍もあったなあ・・・)。体制や組織といった形式的な仕組みは以前から十分といえば十分な会社のはずなのだ。実際、東芝ほどの人員も人材も資金余力もなく、体制や仕組みで劣っている会社は数多い。

何が言いたいかというと、肝心なのはその運用だということだ。そして、そのためには経営トップを含めた全社的な意識付けが重要になる(改善事項の3点目)。

もちろん、先の不適切会計に関しても今回改善されたような形式面での不備はあろうし、それを改善することは望ましい。が、それだけで十分かというとそうではない。皮肉にも、当時内部統制、コーポレートガバナンスの優等生と評された東芝こそがそれを証明している。

 

 

 

 

 

 

 

最近流行りの『監査等委員会設置会社』って何?

『昨年施行の改正会社法で導入された「監査等委員会設置会社制度の評価が割れている』

『外国投資家や専門家からは「中途半端で統治改革を後退させかねない」との批判』

もあるとのこと。

この1年間で400社超が(監査役会設置会社から)監査等委員会設置会社へ移行したとのこと。今や上場会社の10%超が監査等委員会設置会社だ。批判が上がるのはある意味それだけ社会的な影響力の裏返しとも言える。

 

監査等委員会設置会社とは、会社の統治形態の1つだ。

下図のように上場会社の機関設計(統治形態)は3種類ある。

 

それぞれに特徴が書かれているが、コガバナンスの観点からは、

社外取締役の人数と役割がポイントだろう。

 

外国人投資家や専門家が良しとする形態は、指名委員会等設置会社であるが、これがイマイチ人気がない。監査等委員会設置会社は、指名委員会等設置会社のいわゆる派生形だ。指名委員会等設置会社は、もともとは2003年の会社法改正でスタートし、当時は委員会設置会社と言った。

監査等委員会設置会社が新設されたため、新名称の指名委員会等設置会社となった。

委員会設置会社は、取締役会の中に

指名委員会監査委員会報酬委員会

の3つの委員会を設置する必要がある。ひとつの委員会は3名以上の取締役で構成される(どの委員会にも属さない取締役も可)。各委員会の決定は拘束力を持ち、委員会を構成する取締役の過半数は社外取締役でなければならない点が業務適正化の要となっている。なお、監査委員会を除き、執行役が委員を兼任できる。

 

アメリカを中心とする外国人投資家に最も人気のある形態だ。理由は簡単、彼らに最も馴染みのある形態だからだ。日本に伝統的な監査役会設置会社は、監査役には、

・業務執行者の選定および解職の権限がない

・取締役会での議決権がない

この点から、監査役の監査機能の強化に限界あり、や、社長の人事に影響を持ち得ない監査役というものへの理解が困難など、欧米の投資家から日本企業のガバナンスに対する低評価を招いた要因する声もある。

と、まあ個々の指摘はあるが、要するに、監査役会などという自分たちに馴染みのない、理解できないような仕組みで企業統治だ、ガバナンスだと言われても

胡散臭い、ということだろう。

 

そんな素晴らしい指名委員会等設置会社であるが、日本では導入10年を経てなお不人気だ。たった69社。 そして、なんと言われようと、依然圧倒的人気は監査役会設置会社なのである。

最近でこそ、プロ経営者が認知を得てきてはいるが、まだまだ経営のかじ取りを社外リソース(社外取締役)に任せるのは、今度は伝統的な日本企業は慣れていないのだ。特に指名委員会と報酬委員会に関しては、社外取締役に任せるには抵抗がありすぎるのだろう。指名委員会は、会社の取締役を選任・解任する委員会、報酬委員会は、取締役の報酬を決定する委員会だ。会社は誰のものか、も根っこは同じかもしれないが、日本の会社は、平社員からコツコツ頑張って働いたご褒美、終着点が取締役、代表取締役であり、その立場になってなお会社のことを何も知らない人間にあれこれ指図され、報酬を決められ、挙句には解任されるなんてのは我慢ならないということかもしれない(たぶんそう)。記事には、セイコーエプソンの例があり、『社外取締役に次期トップの決定を委ねることは、少なくとも当社のように技術で生きている会社には適切とは思えない』とのこと。屁理屈をこねてでも嫌だ、ということだろう。

