溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪で活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

負ののれん 続編

以前、『負ののれん』についてブログに書いた。幹事の羅列が多いB/Sの勘定科目の中にあって平仮名で目立つ『のれん』、更にその上を行く『負ののれん』ということで、その存在感や際立っている・・・

ということではなくて、負ののれんの意味と発生要因についての記事だ。

一際異彩を放つ『負ののれん』とは何だ? - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

負ののれんの発生は『訳アリ会社』の買収故といった内容だ。それはそれで間違いではないのだが、若干補足したい。

 

そもそも

買収価格の算定方法が色々ある

ということだ。

買収価格の算定には純資産法(コスト・アプローチ)、収益法(インカム・アプローチ)、批准法(マーケット・アプローチ)などがある。それぞれ買収の目的によって使いわけられる。

会計処理でのれんにしても負ののれんにしても発生するのは、

買収価格と被買収会社の純資産(一旦簿価とする)に差額

がある場合だ。

換言すれば、被買収会社の純資産の簿価以外の価格で買収する場合は、まず間違いなくのれん、あるいは負ののれんが発生することになる。買収価格の算定方法が色々ある以上、のれんの発生は不可避となる。

 

一般的には、簿価ベースの純資産には反映(計上)されていない様々な無形の資産(人材、ノウハウ、ブランド)があり、買収価格はこれらを評価して算定されるため、

買収価格>被買収会社の純資産

すなわち(正の)のれんの発生となる。

 

しかし、未だPBR<1の会社が多いことを考えると、負ののれんの発生は訳アリ会社買収とは言え、それほど稀なケースとも言えないように思える

PBR<1(PBR1割れ)、つまり1株当たり株価<1株当たり純資産。株価には純資産に反映されていない会社の様々な価値も含まれているにも関わらず、だ。

株価水準も影響もあろうが、昔は良かった(ので利益剰余金が厚い→純資産多い)けど、最近パッとしないので株価の評価が低い、という会社も少なくないだろう。そういう会社がM&Aのターゲットとされることもあろう。

 

そして、連結決算の会計処理においては、

被買収会社の純資産の内、

時価評価可能な不動産等を時価で再評価

して行う。つまり、

買収価格と被買収会社の『時価ベース』の純資産を比較

するため、被買収会社の不動産等に『含み益』が存在すると、更に

負ののれんは大きくなる・・・

例えば、

買収価格100 簿価純資産150であれば、負ののれんは50だが、

買収価格100 時価純資産200となれば、負ののれんは100となる。

 

少し古いケースだが、08年の伊勢丹三越の経営統合において、

負ののれんが700億円発生した。

(会社化する場合と、合併の場合では会社の単体財務諸表と連結財務諸表へののれんの発生の仕方は異なるが、ここではその違いは無視し、買収価額と買収先の純資産の差額にフォーカスする)

 

このケースでは、被買収会社は三越に当たる。形式的には伊勢丹三越を割安で買ったことになるが、大きく理由は2つだ。

1つ目は、

当時三越の銀座店などの土地の時価が高騰した(三越の時価純資産が大きくなる)

 

2つ目は、

三越の時価純資産(土地の含み益)が伊勢丹の買収価格に反映されなかった

 

ということだ。

要するに、伊勢丹にとっては、

三越の土地の値上がりは無視すべきものということだ

そして、三越側の株主もそれを受け入れたということだ(相当ごねただろうけど・・・)。

時価ベースの純資産による価値は、ザックリいうと保有する資産それぞれの現時点による売却価格だ。つまり、買収後、その

会社を清算して保有する資産を売却

する(で、キャッシュを回収して利回りを得る)ということになる。

対して、百貨店としての機能としての三越を買収し、統合後伊勢丹とのシナジーを期待するということになれば、仮にどんな高値で土地を評価されようが関係ないということになる。この場合は、百貨店としての三越が今後どれだけの儲け(=キャッシュ)を稼ぐのか、つまり三越将来期待キャッシュフローの現在価値が買収する値打ち、ということになる(インカム・アプローチ:DCF法)。

ということで、本件は、

売却した方が高い会社を敢えて継続させるという事例

ということだ。この点だけだと、何と不合理な!となるかもしれないが(そういう議論をちゃんとして欲しいが)、金銭的価値の評価以外の事情もあろうし、そもそも、その時価とやらで対象となる不動産をすべて売却できるとも限らない・・・相対取引だし交渉事だし・・・

