溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

日産ゴーン氏の役員報酬虚偽記載報道で疑問に思うこと

 

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181126&ng=DGKKZO38164790V21C18A1CC1000

 

日産自動車カルロス・ゴーン元会長(64)の報酬過少記載事件で、ゴーン元会長が年約10億円の報酬受け取りを退任後などに先送りし、この分を有価証券報告書に記載していなかったことが25日、関係者の話で分かった。受領を先送りした報酬は2011年3月期~18年3月期の8年間で約80億円に上るとみられる。』

 

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先週、突如、日産のゴーン元会長の逮捕が報じられた。

その事実にも驚かされたが、同時に、罪状が金融商品取引法違反

しかも、有価証券報告書の虚偽記載だという。

それも、ライブドアオリンパス東芝のような

粉飾決算(今風に言えば、不適切会計処理)ではなく、

役員報酬開示の虚偽記載とのこと。

 

なんとまあちっちゃい・・・

 

というか、

それ個人の問題か?

有価証券報告書をまさかゴーン氏個人で作成しているわけじゃなかろうし・・・

 

もちろん、

粉飾決算だろうが役員報酬開示虚偽記載だろうが、

不正は不正、虚偽は虚偽、

大きいも小さいもないと言えばそのとおりだ。

 

有価証券報告書の虚偽記載の罰則】 

個人の罰則は、

10年以内の懲役若しくは1,000万円以下の罰金、あるいはその併科

法人への罰則は、

7億円以下の罰金

 

なので、決して軽いとは言えない

アメリカと比べれば軽いけど・・・)。

 

とはいえ、あれだけの大物経営者を、検察特捜部が動いて、ってことを考慮すると

やはり釈然としない・・・

 

日産の公表でも複数の重大な不正行為として、

役員報酬の虚偽記載 だけでなく、

社内経費・投資資金の不正流用

があったとされる。

 むしろ本命はこっちか?であれば、個人の逮捕ってのも頷ける。

粉飾決算でもいきなり代表取締役の逮捕は聞いたことがないし・・・

 

ゴーン氏については、毎日のように新しい情報が報道されるので、正直何がどうなっているかは分からない。

ましてや最終的に捜査がどこまで及ぶかは当然ながら知る由もない。

 

報道を見聞きするに、ゴーンさんも人の子なのね、と人間の性を

感じたりしていたのだが、最近の報道に疑問に思うことがある。

 

虚偽記載の根拠は何か?

 

ということだ。

 

疑問の内容は後述するとして、まず、

本件の端緒となった役員報酬開示について少し書いてみたいと思う。

 

 役員報酬開示の義務化】

そもそも、有価証券報告書の虚偽記載箇所を以下に示す。

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日産の有価証券報告書の目次を見ると、

第4「提出会社の状況」の

6「コーポレート・ガバナンスの状況等の内訳

として記載されていることが分かる。

 

役員報酬の開示は、コーポレート・ガバナンス強化の一環として

2010年3月期から有価証券報告書への記載が義務付けられた。

それ以前は、役員がいくらの報酬を受けているかは個別には不明だった。最近、株式会社の役員報酬ラインキング等が報道されるようになったのは、この開示制度がきっかけだろう。

 

1億円以上の役員報酬は、開示初年度の2010年3月期には289人(166社)だったが、2018年3月期には538人(240社)へ増加している。

 

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1億円の線引きは、金融庁によれば、当時の役員報酬のレベル等を勘案して決定したらしい。1億円以上の報酬を受ける役員が以降右肩上がりで増加するが、いわゆる国内外からのプロ経営者の増加、あるいは、他社がそうならウチもといった、免罪符的な意味での相乗効果もあったのかもしれない。

 

制度改正により役員報酬開示が義務付けられたのは以下の3点。

 

①役員の区分別・報酬種類別による総額

②連結報酬が1億円以上の役員の個別報酬

役員報酬の決定方針

 

【日産の役員報酬開示】

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株式会社は所有と経営の分離を前提としている。会社の所有者たる株主が経営者に対して経営を委託する形式をとる。受託者たる経営者が自身の報酬を自由に決定することは、株主の意に反して株主の持ち分を減らすことにつながりかねない。そのため、会社法上も、会社の経営者の報酬は原則として株主総会で決議される。実務的には、役員報酬の総額の上限を株主総会で決議して、個別には取締役会等で決定している会社が多いと思われる。したがって、上記①は株主総会の招集通知にも同様の記載がされる。一方、②については会社法では要求されていない。有価証券報告書のみに求められる記載だ。上場会社に対してより開示が強化されているのは、上場会社の株式は株式市場で自由に売買が可能、そして誰もが株主になることができ、株主も頻繁に入れ替わることが想定されるため、非上場会社よりも広い範囲での情報開示、説明責任が求められるとの理由からだ。

 

といった経緯もあり、個人情報と言うこともあり、下世話な野次馬根性もあり、とかく②の役員個人の報酬情報に注目があつまりがちだ。

 

しかし、開示の趣旨からは①と③が重視されるべきと思う。②はその結果であって(結果から制度の妥当性を検討することもあるが)、どのような報酬体系・プロセスで役員個人の報酬が決定されるのか、が会社のガバナンス上は重要だ。

報酬体系については、日産のストック・アプリシエーション権(SAR)も然りだが、ストックオプション等、経営者の目線を短期のみでなく、中長期の業績へ向かせるなど株主が監視できるモニタリングシステムをどう構築するか、ということにつながるし、総額は株主総会で決議するとしても、個別の報酬についてどう決定されるかは社内の意思決定プロセスの妥当性にもつながるだろう。

 

記事によれば、

『ゴーン元会長には、役員報酬の総額上限内で個々の役員の報酬額を決める権限があったという。』

 

有価証券報告書の記載には、

取締役会議長が、代表取締役との協議の上、決定する、とあるが、

実際のところはどうだったのだろうか?

