溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

日本企業の利益率が低い理由とは!?

bizgate.nikkei.co.jp

 

面白い記事があったので、少しコメント。

 

主張としては、

日本企業の利益率が低い(ローリターン)はローリスクによるものだから、リターンだけで(各国と)比較するべきでない。

リスクも合わせて比較すれば日本はそれほど収益性は低くない

というものだろう。

リスクに対してより効率的にリターンを上げた、つまりシャープレシオの考え方だ。

「日本は世界38か国中、利益率の時系列ボラティリティが最も低いのです。この数値が低いということは、利益率のブレが小さいということを意味します。ROAが高くなることも少ないが、下振れも小さい。」

利益率をROE,ROAをベースに比較しているが、これら財務指標の相違の根本的な原因は主にROS(売上高利益率)にあるので、要はP/Lの利益率が低い、あるいはブレが少ないという理解。

利益率のボラティリティが低いということは、利益の予想がしやすいということでもある。投資家からすれば、当たり外れが大きい会社(利益のボラティリティが大きい)よりも来期(将来)の利益の予想がし易い、これが(バラつきの)リスクが小さい→安心感につながる。

言ってみれば、

順位自体の優劣はともかく、万年3位のチームと、毎年1位と6位を繰り返すチームの来期の成績を予想する場合に、どっちのチームが予想し易いか

ということだ。

 

ところで、

利益=リターンのブレ幅が少ないのは何故だろうか?

日本の会社は総じて利益のブレ幅が少ない「産業」に投資しているということを指摘しているのだろうか?単純に、諸外国は利益のアップダウンが激しい産業中心、日本は利益のブレ幅が少ない安定的な産業中心か、ということだ。確かに、オーストラリア、カナダのような天然資源・鉱物関連中心の産業構造とは異なるが、日本の中心産業も為替変動の影響など決して経済環境が安定しているということでもない。それなのに、何故、日本の利益の時系列ボラティリティが際立って低いのか、ということを指摘して欲しいなあ、と思うのだ。

 

この点について、

・安定志向

・売上高至上主義

・儲ける気がない

の3点ではないだろうか。

 

安定志向は言わずもがなだろう。日本の伝統的な思考だ。多くの会社は現在でも加点主義よりも減点主義ではなかろうか?アップダウン、つまりアップがあるということは「相対的に」ダウンが発生する。アップが+2、ダウンが-2なら平均は0のはずだが、心理的に-2を重く受け取る傾向がある。この点はファイナンス理論でも指摘(プロスペクト理論)されているが、心理的な作用として日本人には強く働くのではないかと考える。

 

売上高至上主義も日本の経済社会には根強い。業界No1の称号を利益ではなく、資産活用の効率性ではなく、売上高という(P/L)の1項目で決定する習わしがこの国にはある。ということは、経営者のモチベーションとしては、多少割の悪い商売であっても採算度外視であっても売上規模拡大のインセンティブが働くのだ。もしかしたら、競合が利益率が低いという理由で撤退した市場へシェアを求めて乗り出すなんてこともあったかもしれない(80年代に米国に進出した日本企業など)。もちろん、最近はまさにこの点を投資家、株主から指摘され、重視すべき経営指標を見直す会社も増えている。

 

「儲ける気がない」だが、伊藤レポートにも指摘されていたと思うが、長らく日本の会社はメインバンクによる統治(デッドガバナンス)が中心だった。

物言う株主の台頭や会社は誰のもの的な議論はせいぜいここ20年程度の話だろう。銀行としては、あまり会社の儲けられると貸出金の繰り上げ返済にもつながり、ヨロシクない。元利が計画通りに回収されるのが良い。その程度の稼ぎを会社に期待する。安定的に。

つまり、会社にとってはハードル設定がそれほど高くはならない

そして、対前年比や同業他社との比較を気にしたり、さらには特別損益を利益の調整弁に使うことも少なくない。

こういう状況で、自己記録の更新を目指して高い目標に挑む会社がどれだけあるだろうか?自分の実力の範囲で安定的な成績を出すことが評価されるのであれば、敢えて高い目標に挑戦して失敗する(評価が下がる)リスクを冒す必要もあるまい

要するに、

大抵のことがあっても自己調整できる程度の目標設定と

それを許容するガバナンス

だ。

コラムに言う、ローリスク・ローリターンの背景にはこういった従来日本企業を取り巻く環境があったように思うのだ。まあ、最近はそういった環境も変わってきているが、未だ上場会社の多くは旧態依然のようにも思う。

  

成長は必要なのか?2番じゃダメなんですか?