そもそも、

そんな時価ってホントに時価って言える?とも・・・

 

過去にはそんな珍しいケースもあったのか、とも言えず、ここ数年も実際の事情は不明だが、同じようなケース、経営統合による『負ののれん』発生

が見られる。

 

例えば、

16年3月期 九州フィナンシャルグループ(肥後銀と鹿児島銀)負ののれん 885億

17年3月期 東京TYフィナンシャルグループ新銀行東京統合)負ののれん 194億

 

金融機関の統合は、経営環境的にも百貨店のケースと重なる部分が多いのではないかと思われる・・・

 

さらに、金融機関においては、

16年3月期 東邦銀行 持ち分法→子会社化 負ののれん 76億

13年3月期 群馬銀行 子会社持分追加取得 負ののれん 12億

29年3月期 岩手銀行 持ち分法→子会社化 負ののれん 43億

のように、グループ会社に対する支配力を強める(株式の追加取得 例100%子会社化)過程で負ののれんが計上される例も結構見られた。

業績不振のグループ会社に対する支配を強めて経営改善ということももちろんあろうが、現在の会計ルールでは、

負ののれんは発生時に一括で利益に計上される、

ということだ(伊勢丹三越の時代とは異なる)。

負ののれんの会計処理について考え方はいくつかあるが、現在の会計ルールでは、割安購入益、つまり、

安く買えたことに対する利益(好い買い物したご褒美)

ということで即時利益計上。

 

とはいえ、調子の悪いグループ会社を買い叩くことで利益が生まれる、

それって良いのかな・・・

 

 

 

 

内部留保課税は誰が得をするのか?

business.nikkeibp.co.jp

内部留保課税案が再燃しているとのこと。

政府は進まない設備投資、賃上げにいらだちを隠せないようだ。

 

昨年の麻生財相による内部留保を貯めこむ奴は守銭奴”発言について以下の記事を書いた。

内部留保の定義や何が問題視されているのか等々について書いているので、参考にしてほしい。

内部留保蓄積は『守銭奴』 ~麻生財務相発言に思う~ - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

政府としては、ここまで言ったのにまだ改善が進んでいないのはどういうことだ!と痺れを切らしたのだろうか。

 

前記事の繰り返しになるが、貯めこんでないでおカネを使え、そして使い道は設備投資と賃上げだ、ということであれば、直接的には内部留保ではなくて貸借対照表の現金預金などの余剰資金の残高を指摘すべきだ

ちなみに、別記事では「企業が持つ現金と預金は15年度に約199兆円と内部留保全体の半分強だ」、また「企業全体の運転資金の1.6カ月分」ということで必ずしも「おカネ」を貯めこんでいるとも言えないとの指摘。

 

<内部留保>増え続け377兆円 賃上げ、投資 迫る政府 (毎日新聞) - Yahoo!ニュース

 

もっとも、設備投資や従業員の給料を上げれば当期純利益が減少するため、当期以降の内部留保の蓄積は抑えることはできる

 

内部留保は、簡単に言うと

当期純利益から株主への配当を控除した残額の蓄積

の記録だ。

なので、例えば設備投資も在庫投資も、あるいはM&Aもおカネは使うがそれだけでは内部留保は減らない

 

したがって、内部留保のこれ以上の積み上げを抑制するには、例えば、

 

①配当性向を上げる

 

減価償却費増加(設備投資による)&賃上げ

 

といったアクションが必要になる。

②が企業に対する政府の注文に当たる。

 

ちなみに、これらは今以上の内部留保の積み上げを抑えるということであって、現在のレベルよりも減らすとなれば、当期純利益を上回る配当を継続、赤字までの設備投資&賃上げが必要となる・・・

 

これって誰が得するのだろうか?

 

①最近、株主還元を強化するため増配や自社株買いする会社も増えている。株主からすれば、投資リスクに見合ったリターンを期待して事業(会社)に投資したのだから、リターンを配当として要求するのは当然だろう。配当を要求しないとすれば、結果的にその事業に再投資するということで、元々、内部留保はそういうものだ。内部留保配当として果実(インカム・ゲイン)食べてしまうよりも事業に再投資した方が事業(という果樹)がより大きくなる(キャピタル・ゲイン)という株主の判断とも言える。

したがって、今後の事業の飛躍的な成長は期待できないから、事業の成長に当てるよりも今株主に還元して欲しいということになる。

企業が使いきれずに持ちあぐねているおカネが株主に還元される場合、株主にとっては過去に配当されるはずが内部留保された分も含めて還元されるのであり、また投資先を改めて意思決定できるという点ではこの施策は株主のため(得)と考えられる。もっとも、他のよりリターンが期待できる投資先を見つけることが前提となるが。どこからもポンポンと還元されるのもどうかと思うが・・・

 

そして、②

政府が企業に促している設備投資による減価償却増加&賃上げ

はどうだろうか?