 

国際社会の一員、事業のグローバル展開、海外M&A、外国人投資家・・・

こういった国際的な対応を余儀なくされることは重々承知、でも踏み切れない・・・

そんな状況の打開策、いや妥協案監査等委員会設置会社だ。

監査委員会くらいなら社外の取締役にゆだねて委員会にしても経営の大勢に影響はないだろう、それでいて一部とは言え「委員会型」に移行した、つまりあなた方のお好きな体制に移行したことをアピールできる。

また、コーポレートガバナンス・コードで社外取締役を2名以上という要請があり、既に社外監査役を2名選任している監査役会設置会社にとっては、さらに2名の社外取締役を選任ということで、(色んな意味での)負担感が半端ない。であれば、いっそ、現在の社外監査役を監査委員会担当の社外取締役

横滑りさせれば、これらのニーズを一気に満たすことになり一石二鳥という実務的な対応もある。これが、この1年で多くの上場会社が監査等委員会設置会社に移行した要因だろう。

 

『「監査等委設置会社への移行は現状からの改悪にすらなり得る」。米シカゴに本拠を置く運用会社RMBキャピタルは今年3月、インターネット広告大手、オプトホールディング(HD)の株主総会監査役会設置会社からの移行に反対した。』

とまあ、そもそも妥協点としての監査等委員会設置会社だから、こん批判が出ることは容易に予想ができるというか、当たり前。

 

会社の統治形態に特徴があることは間違いないが、どんな形態であれ、何の課題もないということはなく、どれも一長一短。

であれば、どの統治形態をとっているか、が問われるのではなく

 

なぜ(何を重視して)その統治形態を採っているのか

(狙いと統治形態の適合も)

 

その統治形態の短所に対してどうフォローするのか

 

を明確にして、投資家などステークホルダーに説明、協議

をするプロセスが問われるべきだと思う。

 

記事には、三菱重工サントリー食品インターナショナルのように監査等委員会設置会社でありながら、任意で指名、報酬、人事委員会を設置する会社もある。それだったら指名委員会等設置会社に移行したら良いのでは?という意見はもっともではあるが、大事なのは、自分を見て、外を見て、

企業統治がどうあるべきかを考えて実践することだと思う。その過程では、結果として失敗や回り道はもあるかもしれないが、長い目で見ての前進となっていれば良い。監査等委員会設置会社もそのプロセスの1つのピースと捉えたい。

 

 

 

 

子会社への出資、融資はどっちが得なのか?【村田製作所の例】

www.nikkei.com

村田製作所は2017年3月期に中国とフィリピンの子会社に合計150億円を増資する。一方で本社からの円やドル建ての貸し付けを減らし、「新興国通貨安による為替差損のリスクを減らす」(藤田能孝副社長)という。17年3月期は為替相場の変動リスクを考慮して2社の資本を増やすことにした。』

 

以前も類似の記事を投稿したが、為替が、特に円高方向へ、不安視されるとこのようなケースが続くとも思われるので・・・

 

親会社から参加の子会社などへの資金供与の方法は大きく

貸付(融資)投資(出資)がある。

それぞれにメリット・デメリットがあるが、村田製作所の例は、このうち為替リスクに対する対応を目的としたものだ。

 

『円やドルに対して現地通貨の下落が進めば子会社側の貸借対照表上は負債が膨らみ、連結決算では為替差損が発生する。』

 

例えば、子会社に対してドル建ての貸付金1億ドルを融資したとする。貸付時の為替レートが@100円で、期末時点には@90円に円高となると、親会社の個別のP/Lでは、10億円(1億ドル*(@90円-@100円)の為替差損が発生する。そして、この為替差損10億円は連結決算でもそのまま引き継がれる。

ところが、同じ1億ドルでも、子会社に対して融資ではなく出資という形をとると、

親会社の個別決算では、関係会社株式は出資時の為替レートで換算されるので出資後の為替変動に関わらず為替差損益が発生しない

そして、連結決算のために子会社の現地通貨建ての決算書を日本円に換算する際にも資本金(親会社の出資に相当)は出資時のレートで換算される。これに対して、それ以外の資産や負債は基本的に期末時点の為替レートで日本円に換算される。