分からなくはないが、(売上や利益の)成長、順位は「結果」だ。

逆に最初から現状維持や2番を目指して達成できるとも限らない

相手あってのこと、競合はどうだ?日本の競合も同じように考えているのか?

 

冒頭の平均利益率の高い諸国、確かに利益の振れ幅は高い(ハイリスク)かもしれないが、時系列平均利益率は日本を優に上回る。

失敗もあるが、成功した時はデカい

失敗から学ぶからこそ大きな成功につながる

とも言える。

先日ノーベル賞を受賞された大隅教授も日本のお家芸とされる各界の基礎研究の分野にも警鐘を鳴らされていた。

大きな成功はそれに見合うコストも必要になる。何事も安定、安定ではイノベーションの期待薄だし、それこそ必死に成長しようとする諸国に勝っていけるのかと将来が不安になる。

それに、判断基準がオモロイかオモロナイか基準の自分としては、

そんな世の中はオモロクない。

自社株消却と株主還元姿勢との関連とは? 【日産の例】

www.nikkei.com

日産自動車は23日、7月1日から今月21日までに自社株買いで取得した1億800万株すべてを30日付で消却すると発表した。発行済み株式数の2.46%に相当する。大成建設も23日、2.09%に当たる2451万6千株を30日に消却すると発表した。自社株買いで1株当たり価値を高めるとともに、市場に再放出する懸念をなくして株主還元の姿勢を明確にする。』

 

久々の自社株ネタ。

自社株買いが、1株当たり利益を高めたり、ROEを向上させたり、ひいては株価を上昇させたり、の効果があることは過去ブログにも書いた。

 

・ 自己株式を買うとどんなメリットがあるのか?

自己株式を買うとどんなメリットがあるのか? - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

・自社株買いと株価の関係 最近の傾向

自社株買いと株価の関係 最近の傾向 【少しボヤキ系】 - 溝口公認会計士事務所ブログ

  

今回の記事も内容的に特に目新しいということではないが、これまでの記事の確認も含めて書いてみたい。

 

会社が自社株を購入すると、自社株は1株当たり利益の計算上の発行済株式数に含められないため、見かけ上、1株当たり利益が高まる。

例えば、当期純利益10,000 発行済株式数1,000とすると、1株当たり利益は10

となるが、自社株を200買うと、計算上の発行済株式数が800(1,000-200)となるので、1株当たり利益は12.5上昇する。

 

また、純資産比率50%(負債:純資産=1:1)の会社の財務レバレッジは2(=総資産/純資産)であるが、純資産の2割(総資産の1割)に相当する自社株を購入すると会計上、自社株は純資産のマイナスとして処理されるため、純資産比率は44.4%、財務レバレッジは2.25となる。要は、相対的に借金の割合が大きくなるのだが、これが、ROEを高めることになる。この場合は、財務レバレッジが2→2.25と12.5%高まるので、他の要因(当期純利益率、総資産回転率)が変化しないとすると、ROEも12.5%改善することになる。

 

そして、

株価=1株当たり利益*PER(株価収益率)

なので、自社株買いによって1株当たり利益が上昇すると、PERが据え置かれるとすると株価は高まるというわけだ

 

いずれも、自社株を『購入』した時点で得られる効果である。

 

そして、今回の日産のニュースは、『購入後』の自社株を『消却する、ということである。

自社株を『消却』することが『株主還元の姿勢を明確にする』ことになるのだろうか?

自社株を消却することで、更に1株当たり利益、ROE、株価が高まるということではないが、『市場に再放出する懸念をなくして』すことで、これらの数値を低下するリスクを払拭することである。

 

自社株は会社が購入しても会計上の取り扱い(1株当たり利益計算から控除)や会社法上の取り扱い(配当請求権、議決権がない)はともかく、株式としては以前存在する。

会社が自社株を再利用することは可能だ。実際、株式交換によるM&A、ストックオプション、従業員の退職金の支払い(へ自社株を利用)のような使用例がある。

そして、会社が自社株を再利用するということは、すなわち、会社が以外の第3者が新たな株主になるということであり、結果として、1株当たり利益、ROE、そして株価も元の水準に戻ることを意味する。

つまり、自社株を消却することは、一旦高めた1株当たり利益、ROE、株価を元の水準に戻さないという意味で、自社株の再利用による会社の財務数値へのネガティブインパクトのリスクを排除する、ということで株主に報いるということになる。

電通の不適切なネット広告取引の件に思う 【広告主の視点から】

news.yahoo.co.jp

 