設備のサプライヤー企業は得するというか業績は上がるだろう。ただ、多くの企業が収益性の改善の伴わない設備投資を毎期するとも思えない。というか、設備投資が促進しない最大の要因は、

・設備投資先が見つからない

・長期投資が不安視される外部環境

ではないだろうか?

かつて成功を収めた企業のビジネスライフサイクルが成熟期、衰退期を迎え、

次なる矢が見い出せない、要は①のように株主還元を強化する企業では将来の稼ぎに繋がるような設備投資のネタが見いだせないことが考えられる。

また、ライフサイクルが速いとか競合状況の激しい製品のメーカーや為替変動の影響を受けやすい企業であれば、

目下の環境下での長期的な設備投資を躊躇するかもしれない。

もちろん、こういった企業を擁護するつもりはない。同じ環境で投資機会を見出し成長している企業もある。ただ、現に二の足を踏む企業をこのような形で追い込んだからと言ってすぐに有効な投資案は見出しにくいのではないか。全員がスーパースターなわけじゃない。

ところで、間違った設備投資や賃上げで経営が傾くような企業が増加したら、どうなるのか?

例えば、法人税収は悪化するがこれは織り込み済みなんだろうか?

法人税収以前に、

設備投資、賃上げも何も肝心要の企業の存続が危うくなっては元も子もないのではないか…

 

従業員はどうか?

賃上げによる可処分所得増加となれば得になると考えても良いだろう。が、

それを引き金に消費税増税となると果たしてどうだろうか?

(消費税だけでもなさそうだが・・・)

賃上げの程度にもよるが、そのうちの幾ばくかは増税により減殺されるだろうし、心理的に悪影響となれば消費の拡大に繋がるかは不明だ。

 

また、いまや政府公認の財務指標のROE、これはどうなるのか?

設備投資による減価償却費の増加、従業員給与の増加によって当期純利益が減少すれば、当然ながらROEは低下する。

 

設備投資、賃上げは必須、かつROEも上昇させろ・・・

 

ん~かなり厳しい。

もっとも、それ以上に売上増加、粗利を上げれば良いということかもしれないが・・・

 

そして、内部留保課税だ。

ここまで言っても設備投資&賃上げしないのであれば、内部留保に課税する、というこだが、よく指摘されるように、内部留保の元になる(税引後)当期純利益は課税済みであり、これに課税するのはいわゆる二重課税となる。

同じ所得に対して2回税を課すわけであるから、これは当な正統性が必要になる。

おカネを貯めこんだ(おカネじゃないんだけど…)罰=ペナルティ

ということなんだろうけど、大義としては、

企業が自発的におカネを使わないのであれば、

国が代わりに国民のために使ってやる

ということだろうか?

 

設備投資も賃上げ、あるいは内部留保課税も

その多くは国の懐に収まるように思えてならない。

国民思いの政府に期待するしかなさそうだ・・・

 

 

 

 

MBOで事業再生できるのか? 【アデランスの例】

アデランスが14日、MBOを発表した。現経営陣が投資ファンドインテグラルと組んで、TOBにより株式取得し、17年2月を目途に上場廃止する予定とのことだ。

 

なるほどね~

アデランスは以前、米系の投資ファンドスティール・パートナーズと経営権を巡って対立、すったもんだしてたな・・・

そのあたりの経緯や今回のMBOの金額的な評価については、こちらのブログに書かれているので参照してほしい。

インテグラルによる「アデランスMBO」 ~ スティールパートナーズ、ユニゾンキャピタルを振り返る | 田中博文

 

現経営陣としては、スティール・パートナーズじゃなく、彼らが送り込んだ大槻氏ではなく、

現経営陣こそがこの会社を再生をできる唯一の存在

ということなんだろう。

上場なんかしているから、事業のことを理解もしていない自分たちのことしか考えていない『邪魔者』が入ってくるんだ。しかも短期目線で。

だから、

邪魔者が入らないような結界はって聖域を作るのだ!!

