溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

経営者の都合で減損処理は可能なのか?【ふくおかFGの例】

www.nikkei.com

ふくおかフィナンシャルグループ(FG)は21日、熊本銀行親和銀行経営統合に伴って発生したのれんの残り948億円を一括償却すると発表した。2017年3月期の連結最終損益予想は400億円の黒字から548億円の赤字に転じる。』

ふくおかFGが、熊本・親和銀を統合した07年には1834億円であったのれんの未償却残高948億円を一括償却するとのこと。その結果、黒字決算が赤字に転落なので、これはかなり思い切った判断だ。

 

ところで、固定資産の減価償却もそうだが償却方法や期間(耐用年数)は一度決めたら、その前提が変わらない限り継続して適用するのが原則だ。これを

継続性の原則と言うが、利益が出た時は償却費を多目に、利益が少ない時は少な目にといった具合の利益の調整弁としないためだ。

 

しかしながら、固定資産の取得後の事業環境変化などにより思ったように収益が見込めない場合、その時点で改めて固定資産の価値を評価して、その価値まで帳簿価額を切り下げるのが減損処理だ。今回、ふくおかFGが発表したのはまさにそれだ。

 

f:id:tesmmi:20170418200914p:plain

 

では、ふくおかFGが今回、熊本・親和銀行との統合で発生したのれんにどのような状況変化があったのだろうか?

『ふくおかFGは10月に予定している十八銀行との経営統合を控え

M&Aで用いられる手法で熊本・親和銀の評価を改めて見直したところ、

「簿価の50%を下回る場合」という一括償却の基準に該当した。ふくおかFGは「熊本銀・親和銀の株式が10年前の経営統合時に想定しなかった経営環境の変化や、マイナス金利政策の影響を受けた」と説明している。』

 

どうも釈然としない・・・

何が釈然としないかというと、評価方法を変えているのだ。

スポーツも同じで、選手のパフォーマンスは同じでもルールが変わればこれまでセーフだったものもアウトになる。では、ルールを変えるのは妥当なのか?ということだ。

記事は続く。

『ただ、純資産を使ったこれまで通りの方法で判定していれば、一括償却の基準には該当しないという。ふくおかFGは統合以降、毎年約90億円ののれんを償却しており、その負担は28年まで続く見通しだった。』

ということだ。

 

このタイミングで、 

評価基準を変更する合理的な理由があったのか? 

 

ふくおかFGによれば、マイナス金利の導入など、市場環境の激変に対応して子銀行の株式評価を見直し、減損が必要になった、とのことだが、10年分をまとめて償却し、将来の環境変化に対応する余力を確保する、とか、将来のために余裕がある時期に償却する、という説明もあった。

 

報道されている以上の詳細は分からないので、あくまで経験からの勘に過ぎないが・・・

どうも、来るべきM&Aに備えて、その後またのれんの償却費負担が発生するので、

今のうちに落とせるものは落として余力を残しておこう

といった意図が透けて見えるように思えるのだが、気のせいだろうか?

会社のIR資料でも、次期以降は(のれんの償却費負担が減るので)良くなりますよ、がやたら強調されているように思うし・・・

 

のれんの減損判定基準の詳細までは外部公表しないので期待薄だが、今後の決算発表資料などで、

のれんの減損判定について具体的に何を見直したのか?

また、

このタイミングでの見直しは妥当だったのか?

について公表されるのを期待する。

 

ふくおかFGの例からも分かるように、

会計処理は機械的に粛々と行われるものばかりではない

のれんの減損処理、引当金の設定繰延税金資産の取崩

等々

金額の見積もりや処理の時期については、経営者の判断に依存

する部分が少なくない。

もちろん、判断には合理的な根拠が必要だし、ふくおかFGのような上場企業であれば外部の監査法人が納得するだけの理由が必要になる。しかし、そこにも一定の幅がある。

つまり、誰がやっても金額、タイミングが同じになるとは限らない。決算数値はそういった性格を帯びている。しかも、概してこれらの項目は最終的な会社の業績数値に与える影響は大きい。したがって、決算数値の利用者は、作成された数字だけでなく、経営者の意図も合わせて読み取る必要がある。

