溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

無形資産の割合だけで評価しちゃって良いの? 

www.nikkei.com

 

1/23/2019の日経朝刊にこんな記事が記載された。

 

収益性、効率性(資本の効率性)、事業構造、無形資産と論点が飛び散りまくりで散漫な様相・・・

もう少し論点絞った方が良いのになあ、と思いつつ、要するにあれこれ引き合いに出して、

 

欧米に比べて

 

日本の経営は

遅れている、劣っている

 

ということを言いたいのだろうか。

 

このような主張は今に始まったことではないし、実際、改善すべき点は多々あるとは思うので、そういう意味では欧米の優良な会社を参考にするという点については賛成だ。

 

しかし、だからといって、不適切な情報を引き合いに出してこの点も劣っている、というのはいただけない。もう少し丁寧にやって欲しいな、と。

 

この記事では、知識産業への転換度合いを示す指標として総資産に占める無形固定資産の割合を比較している。

 

『米国の成長を支えるのは製造業や小売りなど現実のモノを扱う産業から知識集約型産業への転換だ。米国企業の持つ資産を調べると技術力を示す特許やブランド力を示す商標権といった無形資産が4.4兆ドルと10年前の2倍以上に増えた。工場や店舗など有形固定資産を17年に上回っている。』

(記事より)

 

『日本企業の無形資産は約50兆円。総資産の6.4%で米国の26%に遠く及ばないが、10年間で2.2倍に増えた。』

(記事より)

 

 

 

 

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一般に知的産業や知的財産と言うと、どんな資産をイメージするだろうか?

 

記事にもあるように、特許、ブランド、商標権のような資産をイメージするのではないだろうか?

 

だとすれば、必ずしも総資産に占める無形資産の金額の割合が知識産業への転換度合いを示しているとは言えないのではないか。

 

会社が発明、構築、創出した特許、ブランド、ノウハウはその価値がバランスシート(B/S)に表現されるわけではない

 

この点は、以前も当ブログに書いたが、例えば、自社で発明した特許権や商標権等の権利であれば、B/Sに計上される金額のほとんどは特許等の権利取得にかかった事務手数料だ。特許や商標などの市場価値ではない。

ましてや、ブランド、ノウハウ、あるいは人材についてはB/Sへは一切表れない

 

詳細はこちらを参照☟

 

tesmmi.hatenablog.com

 

 

これは欧米の会社も同様だ。

 

但し、例外がある。

他社から特許、ブランド、ノウハウなどを他社から取得する場合、あるいはこのような無形資産を有する会社をM&Aする場合だ。

 

自社で創出した特許等がB/Sに計上されない理由は、その価値を客観的に測定が難しい点にある。しかし、他社から取得する際には、相対取引とは言え、実際に金銭の収受が伴うため、客観的な価値測定がなされたとみなすわけだ。

 

つまり、同じ特許等であっても、自社で創出した場合はB/S上の金額は小さい、他社から取得した場合は大きい、となるので、金額や総資産に占める割合だけを見ると、無形資産の多寡だけではなく取得手段の影響が混入することになる。

 

また、ノウハウの中には研究開発による技術ノウハウなどが含まれる。

日本や米国では、研究開発費用(R&D)は発生時に全額費用として会計処理される。つまり、いくらR&Dに時間もお金を費やしても、その結果なんらかのノウハウを得たとしても、その事実がB/Sに反映されることはない

 

一方、IFRS国際財務報告基準)では、R&Dの内、開発ステージ(*)で発生した費用は即時償却せずに一旦資産計上して将来の収益に応じて償却する。

(*)R&Dの内、具体的にどのプロセスに係る費用が資産計上の対象となるかは会計基準にしたがって個別に判断される。

 

仮に同様のR&Dから同様のノウハウが得られたとしても、適用する会計基準の違いによって結果としてB/Sに計上される金額は異なる。つまり、無形資産の金額や総資産に占める割合に入って、実際のノウハウの蓄積状況だけでなく会計基準の影響が混入することになる。

 

そんな訳で、単に無形資産の金額や総資産に占める割合だけで知的産業への転換云々を論じるのは荒っぽいなあと思うのだ。

 

新聞記事なので、ある程度のバイアスというか主張を導くための材料としてデータを活用することは理解できるが、もう少し丁寧に扱ってもらいたいな、と。でないと、データに潜む示唆を見逃すことにもなる。

 

読者にとっては、必ずしも目にする情報が額面通りではないという理解すると同時に、その真贋を見分けるスキルを身に着ける必要があるな、とこの記事を読んで益々思うのだった。

 

 

 

ドモホルンリンクルのCMに思う・・・ 【仕損品の会計処理】

www.youtube.com

 

再春館製薬所のドモホルンリンクルのCMが物議を醸しているようだ(強引)。

 

問題となっているのは現在放送されている

「お試しセットで試されるもの」篇だ

再春館製薬所のウエブサイトでは既にオンエアCMから除外されているよう・・・)。

CMでは多数のお試し用の製品が並べられ、

ナレーションで「これは検品ではねられたドモホルンリンクルのお試しセットです」と説明。

さらに、「理由はこのキズ」としてパッケージに付いたかすかなキズを紹介し、「無料でお届けするお試しセット、1本1本すべて検品しています」と高品質であることをアピールしている。

 

これに対してインターネット上では、

『もったいない』、『時代錯誤』、

『その分安くして販売すれば良いのに』

などといった批判が寄せられているようだ。

 

こうした批判は、自分たちは関係ないけど会社がもったいないことをしている、といったニュアンスで聞こえるが果たしてそうなのだろうか?