ってな感じかな。

 

別記事(日経新聞)での副社長である津村氏のインタビューにも滲み出ている。

『株価を割安に放置し、『物言う株主』に付け入るスキを与えたのは反省している。』

『(またファンドが乗り込んでくるかも)株価に左右されずに経営基盤を再構築する環境を手に入れるには非公開化が不可欠

『スティール側に『欧米の会議ではチョコレートやアメを用意するのが普通だ』、『チョコはゴディバを用意しろ』などと言われたこともあった。・・・悔しい思いをした。』

 

相当、悔しい思いをした、とか、スティールと反りが合わなかったことはわかる(笑)

 

確かにスティール・パートナーズの提案(というか要求)が短期的な彼らの利益に沿うもので、必ずしもアデランスの長期的な企業価値の向上につながるものではない、というのはあっただろう。

 

でもなあ・・・

自分たちの主張や提案がより企業価値向上につながるって主張すれば良いんじゃないのか?もちろん、主張が食い違えば論争にはなるが、どう考えても会社を食い物にして私腹を肥やそうなんて主張が上場会社で通るわけはないだろう

そもそも、スティール・パートナーズがアデランスの経営に参画するようになったのは、現経営陣の業績に業を煮やした一般の株主による定期株主総会の決議の結果だ。

その原因を作ったのは誰なのか?

株価が下がるから『物言う株主』が入ってくるスキができるというなら、

そのスキを作ったのは誰なのか?

ということだ。

 

どんな株主だって口はある。現に、一般の株主に否決された訳だし。

『物言う株主』の短期目線の経営(戦略)がダメというなら、長期的な経営戦略を示してそちらの方が企業価値が高まると議論を尽くすことはしていただのだろうか?

していたとは思うが、株価が変動すると安心して経営出来ない、なんて発言を聞くと、怪しいなあ、と思ってしまう。

株価は変動するだけで、あなたが左右されたんでしょ?

短期目線の経営の否定は、即、長期的な企業価値の向上につながるわけではない

長期的視野に立った経営は、短期的に業績を改善できない言い訳となってはいけない

 

『幸いにも当社の認知度は高い上場廃止しても、人材が集めにくくなるなどの弊害は起こらないだろう

これも副社長の発言だが、是非そうなっていただきたいとは思うが、非上場化することのリスクが顕在化しないようにしていただきたいな、と。非公開化の)問題は内部から進行する

 

ところで、会長(兼社長)と副社長とで議決権の50.1%を保有ということは、ざっと90億円程度の資金が必要になる(会長が約12%保有しているので、追加でざっと38%)。

個人資産で賄うのだろうか?もし、インテグラル経由での資金借り入れということであれば、形式的な過半数の議決権なんてのがどこまで通用するのかも疑問だ。

お金だけ出してくれて、自分たちの好きに経営させてくれるなんて、まさか本気で考えていないだろうな・・・

 

とりあえず、アデランスの経営再建を期待しておきます。

 

 

日本企業の利益率が低い理由とは!?

bizgate.nikkei.co.jp

 

面白い記事があったので、少しコメント。

 

主張としては、

日本企業の利益率が低い(ローリターン)はローリスクによるものだから、リターンだけで(各国と)比較するべきでない。

リスクも合わせて比較すれば日本はそれほど収益性は低くない

というものだろう。

リスクに対してより効率的にリターンを上げた、つまりシャープレシオの考え方だ。

「日本は世界38か国中、利益率の時系列ボラティリティが最も低いのです。この数値が低いということは、利益率のブレが小さいということを意味します。ROAが高くなることも少ないが、下振れも小さい。」

利益率をROE,ROAをベースに比較しているが、これら財務指標の相違の根本的な原因は主にROS(売上高利益率)にあるので、要はP/Lの利益率が低い、あるいはブレが少ないという理解。

利益率のボラティリティが低いということは、利益の予想がしやすいということでもある。投資家からすれば、当たり外れが大きい会社(利益のボラティリティが大きい)よりも来期(将来)の利益の予想がし易い、これが(バラつきの)リスクが小さい→安心感につながる。

言ってみれば、

順位自体の優劣はともかく、万年3位のチームと、毎年1位と6位を繰り返すチームの来期の成績を予想する場合に、どっちのチームが予想し易いか

ということだ。

 

ところで、

利益=リターンのブレ幅が少ないのは何故だろうか?