 

【ふくおかFGのIR】

http://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS07869/f1da7bc1/5951/4b64/b5d8/1431fed6a643/140120170321423800.pdf

監査承認なしで決算発表するとどうなるのか? 【東芝の例】

headlines.yahoo.co.jp

 

 

延期されてきた東芝の2017年3月期決算の第3四半期の決算発表が本日なされた。

噂されてきたように、監査法人であるPwCあらたの監査『承認』無

しという異例の決算発表となった。

 

ところで、よく報道される監査法人『承認』だが、どういう意味合いで使っているのだろうか?

同様に監査法人『お墨付き』という表現もされるので

監査法人が会社の決算は正しいと判断する』ということを意味しているのだろう。

 

とすると、今回の東芝の、監査法人の承認なしに決算発表は間違いではないが、

ちょっと誤解されやすいので監査意見の種類について書いておきたい。

 

と、その前に・・・

今回の第3四半期決算について、東芝は、決算短信(いわゆる決算発表)と四半期報告書の提出を同日に行っているが、監査報告書の有無が問題になるのは四半期報告書だ。決算短信には監査報告書の添付は不要だ。金商法に従って作成提出される決算書(四半期報告書、有価証券報告書など)は監査法人公認会計士による監査報告書を添付する必要がある。

 

監査法人が会社の決算書を会計監査した結果として表明する結論(監査意見)は

4種類ある。

今回の東芝の例では、四半期決算なので監査意見ではなく、正確には四半期レビュー意見なのだが、ややこしくなるので、監査意見として記載。

 

①無限定適正意見

:会社の決算は重要な点において会社の実態を概ね適正に表している。

報道される監査法人の承認とはこれを意味すると思われる

 

②限定付適正意見

一部不適正な部分があるが、それを除けば決算書は会社の実態を概ね適正に表している。

 

ここまでが、承認ラインと言えるだろう。

 

③不適正意見

:問題が大きすぎて、会社の決算書は会社の実態を適正に表していない

 

④意見不表明

:会社の決算がメチャクチャ、あるいは根拠資料が提示されず会社の決算書が適正かどうか判断できない

 

東芝のケースは実は、④『意見不表明』に当たる。実は、監査法人から何の結論も得ていないわけではなく、監査法人が結論を出せるような説明や資料の提示がなされなかったので、いかんともしがたい、という結論(意見)を入手している。

東芝の四半期報告書を参照☟

https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/E01EW/download?uji.verb=W0EZA104CXP001003Action&uji.bean=ee.bean.parent.EECommonSearchBean&PID=W1E63011&SESSIONKEY=1491916039094&lgKbn=2&pkbn=0&skbn=1&dskb=&askb=&dflg=0&iflg=0&preId=1&mul=%E6%9D%B1%E8%8A%9D&fls=on&cal=1&era=H&yer=&mon=&pfs=4&row=100&idx=0&str=&kbn=1&flg=&syoruiKanriNo=&s=S100A24I

 

実はこれが問題なのだ。

監査意見のうち、不適正意見意見不表明

東証上場廃止基準に抵触するのだ。本日の記者発表でも上場維持についてのやりとりがあったのはこのことだ。

 

では、仮に、監査報告書(四半期の場合はレビュー報告書)を一切

添付せずに四半期報告書を提出したらどうなっただろうか?