役員とて、報酬決定がゴーン氏に一任されていたとすれば、果たしてゴーン氏に対して物が言えたかどうかは怪しいだろう。

 

【財務諸表との関係】

現時点で指摘される日産の有価証券報告書の虚偽記載は、上記の内、②の部分だ。

②の連結報酬が1億円以上の役員の個別報酬には日産本社からの報酬だけでなくグループ会社(連結子会社)からの報酬も合計される。これに対して①は有価証券報告書の提出会社である親会社(例:日産本社)に限定した役員報酬の情報だ。

 

①と②では役員報酬の範囲が異なる

 

ところで、ゴーン氏の役員報酬の虚偽記載は役員報酬開示に限ってのことなのか、という疑問もある。

 

役員報酬開示内容と財務諸表の関連

と言う点では、

 

①の役員の区分別・報酬種類別による総額については、その総額が親会社の販売費及び一般管理費役員報酬、役員賞与引当金繰入額等の関連する費用項目の金額合計と基本的には一致すると理解している。

 

 

役員報酬の開示ルール(内閣府令)によれば、

開示対象となる役員報酬

報酬等とは、報酬、賞与その他その職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益であって、当事業年度に係るもの及び当事業年度において受け、又は受ける見込額が明らかとなったものをいう。」

と説明している。

 

報酬の定義が一義的に決まるほど明確ではないと感じるのではないだろうか。一律に名目を定義するのではなく、会社ごとに実質的に報酬と考えられる、会社から受け取る財産上の利益、を報酬として開示する、と言う趣旨だろう。それはそれでごもっともだと思う。その結果、何をもって役員報酬とするかは会社によって多少ばらつくことになるだろう。

役員報酬開示が義務化された以降、様々なリサーチ機関から上場会社の役員報酬開示の事例や傾向が発表されるのもある程度のばらつきを示唆していると思う。

   

役員報酬の定義と言うか範囲が会社ごとにばらつくからこそ、役員報酬額の大部分についてはP/Lに費用計上されると役員報酬相当額とコーポレート・ガバナンスに関する状況等に開示される金額は一致すると思われる。

 

有価証券報告書作成の実務を考えても、そうでなければ大変だろう。
役員報酬等として開示する金額とP/Lに費用計上した役員報酬等の金額が異なるとなれば、別途、役員報酬の定義づけ、金額把握等の作業が必要になる。
投資家から見ても、役員報酬として開示された金額が会社の決算書の数値とは別の話だと言われれば、当惑するのではないか。

 

例えば、ストップオプションに関して金融庁は次のように説明している。

 

「原則、費用計上額(総額ではなく期間按分した額)が該当する」

金融庁の考え方 89より)

https://www.fsa.go.jp/news/21/sonota/20100331-8/00.pdf

 

開示ルールには、損益計算書(P/L)の役員報酬等の金額と整合をとることは明記されてはいない

が、ストックオプションに関する記載からも基本的には金融庁も両者は整合すると考えているのだろう。

  

 

ちなみに、日産では役員報酬等の該当する勘定科目が財務諸表への記載が省略されているため両者の整合はチェックできなかった。

 

②の連結報酬が1億円以上の役員の個別報酬ついても、基本的には連結ベースの役員報酬の総額と連結P/Lの販管費役員報酬(関連する勘定科目合計)とは整合するだろう。しかし、上記に加え、実際には、通常、役員全員の報酬が個別開示されることは無いし、また、役員報酬が連結ベースの役員報酬の金額が連結損益計算書へ開示されることは少ないことなどから、外部から数値間の整合をチェックすることは困難だ(日産も同様)。

 

ちょっとややこしくなってきたので、まとめると、

 

役員報酬開示の趣旨からすれば、基本的には、単体も連結も

 

役員報酬の開示金額=販管費役員報酬(*) 

(*)役員報酬、役員賞与引当金、役員退職慰労金等該当する勘定科目合計

 

となるだろう。

(内部調査等では詳細なデータが入手できるため、両者の整合の確認は可能だろう)

 

と言うことは、

P/Lに費用計上されていなければ、普通に考えれば

役員報酬開示の対象にもならない。

 

役員報酬が虚偽記載(過小)ということは、

P/Lに費用計上されているにもかかわらず、役員報酬の開示をしなかった、つまり、

 

役員報酬開示<P/Lの費用(該当部分)

 

ということだろうか? 

であれば、財務諸表自体は正しくて、役員報酬開示のみが虚偽記載ということになる。

 

冒頭の疑問と言うのはこの点だ。

 

何が問題なのかがいまいち分からない。

 

例えば、受領を先送りした80億円について記事には、以下が記載されている。

 

役員報酬の個別開示が義務化されると、ゴーン元会長は高額報酬への批判を避けるため、各期に受け取る金銭報酬を10億円程度にとどめ、差額分の約10億円は退任後などに受け取ることにしていたという。』

 

東京地検特捜部は、ゴーン元会長が報酬として受け取っていなくても、日産側の支払いが確定していれば各期の有価証券報告書に記載すべきだったと判断しているもようだ。』

『報酬の先送りについては、社内でもグレッグ・ケリー元代表取締役(62)らごく一部しか把握していなかったもよう。日産の社内調査で関連する内部文書が見つかったが、取締役会には諮られておらず、資金移動がないため監査法人なども気づいていなかったとみられる。』

 

開示ルールにある、当事業年度に将来受給される金額が明らかとなった状況

とは何か?

会社としてゴーン氏の退職後に支給することを金額とともに確定した、

と考えるのが普通ではないだろうか?

 

役員会にも諮られていない退職後給付は会社として支払う義務があるのだろうか?

一体誰と約束したのだろうか?

当然ながら役員の退職慰労金の支払も株主総会の決議事項だ。役員退職金規程に則ったものであれば、そのスキームに従う限り会計上は当期発生分の費用計上はできるが、ゴーン氏のこのケースはおそらくイレギュラーな扱いだろう。

であれば、そんな状況で引当金として会計処理する方がおかしい。  

 

ちなみに、毎年の役員報酬の一部を退職後に支払う覚書云々の報道もあるが、その場合でも、正しく会計処理されていれば、支払が将来であっても報酬額自体はP/Lに費用計上されているはず。

  

とすれば、80億円の将来給付分については、

P/Lの費用にもなっていないし、役員報酬として開示もされていない。

 

役員報酬開示=P/Lの費用

 

となるが、それで役員報酬開示が過小となれば、そもそも費用計上が過小、

つまり、財務諸表が不適切ということになる・・・

となると、会計監査は適正に実施されたのか、も問われるだろうし、

更には、報酬総額(2018年3月期実績:約19億円)が実は株主総会で決議した上限(約30億円)を超えていたか、も問われるだろうし・・・

 