日本の会社は総じて利益のブレ幅が少ない「産業」に投資しているということを指摘しているのだろうか?単純に、諸外国は利益のアップダウンが激しい産業中心、日本は利益のブレ幅が少ない安定的な産業中心か、ということだ。確かに、オーストラリア、カナダのような天然資源・鉱物関連中心の産業構造とは異なるが、日本の中心産業も為替変動の影響など決して経済環境が安定しているということでもない。それなのに、何故、日本の利益の時系列ボラティリティが際立って低いのか、ということを指摘して欲しいなあ、と思うのだ。

 

この点について、

・安定志向

・売上高至上主義

・儲ける気がない

の3点ではないだろうか。

 

安定志向は言わずもがなだろう。日本の伝統的な思考だ。多くの会社は現在でも加点主義よりも減点主義ではなかろうか?アップダウン、つまりアップがあるということは「相対的に」ダウンが発生する。アップが+2、ダウンが-2なら平均は0のはずだが、心理的に-2を重く受け取る傾向がある。この点はファイナンス理論でも指摘(プロスペクト理論)されているが、心理的な作用として日本人には強く働くのではないかと考える。

 

売上高至上主義も日本の経済社会には根強い。業界No1の称号を利益ではなく、資産活用の効率性ではなく、売上高という(P/L)の1項目で決定する習わしがこの国にはある。ということは、経営者のモチベーションとしては、多少割の悪い商売であっても採算度外視であっても売上規模拡大のインセンティブが働くのだ。もしかしたら、競合が利益率が低いという理由で撤退した市場へシェアを求めて乗り出すなんてこともあったかもしれない(80年代に米国に進出した日本企業など)。もちろん、最近はまさにこの点を投資家、株主から指摘され、重視すべき経営指標を見直す会社も増えている。

 

「儲ける気がない」だが、伊藤レポートにも指摘されていたと思うが、長らく日本の会社はメインバンクによる統治(デッドガバナンス)が中心だった。

物言う株主の台頭や会社は誰のもの的な議論はせいぜいここ20年程度の話だろう。銀行としては、あまり会社の儲けられると貸出金の繰り上げ返済にもつながり、ヨロシクない。元利が計画通りに回収されるのが良い。その程度の稼ぎを会社に期待する。安定的に。

つまり、会社にとってはハードル設定がそれほど高くはならない

そして、対前年比や同業他社との比較を気にしたり、さらには特別損益を利益の調整弁に使うことも少なくない。

こういう状況で、自己記録の更新を目指して高い目標に挑む会社がどれだけあるだろうか?自分の実力の範囲で安定的な成績を出すことが評価されるのであれば、敢えて高い目標に挑戦して失敗する(評価が下がる)リスクを冒す必要もあるまい

要するに、

大抵のことがあっても自己調整できる程度の目標設定と

それを許容するガバナンス

だ。

コラムに言う、ローリスク・ローリターンの背景にはこういった従来日本企業を取り巻く環境があったように思うのだ。まあ、最近はそういった環境も変わってきているが、未だ上場会社の多くは旧態依然のようにも思う。

  

成長は必要なのか?2番じゃダメなんですか?

分からなくはないが、(売上や利益の)成長、順位は「結果」だ。

逆に最初から現状維持や2番を目指して達成できるとも限らない

相手あってのこと、競合はどうだ?日本の競合も同じように考えているのか?

 

冒頭の平均利益率の高い諸国、確かに利益の振れ幅は高い(ハイリスク)かもしれないが、時系列平均利益率は日本を優に上回る。

失敗もあるが、成功した時はデカい

失敗から学ぶからこそ大きな成功につながる

とも言える。

先日ノーベル賞を受賞された大隅教授も日本のお家芸とされる各界の基礎研究の分野にも警鐘を鳴らされていた。

大きな成功はそれに見合うコストも必要になる。何事も安定、安定ではイノベーションの期待薄だし、それこそ必死に成長しようとする諸国に勝っていけるのかと将来が不安になる。

それに、判断基準がオモロイかオモロナイか基準の自分としては、

そんな世の中はオモロクない。

自社株消却と株主還元姿勢との関連とは? 【日産の例】

www.nikkei.com

日産自動車は23日、7月1日から今月21日までに自社株買いで取得した1億800万株すべてを30日付で消却すると発表した。発行済み株式数の2.46%に相当する。大成建設も23日、2.09%に当たる2451万6千株を30日に消却すると発表した。自社株買いで1株当たり価値を高めるとともに、市場に再放出する懸念をなくして株主還元の姿勢を明確にする。』

 

久々の自社株ネタ。

自社株買いが、1株当たり利益を高めたり、ROEを向上させたり、ひいては株価を上昇させたり、の効果があることは過去ブログにも書いた。

 

・ 自己株式を買うとどんなメリットがあるのか?