 

職業柄かもしれないが、このCMのおびただしい量の不良品を目の当たりにして最初に思ったのは、

不良品分の製造コストが売価に転嫁されるんだろうな

だ。

 

不良品とは言え、材料費、加工費がかかっている

加工費は不良と判断される工程までの分だが、例えば、最終工程終了後の品質検査で不良と判断されるとすると、ざっと良品の製品と同じだけの製造コストが消費されていることになる。

 

不良品の製造コストはどう処理されるのだろうか?

 

簡単に言うと、不良品の製造コストは

良品の製造コストへ加算

されることになる。

 

例えば、ある月に材料費1,000千円、加工費2,000千円で製品を100個製造したが、品質検査でその内10個が不良と判定されたとする。

 

100個すべてが良品であれば、1個当たりの製造コストは30,000円(3,000千円÷100個)となる。しかし、10個は不良であり外販できず廃棄されるとすると、極端な例ではあるが1個当たり30,000円で販売すると不良品部分が常に赤字となってしまう。また、生産管理や品質管理を徹底等により不良率を改善することも考えられるが、かえって製造コストが膨らむ場合がある。であれば、ある程度の不良率を許容することによって製造コストをコントロールしているという見方もできる。

上の例では、10個の不良を許容することによって90個の良品を製造することができる。つまり、10個の不良品の製造コストは90個の良品の製造コストの一部であるという考え方だ。

したがって、1個当たりの製造コストは33,333円(3,000千円÷90個)となり、この製造コストをベースに販売価格を設定すると、90個の製品で不良を含む100個の製造コストを回収できることになる。

 

会計では、このような何らかの理由による製造工程での失敗を

『仕損じる』、『仕損』

と呼び、仕損によって生じた失敗作を『仕損品』という。

 

ちなみに、これは製造工程上ある意味不可避的に発生する仕損の会計処理であり、例えば、災害等の突発的な原因で発生した通常の不良を大幅に上回る仕損は異常仕損として製造コストではなく非原価処理(特別損失など)する。

 

何が言いたいかもうお分かりだろう。

 

ドモホルンリンクルのCMでのおびただしい数の不良品が多ければ多いほど良品の製造コストが高まる

そして、会社がそれで利益を出そうとすれば、その分販売価格が高くなる、ということだ。

 

なお、これは試供品(の不良)なので、会計上は試供品の製造コストは他勘定振替販売費及び一般管理費見本費、あるいは販売促進費などで処理されていると思われる。

厳密にいえば良品の製造コストへの影響はないが、その場合であっても営業利益レベルの採算管理では不良発生による見本費等の上昇分を販売単価の上昇により補う必要があるので結局は同じことだ。

 

経済原理を考えれば当たり前のことなのだが、一見、会社が顧客や消費者へのサービスとしてやっている行為であっても

そのコストは誰かが負担することになる

高品質をアピールするのであれば、できるだけ不良を出さないような生産管理、品質管理を徹底して欲しいものだ。とはいえ、その結果、製造コストがかえって上がりましたというのは避けて欲しいけど・・・

 

監査法人さん、出番ですよ!!

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181227&ng=DGKKZO39422430W8A221C1M10800

 

しつこいようだが、またしてもゴーン氏の続報。

だって、未だにこんな記事が掲載されるし・・・

 

カルロス・ゴーン元会長が有価証券報告書に記載しなかったとして問題になったのは、既に受け取った報酬ではなく、受け取りを先送りしたとされる報酬だ。先送り分の支払いが確定していたか否かを巡り、東京地検特捜部の判断とゴーン元会長側の主張は真っ向から対立している。』〜日経記事より〜

 

信じられないことに、平成30年12月27日日経朝刊の記事。

 

まだこんなことやってる。

わざと焦らしているのか?