なんと!、そして、さもありなん・・・

ニュースの最初の印象がそんな感じだった。

 

(委託者側にとって)購買取引というのは元来、キックバックやら

不正のリスクが高いエリア(業務範囲)として認識されるが、会計監査では従来、中でも広告宣伝費は不正あるいは誤謬(間違い)リスクが高いエリアとして位置づけられる。理由は、担当者個人に業務が張り付く、価格も他との比較が容易でないとか物が動かないため取引の実証検証がし難いなどだ。

 

自分自身の経験でも、(委託者側の)会計監査で広告宣伝費のエビデンス(証拠書類)を求めた際に、そんなものは保管していない、といった回答をする会社もあった。エビデンスとは、広告が新聞雑誌に掲載された(その雑誌、新聞)やTVCMであればその実績、レポートが相当する。電通電通だが、広告主の側での性善説に立った「ちゃんと仕事してくれているはず」という(大)企業を無条件に信用する傾向や広告を社内承認、発注すればお役御免といった意識の問題なのかな、とも思ったが、今回の例はどうもそういう訳でもなさそうだ。

 

電通の件で問題となった「ネット広告」、中でも最近の主流といわれる

運用型広告」これがなかなか複雑な仕組みのようだ。

以前の新聞雑誌に何回掲載といった、例えば1か月100万円で10回といった契約であれば、委託者の会社もちゃんと依頼した広告宣伝が行われたかどうかの検証が可能だろう(前述の例は、それをも怠っている会社もある、ということ)。

ところが、運用型広告というシステムはそう単純でもないらしい。詳述は避けるが、要は、広告媒体と顧客(広告主にとってはターゲット)そして、広告主のコンペティターの関係によって、意図したように広告宣伝ができるとも限らない、ということらしい。そして、できるだけ委託者である広告主の意図に沿うように広告宣伝を運用する、というのが電通のような広告代理店の期待役割付加価値、ということらしい。

 

広告代理店側からすれば、従来の広告主の意に沿った、あるいは期待を上回るような顧客に訴求する広告宣伝を提案するだけではなく、それをいかに効果的に顧客にアピールするかも求められることになる。期待値が上がった感があるが、これって、委託者(広告主)に理解されているのだろうか?その辺も今回の問題の根っこにあるようにも思うが・・・

 

それはともかく、広告代理店に対する期待値が上がり結果として広告代理店が担う役割が複雑高度化すると、同時に委託者(広告主)サイドとしては、期待や目標が達成されたかどうかの検証も従来のように単純にはいかなくなるというのも想像に難くない。

 

電通の件では、重要な顧客であるトヨタが疑問を呈したことがきっかけで露呈されたとのことだが、他の100件超の顧客の中にも同様の疑問を持った会社も少なくないだろう。

ところが、複雑高度化したネット広告の仕組みや広告代理店の機能(期待値)が高まるにつれ、委託者サイドからするとその検証が困難になり、怪しいな、と疑問を持ったにしてもそれを検証する手立てがない、結果、広告代理店から提出される(実績)レポートを信用せざるを得ない、という状況ではないだろうか。

 

このような状況で今回のような問題が発生すると、委託者の会社にとしても「代理店を信用していました」、「我々は騙されたんです」と主張はすれど、外部の利害関係者からは、

そういうリスクに対してどう対応していたんですか?

という指摘もあろう。

広告宣伝費が実際に発生したものかといった会計監査マターや広告宣伝が経営判断として適切なものだったのかといった業務監査マターを株主など対外的に説明するためにも、意図した広告宣伝が適切に行われたというエビデンスを確保しておきたいだろう

 

そういったニーズに対する対応として、

SSAE16号、監査・保証実務報告実務指針第86号

(以前はSAS70、監査基準委員会報告第18号と言った。懐かしいなあ)がある。

興味があれば詳細は調べて欲しいが、簡単にいうと、

アウトソースなどのサービスを提供している事業者が(委託者に)提供する情報などのサービスが適正に委託者に提供されたかどうかを社内でチェックする体制が適切に整備・運用されているか、を外部の会計監査人(監査法人)が監査する、という仕組みだ

電通の例で言えば、電通が広告主に提供する広告宣伝の実績レポートが適正なものであるといえるだけの社内チェックが効いているかどうかを監査する、ということになる。

 

こういった社内のチェック体制について外部からのお墨付きがあると、広告主も安心して取引できるのではないだろうか?