役員報酬、役員賞与、退職慰労金、業績連動報酬、ストックオプションなどそれぞれに会計処理のルールがあり、会計処理はそれらに従って行われる。

そしてまた、役員報酬は開示ルールに従って行われる。

日産が、会計ルールに従って引当金の要件を満たさないため80億円を費用に計上しなかったとしたら、会社として費用認識していない役員報酬を開示するとも思えない。 

 

税務調査で交際費として会計処理されている項目が、役員賞与と認定されるケースがあるが、それは法人税法の規定に則った判断をしたため、会計ルールと齟齬が生じるわけだ。ルールが異なることによって解釈の差が生じることはあるが、今回のゴーン氏の件はどうだろうか。

金融商品取引法有価証券報告書の虚偽記載

と言うからには、あくまで、役員報酬開示ルール、そしてそのベースになる会計ルールに照らして適切かどうか、ということだと理解する。

 

であれば、

ゴーン氏の役員報酬開示が会計ルール、開示ルールのどの部分に抵触しているのかを明確にして欲しいし、報道もそこを強調して欲しいと思う。

 

80億円、100億円と注目を集めるため誇張して報道するのは構わないが、ルール違反と言うからには、本来あるべき金額を示す必要があるのではないか。

報道では、開示と申告を混同することもしばしばで、ホントに分かって報じているのかなと思う…

 

報酬のもらい過ぎ(これだって何を基準にとなるが)、会社を食い物にしている、従業員、取引先に辛い思いをさせて自分は良い思いをしている、といった感情的な部分で判断されるのは違うように思う。

それはそれで別のところで問われれるべきで、だから有価証券報告書もきっと虚偽記載していたはず、とはならない。

 

対象となる役員報酬の範囲にしても、開示ルールに明確な定義が無い以上、会社ごとに独自の解釈が入る余地はある。

仮にこれまで都度当局から指導等無いままに、事後的に異なる物差しを持ち出して、これは役員報酬に該当する、開示していないからアウト、と言うのであれば、日産に限らず全ての上場会社が慌てるのではないだろうか。

 

ここ数日、ニュースで新しい情報が報道される度に、疑問は深まるばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

RIZAPの下方修正は何が問題なのか!?【割安購入益って何?】


www.nikkei.com

 

RIZAP株式が連日のストップ安265円(2018/11/16時点)・・・

先日の19年3月期第2Qの決算発表を受けての株式市場の反応だ。

RIZAP株式は昨年、17年11/24に最高値1,545円を付けて以来ほぼ一貫して下落し、

ついに今年度の最安値となった。

(追記:11/19 最安値更新248円 ううう・・・)

 

『フィットネスジム経営を軸に積極的なM&A(合併・買収)で多角化を進めてきたRIZAPグループの経営が転換点を迎えた。14日に2019年3月期の連結最終損益(国際会計基準)が70億円の赤字になりそうだと発表した。159億円の黒字との従来予想から一転、大幅な赤字となる。今後は新規のM&Aの凍結と不採算部門の撤退で収益性を重視していく。』

 

RIZAPはここ数年、積極的な企業買収を繰り返し、直近18年11月時点では連結子会社は85社、グループ従業員は約7000人に達したとのこと。

買収した会社の再建が思うように進まず、不採算事業の整理などに伴い155億円の損失を計上する見通し。

 

RIZAPは過去の決算説明資料の中で、M&Aの方針について以下のように語っている。

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 (2018年3月期 決算説明会より)

 

(何故その会社を買うのかの事業戦略的な論点)

RIZAP事業とキーワード”自己投資”で関連する企業に対するM&Aであること

それによって、主軸事業のノウハウが活かせシナジー効果が期待できること

 

(いくらで買うのかの財務戦略的な論点)

適正価格でM&Aすること

 

(買った後の管理(PMI)の論点)

同じ船に乗る、M&A後の統合を進めること

 

と、僕の解釈に間違いがなければ、

RIZAPのM&Aに対する基本的な考え方は間違っていないと思う。

 

基本的な考え方、は、ね・・・

 

ちなみに、この資料は19年3月期第1Qの決算説明会の資料だ。第2QではM&A凍結へ方針転換したが、そのつい3か月前まではM&Aに対する積極的な姿勢を見せていた。

 

実際、この3年間で連結会社数が約55社増加している。

 

2015年3月期:連結会社数 19社

2018年3月期:連結会社数 75社

 

急ピッチなM&Aの展開を危惧する意見もあろうが、事業戦略上、計画を早期に進める必要があるのではあれば、個人的にはそれ自体は問題ないと思う。

 

それをやりきるだけの、ノウハウとリソースがあれば、ではあるが・・・

 

しかし、下方修正と言うことは、何らかの見込違いがあったと言うことであり、

それが、不可避的な外部要因なのか、それとも、内部要因、つまりRIZAPの事業戦略あるいは経営管理に問題がなかったかどうかを分析することは、今後のRIZAPの業績を予測する上でも重要だと思う。

 

【RIZAPの下方修正の問題点】

 

今回のRIZAPの下方修正について、以下の点に疑問を感じる。

 

・買収後の経営再建プロセスの遅延

 

M&AがRIZAPが掲げる基本方針通りに実行されていたのだろうか?

 

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 (2019年3月期第2Q決算説明資料より)

 

後述の割安購入益にも関連するが、RIZAPが買収した会社の中には足元の業績が悪化している会社も少なくない。そのような会社を放置しておけば当然ながら赤字が継続するだろう。

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(日経朝刊より)

 

M&Aを成功させるには、買収後にRIZAPのノウハウやリソースと掛け合わせることで業績を回復する必要がある。この点は、RIZAPの重々に承知しているはずだ。

 

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 (2019年3月期第2Q 決算説明会資料より)

しかしながら、今回の下方修正の要因の1つは、このような会社の経営再建の遅れ(約71億円)という。構造改革費用等も同種の内容が含まれるとすると、ざっくり今回の下方修正の原因の半分以上になる。

 当初から分かっていたはずの買収後の経営再建が想定通り進んでいないということは、買収時には予測しえなかった事態が発覚、あるいは発生したのか、

それとも、あるべきプロセスをやっていなかったのだろうか?