例えば、子会社の総資産が1.5億ドル 負債0.5ドル 資本1億ドルとする。

親会社の出資時の為替レートが@100円、期末時の為替レートが@90円とすると、

総資産1.5億円*@90円=135億円 ←B/S左側合計

負債0.5億円*@90円=45億円、資本1億円*@100円=100億円 

             ←B/S右側合計145億円


となり、B/Sの左右の金額が不一致となる。

そこで、資本の項目に『為替換算調整勘定』△10億円 足しこむことによって、右側合計を135億円(145億円ー10億円)というように調整するのである。

このように為替換算調整勘定はB/Sの左右合計を調整するための帳尻合わせの勘定科目ではあるが、その実態は子会社への出資の為替変動による増減を示している。つまり、仮に出資でなく融資で資金提供した場合には『為替差損益』となった金額に相当する。

 

海外子会社に対して、同じ金額を資金提供する場合であっても、その形態が

融資か出資かによって親会社(ケースによっては子会社)の個別決算、親会社の連結決算への数字の表れ方が変わるのである

何故出資の場合は為替変動の影響を決算の都度、損益に反映させないかと言うと、親子間の支配従関係が継続している限りは親会社にとっての子会社への投資の成果(成否)は未だ認識すべきでないという考え方による。したがって、子会社への出資を売却したり、清算する場合に、為替換算調整勘定は実現、つまり親会社のP/Lに影響を与えることになる(売却損益や清算損益に巻き込まれる)。

 

為替はいつも読めないが、その動向に対する不安が大きくなるほど村田機械のような対応を取る会社は増えると思われる。特に海外展開の規模が大きい会社は、1円の為替変動親会社の個別そして連結決算数値に与える影響も大きくなるためなおさらだろう。

 

 






 

M&Aを多用する会社が早晩直面するだろう経営課題 【LIXILの例】

http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO04055330U6A620C1DTA000


『LIXILグループの2016年3月期末ののれん代と商標権が急増したことが有価証券報告書で明らかになった。自己資本(5248億円)の74%に相当する3861億円に達し、前の期末から5.4倍に膨らんだ。将来の成長性を高めるために積極的なM&A(合併・買収)を進めたが、異例の規模で、状況次第では財務を毀損するリスクも高まったといえる。』

 

なんとまあ、膨れ上がったものだ・・・

LIXILに限らず、投資家などからの成長期待に応えるエンジンとしてM&Aを駆使している会社も多いと思う。

LIXILの例は、ある意味、そのような会社が直面するだろう経営課題だと思う。

グローエの中国子会社不正会計問題(海外子会社に対するガバナンス)と言い、多くの日本企業が現在、近い将来に抱えるだろう課題をいつもLIXILは先行するというか・・・会社には悪いが、目が離せない。

(過去ブログ参照:問われる海外子会社ガバナンス 【LIXILの例】 - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

ところで、LIXILの採用する会計基準は、IFRS国際財務報告基準)だ。日本基準に比べて財務諸表に附属する注記情報が多い。当期のLIXIL有価証券報告書(172p)のうち財務パートが87p、このうち注記情報が72p(全体の42%)

を占める。財務諸表本編よりも圧倒的なボリュームだ。内容も、会計方針やB/S,P/Lなどの内訳項目の詳細説明、オフバランス項目の詳細説明、セグメント情報など多岐にわたる。IFRSでは日本基準よりも注記情報の分量が概して多くなるため、作成する方ももちろんだが、読む方もそれなりの知識が必要とされる。

 

「のれんと商標権」についての情報も注記情報の各所の散らばっているため、しっかり情報を拾い上げて書かれた記事だと思う。

 

さて、記事で言うところの、

 

『(のれんと商標権 3,861億円が)自己資本(5248億円)の74%に相当する3861億円に達し・・・』

 

だが、読者はどう感じるだろうか?