 

ところで、このような仕組みは実は10年以上前から日本にもあり、内部統制報告・監査制度(J-SOX制度)でも要求されている。

多くの会社が、給与計算、受発注、広告宣伝業務などを外部の事業者にアウトソースしてその結果を自社の決算数値に反映させている。本来はこのような監査サービスは既に普及して然るべきなのだが、J-SOX施行当初でも中々このようなサービスに対して、一定の理解は得るものの、おカネを払ってまでというと・・・という会社が多い印象だった。そういうこともあって、会社におけるアウトソースしている業務や取引金額の重要性といった点から必ずしも外部監査までは不要といった落としどころにしていたようにも記憶する。

 

今回の一件がアウトソース業務に対する内部統制監査が改めて見直される機会となると良いと思う。

 

 

 

固定資産の耐用年数って変えちゃっていいの? 【伊藤園の例】

www.nikkei.com

伊藤園が1日発表した2016年5~7月期の連結決算は、純利益が前年同期比50%増の35億円と、5~7月期として過去最高となった。7月の猛暑を受けて麦茶が伸びたほか、脂肪吸収を抑える食物繊維を加えたお茶などの機能性表示食品も堅調だった。自動販売機に対する耐用年数の見直しで、減価償却負担が減ったことも貢献した。』

 

 伊藤園が好調のようだ。食品メーカーは気温や日照時間などの天候に業績が大きく左右されるが、今年の猛暑は一般市民にはともかく、伊藤園の業績には追い風となった。

 

ところで、前年同期比、売上高は1%増の1290億円に対して、営業利益は65億円と52%増えた。その内、自動販売機の耐用年数について、従来は5~6年だったのを今期から8年に変更したことによる減価償却費の減少が営業利益を約9億円押し上げた効果があったという。前年同期に比べてざっと営業利益22億円の増加の内、約9億円が自動販売機の耐用年数の見直し(延長)による影響という。と、言うことは、前期と同じ ベースで比較した場合(耐用年数の見直しが無かったとすると)、営業利益の増加は約半減の13億円程度と言うことだ。

 

固定資産は買ったときに購入代金の全額が即費用となるのではなく、爾後数年の使用期間(耐用年数)に亘って減価償却により費用処理される。

減価償却については☟を参照:

今更聞けない『減価償却』って実際どういうこと? - 溝口公認会計士事務所ブログ

耐用年数は、固定資産を買ったときに固定資産の特性や使途や使用環境等を考慮して独自に設定される(というものの、一般的には法人税法の規定による法定耐用年数を参考にされることが多い)。が、その後の特性、使途、使用環境等の変化に伴い使用可能年数の変化が認められる場合には、会計ルール上、耐用年数の変更を見直されなければならないことになっている。

なので、伊藤園のように固定資産の耐用年数を見直すこと自体は何ら問題ない。

 

しかし、耐用年数を延ばす方向での変更は結果として減価償却費を減らすことにより営業利益(場合によっては売上総利益も)を増加させる、

つまり会計処理方法の変更による増益効果となるため、

会社の利益操作に使われる余地もある。そこで、上場会社など会計監査が必要な会社では、会計監査人(公認会計士)が会社の耐用年数の変更の主張が実態の変化に基づく妥当なものどうかをエビデンスを基に判断することになる。伊藤園のケースでは、耐用年数の延長の要因の1つが自動販売機の高性能化としているため、高機能化がどのように使用可能年数の長期化に繋がるのか、高性能な自動販売機を導入した時期から実際に自動販売機の使用期間が長期化していることを表す等のエビデンスを準備し、会計監査人と協議したと思われる。

そして、会計監査人の合意があった場合、財務諸表の注記に「耐用年数を変更した旨、その影響額」を記載する。

伊藤園 決算短信https://www.itoen.co.jp/files/user/pdf/ir/fr/apr17/2809aj.pdf

 

伊藤園のケースも財務諸表注記に耐用年数変更の「影響額」が記載されていたから、約9億円の増益効果があったことがわかるのだ。

財務諸表注記は馴染みのない人も多いかもしれないが、

利益の増加要因事業活動の変化(誤解を恐れずに言えば企業努力)なのか、会計処理方法の変化なのかを理解して業績を評価するのとそうでないのとでは評価の結果も違ってくるのではないだろうか?