と、いってそんな事例があるかどうか・・・

というのも、金商法にもその場合の罰則規定が見当たらない(と思う)。というのも、監査法人などの監査証明が添付されていない報告書は受理されないと思われる。

結果として、期限までに(東芝のように延長申請していなくて)報告書が提出できなかった(不提出)と取り扱われると思われる。

有価証券報告書、四半期レビュー報告書が不提出となった場合は、会社の経営者や法人に対して、刑事罰(経営者であれば懲役または罰金 例:有価証券報告書の場合は5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、またはその併科)、課徴金(直前年度の監査報酬に相当する額 有価証券報告書の場合、少なくとも400万円)が課される。

ちなみに、会社法決算の場合、資本金5億円以上または負債総額200億円以上の

大会社 』は監査法人等による会計監査が義務付けられるが、大会社になりたてでうっかり忘れていたというケースがある。この場合は、100万円以下の過料となる。

 

不提出だったら1,000万円以下のペナルティで収まるかというと、

不提出の場合も東証上場廃止基準に抵触する。

 

不提出でも意見不表明でも、上場廃止基準に抵触する・・・

 

ただし、基準では、意見不表明の場合は上場廃止の是非を検討する、となっている。もしかしたら、とりあえず、次に繫げるため、

と言うことだろうか。

 

とは言え、制度が許しても、市場が社会がここまでなった会社を受け入れるか、と言う問題が立ちはだかるだろう…

 

今後の展開をとりあえずは見守ることにする。

 

 

『リキャップCB』に対する提言に思う 【ボヤキ系 箸の上げ下げまで・・・】

 

www.nikkei.com

 『東京証券取引所は17日、上場企業が「リキャップCB」を発行する際の留意点を公表した。新株予約権社債転換社債=CB)を発行して、自社株買いの原資とする手法で、長期投資家から「小手先の財務改善だ」との批判が根強かった。』

 

リキャップCBについては、このブログでも度々取り上げてきた。

詳しくはこちらを参照☟

ROEを高める錬金術とは!? ~ボヤキ系~ - 溝口公認会計士事務所ブログ

ROEを高めるためには結局・・・ ~リキャップCBに限界~ 【日本ハムの例】 - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

リキャップCBは、簡単に言えば、借金をして得たおカネで自己株式を取得して会社の純資産と負債の割合をリバランスするスキーム(金融商品)。何のメリットがあるかというと、負債割合を高めることで、ROEが改善する。

要は、おカネで財務改善を買う、ということだ。

 

初見から、あざといというか記事のように小手先の財務改善

という印象だった。おカネかけてまでするか~!?っと。

ということもあり、ブログで密かに警鐘を鳴らしてきた(笑)

 だから、今回の東証の提言も方向性は同じだ。

 

東証は企業に対し、発行の理由や資金使途、株式への転換が進んだ際の対応策などを投資家に説明するよう求める。』

 

ところで、日経に記事についてまず言いたいのだが、この記事を読んで皆さんはどんな印象を持つだろうか?

発行体である会社に対してリキャップCB発行の際にはこんなことも必要になるよ、と安易に発行することを抑制する印象を持つのではなかろうか?

 

実際の書面はコチラ☟

http://www.jpx.co.jp/news/1020/nlsgeu000002btoz-att/nlsgeu000002btrk.pdf

 

一読いただきたいが、日経記事とは随分印象が異なる内容に思えた。

日経がそういう風に読者を印象付けたい意図があったのだろうか?

新聞記事だけで理解しては恐いな、と、改めて原本に当たる必要性

を感じた。

 

さて、東証の提言は、要するに、

 

『会社の皆さん、やみくもに内部留保は悪、株主還元は善とすべての投資家が考えているわけではないですよ。また、投資家は実力の伴わない見かけだけの財務改善を期待している訳ではないですよ。ましてや割に合わない手法を用いるのであれば、かえって期待を裏切ることになりますよ。本当にわかっていますか?

 

と言うことだ。

 

冷たい言い方をすれば、

リキャップCBを財務比率改善の手段を使うも使わないも会社の自由だ。

会社のROEなどの財務指標が会社の経営努力によるものなのか、はたまたこのような小手先の錬金術なのか、更にはそういう手段を用いる会社なのかといった要は会社の『質』その是非は投資家が見極めて投資意思決定

すれば良いだけの話だ。理にかなわないことをしているとなれば、その会社は証券市場から淘汰されていくだけだ。

 

今回の提言は、あまりにも多いミスコミュニケーションに業を煮やした東証がたまりかねて”口下手な”会社にサジェスチョンをするに至ったということだろうか?