 

努力はしたものの、買収後の統合過程において非買収会社との経営再建方針の折り合いがつかず思ったように再建が進まなかったということは考えられるが・・・

 

ここまでは理解できる。

 

『瀬戸社長は「グループシナジーが見込めない事業については積極的に縮小、撤退、売却を検討していく」と述べ、拡大路線を百八十度転換し、新規のM&Aは凍結する姿勢を示した。』 

とある。

 

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 (2019年3月期第2Q 決算説明会資料より)

 

基本方針ではRIZAPとのシナジー効果が見込める企業を買収対象とするとしていたはず。

買収時にはシナジーが期待できたが、買収後に期待薄となったということだろうか?

そうであれば買収時のデューデリジェンス(DD)が適切に行われたのかと言う疑問は残るが、それ以上に、もしかして買収自体が目的になっていなかったか?と言う点が気になる。

 

経営目標、それを実現するための事業戦略の一環としてのM&A、つまり経営目標という目的を達成するための手段としてのM&Aそれ自体が、目的に変わっていたのではないか?と言うことだ。

 

その疑問を助長するのが以下だ。

 

・割安購入益の活用

 

『路線変更は、RIZAPの利益に大きく貢献してきた会計処理が今後は使えなくなることも意味する。この会計処理とは、割安な買収の際に発生する「負ののれん」だ。

負ののれんとは買収額が買収先の純資産を下回った場合、その差額を買収したタイミングで利益として一括計上するもの。企業を割高に買収した際に発生する「のれん」とは逆だ。経営不振の赤字企業を中心に買収してきたRIZAPでは、18年3月期の営業利益(135億円)のうち、6割以上を負ののれんが占めた。』

 

負ののれんの概要は記事に書かれているとおりで、以前当ブログでも取り上げているので参考にして欲しい。

 

【参考過去ブログ】

tesmmi.hatenablog.com

tesmmi.hatenablog.com

 

負ののれんは、異常な存在だ。どのくらい異常かというと、会計ルール(企業結合に関する会計基準 110、111項参照)にも、『異常利益』としてそもそも勘違いかも知れないからもう一回ちゃんと負ののれんが発生するかどうか再考しろ、とあるぐらいだ。

https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/ketsugou_1.pdf

 

そもそも、仮に会社を安く買収したとして、買っただけで利益が出ること自体疑問に思う人もいるのではないか(それは極めて正しい感覚だ)。

 

【負ののれんの発生要因】

そもそも、どういうケースで負ののれんが発生するのか。

例えば、足元の業績が悪化しており、このまま事業を継続すれば徐々に企業価値が下落すると考えられる企業を買収するケースだ。現時点では未だ実現していない将来の企業価値の目減り分M&Aでは買収金額に織り込んで評価するため、純資産>買収金額となるわけだ。ということは、買収する企業にとっても、買収時に一時的に利益(割安購入益)を得たとしても、買収した企業が以降損失を発生し続ければせっかくの割安購入益が帳消しになる。

当たり前と言えば当たり前。

世の中そんな都合の良い話は無い

 

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 (2018年3月期 RIZAPグループ決算説明資料より)

 

上の決算説明会資料からも分かるように、RIZAPもそんなことは当然織り込み済みだ。しかし、結果としては再建が思うように進められていないことが問題だ。

が、ここまでは理解できる。

 

しかし、次は解せない。

 

『瀬戸社長によると負ののれんは「2年ほど前から業績予想に織り込んでいた」。19年3月期も、買収が実現していないにもかかわらず、期初の利益予想にあらかじめ織り込んでいた。M&Aの凍結でこれが消え、総額100億円を超える利益が押し下げられる。』

  

RIZAPは、負ののれんによる割安購入益を業績予想に織り込んでいたという。

自社の事業戦略、事業ポートフォリオに見合った買収先企業をタイミングよく見つけられること自体当たり前にあることじゃない。その上、さらに割安に買収できる機会なんてそうそう期待できるものでもない。

 

M&A路線が凍結すれば当然、予算計上していた割安購入益が未達となる(これも下方修正要因)。

 

 

この点、監査法人は予算の妥当性を監査していなかったのか?との指摘もあるが、監査法人は会社の予算に対して監査意見は述べない。企業の継続性、固定資産の減損、あるいは引当金の妥当性など、来期あるいは当期の会計監査プロセスにおいて会社の予算を確認することはあるが、仮にその予算はちょっと・・・と思ったとしてもそれを修正させるまでには至らない。

 

そういえば、数年前、イギリスで大手流通企業のTescoの業績予想が不適切だったとのことで罰金処分が下ったが、業績予想にまで会計不正が及ぶのかと驚いた。しかし、

gumiのように上場後即の下方修正など、株式市場に与える影響の大きさからすれば日本で同様の措置が必要になるかもしれない。

 

キャッシュ・フローに表れるM&A戦略の歪み】

 

このようにみると、

RIZAPは当初のM&A方針から逸脱し、M&Aを繰り返すこと自体が目的化したのではないかという疑問が浮かぶ。

 

それを裏付けるのが、キャッシュ・フローだ。

 

過去3年間のキャッシュ・フローを要約すると以下の通りだ。

 

               (単位:億円)

                      2016/3       2017/3     2018/3

営業CF        8,680    1,755           876

投資CF    △ 39,731   29,147 △ 34,952

財務CF         51,375 110,885    227,252

【参考】

当期純利益          15,878      76,781        92,503

 

さらに、直近2期の詳細は以下のとおり。

 

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 (RIZAPグループ 2018年3月期有価証券報告書より)

 

まず目につくのが、当期純利益と比較した場合の営業キャッシュ・フローの小ささだ。普通に健全な会社であれば、営業キャッシュ・フロー当期純利益は2倍~3倍だ。ところが、RIZAPの場合は2倍どころか当期純利益に圧倒的に満たない、2018年3月期などは当期純利益の1%に満たないレベルだ。

営業キャッシュ・フローの内訳から、営業債権、たな卸資産の増加が主たる要因であることが分かる。RIZAPの基幹事業であるフィットネスサポート事業は通常、前金入金、在庫も不要と言ったキャッシュ・フロー的には有利なビジネスだ。買収した会社が売上債権、在庫などの運転資本が必要な会社であること、さらには、それらの会社の売上債権、在庫の不効率が要因ではないかと考える。

 