 

 ちなみに、同じ固定資産の会計処理でも減価償却方法の変更では取り扱いが異なる。

例えば、減価償却方法を定率法から定額法へ変更する場合、やはり減価償却費は減少し、利益は増加するのが通常だ。この点は耐用年数の変更と同じだ。ところが、減価償却方法の場合は、実態が変わったという明確な事実が把握しづらい

少し専門的になるが、固定資産の経済的価値の消費パターンが定率的から定額的に変わったかと言えば、それを証明するのは難しいと言うことだ。何故ゆえに変更するのか、その理由の客観的な説明のし易さが耐用年数の変更の場合と異なる。そもそも減価償却方法はある前提のもとに固定資産の経済的価値が減少するという言わば見做しに基づくものだ。固定資産の帳簿価額がその時点の時価を表していないことからも明らかなように、固定資産の価値が実際に減少しているという実態を表しているわけではない。要するに、

耐用年数の変更事実の変更に基づく変更であるのに対して、

減価償却方法の変更は見做しから見做しへの変ということなのだ。したがって、減価償却方法の変更の場合は、財務諸表注記に「変更の旨、その理由、変更の影響額」を記載することが求められる。何故変更するのかについて合理的な理由の説明も求められるのである。会計監査など外部への説明のしやすさから言えば、会社にとっては、減価償却方法の変更の方がハードルが高いとも言える。

 

 

株式持ち合い解消の現状 クッキーの賞味期限との関係!?

www.nikkei.com 

『上場する3月期決算企業は、2016年3月期末までの1年間に、取引関係の維持などを目的に保有する持ち合い株式を実質で1兆円強削減した。効率化を促す企業統治指針の導入が背中を押し、利益の出にくい株安局面でも売却を優先した。企業数では約半分が持ち合い解消に取り組んだとみられる。』

『15年度末の合計は46兆5000億円で、14年度末(54兆4900億円)から8兆円近く減った。この年は中国景気の減速懸念などで東証株価指数が約13%下落。試算では、株安による目減り分を除いた実質的な売却額は1兆600億円になった。株式を減らしたとみられる企業は1024社と全体の47%になった。』

 

持ち合い株の解消が進んでいるようだ。

持ち合い株、株式持ち合いについては、以前こちら☟

株式持ち合いって何の意味があるの? - 溝口公認会計士事務所ブログ

でも書いたが、過去には安定株主対策などを目的に一世を風靡した(というか当たり前にやっていた)株式持ち合いも、今や忌まわしい過去の悪しき風習コーポレートガバナンスの御旗の前では速やかに解消すべし、を受けての会社の対応だ。

まあ、確かに、安定株主と言っても取引先がどれだけ役立っているかも分かりにくいし、実際のところ、じゃあといって安定株主でない株主がどれほどアクティビスト的に会社の経営者に要求を突き付けたり、株主総会が荒れたり、さらには買収の危険にさらされていたかというと、今と比べれば大したことないという会社が一般的だったのではないかと思う。また、取引関係強化と言っても、株式持ち合いがどれだけそれに見合う効果があったかも判然としないだろう。

多くの会社が、そういった期待(幻想?)はあるものの、まあ他社もやっているしということでの消極的対応ではなかっただろうか。

 

と言うことで、傾向としては株式持ち合いは減少(解消)傾向にあるのだが・・・

 『安定株主の確保にこだわり、持ち合い解消を先送りする企業はまだ多い』との指摘もある。

 

また、持ち合い株式は貸借対象表(B/S)では『投資有価証券』として表れ、上場株は決算ごとに時価で評価される。そして、含み損益は純資産に影響することになる。

 

『持ち合い株は減少傾向にあるとはいえ、全社の残高は前期の純資産合計(347兆円)の1割強もある。株式の含み損益のすべてが決算に反映されるわけではないが、株価低迷が長引いた場合に着実に財務をむしばんでいく。』

 

含み損の場合は、純資産の減少、そして配当可能額の減少にもなる。

(ちなみに、含み益の場合でも配当可能額は増えない)

 

と、言うことで、持ち合い株式を処分(売却)する場合、株価動向も会社としても気になるところだろう。

持ち合い株式を売却する場合に発生する売却損益は、損益計算書(P/L)の特別損益に反映される。そのため、持ち合い株の解消がある意味業績の調整弁に使われる傾向もあるように思う。つまり、株式持合いの解消と言う国全体の方針の中で、どのような時間軸で解消していくかは会社の方針による。

会社は、持ち合い株をある程度のカテゴリーに区分(即座に売却可能、原則継続保有など)して、即座に売却可能(と区分した)な持ち合い株式については、固定資産の減損損失が発生する場合に持ち合い株式を売却して含み益を実現させ減損損失インパクトを軽減するのだ。このような利益調整的な会計手法を、あたかも好きなだけクッキーをつまむに見立てて、クッキー・ジャー会計と言う。