 

『それっとどうなのよ?』ということであれば、機関投資家と会社が直接コミュニケーションをとって意識ギャップを解消すれば良いものを、と思うのだが・・・

 

同じような事例☟

「相談役就任、経緯開示を」 元トップの院政にNO! 経産省研究会が報告書 :日本経済新聞

 

親切と言えば親切だが、箸の上げ下げまで言わなあかんか・・・

と思ってしまうのである。

前受金の落とし穴 【てるみくらぶの例】

この3月は公私ともにスケジュールがパンパンで、やっとのことでピークを越えたかと思えば、もう月末・・・


ブログの更新も3週間開いていた。3週間のブランクは過去最長ではなかろうか・・・

と言っている間に、てるみくらぶという旅行会社の破産申請の話題が世間を賑わせている。

 

僕自身はてるみくらぶを利用したことも無ければ、正直この会社のことを知らなかったので、ニュースを聞いて、事業内容から『おそらく運転資金管理に失敗したんだろうな~』程度に思っていた。ウェブ上のコメントもそんな感じのものも多かった。


ところが、こちら(☞てるみくらぶ騒動から見る日本式パッケージツアーの終わりの始まり - 夫婦でプーケット移住)のブログを読むと旅行業界、特に日本の旅行業界の特殊性(異常性?)が指摘されており、この通りだとすると、ビジネスモデルとして破たんしているのでは?とさえ思えてしまう。

航空券や海外のホテルの事前の予約金を賄うために旅行者から旅行代金の事前入金を募るしかなく(つまり、一般的な『前受金』商売のように資金繰りが楽になるわけではない)、また、旅行日程やキャンセルポリシーなどを旅行客の利便性を高めるために旅行会社自らがそのリスクを採る。つまり、催行率やキャンセル率が想定内であれば採算は採れるが下回れば損失となるだろうし、格安旅行プランなどで販売していればもともと利益率も低いだろうから、結構構苦しかったんじゃ無かろうか・・・つまり、そもそものビジネスモデルに無理があったのではないかと思うのだ。

と、こんな記事も見つけた。

てるみくらぶの資産状況が明らかに、債務超過が半年で50億円以上膨らみ急激な悪化 | トラベルボイス

半年間で債務超過が75億⇒126億へと約50億円膨らんだとのこと。原因は損失だろうから、もともとの逆ザヤビジネスが顧客離れによるキャンセル率増加などでさらに損失が加速度的に増加したのだろうか。

 

というか、そもそもそういうビジネスモデルなのだから、旅行プランを企画する会社としては、航空会社や現地のホテルなどにいついくらの支払いが必要になるのかわかっているはずで(それも上記記事によれば、かなり早い段階)、であれば、いつ資金ショートするかも読めていたはず

てるみくらぶ 3年前から粉飾 | 2017/3/30(木) 7:17 - Yahoo!ニュース

で、分かっていたからこその粉飾なのかな・・・予断は避けるが、まあ、突発的な倒産ということではないだろう。最近になっても旅行客(行けなかったので希望者か・・・)からおカネを集めているとのことだし、どの時点で経営破たんを認識していたかによっては経営者の責任は変わりそうだ


ところで、てるみくらぶの件も然りで、旅行代金の前金入金のように、

モノやサービスが提供される前に顧客から前金を受けるビジネスはそれなりにある。教育産業や美容業界などが典型だ。

会計ルールでは、顧客から注文されたモノやサービスの提供前に入金されたおカネは貸借対照表負債の部に『前受金』(*)として計上される。


(*)類似例に『前受収益』がある。ワンショットが前受金で、継続的なサービスの提供に対する前金が前受収益で、会計上は区別するが、大きな意味での性格は類似しているので、ここでは特段の区別なく使用する。