次に目につくのが投資キャッシュ・フローだ。M&Aには買収先の株式の取得に資金が必要(「子会社の取得による支出」が該当)となり、その結果

投資キャッシュ・フロー合計はマイナスとなるのが通常だ。

RIZAPのように多数のM&Aを繰り返すのであればなおさらだ。ところが、2017年3月期など投資キャッシュ・フロー合計はプラスとなっている

2017年3月期には、マルコ、ジーンズメイトタツミプランニング、ぱど等約10社のM&Aを行った年度だ。投資キャッシュ・フローは当然マイナスになると予想される。

投資キャッシュ・フローの内訳を見ると「子会社の取得による収入」と言う奇妙な項目が目を引く。会社の株式を買収したのにキャッシュが増加(収入)?一見理解しがたい項目だが、簡単に言うと、100億円で買収した会社が150億円のキャッシュを保有している場合、ネットで50億円のキャッシュが会社に流入する。投資キャッシュ・フローの内訳には、このネット・キャッシュ・フローを記載するため「子会社の取得による収入」ということも起こり得る。

 

RIZAPはM&Aによって業績を拡大してきたが、事業によるキャッシュ獲得能力が乏しい。そのため、M&Aによる拡大路線を進めるためにも割安に買収できる会社を探して買収することが必要だったと思われる。

 

もしかして、事業戦略上買収すべき会社よりも割安で買収できる会社を優先したのだろうか・・・

 

さらに、M&Aに必要な資金を借入、増資によって賄う。財務キャッシュ・フローが継続的にプラスなのはその表れだろう。そして、資金調達を円滑に効果的に行うためにも見栄えの良い業績を作り上げる必要がある。

 

買収後の経営再建の遅れが予算を圧迫し、それがまた新たなM&A(による割安購入益)によって覆い隠さないといけなくなる・・・という循環になっていたのではないだろうか。

 

そう考えると、いずれこの流れが続かなくなるかもしれないと思いながらも、もはやM&Aをやめられない、止まらない、買収し続けないと転ぶ、ある意味の自転車操業的な状況に陥っていたのではないか。

 

もちろん、想像の域は出ないけど…

 

以上、つらつらと今回のRIZAPの業績下方修正の問題点を自分なりに考えてみた。

平たく言えば、

やるべきことをちゃんとやっていない。

当然把握されるリスクに手を打てていない。

手段が目的化している。

要は、身の丈に合った成長を超えてしまった

ということかもしれない。

良いか悪いかと言えば、良いことではないだろう。

しかし、分からないでもない・・・

 

 とはいえ、RIZAPは基幹事業は堅調とのこと。

そして、プロ経営者の松本氏の経営への参画。

また、いろんな社内の軋轢(これが性急な拡大路線を後押ししてしまったのかもしれないが・・・)の中、松本氏の意見を受け入れた瀬戸社長。

今後のRIZAPの業績回復に期待したい。

会計ルールが営業スタイルを変える? 【不思議系記事】

www.nikkei.com

『「新ルールの導入で現場の営業スタイルが変わった」。国際会計基準IFRS)採用の花王の担当者は目を見張る。』

 

花王の担当者は新ルール導入の効果に目を見張ったらしが、

僕はこの記事に目を見張ってしまった・・・

 

ウソやろ~ 

 

なるほど、そう営業すればよかったのか!

会計ルールが変わって初めて気が付きました

 

これ、本当なんかな・・・

 

IFRSは2018年度から収益(売上高)計上に関する新ルールを強制適用した。同ルールを前倒しで適用した花王は17年12月期から、従来は売上高に含めるとともに費用に計上していた取引先へのリベートを売上高から控除する方法に変更。結果、前期の売上高と営業費用がともに400億円以上目減りした。

同社の営業社員はこれまでリベートを取引先に払うことが売り上げの増加に直接つながったが、新基準ではリベートをいくら積んでもその分は売り上げの増加にはつながらない。「本社でリベートと売上高のバランスがより見えやすくなった」(花王)という。』

 

現在の日本の会計基準では、リベートの取り扱い(会計処理)は明確に定められていない。業界や個社のこれまでの会計慣行にならった会計処理をしていることが多い。

対して、IFRSではリベートの性質により、値引きに相当するリベート(達成リベートなど多くは値引きに該当する)の場合は売上高から控除(値引き処理)し、得意先の販促費等を実質的に負担する場合は販促費(販管費として会計処理する。

 

もっとも上場会社や会社法の大会社など監査法人の会計監査が入っている会社においては、日本の会計ルールを適用していたとしても客観的そして会計の専門家の見地からリベートの性質に応じて値引き、あるいは販管費として適切に会計処理されているとは思う。とはいえ、

 

『従来からこう処理していますし、御法人の先生方にも認めてもらっていました!』

と言われると・・・な部分もあろうが

 

現状、多くの日本企業はリベートを販管費(販促費)処理している会社が多いのではないだろうか。

販管費として処理しようが、値引として処理しようが、営業利益に与える影響はない。しかし、売上総利益、そして売上高は減少する。

平成も終わろうとしている時代に売上高至上主義と言うものどうかと思うが、伝統的に日本の会社(というか経済社会)は売上高を重視する傾向が根強い。

 

しかし、これはあくまで財務会計のルール、つまり

外部報告用の会計処理について、

のことだ。

 

花王は売上高総利益率(粗利益率)が適用前の56%(16年12月期)から適用後に44%(17年12月期)になった。競合する米国基準を適用する米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は49%だ。「世界のライバルと同じ基準で財務指標を比べることで、会社にどんな改革が必要なのかがわかりやすくなった」(花王)という。』

 

あるいは、冒頭の

 

「新ルールの導入で現場の営業スタイルが変わった

 

これをどう受け止めればいいのだろうか・・・

 

以前はどのように他社と比較していたのだろうか?

何を経営上の重要指標(KPI)としていたのだろうか?


財務会計のルールは共通のルールではあるが、それが必ずしも個社の事業の評価に適しているとは限らない。財務会計のルール以前に、自分たちのビジネスの競争優位性はどこにあると考えいたのだろうか。会社の事業の評価、また進捗の管理に適した利益やKPIは会社が自ら考えて設定するべきものではないだろうか。


ウチでは以前から「管理上」はこうしていたけど、結果的に財務会計のルールと同じになった的な受け止め方かと思ったが・・・


ま、会計が少しは会社の役に立ったということで良しとするか(正しい方向に営業スタイルが変わったという前提で)(笑)

 

 

日本企業は本当に『見る目』が無いのか!? 

 

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本庶先生、ノーベル賞おめでとうございます!