 

要するに、仮になんらかの要因でのれんや商標権が無価値となった場合に

約4,000億円、約74%の自己資本が吹っ飛ぶ

ということを記事は言っている。

ちなみに、LIXILの場合、

当期末のLIXILの純資産比率25.2%が8.7%まで悪化

する。

純資産比率が10%を切るとなると財務安全性はかなり危険な水準だ。

 

では、そんなに簡単にのれんや商標権が無価値になるのか?と言いうことだが、

そもそも、LIXILののれんや商標権はどのようにして取得されたのかと言うと・・・

 

『急増の主な要因は15年4月に独水栓金具メーカーのグローエの出資比率を引き上げ子会社化したため。3861億円のうち、グローエ分が3293億円で、全体の85%を占める。残りの大半はイタリアの建材子会社ペルマスティリーザ(201億円)、米衛生陶器子会社のアメリカンスタンダード(311億円)でいずれも藤森義明前社長の時に買収した。』

 

子会社を買収した際に発生したものだ。簡単に言うと、

定価(簿価純資産)より高く買った「上積み分」

だ。

一般に、上積み分=のれんと理解されているかもしれないが、会計ルールでは、このうち、商標権、ブランド、ノウハウなど個別の無形資産に区分できる資産は区分把握してそれぞれを連結B/Sに記載することを要求している。

そして、個別の無形資産に区分できなかった残り、言ってみれば

出がらし、がのれん、だ。

 

要するに、

のれんも商標権も発生原因は同じ(M&A)

ということだ。

 

『LIXILグは国際会計基準に基づき、のれん代などの減損損失を計上する可能性も検証した。グローエの場合は5カ年分の事業計画の将来キャッシュフローの見積額を現在価値に割り引いて回収可能額を計算した。水回り設備市場の期待成長率は16年3月期末で2.8%だったが4ポイント低下するなどの状況変化で減損損失が発生するという。』

 

定価(簿価純資産)よりも高く買うからには、その会社を使ってより一層の設けを期待したということだ。では、実際の儲けがその期待を下回ったらどうだろう?

のれんにせよ、商標権にせよ、期待する儲けが上がってこその価値だ。

期待倒れになれば、無価値となるのはある意味、解りやすい。

グローエの売上、利益が事業計画を下回ったり、ましてや赤字なんてことになれば、

のれん、商標権の減損ということになる。

ちなみに、

LIXILは当期に約134億円ののれん減損

を計上している。

期首(2015年4月)ののれん残高は560億円だから、23.9%ののれんが失われた(無価値となった)。

のれんの減損はさほど珍しいことではないのである。

 

繰延税金資産も同様だ。

そういえば、以前は純資産の3割(以上)を繰延税金資産が占める会社を会計監査では要チェック会社としていたな。今はどうしているか定かでないけど・・・

 

のれんや商標権は、土地や建物のような不動産と違って形があるものではない。不動産であれば、仮に事業が難航したとしてもそれ自体の価値からのキャッシュフローが期待できる。のれんや商標権はそうはいかない。事業と一蓮托生だ。

まして、IFRSではのれんは日本基準と違って非償却だ。それだけに、減損となった場合の損益や純資産に与えるインパクトは相当だ。

IFRSでも、のれんと違って商標権などの

無形資産はIFRSでも一定期間で償却

される。この点は日本基準と同じだ。前もって償却されるため、減損となっても既に償却された分はインパクトが薄まる。

 

LIXILの会計方針(無形資産)・・・有価証券報告書より

『耐用年数を確定できる無形資産は、それぞれの見積耐用年数にわたって定額法で償却しております。耐用年 数を確定できる無形資産の主な見積耐用年数は、次のとおりであります。 ・ソフトウェア :5年 ・顧客関連資産 :13~30年 ・商標権 :5~20年 ・技術資産 :6~10年
商標権のうち事業期間が確定していないものは、事業が継続する限り基本的に存続するため、将来の経済的 便益が期待される期間について予見可能な限度がないと判断し、耐用年数を確定できない無形資産に分類して おります。 耐用年数を確定できない無形資産又は未だ使用可能でない無形資産は償却を行わず、少なくとも年に1回及 び減損の兆候がある場合には都度、減損テストを実施しております。』

 

行きはよいよい帰りは・・・LIKILはいばらの道を選んだようだ・・・

2016年3月決算会社 GC注記減少 その背景とは?