何故、おカネが手元にあるのに負債になるのか?」

という疑問を受けることがある。質問者はおそらく、手元にあるおカネに注目しているからと思うが、その通り、おカネは純然たる資産だ。問題は、おカネではなく

おカネを受け取った責任にある。


具体例で確認してみよう。
例)3月決算の商社。3/1に顧客から商品代金の前受を100,000円入金されたとする。商品の顧客への提供は4/5である。この商社の3月末決算では・・・

 

(借) 現金 100,000円  (貸)前受金 100,000円
                

となる。手元にある現金100,000円は資産である。と、同時に負債に100,000円の前受金が計上される。どう解釈すればよいだろう?

顧客側から見ると分かりやすい。顧客にとって商社へ支払った100,000円はあくまで預け金、つまり、実際に発注した商品が約束通り納品されて初めて納得するだろう。仮に、不良品や納品されなかったりすれば商社に対して預けたおカネを返せ~!となるだろう。であれば、商社にとっては顧客から入金されたおカネはあくまで預り金であり、顧客との約束を果たして初めて自分のモノとなる。つまり、前金入金された時点ではあくまで顧客のおカネを預かったに過ぎない。なんなら返還義務もある、ということで負債なのだ。実際、てるみくらぶでも旅行申込者から前金の返還請求が発生しているみたいだし、会社としての履行義務が果たせない場合は前金の返還が契約上も取り決められていたのだろう。

 

なお、上の例で、4/5に商品が納品されると、

 

(借) 前受金 100,000円 (貸) 売上 100,000円

 

となる。おカネの入金と売上のタイミングは異なるということだ。

 

てるみくらぶのような事例は少なくない。記憶に新しいところでは、エステサロンのミュゼプラチナム』(の当時の運営会社であるジンコーポレーション)や英会話スクールの『NOVA』の事例があった。

両者は、てるみくらぶよりも顧客からの前金入金されたおカネをもっと

積極的に活用していたようだ。例えば、ミュゼでは、広告宣伝費や新店舗拡大や高性能設備への投資に使われていたようだ。誤解を招かないように言っておくが、そういった事業への投資それ自体を否定しているのではない。むしろ、事業を大きくするためには事業への積極的な投資は必要である。そして、そのためにはおカネが必要だ。問題は、

おカネの調達方法をちゃんと理解していたのか?

ということだ。端的に言えば、

顧客から融資されたおカネを使っている自覚があったか?ということだ。前受金は『借りたおカネ』だ。積極投資をするなとは言わないが、そのためには顧客との契約を履行する必要があり、そのためには契約履行のための人件費や経費などのランニングコストがかかる。当然ながらそれら事業運営にかかるおカネを確保して、

投資に充てられる範囲で事業投資をしていたのか?

ということだ。ミュゼでは、14年8月期(倒産直前)の売上は約390億円で契約未履行の前受金がそのうちに相当を占めると言われる。つまり、

前金を『売上』として会計処理していた。会計処理が原因ということではないと思うが、そのような会計処理をするような感覚はもしかしたら

前受金を自分のモノと思っていたのではなかろうか?

ミュゼの社長は事業拡大のための積極投資以外にも、個人的なおカネの流用も指摘されている。

おカネが降って湧いてくる感覚があったのではないだろうか?

NOVAについても同様の指摘がある。顧客から預かったおカネを将来の事業投資へ充てるにしてもそれが期待されるリターンを産む保証は無い。増してや、リターンを産むはずのない経営者の道楽に使われていたとすれば・・・

NOVAでは、

経営者による前金の使い過ぎ⇒講師の人件費を削る

⇒講師が退職する⇒生徒、予約が取れなくなる

⇒退会する⇒受講料の返還請求⇒支払い不能で経営破たん

となったようだ。

顧客から前金を受けるビジネスモデルは本来事業を運営する資金繰りは楽なはずだ。

しかし、あくまで顧客から借りたおカネを運用しているという自覚を持たず、自分のおカネと勘違いして無計画に使ってしまうと、レバレッジを効かしている分返って仇となる。

 