ところが、IFRSでは、持ち合い株式(上場株)の含み損益は決算ごとに包括利益(P/L)、その他の包括利益累計額(B/S)に反映され(ここまでは日本の会計ルールも同様)、実際に持ち合い株式を売却した際の損益はP/Lに反映されない。ここが日本の会計ルールと異なるところだ。

一旦、包括利益で認識した利益を当期純利益に再計上することを

リサイクリング(組換調整)と言うが、日本の会計ルールでは現状、リサイクリングを認めている。だから、上記のように、含み損益が持ち合い株式売却により特別損益になるのだ。これに対して、

IFRSではリサイクリングは認められない。と、言うことは、部分的な持ち合い株式の売却によって他の損失の穴埋め(クッキー・ジャー)ができないのである。

日本の会計ルールが、昨今、IFRSに沿って変更されていることを考えると、クッキーがいつまで湿気らずに食べられるか・・・

賞味期限はそれほど長くないかも知れない。

東芝の改善状況報告書に思う

 

www.toshiba.co.jp

(改善状況報告書はこちら)

http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20160818_1.pdf#search='%E6%9D%B1%E8%8A%9D+%E6%94%B9%E5%96%84%E7%8A%B6%E6%B3%81%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8'

 

「・・・に思う」シリーズが一部で好評なので(笑)

 

昨日、8/18、「東芝が不適切会計問題への対応」プロセスの一環として「改善状況報告書」を公表した。

3/15に公表された「改善計画・状況報告書」に次ぐ進捗状況の報告だ。

改善計画・状況報告書では、不適切会計の要因とて以下が記載された。

歴代社長による目的達成へのプレッシャー

・当期利益重視の業績評価・予算制度

CFOや財務・経理部門等の業務執行部門における牽制機能の不全

・内部監査部門の機能不全

・取締役会等による歴代社長及び執行役への監督機能の不全

・歴代社長及び執行役における適切な財務報告に向けての意識の欠如や歴代社長らの意向を優先したことによる財務・経理部門における適切な財務報告に対する意識の低下

これら複合的な要因との認識だ。

要するに、経営トップのエゴ、つまり、地位や名声といった精神的な自己満足とお金などの経済的な自己満足のために会社利用し、会社内部の部門は保身のためにそれに従い、経営トップを監視監督すべき会社の機関は見て見ぬふりをした、とうことだ。

少しきつい書き方になるが、まあそう言わないと仕方がないということもあろう。

 

それに対して、どのような改善が図られたかというと、大きく4点

・経営トップらに対する監督強化

・内部統制機能の強化

・マネジメント・現場の意識改革

・開示体制の改善

 

特に印象的だったのが2点 

社外取締役の活用強化

横の連携強化

だ。

社外取締役の活用強化、については、例えば、

社外取締役の人数を過半数の6名(10名中)へ

・取締役会議長を社外取締役

・指名委員会、報酬委員会、監査委員会を社外取締役のみで構成

社外取締役のみで構成される取締役評議会の設置

・監査委員会室による社外取締役への支援体制

などが挙げられている。

経営トップの暴走を防ぐためには、社内から登用された役員では無理(自分を役員に引き上げてくれたいわば恩人に意見するなどありえない)やはり、経営トップとしがらみがなく、かつ社会的な地位や名声があり、その道のプロとして第一線で活躍している社外取締役こそその担い手として期待される(社長も耳を傾けるだろう)、ということだろう。東芝はもともと指名委員会等設置会社だったから、各委員会の過半数は社外取締役だったが、少数とはいえ代取が委員会にいると遠慮もあるかということで社外取締役のみで構成とした。社外取締役はどうしても社内の情報が不足するため、その支援体制もうなづける。また、取締役会議長を社外取締役にすることも取締役会の議論の活性化につながるだろう。

ちなみに、監査委員会の委員長が従前は元CFOだったため、自己監査になるためともすると自己弁護的になり監査が甘くなるとか、経理財務に精通した社外取締役がメンバーにいなかったというのは何とも残念だったが、その点も今回改善されたということだ。

 

それ以外にも、

内部通報制度の強化

内部通報先に監査委員会を追加。(従来も社外の法律事務所といった社外へのパスはあったのだが)社外取締役で構成される監査委員会へ直接内部通報(タレこみ)のパスを設けることで機能強化を図った。従来、執行側の社内部門(法務部など)が受け皿だとあったので、驚いた。社内にリークなんて危険なこと誰がするか、そちら側に関係者がいたらどうなることか・・・内部通報は社外の受け皿が必要だが、同時に、通報者保護が十分でないと実質的な機能は期待できない。通報者が裏切者、危険分子として会社から報復人事を受ける事例も少なくない。