いやー、めでたい。

月並みだけど、やはり日本人として誇らしく思える瞬間。

 

ということで、本庶先生のノーベル賞受賞を期しての投稿(笑)

 

『日本企業は「見る目」がない――。2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞する京都大学本庶佑特別教授はこう不満を口にした。日本の大学などの研究論文がどこでビジネスの種である特許に結びついているかを調べると、米国の比率が4割を超す。研究開発力(総合2面きょうのことば)の低下が指摘されるなか、イノベーションにつながる国内の芽をどう見いだすのか、企業の「目利き力」が問われる。』

 

本庶先生は、日本の研究者は質の高い(将来大きな事業になる可能性も含めて)研究をしているのに、日本の(製薬)企業は日本の研究者に投資をせずに海外へ投資している。見る目が無い、と憤っておられる。

また、皮肉にも日本の研究成果を最も事業に生かしているのは米企業で、特に顕著なのが本庶先生の専門分野の基礎生命科学の分野。記事によれば、06~13年に最も多く日本の論文を引用したの米国の比率は46.8%、対するに日本は16.6%とのこと。

 


 

このような状況は基礎生命科学の分野以外でも同様に起こっているのだろう。そして、製薬企業だけの問題ではなく、他業種も、もっと言えば、国レベルでも同じ。

国全体の課題だ。

 

 では、日本の国、そして企業は本当に基礎研究や技術に対する目利きが利かないのだろうか?あるいは先見性が無いのだろうか?

 

個人の目利き力もあろうが、それ以上に

組織の意思決定プロセス

に問題があるように思える。

 

例えば企業の場合。基礎研究に対する投資案件が稟議などで審議されるとしよう。民主主義的な合議制によればよるほど仮に先見性があったとしても

見送られる可能性が高い

というのも、通常の意思決定プロセスにおいては、投資によるメリット(効果)がいつ、どの程度(金額的なインパクトや実現可能性)当社に期待できるのか、を示す資料や説明が必ず必要になる。

しかし、残念ながらというか当然ながら、新規性の高い案件であればあるほど、過去、現在をベースにした情報では説明は難しい。逆に言うと、だからこそ新規性が高い、画期的な発明に繋がる可能性があるわけだ。

 

よっしゃ、俺が責任とってやる、というオーナー企業以外、無理だろうな・・・

 

将来のことは誰も分からない。だからこそ将来の事象は全て可能性は0ではない。

組織の意思決定において将来の可能性をどの程度認めるか、ということだが、多くの日本の組織(企業)は相当高い成功確率を前提にしているのではないか。

つまり、日本企業の意思決定は

成功を前提とした意思決定プロセス

であるように思う。

 

今年のコーポレートガバナンス・コードの改正もそうだが、コーポレートガバナンスの強化の風潮の元ではそういった傾向がより一層強まる。

例えば、社外取締役の存在。社外取締役はその会社の事業に精通しているわけではない。むしろ組織の論理に待ったをかけ、客観的な立場、一般的な常識の観点から取締役会に意見を述べたり意思決定に参画することを期待されている。

事業に精通した人間であっても研究や技術の将来を見通すことは難しいだろう。将来確実に成果に結実する説明など期待できるわけもない。

いわんや社外取締役をや、だ。

となると、新規性の高い案件ほど社外取締役の合意は得られにくくなることは想像するに難くない。

 

 リスク(この場合は投資の成果の可能性)を適正に評価してと言う考え方もあるが、一定の前提を置いた評価なるになるので、実際、成功するのか、しないのかという疑問に対して直接的な解を得られるわけではない。

個人的には、一定の研究開発などの新規性の高い、近い将来の事業に結びつく可能性が高くない案件への投資は事業戦略との整合性や方向性といった面の評価に留め具体的な成果は問わない。その代わりに、投資金額を枠管理をすべきと思う。

 

 

要するに、一定の範囲内で

失敗を前提とした意思決定プロセス

を導入するという考え方だ。

 

湯水のようにR&D投資しても会社の財務基盤が立ち行かなくなるが、かといって案件ごとに一律に成功を前提とした意思決定プロセスに乗っけると目先の(場合によっては小さい)成果ばかりを追いかけることになりかねない。

例えば、投資案件を

 

時間軸:短期、中期、長期

難易度:易、中、難

 

のようなマトリックスによる区分ごとに意思決定のプロセスを変えてはどうかと思う。

 

最近では、ノーベル賞の受賞の度に受賞者が喜びと同時に将来の基礎研究への不安、そして重要性を説き支援を呼びかける姿が恒例になっている。

やはり、いつまでも日本が世界から賞賛されそして役に立つ姿を見ていたいものだしね。

 

上場か成長か、それが問題だ・・・


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『起業家のゴールといわれてきた新規株式公開(IPO)。だが上場を追わないスタートアップが日本でも広がってきた。煩わしい上場審査に気を取られている間に、成長のチャンスを失うのは嫌だ。こんな起業家の思いが起点だが、空前のカネ余りがもたらした異変でもある。マネーとスタートアップの新たな関係は、この先ずっと続くのだろうか。』

 

 

スタートアップ(ベンチャー企業)のゴールの1つはIPOと言われて久しいが、最近その流れに変化が見られるという。

 

『デロイトトーマツが8月末にまとめた起業家100人のアンケートで、将来の投資回収手段として「IPOをめざす」と回答したのは21%にとどまった。これに対し、72%がIPO他社からのM&Aの両方を検討しうる」と答えた。』

 

株式市場への上場を目指すよりも非公開のまま他社への事業売却(M&A)を希望するベンチャー企業が増えているとのことだ。

会社の目指すところはそれぞれだし、これまでもそういった会社が無かったわけではない。上場会社でも、最近再上場したワールドのようにMBOによって非上場化する例も少なくない。

しかし、IPOを目指さないベンチャー企業が増加傾向にある、というのはベンチャー企業を取り巻く事業環境に変化があったと考えられる。

マネジメント・バイアウト - Wikipedia

 

 

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非上場のままなら顧客開拓やサービス開発など、赤字を覚悟で積極的な先行投資ができる。「成長スピードが落ちればスタートアップではなくなる」。クラウド会計ソフトのフリー(同・品川)のCFO、東後澄人(37)はこう語る。』

 

理由の1つがこれだ。上場企業となれば四半期ごとに投資家から成果を追及されれる。まだまだこれから事業を大きく成長させないといけない会社からすれば、そんな環境ではとても中長期的な視野に立った事業投資はできない、ということだろう。