追記

記事にコメント、感想をいただき、思いついたので。

 

あるからじゃなくて、要るから使う

当たり前の考え方が忘れられるのかな、と。

貸借対照表だと、まず左側、事業を成長させるために何にどれだけ投資するか、おカネが要るかを考える。そのおカネをどうやっておカネを工面するか、つまり右側を考えるのはその次だ。

あるから使う発想は知らず知らず識らず予算管理が甘くなる。M&Aに予算枠取りするのも危ないっちゃ危ないかも…

 

 

 

 

 

 

 

 

経営トップ選任プロセスは透明であれば良いのか?

www.nikkei.com

少々古い記事ではあるが、日経によれば、

日本経済新聞社が16日まとめた第12回「企業法務・弁護士調査」で、経営トップの選任過程の透明化が進んでいない企業が多いことがわかった。今春には複数企業でトップ人事を巡る混乱が起きたが、トップの後継者育成計画(サクセッションプラン)をもつ企業は27%にとどまる。企業統治改革は道半ばだ。』

 

とのことだ。記事に書かれている内容から、経営課題としては

 

・(後継)経営トップの選任プロセスの透明化

・経営トップの育成計画

 

の2つがあり、それぞれ別個に議論すべきではないのかなと思う。

 

当たり前だが、会社にとって経営トップの役割、存在は大きい。

もちろん、株式会社は合議制、取締役会があり、その中には社外の目もあり、さらには株主総会から監視され・・・とは言え、経営トップが変われば、会社の方向性も大きく変わる。それだけに、将来の経営トップをどう育成するか、は会社にとって非常に重要な課題だ。

良い例ではないが、経営トップの権限が大きということは、経営トップの考え次第では会社が不正行為に走るケースもあり得る。実際そういう事例もあるが、そうなると、資産活用が不効率だ業績が悪化などというレベルの問題ではなく、

会社存亡の危機ともなりかねない。

こういった事例が多くなると、コーポレートガバナンスも結局のところ、経営トップをどう育成するか?、にかかってくるようにも思える。

経営者としてのスキルという面では、例えば、パナソニックトヨタのように

カンパニー制を導入することにより、売上、利益(PL)だけでなく、資産(BS)の効率的な活用も意識した経営を促したりする会社もこれからは増えるだろう。そして、今後ますます問われるのは、経営トップの(企業)倫理感の養成だろう。

 

企業が経営トップ育成に今後どのような施策を導入するのか注目していきたい。

 

そして、もう1つの課題。経営トップの選任プロセスの透明化、だ。

これについては、個人的には、透明であるに越したことは無いが、二次的、副次的だと思っている。

選任プロセスが透明かどうかよりも、重要なのは適任者が経営トップになっているかどうかが問題だということだ。

例えば、『○○氏、10人抜きで経営トップ就任』といった記事を良く目にする。

こんな報道するのもどうかと思うが、それはともかく、こういう報道があること自体、従来の日本企業の多くが、経営トップは順番待ち、だったということだろう。

誰々さんの次は私、その次は彼・・・ある意味、これは選任プロセスは透明ということではないか?

しかし、その順番が来た時に、会社が抱える経営課題、それに対する自分の経験やスキルが必ずしもマッチしているとも限らない

 

過半数社外取締役で構成される指名委員会などで経営トップを選任するようになれば、内輪でこそこそでなく社外の目から公明正大に、という点で選任プロセスの透明化は図られるかもしれないが、果たして、

社外の目は会社にとって適任者を選任する目をもっているのか?

何を基準に経営トップを選任するのか?