www.nikkei.com

事業活動の継続にリスクが高まった場合、決算資料で開示が必要な「継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)に関する注記」を付ける上場企業が減っている。2015年度は前年度比3社減って44社となり、リーマン・ショックで急増した08年度以降で最低。日銀のマイナス金利政策導入などで資金調達の環境が好転したのが一因だ。』

 

近い将来の会社の倒産リスク情報であるGC注記が付く会社数が今年度は減少とのことだ。

 

GC注記』の何たるかはこちら☟を参照していただくとして、話を進める。

決算書に『会社が潰れるかもしれない』情報が付いているって本当? - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

GC注記は、会社が財務諸表の注記情報として記載するので、一義的には会社が会計ルールに則ってGC注記を付けるかどうかを判定する。しかし、会計監査(監査法人等による会計監査が必要な会社)では注記情報の妥当性も監査されるため、実質的には会計監査でGC注記が必要かどうか判断されることになる。

ルールとはいえ、会社自身が近い将来倒産しますなんて普通は言いたくないしね・・・

 

GC注記が付いた会社のその後はというと・・・

上場廃止、経営破たんとなる会社も少なくない

それだけ、ギリギリの段階になってGC注記が付されるというのが会社(経営者)と監査法人セメギ合いの結果ではないだろうか・・

 

裏返すと、結構やばい会社でもGC注記が付されていない、

いわば潜在的GC注記会社も相当数あるのではないかと思われる。

実際、2015年4月に民事再生を申請した江守グループHDも、

過去5年間ズーッっと営業キャッシュ・フローは赤字だったのにP/Lが赤字に転落したのは民事再生申請3か月前の2015年3月期第3四半期(2014年12月末)だ。

過去ブログでは典型的な黒字倒産の事例として紹介しているが、同タイミングで初めてGC注記が付されている。

民事再生の直前になってに初めてGC注記

が付くってどうなんだろうか?と首を傾げたくもなる。

余談だが、このような典型的な黒字倒産の予兆を長期に亘って見逃してきた監査法人の責任が東芝の例と違って一切指摘されないが、これは一体どういうことだろう?

 

これはちょっと極端な例としても、結構ギリギリの状況になって初めてGC注記というケースもあることが分かってもらえるのではないだろうか?

黒字倒産の典型的なパターン 【江守グループHDの例】 - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

で、だ。

その逆が当期起こっているのではなかろうか?

記事にもあるが、GC注記会社数が減少しているのは

『資金調達環境が好転』しているのが一因とのことだ。

赤字でもおカネさえあればすぐには会社は潰れない

ということだ。

GC注記の判定の際の近い将来会社の事業継続が危ぶまれる、の

近い将来=決算日から1年以内に倒産するかどうか

実務上の1つの目安となる。

 

要するに、余命1年が見込まれればGC注記を外すことも可能なのだ。

GC注記が外れたらもう安心、ということにはならないのである。

つまり、

GC注記外れる=超危険水域からとりあえず脱した

 

程度と考えた方が良さそうだ。

 

と、言うのも、そもそもGC注記が付くような会社は、一時的な原因で事業継続が危ういのではなく、

本業が不調であることが根本的な原因

であることがほとんどだ。

2016年3月期決算 上場企業「継続企業の前提に関する注記」調査 : 東京商工リサーチ

つまり、一時的な資金注入で当面は息を吹き返すかもしれないが、本業が回復しない限り近い将来またおカネの底が付くことは想像するに難くない

 

本業が回復しない限り、仮にGC注記が一時的な要因で外れたといっても安心は早計と言えるだろう。

 

このように、GC注記は投資家、株主、取引先などの関係者にとって会社との取引を考える上でも重要な情報だ。

 

では、GC注記は決算書のどこに記載されているかと言うと・・・

 

B/S、P/L等の財務諸表のすぐ後、注記情報のトップ

(継続企業の前提に関する注記)と銘打って記載される。それだけ重要な情報ということだ(全部読んだ挙句に、ところで当社は近く行き詰まるリスクがありますとされると、ズッコケるし・・・)。

個人的には、財務諸表の前に持って来て欲しいくらいだが・・・

 