(有名な事例は、オリンパス事件)

《判決全文》オリンパス内部通報者の配転を無効に、東京高裁 - 法と経済のジャーナル Asahi Judiciary

 

内部監査部門の強化

目的を従前の事業コンサル的な位置づけから会計監査・業務監査に集中(名称も、経営監査部から内部監査部へ変更)させ、人員も増強(約40人→約60名)。監査委員会に直結させ社内的な独立性も強化させた。

 

次に、横の連携強化については、以下が挙げられる。

 

 CFOと監査委員会の連携強化

CFO代表取締役に逆らえなく、言いなりになってしまうと不適切会計に繋がりかねないとの反省から、社外取締役と連携することによりそのようなリスクの発現を防止、あるいは早期発見を期待。

 

カンパニー経理部と本社財務部の関係

横の連携とは少し異なるが、カンパニー経理部は従前カンパニー(長)に帰属していたが、これを本社財務部に属させた。カンパニー主導の不正に関しては、カンパニー経理部は本社の隠密的な役割(という意味で横)になるので一定の牽制機能が期待できる。ただし、本社主導の不正についてはその限りではない。

 

CFO、監査委員会と外部会計監査人の連携強化

会計監査人も役員ではないが、外部のリソースであり、効果的に活用していきたい。会計監査で従来、CFO監査役または監査委員会とは年数回のコミュニケーションをとってはいるがその頻度、密度を上げるとのこと。

会計監査人は、事前に関与させることで会社にとってはコンサルや保険的な機能も期待できる。

 などなど

 

事業部やカンパニーなどの縦割り組織はどうしても情報が閉鎖的で外から見ると状況が把握しづらく、意図的でなくとも、気づいてみればコンプライアンス違反をしていた(ので隠ぺい・・・)なんてことにもなる可能性もある。縦割り組織に横の連携を入れていくのはそういったリスクを低減するには効果的だろう。

 

ここで紹介した以外にも、改善報告書には他にも様々な取り組みが記載されている。これでもか!と言わんばかりの取り組みだ。まあ、ああいった事件があった後だから、やり過ぎて過ぎることはないということだろうし、ステークホルダーを始め社会に対して一定の理解というか納得感を持ってもらうためにはこの位しないといけないんだろうな、というのが正直な感想だ。

 

ところで、だ。

東芝は、指名委員会等設置会社も他社に先んじて導入し、コーポレートガバナンスの優等生として評価されてきた会社だ(そういえば、内部統制の模範例として自社の取り組みを紹介していた書籍もあったなあ・・・)。体制や組織といった形式的な仕組みは以前から十分といえば十分な会社のはずなのだ。実際、東芝ほどの人員も人材も資金余力もなく、体制や仕組みで劣っている会社は数多い。

何が言いたいかというと、肝心なのはその運用だということだ。そして、そのためには経営トップを含めた全社的な意識付けが重要になる(改善事項の3点目)。

もちろん、先の不適切会計に関しても今回改善されたような形式面での不備はあろうし、それを改善することは望ましい。が、それだけで十分かというとそうではない。皮肉にも、当時内部統制、コーポレートガバナンスの優等生と評された東芝こそがそれを証明している。

 

 

 

 

 

 

 

最近流行りの『監査等委員会設置会社』って何?

『昨年施行の改正会社法で導入された「監査等委員会設置会社制度の評価が割れている』

『外国投資家や専門家からは「中途半端で統治改革を後退させかねない」との批判』

もあるとのこと。

この1年間で400社超が(監査役会設置会社から)監査等委員会設置会社へ移行したとのこと。今や上場会社の10%超が監査等委員会設置会社だ。批判が上がるのはある意味それだけ社会的な影響力の裏返しとも言える。

 

監査等委員会設置会社とは、会社の統治形態の1つだ。

下図のように上場会社の機関設計(統治形態)は3種類ある。

 

それぞれに特徴が書かれているが、コガバナンスの観点からは、

社外取締役の人数と役割がポイントだろう。

 

外国人投資家や専門家が良しとする形態は、指名委員会等設置会社であるが、これがイマイチ人気がない。監査等委員会設置会社は、指名委員会等設置会社のいわゆる派生形だ。指名委員会等設置会社は、もともとは2003年の会社法改正でスタートし、当時は委員会設置会社と言った。

監査等委員会設置会社が新設されたため、新名称の指名委員会等設置会社となった。

委員会設置会社は、取締役会の中に

指名委員会監査委員会報酬委員会

の3つの委員会を設置する必要がある。ひとつの委員会は3名以上の取締役で構成される(どの委員会にも属さない取締役も可)。各委員会の決定は拘束力を持ち、委員会を構成する取締役の過半数は社外取締役でなければならない点が業務適正化の要となっている。なお、監査委員会を除き、執行役が委員を兼任できる。