(偉い人に多いのが『自分の経験からすれば・・・』って、それも透明性に欠けるし・・・)


会社が用意する候補者のプロフィールや選考理由、記事にあるような客観評価も含めて、を基に、という事であれば、それに対してノー、っていうのはあまり期待できないんだな…

 

あまのじゃくな私は疑問を持たざるを得ない。

 

 

 

 

決算発表ポイント解説ブログ その3 【のれんの正体とは!?】

 

www.nikkei.com

 

記事は暖簾に対する監査の厳格化の潮流についてだが(それはそれで別の機会に書いてみたい)、のれんも減損の対象になるんですか!?との質問も受けることがあるので、今回はのれんの減損を取り上げる。

 

端的に言って、のれんは貸借対照表(B/S)上、無形固定資産

の区分に計上される。つまり固定資産、だ。減損会計(ルール)の対象は固定資産なので、のれんも当然減損のになる。

 

と結論を先に言ってしまった後で・・・

『特に焦点となっているのが「のれん」という無形資産の会計処理だ。のれんとは、企業が買収先の純資産を上回る価格でM&A(合併・買収)を実行した際に生じる。買収事業の収益見通しが狂った場合、企業はのれんの価値を下げ、その分を減損損失として計上しなければならない。

 最近の代表例はなんといっても債務超過に転落した東芝だが、のれんを減損する企業は他にも少なくない。楽天は2016年12月期に米動画配信関連事業などで、243億円の同損失を計上。セブン&アイ・ホールディングスは百貨店ののれん価値などを引き下げ、17年2月期に減益となる。キリンホールディングスはブラジル子会社ののれんの減損などによって、15年12月期に初の最終赤字に転落した。』

と、まあ、最近の事例を見てものれんの減損を要因とした業績悪化は少なくない。記事にもあるがその背景には、日本企業のM&Aがあり、M&Aが結果として上手くいかないとのれんの減損となる。日本企業のM&Aが今後も増加する傾向を考えると、企業業績に与えるのれんの減損損失の影響は今後も益々大きくなるだろう。

 

ところで、ここで今一度のれんの正体を確認しておきたい。

のれんは一般的に(会計の業界では)『超過収益力』と言われる。

ある会社を定価を上回る理由、ということだ。書いてから見て定価を超える何らかの価値を見出した結果、ということだ。ここで、定価は買収する会社の簿価純資産(BV)だ。要はBV100 の会社を200で買う場合に、単純差額100がのれん、ということになる。

ところが、厳密には100が全額のれんになるわけではない。100の内、個別に把握される無形資産は別途認識する必要がある。例えば、買収先の会社が持っている

商標権やブランド、顧客リスク、商圏といったものだ。

これらも、買い手の会社にとってはもちろん、というか、通常はそれらこそが高い値段を出す理由だろう。

のれんは、買値とBVの差額の内、これら無形資産として把握されなかった以外の部分、となる。定価以上の価値で商標権やブランド、顧客リスク、商圏でもないバリュー・・・はて、いったい何だろう?

実は、買収価額(買値)は個別の無形固定資産の評価の積み上げで決まるわけではなく、(いろいろなアプローチがあるが)その会社が将来稼ぎ出すおカネの合計の現在価値をベースに決める場合(DCF法)や、同業他社の利益や剰余金などを参考地として決める場合(マルチプル法)などがある。

お分かりだろうか?そうなのである。要は、直接にのれんの価値を測定して金額把握している訳ではないのだ。あくまで、結果論、

 

のれん=買収価額‐個別に把握できる無形資産‐BV

 

差額、ということだ。言い方を変えれば、直接的に説明できない金額

のような存在ともいえる。もしかしたら、競争入札の際、

勢いでもう一声!の結果かもしれない・・・

 

ということで、のれんはそれ自体明確に価値を測定・評価された金額ではないのである。つまり、買収した会社の事業が(買収する際の)計画通り進捗してこそ、結果として価値が維持していると考えれらる存在であり、逆に業績が悪化すると、いの一番に減損の対象となるのがのれんなのだ。

 

M&Aの増加⇒高値での買収⇒のれんが多額化

 

⇒のれん減損リスク大

高く買えばそれを上回る業績を期待せざるを得なくなるから、ハードル上がるしね・・・

 