自己株式を買うとどんなメリットがあるのか? - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

・自社株買いと株価の関係 最近の傾向

自社株買いと株価の関係 最近の傾向 【少しボヤキ系】 - 溝口公認会計士事務所ブログ

  

今回の記事も内容的に特に目新しいということではないが、これまでの記事の確認も含めて書いてみたい。

 

会社が自社株を購入すると、自社株は1株当たり利益の計算上の発行済株式数に含められないため、見かけ上、1株当たり利益が高まる。

例えば、当期純利益10,000 発行済株式数1,000とすると、1株当たり利益は10

となるが、自社株を200買うと、計算上の発行済株式数が800(1,000-200)となるので、1株当たり利益は12.5上昇する。

 

また、純資産比率50%(負債:純資産=1:1)の会社の財務レバレッジは2(=総資産/純資産)であるが、純資産の2割(総資産の1割)に相当する自社株を購入すると会計上、自社株は純資産のマイナスとして処理されるため、純資産比率は44.4%、財務レバレッジは2.25となる。要は、相対的に借金の割合が大きくなるのだが、これが、ROEを高めることになる。この場合は、財務レバレッジが2→2.25と12.5%高まるので、他の要因(当期純利益率、総資産回転率)が変化しないとすると、ROEも12.5%改善することになる。

 

そして、

株価=1株当たり利益*PER(株価収益率)

なので、自社株買いによって1株当たり利益が上昇すると、PERが据え置かれるとすると株価は高まるというわけだ

 

いずれも、自社株を『購入』した時点で得られる効果である。

 

そして、今回の日産のニュースは、『購入後』の自社株を『消却する、ということである。

自社株を『消却』することが『株主還元の姿勢を明確にする』ことになるのだろうか?

自社株を消却することで、更に1株当たり利益、ROE、株価が高まるということではないが、『市場に再放出する懸念をなくして』すことで、これらの数値を低下するリスクを払拭することである。

 

自社株は会社が購入しても会計上の取り扱い(1株当たり利益計算から控除)や会社法上の取り扱い(配当請求権、議決権がない)はともかく、株式としては以前存在する。

会社が自社株を再利用することは可能だ。実際、株式交換によるM&A、ストックオプション、従業員の退職金の支払い(へ自社株を利用)のような使用例がある。

そして、会社が自社株を再利用するということは、すなわち、会社が以外の第3者が新たな株主になるということであり、結果として、1株当たり利益、ROE、そして株価も元の水準に戻ることを意味する。

つまり、自社株を消却することは、一旦高めた1株当たり利益、ROE、株価を元の水準に戻さないという意味で、自社株の再利用による会社の財務数値へのネガティブインパクトのリスクを排除する、ということで株主に報いるということになる。

電通の不適切なネット広告取引の件に思う 【広告主の視点から】

news.yahoo.co.jp

 

なんと!、そして、さもありなん・・・

ニュースの最初の印象がそんな感じだった。

 

(委託者側にとって)購買取引というのは元来、キックバックやら

不正のリスクが高いエリア(業務範囲)として認識されるが、会計監査では従来、中でも広告宣伝費は不正あるいは誤謬(間違い)リスクが高いエリアとして位置づけられる。理由は、担当者個人に業務が張り付く、価格も他との比較が容易でないとか物が動かないため取引の実証検証がし難いなどだ。

 

自分自身の経験でも、(委託者側の)会計監査で広告宣伝費のエビデンス(証拠書類)を求めた際に、そんなものは保管していない、といった回答をする会社もあった。エビデンスとは、広告が新聞雑誌に掲載された(その雑誌、新聞)やTVCMであればその実績、レポートが相当する。電通電通だが、広告主の側での性善説に立った「ちゃんと仕事してくれているはず」という(大)企業を無条件に信用する傾向や広告を社内承認、発注すればお役御免といった意識の問題なのかな、とも思ったが、今回の例はどうもそういう訳でもなさそうだ。

 