 

アメリカを中心とする外国人投資家に最も人気のある形態だ。理由は簡単、彼らに最も馴染みのある形態だからだ。日本に伝統的な監査役会設置会社は、監査役には、

・業務執行者の選定および解職の権限がない

・取締役会での議決権がない

この点から、監査役の監査機能の強化に限界あり、や、社長の人事に影響を持ち得ない監査役というものへの理解が困難など、欧米の投資家から日本企業のガバナンスに対する低評価を招いた要因する声もある。

と、まあ個々の指摘はあるが、要するに、監査役会などという自分たちに馴染みのない、理解できないような仕組みで企業統治だ、ガバナンスだと言われても

胡散臭い、ということだろう。

 

そんな素晴らしい指名委員会等設置会社であるが、日本では導入10年を経てなお不人気だ。たった69社。 そして、なんと言われようと、依然圧倒的人気は監査役会設置会社なのである。

最近でこそ、プロ経営者が認知を得てきてはいるが、まだまだ経営のかじ取りを社外リソース(社外取締役)に任せるのは、今度は伝統的な日本企業は慣れていないのだ。特に指名委員会と報酬委員会に関しては、社外取締役に任せるには抵抗がありすぎるのだろう。指名委員会は、会社の取締役を選任・解任する委員会、報酬委員会は、取締役の報酬を決定する委員会だ。会社は誰のものか、も根っこは同じかもしれないが、日本の会社は、平社員からコツコツ頑張って働いたご褒美、終着点が取締役、代表取締役であり、その立場になってなお会社のことを何も知らない人間にあれこれ指図され、報酬を決められ、挙句には解任されるなんてのは我慢ならないということかもしれない(たぶんそう)。記事には、セイコーエプソンの例があり、『社外取締役に次期トップの決定を委ねることは、少なくとも当社のように技術で生きている会社には適切とは思えない』とのこと。屁理屈をこねてでも嫌だ、ということだろう。

 

国際社会の一員、事業のグローバル展開、海外M&A、外国人投資家・・・

こういった国際的な対応を余儀なくされることは重々承知、でも踏み切れない・・・

そんな状況の打開策、いや妥協案監査等委員会設置会社だ。

監査委員会くらいなら社外の取締役にゆだねて委員会にしても経営の大勢に影響はないだろう、それでいて一部とは言え「委員会型」に移行した、つまりあなた方のお好きな体制に移行したことをアピールできる。

また、コーポレートガバナンス・コードで社外取締役を2名以上という要請があり、既に社外監査役を2名選任している監査役会設置会社にとっては、さらに2名の社外取締役を選任ということで、(色んな意味での)負担感が半端ない。であれば、いっそ、現在の社外監査役を監査委員会担当の社外取締役

横滑りさせれば、これらのニーズを一気に満たすことになり一石二鳥という実務的な対応もある。これが、この1年で多くの上場会社が監査等委員会設置会社に移行した要因だろう。

 

『「監査等委設置会社への移行は現状からの改悪にすらなり得る」。米シカゴに本拠を置く運用会社RMBキャピタルは今年3月、インターネット広告大手、オプトホールディング(HD)の株主総会監査役会設置会社からの移行に反対した。』

とまあ、そもそも妥協点としての監査等委員会設置会社だから、こん批判が出ることは容易に予想ができるというか、当たり前。

 

会社の統治形態に特徴があることは間違いないが、どんな形態であれ、何の課題もないということはなく、どれも一長一短。

であれば、どの統治形態をとっているか、が問われるのではなく

 

なぜ(何を重視して)その統治形態を採っているのか

(狙いと統治形態の適合も)

 

その統治形態の短所に対してどうフォローするのか

 

を明確にして、投資家などステークホルダーに説明、協議

をするプロセスが問われるべきだと思う。

 

記事には、三菱重工サントリー食品インターナショナルのように監査等委員会設置会社でありながら、任意で指名、報酬、人事委員会を設置する会社もある。それだったら指名委員会等設置会社に移行したら良いのでは?という意見はもっともではあるが、大事なのは、自分を見て、外を見て、

企業統治がどうあるべきかを考えて実践することだと思う。その過程では、結果として失敗や回り道はもあるかもしれないが、長い目で見ての前進となっていれば良い。監査等委員会設置会社もそのプロセスの1つのピースと捉えたい。