ちなみに、日本の会計ルールでは減損損失はその後業績が回復しても戻し入れ(減損がなかったことにすること)を認められないが、IFRS(国際財務報告基準)では一定の条件を満たせば減損の戻し入れは可能だ。しかし、のれんに限っては減損を戻し入れることは認めていない。それぐらい存在が危うい無形固定資産なのである・・・

 

 

 

 

 

 

決算発表ポイント解説ブログ その2 【JXホールディングスの例】

www.nikkei.com

『JXホールディングスの2017年3月期は、連結経常損益が約3000億円の黒字(前期は86億円の赤字)になりそうだ。従来予想(2300億円の黒字)を上回る。昨年12月以降の原油価格が想定より高く在庫の評価損益が改善する。灯油やガソリンなど石油製品の市況が昨秋から改善しているのも追い風だ。

 石油元売りは原油の備蓄を義務付けられている。原油価格の上昇は手持ち在庫の評価額を押し上げ、損益計算書には利益として計上される。』

 

何で原油価格の値上がりが利益になるのか?

と疑問を持つ人もいるだろう。

また、ちょっと会計に明るい人は、

取得原価主義では在庫の評価益を計上して良いのか?

と思うかもしれない。

いずれも、もっともな疑問だ。

 

これについては、業界特有のなんというかいわゆる表現(しかも、誤解を招きやすい)問題なのだ。ちなみにJXでは『在庫影響』と呼んでいる。

実はJXの件については、ほぼ毎年この時期には当ブログで書いている(笑)

☟ 

在庫評価益!? JXホールディングス - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

なので、ここでは要約する形で紹介したい。

 

まず、ざっくりとした原油の仕入れ値の変化と会社の利益への影響は以下。

 

原油を販売する会社にとっては原油安→販売価格の下落→利益にマイナス影響

原油を使用する会社にとっては原油安→製造価額の下落→利益にプラス影響

 

実は、ここで言う在庫評価損益は期末に残った在庫をその時点の時価(販売価格等)に置き換える場合に発生する評価損益ではない

 

ここがややこしい・・・

 

在庫の評価方法を理解するには良い題材なので少し書いてみたい。

 

例えば、期首に@100円の商品が100個 あり、当期中に@150円で1,000個仕入れ、800個販売し、期末に300個残ったとする。

 

期首  100個 @100円

仕入  1,000個    @150円

販売  800個 @   ?円

期末  300個 @   ?円 

 

さて、このケースでは1個当たりの売上原価、そして期末在庫はいくらになるだろうか?

 

期末及び販売された在庫単価がいくらになるのか?これを計算する方法が在庫の評価方法であり、JXホールディングスは『総平均法(による原価法)』を用いている。

総平均法とは、期末在庫が期首の在庫と当期仕入た在庫が万遍なく混ざって存在している、ということであるので、単価@を計算すると以下になる。

 

期末在庫の単価

=(@100円*100個+@150円*1,000個)/1,100個=145.5円

小数点第2位を四捨五入

したがって、この場合は期末在庫そして販売された在庫も@145.5円となる。

ここで、145.5円は当期の仕入単価150円よりも4.5円安い。

これは、期首の在庫単価が100円(<当期仕入単価150円)の影響である。

 

当期の仕入値@150円のみで売上原価を計算する場合

売上原価:@150円*800個=120,000円

期首在庫を含めた総平均法で売上原価を計算する場合

売上原価:@145.5円*800個=116,364円

売上原価が3,636円小さくなる=利益が大きくなる

 

要は、相対的に安い期首在庫の影響を総平均単価が受けるので、期中の仕入値だけで評価するよりも相対的に売上原価が安く計算されることで、結果(売上総)利益が大きくなるということだ。 

当期のJXホールディングスもこれに似た状況であり、この結果得られる追加的な利益を『在庫評価益』と呼んでいるのである。

 

なので、在庫評価損のようにP/L上で金額が別把握できるのではないので、念のため。