電通の件で問題となった「ネット広告」、中でも最近の主流といわれる

運用型広告」これがなかなか複雑な仕組みのようだ。

以前の新聞雑誌に何回掲載といった、例えば1か月100万円で10回といった契約であれば、委託者の会社もちゃんと依頼した広告宣伝が行われたかどうかの検証が可能だろう(前述の例は、それをも怠っている会社もある、ということ)。

ところが、運用型広告というシステムはそう単純でもないらしい。詳述は避けるが、要は、広告媒体と顧客(広告主にとってはターゲット)そして、広告主のコンペティターの関係によって、意図したように広告宣伝ができるとも限らない、ということらしい。そして、できるだけ委託者である広告主の意図に沿うように広告宣伝を運用する、というのが電通のような広告代理店の期待役割付加価値、ということらしい。

 

広告代理店側からすれば、従来の広告主の意に沿った、あるいは期待を上回るような顧客に訴求する広告宣伝を提案するだけではなく、それをいかに効果的に顧客にアピールするかも求められることになる。期待値が上がった感があるが、これって、委託者(広告主)に理解されているのだろうか?その辺も今回の問題の根っこにあるようにも思うが・・・

 

それはともかく、広告代理店に対する期待値が上がり結果として広告代理店が担う役割が複雑高度化すると、同時に委託者(広告主)サイドとしては、期待や目標が達成されたかどうかの検証も従来のように単純にはいかなくなるというのも想像に難くない。

 

電通の件では、重要な顧客であるトヨタが疑問を呈したことがきっかけで露呈されたとのことだが、他の100件超の顧客の中にも同様の疑問を持った会社も少なくないだろう。

ところが、複雑高度化したネット広告の仕組みや広告代理店の機能(期待値)が高まるにつれ、委託者サイドからするとその検証が困難になり、怪しいな、と疑問を持ったにしてもそれを検証する手立てがない、結果、広告代理店から提出される(実績)レポートを信用せざるを得ない、という状況ではないだろうか。

 

このような状況で今回のような問題が発生すると、委託者の会社にとしても「代理店を信用していました」、「我々は騙されたんです」と主張はすれど、外部の利害関係者からは、

そういうリスクに対してどう対応していたんですか?

という指摘もあろう。

広告宣伝費が実際に発生したものかといった会計監査マターや広告宣伝が経営判断として適切なものだったのかといった業務監査マターを株主など対外的に説明するためにも、意図した広告宣伝が適切に行われたというエビデンスを確保しておきたいだろう

 

そういったニーズに対する対応として、

SSAE16号、監査・保証実務報告実務指針第86号

(以前はSAS70、監査基準委員会報告第18号と言った。懐かしいなあ)がある。

興味があれば詳細は調べて欲しいが、簡単にいうと、

アウトソースなどのサービスを提供している事業者が(委託者に)提供する情報などのサービスが適正に委託者に提供されたかどうかを社内でチェックする体制が適切に整備・運用されているか、を外部の会計監査人(監査法人)が監査する、という仕組みだ

電通の例で言えば、電通が広告主に提供する広告宣伝の実績レポートが適正なものであるといえるだけの社内チェックが効いているかどうかを監査する、ということになる。

 

こういった社内のチェック体制について外部からのお墨付きがあると、広告主も安心して取引できるのではないだろうか?

 

ところで、このような仕組みは実は10年以上前から日本にもあり、内部統制報告・監査制度(J-SOX制度)でも要求されている。

多くの会社が、給与計算、受発注、広告宣伝業務などを外部の事業者にアウトソースしてその結果を自社の決算数値に反映させている。本来はこのような監査サービスは既に普及して然るべきなのだが、J-SOX施行当初でも中々このようなサービスに対して、一定の理解は得るものの、おカネを払ってまでというと・・・という会社が多い印象だった。そういうこともあって、会社におけるアウトソースしている業務や取引金額の重要性といった点から必ずしも外部監査までは不要といった落としどころにしていたようにも記憶する。

 

今回の一件がアウトソース業務に対する内部統制監査が改めて見直される機会となると良いと思う。

 

 

 

固定資産の耐用年数って変えちゃっていいの? 【伊藤園の例】

www.nikkei.com

伊藤園が1日発表した2016年5~7月期の連結決算は、純利益が前年同期比50%増の35億円と、5~7月期として過去最高となった。7月の猛暑を受けて麦茶が伸びたほか、脂肪吸収を抑える食物繊維を加えたお茶などの機能性表示食品も堅調だった。自動販売機に対する耐用年数の見直しで、減価償却負担が減ったことも貢献した。』