では、そんなこんなでGC注記が外れてもなお、相当の事業継続リスクがある場合は、というと・・・

有価証券報告書では、

「事業等のリスク」及び

「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」

にリスクの内容が具体的に記載される場合もあるので、こちらにも記載がないかどうかチェックしてみて欲しい。

 

 

3月決算会社の株主総会シーズン 今年の注目ポイントは⁈

3月決算会社の株主総会がすでにヤマ場を迎えているとの日経記事。

 

2000年代半ばに外資ファンドなどのいわゆる『物言う株主』が台頭して既に久しい。

当時はアクティビスト的な言動がセンセーショナルな形で株主総会を動かした。最近は、団塊の世代がリタイヤして個人投資家となったことも奏してそれなりに株主総会は活性化してきてはいるようだ。とはいえ、総じて日本の株主総会

 

『シャンシャン総会』と言われるように、年に1度のセレモニーとして30分程度で会を終える会社が依然多いのではないかと思われる。

 

株主への『お土産』を廃止する会社の株主の株主総会への足が遠のいているなんていう傾向もあるようだ・・・

 

今年の集中日は、6/29とのことだが、最近は株主との対話を重視するために分散傾向にある。今週では、6/14 阪急阪神ホールディングス6/15トヨタLIXILなどの株主総会が開催された。

 

このようなセレモニーとしての株主総会が大きくその位置づけを変えようとしているという内容だ。

 

起点となったのは、昨年(15年)6月に導入された

 

コーポレートガバナンス・コード(CGコード)

 

だろう。そして、今年はCGコードが導入されて最初の株主総会に当たる。それだけに、この1年の各社の取り組みについて、株主がどこに焦点を当て、その結果をどう評価するのかに注目が集まるだろう。

 

QUICK調査では、今株主総会での注目すべきポイントとして、

 

・株主還元策

 

ROE水準

 

・政策保有株の経済合理性

 

社外取締役の独立性・人数

 

などが、挙げられているが。これらはいずれもCGコードの目玉として取り上げられたものだ。

 

加えて、取締役の選任も焦点になりそうだ。大手外資議決権助言会社では過去5年間の平均と直近のROE5%を割り込んだ企業のトップ選任議案に反対を推奨している。

CGコードは、アベノミクス政策を推進するため、

 

『攻めのガバナンス』

として政府の肝いりで実施されたこともあり、ある意味この流れは必然だろう。

 

上場会社を『積極的に事業への投資をして、かつ効率よく稼ぎに結び付ける』へ扇動させる動きだ。

 

上の項目に照らせば、政策保有株(いわゆる持ち合い株)を解消してその資金を積極的に事業へ投資し、効率的に成果(ROEの改善)を出すべきであり、それを硬直化した企業内部の取締役だけでは判断できないのであれば社外取締役に期待する、ということだ。どうしても、目下のところ資金を事業に投資できない合理的な理由がある場合は、会社の中におカネを貯めこむのではなく株主に配当あるいは自社株買いによって還元すべき、という主張だ。

ここ数年は、おおむねこのような論調が主流となっている。

 

記事には、

『株主との対話が進めば100兆円に及ぶ上場企業の手元資金が動き、それで株価が上昇すれば個人金融資産1,700兆円も投資に動く―日本経済全体の好循環への期待も市場にはちらつく。』

 

上場会社の手元資金が100兆を超えたなんていう記事もある。

 

 http://mw.nikkei.com/sp/#!/article/DGXLZO03487690Q6A610C1DTA000

   

現在の取り組みがバラ色の結果に繋がるような書きぶりだが、はたして・・・

 

もっとも、会社が投資家から調達した資金を事業に投資せずに無為に会社に貯めこむことは良くはないが、使えばいいってもんじゃないでしょう。

 

極端な話、無駄遣いでは意味が無い

 

企業価値が高まるような使い方でないと株価は高まらない

 

会社の経営者を擁護する訳ではないが、会社が現在の国内や海外も含めた不透明な経済情勢では長期的な投資に対して尻込みする気持ちも分からなくもない。そういう状況で、投資家だって、じゃあと言って投資した資金を還元されたところでどこに投資すればよいのか、ということにもなる。

 

企業が貯めこんだおカネを吐き出せば景気が良くなるといった単純な話では無いように思うのだ。