 

『貸し手優位が当たり前だった時代、スタートアップ経営者の悩みは「資金調達の難しさ」だった。銀行も大企業も小さな会社に冷たく、ベンチャーキャピタルも規模が小さすぎてなかなか当てにならなかったためだ。だが今は「(顧客を獲得し)売り上げを立てる方が資金調達より難しい」と打ち明ける経営者すらいる。』

 

また、上場の大きな目的である資金調達についても、昨今の空前のカネ余り現象

により、行き場を失ったカネがベンチャーへの投資に回るということだ。

 

こんな事業環境であれば、上場会社としての面倒なしがらみに縛られることなく資金調達ができるなら敢えてIPOを選択する必要はないという気持ちも分かる。

 

主義主張の異なる不特定多数と会話するよりも、意見を同じくする少数で会話したほうが話も通りやすいしスムーズだ。

 

分かるんだけどなぁ・・・

 

でも、それって、

周りをイエスマンで固める

ってことにならない?

 

株主、投資家は我々のビジネスを分かっていない

と嘆く経営者もいるが、ある意味それは当然のことだ。

経営者ほど会社のビジネスを理解している者がいるわけがない。周りが自分と同じ意見と思うことがそもそも錯誤だ。理解が不十分、あるいは意見が異なる立場に対してどう理解を得るかを前提に説明するスタンスが必要だ。

 

デビルズ・アドボケイトじゃないけど、自分の意見や考えが常に正しいとは限らないし、批判的な意見に揉まれる異なるよって自分の意見や考えが洗練されることもある。

 

もっとも、株主、投資家といっても一枚岩ではないし、それぞれの会社に対する期待も違う。全ての意見が理に適ったものとも限らない。

 

一方の株主、投資家にとっても

言ったもん勝ち的

な要求は慎むべきだし、またそれを抑制するためにも

ある程度のビジネスや数字に対する理解は必要だと思う。

一部の行き過ぎた要求に対しては株主、投資家間で自浄作用、しら~っと、

 

こいつ、何言ってんだ?

 

的な冷ややかな対応とか、が働くことを期待したい。

じゃないと、さすがに会社に同情する・・・

 

株主、投資家にとっても、別の意味で

鶏と卵の関係

だ。大きく成長してたくさん卵を産んでもらった方が良いだろう。

 

上場か成長か

 

本来、両者は対立するものではない。

あくまで運用の問題だと思う。

 

会社、株主、投資家、三者三様ではあるが、利害が全く一致しないということはないだ。共有できる部分は必ずある、基本的には同じ方向を向いているはずだ。

自身の思いや要求を持つことは良いが、相手の意見を尊重しつつ議論をすることによって、3者にとって望ましい会社の将来を共に作っていく姿勢を意識することで解消することはできないものだろうか。

 

こんなこと、小学校で当たり前に習うことなのにね・・・

のれんの償却論議 日本基準に軍配か!? 【ボヤキ系記事】

 


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国際会計基準IFRS)を策定する国際会計基準審議会(IASB)が、企業買収を巡る会計処理の見直しに着手したことが明らかになった。買収代金のうち相手企業の純資産を超えて支払った「のれん」と呼ぶ部分について、費用計上義務付けの議論を始め、2021年にも結論を出す。』

 

大型のM&A(合併・買収)が相次ぎ、企業財務への影響が強まっていることを背景に、IFRSのれん償却の議論が進んでいるとの報道だ。

 

のれんについては、過去何度も当ブログでも取り上げているが、のれんの償却については、

日本基準(償却)対 IFRS、米国(非償却)

と会計ルールの相違がある。

どっちが有利不利と言うことではなくて、考え方の問題なのだけど、一般的には(そして残念なことに一部の専門家でも)メリデメの発想で語られることが多い。

 

現在、IFRSで進行するのれんの償却の是非論も、どうやらそういった事情がありそうだ。

 


日本では最長20年で償却し、費用として処理するが、IFRSではのれんの償却は不要な一方、買収先企業の財務が悪化した際などにのれんの価値を一気に引き下げる

減損損失の計上が必要になる。

 

こんな指摘があるという。

 

巨額の減損損失を突然公表するケースもあり、

投資家から分かりにくさを指摘されてきた。』

 

何を今さら・・・

 

IFRS以前、欧州各国ものれんは償却していた

ところが、企業買収(M&A)が多くなり、のれんが多額に上ると

毎期の償却負担に耐えられないということで非償却にした経緯がある。

 

で、今度はのれんが積み上がると、減損により『欧州中心に広がるIFRS採用企業には業績の下押し要因となる。』

か・・・

 

ご都合主義 だなあ・・・

 

事情知らない人にとっては真面目な議論に映るのだろうか・・・


IASBのフーガーホースト議長はインタビューで、現在のIFRSののれんの会計処理に関する問題点として、


減損損失を巡る企業の判断が「楽観的になりやすい」うえ、計上のタイミングも「遅すぎる」』と指摘したとのこと。

 

そんなのは、会計ルールの問題点ではなくて運用の問題だ。

B/Sを重視すればP/Lが悪化するし、P/Lを中心に考えればB/Sへ皺寄せが起こる。

どんなルールだって万能ではないし、テーマに対するメリットをベースに設定して、想起されるデメリットは運用でケアするものだろう。

 

しかし、この問題は欧州に限った話ではない。
日本でも既に武田薬品工業三菱重工業ソフトバンクグループなど大企業を中心に100社超が導入している。 時価総額では、今や1/4がIFRS適用会社だ。

 

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『17年度時点で国内IFRS導入企業(約160社)は約14兆円、欧州の主要600社は240兆円ののれんを抱える。仮に20年間の定期償却が導入されると、日欧合計で年間13兆円の減益要因が生じる計算になる。』


中国では主要100社で約10兆円、大型M&Aが活発な米国ではのれんは主要500社で340兆円にのぼる、とのことだ。

IFRSの対応によっては中国や米国企業への影響もあるだろう。

 

そんな環境で、こんな話持ちだしたら

却って混乱を招くだろうに・・・

 

と思っていたら、早速、日本の株式市場ではこんな影響が出ているようだ。

 

株価が全面高の中でソフトバンク株が安く推移

 

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IFRS採用のソフトバンクが抱えるのれんは4.3兆円と日本企業で最大。仮に20年で定額償却することになれば、ソフトバンクの営業利益を

毎年2000億円強押し下げる。』

 

最近はやりのP/L脳ではないが、P/Lだけを見れば確かにマイナスの影響はある。

 

しかし、記事にもあるが、株価(理論株価)は将来の会社の稼ぎ(フリーキャッシュフロー)をベースに算定される。

のれんの代金は企業買収(M&A)時に既に支払済みだ。つまり、のれんを償却しようが、減損しようが、

将来の稼ぎには一切影響は無い

(なお、税務上ののれん(資産/負債調整勘定)は会計処理によらず5年償却となるので、会計上ののれんを償却しようが減損しようが税額に与える差異もない。)

 

のれんの償却という会計処理の点に限れば、ソフトバンクの株価(企業価値)にはニュートラル、影響はない。にもかかわらず、実際に株価が下がるのはなぜか?