 

 伊藤園が好調のようだ。食品メーカーは気温や日照時間などの天候に業績が大きく左右されるが、今年の猛暑は一般市民にはともかく、伊藤園の業績には追い風となった。

 

ところで、前年同期比、売上高は1%増の1290億円に対して、営業利益は65億円と52%増えた。その内、自動販売機の耐用年数について、従来は5~6年だったのを今期から8年に変更したことによる減価償却費の減少が営業利益を約9億円押し上げた効果があったという。前年同期に比べてざっと営業利益22億円の増加の内、約9億円が自動販売機の耐用年数の見直し(延長)による影響という。と、言うことは、前期と同じ ベースで比較した場合(耐用年数の見直しが無かったとすると)、営業利益の増加は約半減の13億円程度と言うことだ。

 

固定資産は買ったときに購入代金の全額が即費用となるのではなく、爾後数年の使用期間(耐用年数)に亘って減価償却により費用処理される。

減価償却については☟を参照:

今更聞けない『減価償却』って実際どういうこと? - 溝口公認会計士事務所ブログ

耐用年数は、固定資産を買ったときに固定資産の特性や使途や使用環境等を考慮して独自に設定される(というものの、一般的には法人税法の規定による法定耐用年数を参考にされることが多い)。が、その後の特性、使途、使用環境等の変化に伴い使用可能年数の変化が認められる場合には、会計ルール上、耐用年数の変更を見直されなければならないことになっている。

なので、伊藤園のように固定資産の耐用年数を見直すこと自体は何ら問題ない。

 

しかし、耐用年数を延ばす方向での変更は結果として減価償却費を減らすことにより営業利益(場合によっては売上総利益も)を増加させる、

つまり会計処理方法の変更による増益効果となるため、

会社の利益操作に使われる余地もある。そこで、上場会社など会計監査が必要な会社では、会計監査人(公認会計士)が会社の耐用年数の変更の主張が実態の変化に基づく妥当なものどうかをエビデンスを基に判断することになる。伊藤園のケースでは、耐用年数の延長の要因の1つが自動販売機の高性能化としているため、高機能化がどのように使用可能年数の長期化に繋がるのか、高性能な自動販売機を導入した時期から実際に自動販売機の使用期間が長期化していることを表す等のエビデンスを準備し、会計監査人と協議したと思われる。

そして、会計監査人の合意があった場合、財務諸表の注記に「耐用年数を変更した旨、その影響額」を記載する。

伊藤園 決算短信https://www.itoen.co.jp/files/user/pdf/ir/fr/apr17/2809aj.pdf

 

伊藤園のケースも財務諸表注記に耐用年数変更の「影響額」が記載されていたから、約9億円の増益効果があったことがわかるのだ。

財務諸表注記は馴染みのない人も多いかもしれないが、

利益の増加要因事業活動の変化(誤解を恐れずに言えば企業努力)なのか、会計処理方法の変化なのかを理解して業績を評価するのとそうでないのとでは評価の結果も違ってくるのではないだろうか?

 

 ちなみに、同じ固定資産の会計処理でも減価償却方法の変更では取り扱いが異なる。

例えば、減価償却方法を定率法から定額法へ変更する場合、やはり減価償却費は減少し、利益は増加するのが通常だ。この点は耐用年数の変更と同じだ。ところが、減価償却方法の場合は、実態が変わったという明確な事実が把握しづらい

少し専門的になるが、固定資産の経済的価値の消費パターンが定率的から定額的に変わったかと言えば、それを証明するのは難しいと言うことだ。何故ゆえに変更するのか、その理由の客観的な説明のし易さが耐用年数の変更の場合と異なる。そもそも減価償却方法はある前提のもとに固定資産の経済的価値が減少するという言わば見做しに基づくものだ。固定資産の帳簿価額がその時点の時価を表していないことからも明らかなように、固定資産の価値が実際に減少しているという実態を表しているわけではない。要するに、

耐用年数の変更事実の変更に基づく変更であるのに対して、

減価償却方法の変更は見做しから見做しへの変ということなのだ。したがって、減価償却方法の変更の場合は、財務諸表注記に「変更の旨、その理由、変更の影響額」を記載することが求められる。何故変更するのかについて合理的な理由の説明も求められるのである。会計監査など外部への説明のしやすさから言えば、会社にとっては、減価償却方法の変更の方がハードルが高いとも言える。