誤解した人たち(あるいはそれを見越した人たち)がソフトバンク株を売却するからだ。記事はこの点を指摘しているのだが、ということは、逆に思わぬ安値でソフトバンク株を取得することができるということでもある・・・

 

何時の時代も、無知な者がカモられる。

 

良い悪いは別として、

時代は変わる、ビジネスも変わる、ルールも変わる

目的は何か、どこに影響が出るか、変わらないのは何か、

どう対応すべきか

常に考えるようにしたい。

 

 

 

 

 

 

だったら、AIに会計監査を代わってもらえば?

 

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『大手監査法人人工知能(AI)を活用した会計監査が広がっている。監査法人トーマツは財務情報などを自動分析するAIシステムの分析件数を2割増やす。EY新日本監査法人も会計の異常値を検出するシステムを導入した。大企業の会計不祥事が相次ぎ、監査の信頼性向上が課題となるなか、AIの導入で不正を発見しやすくする。業務効率化で会計士不足に対応する狙いもある。』

 

AIの進化によって駆逐される仕事の代表に会計士(会計監査)が挙げられる。

賛否はあろうが、AIがやった方が速く正確でコストも安いのならば、一刻も早くAIに進化してもらいたいと個人的には思う。

担い手が不足(なり手が減少)する不人気な仕事を無理に続ける必要はない

(それも一般に難関と言われる試験をクリアしてまで)。

 

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確かに、会社の取引規模が大きくなると会計監査でサンプリングする取引数も膨大になる。数を熟してナンボの仕事は自動化した方が効率的だし、記事が言うように、

『2017年度は1300件強だった分析数を、今年度は2割増やす。データを専門的に扱うデータサイエンティストも増員する。「会計士が専門的な業務に集中できるようになる」』

というのも表面的には理解できる。

 

しかし敢えて問いたいのは、

 

会計士が集中すべき専門的な業務って何?

 

定型業務は自動化して、人間(会計士)ならではの専門的な業務へ集中、

耳障りは良いが、一体どんな業務を言っているのだろうか?

 

AIが検出した怪しそうな取引を関連証票から検証して、不正を暴く、ことを意味しているのだろうか?

会計監査は、不正を暴くというより批判的機能(会計処理の間違いを指摘)と指導的機能(間違いを正すように会社を指導)だが、それを意味しているのだろうか。

 

だとすると、

 

無理だね(たぶん)

 

もちろん、AIが膨大な取引の中から会計処理の間違いや不正、いわゆる不適切会計処理を検知するかもしれない。その可能性は大いにある。

 

しかし、会計監査で問題になる、つまり不適正意見の原因となるような間違いや不適切会計処理は質もさることながら量、金額的な重要性も考慮される。

ちりも積もれば山となるように、細かい間違い等を積み上げた結果それなりの金額になることはあろうが、昨今、不適切会計処理で問題となった会社の例を見れば明らかなように問題はそういうレベルではない。

人力では発見できないような細かい不適切会計処理の話をしているのでなく、もっとデカい話でしょう、問題は。

仮に手口が巧妙であるなど発生直後はタイムリーに(発見)指摘できなかったとしても、意図した不適切会計処理は継続的に行われる

しかも、その金額は累積的に大きくなる。


つまり、そんな大きな問題ならAIでなくても気づくだろうし、AIの助けを借りないと集中できない業務ではない。

 

問題は、不適切会計処理を発見しても、会社に指摘できなかったり、指摘しても修正等させるように指導できなかったりする環境ではないだろうか。

 

巷では、監査対象の会社から直接監査報酬を得ているから適切な指摘ができない等、そもそもの会計監査制度の欠陥を指摘される。

それも確かに一因だろうが、それだけでもない。

会社から監査報酬を得ているといっても、会社を窓口として得ているのであって経営者から得ているわけではないから『会社』に遠慮する必要はないのだけど・・・

 

ぶっちゃけ、会社も、そして当の会計士自身も

会計監査を重視していない

ことが根幹のように思う(この点は深いのでまた次の機会にでも)。

 

取引発生の事前に会社に相談されない時点で

会計監査は失敗

だと思う。

会社が質的にも金額的にも大きな取引を為そうとする場合、当然その後会計処理の話になり決算数値へ影響するのだから、会社の想定通りで問題ないか監査法人へ照会するだろう、普通。そうしないということは、会社は少なくともそうするだけの重要性を感じていないということだろう。

であれば、そんな相手から間違いだと指摘されたとしても反応は言わずもがなだ。

 

会社(経営者)と監査法人の関係を改善しないことには、

会計士が専門的な業務に集中しても根本的な解決にはならないと思う

 

例えば、

AIが指摘したら事態は変わるのだろうか?

 

だったら、一部と言わずに会計監査の全部をAIに代わってもらいたいものだ。

 

ちなみに・・・

以前は(と言ってもそんなに昔でない)は、会社(経営者)と監査法人が『良い』関係を築いていた例が多くあったと思う。経営者と堂々とやり合っている先輩会計士を見て憧れたものだ。経営者にとって担当の会計士(パートナー)は耳の痛いことを言われる存在ではあるが、それでも会社や自身にとって必要な存在だという認識が感じられた。経営者と会計士が互いにリスペクトする環境だったから、我々は会社(クライアント)の方々からも多くを学ばせてもらい、会計の専門家としてだけでなく社会人として成長することができたと思う。そうした環境で得た知見をクライアントたる会社に提供し、お互いが学び高めあう関係、そんなに難しいことだろうか・・・