この状態を楽しみたいとしか思えない・・・

 

当ブログでも再三(2回だけど)ゴーン氏の役員報酬過小記載については書いた。

ゴーン氏逮捕から1か月半経過してまだこんなことが争点になっているとは驚きしかない。

個人的には、逮捕時点に既に検察は、先送りされた報酬が確定あるいは引当金、つまり、各年度のゴーン氏に対する報酬としてあるいは費用計上されていた、あるいはされるべきである確証を得ていたとばかり思っていた。

 

内閣府令は報酬の開示について、実際に支払われた額だけでなく、未払いでも「見込みの額が明らかとなった」時点で開示義務が生じると規定。特捜部は「先送り分も支払いは確定し、有価証券報告書に記載する義務があった」と判断している。』

 

この点も過去ブログに書いたが、完全一致を条件としてはいないものの、P/Lに費用計上された役員報酬総額(基本+変動+賞与、退職慰労引当金等)と役員報酬開示対象額は基本的に一致する。

 

『ゴーン元会長らは各期の▽本来の「総報酬」▽その期に受け取った「支払い済み報酬」▽受領を先送りした「延期報酬」――の額を記した「報酬合意事項」と題する文書を作成。ゴーン元会長の退任後にコンサルタント料などの名目で支払う報酬を記載した「雇用合意書」も作成されていた。特捜部は、こうした文書や側近らの証言などを基に「確定」を立証する方針とみられる。
一方、ゴーン元会長は「退任後の支払いはその時点の最高経営責任者(CEO)が決める。経済情勢や業績が変動する恐れがあり、支払いは確定していなかった」とし、先送り分の記載義務はなかったとしている。』〜日経記事より〜


であれば、争点となっている確定ないしは引当金の対象とすべきかどうかは、会計的な判断を重視すべきだろう。

(債務債務は法的な要件を重視すべきだが、依然争点のまま・・・)

 

この点、新聞はじめメディアは、弁護士などの有識者の意見が取り上げられるが、果たして会計基準にしたがった意見なのか疑問を感じる。

個人の見解は結構なのだが、費用計上の是非会計基準にしたがって判断されるべきだ。

 

そして、それを検討、判断する立場にあるのは日産を担当する監査法人だ。

会計監査は、あくまでも財務諸表の全体としての適性性に対する意見表明をすることであり、個々の取引の是非について意見表明をするものではない

立て付けはその通りだが、ことこの状況において沈黙を貫くのは果たしてどうなのか。

会計監査が、経済社会の発展や証券市場の円滑な運営に資するという大義からは、ここまで社会的な注目を浴びている以上、その判断の合理性について意見を述べるべきではないだろうか。

これまで、日産からどういう情報、資料を入手し、それに基づけばどう判断するのか。

実際、日産は対象となる金額を過去の決算では費用処理していなかったので、結果として監査法人も費用計上は不要と判断したことになる。

しかし、日産から提示された情報や資料に不足や事実と異なる点があった場合、それらが是正されたとすれば判断は変わるのかどうか、だ。

 

公認会計士はあまり意見を主張をしない。矢面に立つのを避ける傾向がある。主張をするのであれば、どこからも誰からも突かれない完ぺきな状況を望む習性がある。一部でも例外がある場合、Yesとは答えたがらない。

余談だが、だから、話が長くなる。簡潔に答えることで例外を端折ることを嫌がる(あるいは知らないと思われることを嫌う)。

僕自身も、ビジネススクールで教鞭をとり始めた頃は、いかに簡潔に説明しつつ例外を端折らないかに苦心した覚えがある。

 

要するに批判を避けたいのだ。

業務の性質上なのか、元来の性格なのか、

やたらダウンサイドのリスクに敏感な人が多いからなあ・・・

 

仮に公認会計士から見たら妥当な判断であっても、言い方は悪いが、会計のを”カ”の字も知らない有識者が、自身の経験則や主観だけでそれはおかしい!と言われ、それによって世間的な批判に晒されるリスクは理解できるが、何といっても会計に関する判断だ。専門家でない意見が空中戦を繰り広げる中、やはり、会計の専門家としての主張ををして欲しい。

でないと、この議論、収まらなように思う。

 

監査報告書も短文式(定型フォーマット)ではなく、KAM(Key Audit Matters)の記載など監査報告書の”透明性”を求めらるようになっている。

会計監査も、これまでの監査法人から投資家への一方通行から、利用者との対話を重視する方向へ進んでいると思う。

なお、KAMについては近く当ブログ取り上げたいと思う。

 

ところで、私自身も先送りされた報酬は費用処理(役員報酬開示)すべきだったと思うか?を訊かれることがある。その場合、

 

『何とも言えない』

 

と答えるのだが、そうすると、『やはり専門家でも見解が分かれるんですね』

と言われる。もちろん、見解(判断)が分かれることもあるだろうが、最大の理由は先送りされたというおカネの名目だ。

ゴーン氏に支払われるとされる90億円はゴーン氏の何に対する支払なのかによって判断は変わるということだ。

報酬であれば、報いと言うぐらいだから、何らかの役務の提供に対する代償だろう。

であれば、

 

1.対象となる役務提供は完了したのか

2.役務を受ける側が支払いを約束ないしは約束が合理的に見込めるか

3.報酬とされる金額が確定ないしは合理的に見積可能

 

詳細は☟を参照。

tesmmi.hatenablog.com

 

報酬の種類、名目にもよるが、これらの条件を満たすかどうかエビデンスと共に検証しての判断になる。

ファクトが整えば、それほど判断はブレないと思うがどうだろうか。

 

と言うより、そのファクトの認識が日産、検察とゴーン氏の間で相違しているので、何とも言えない状況が続ているのだが・・・

 

モヤモヤを抱えたままの年越しとなりそうだ。

 

役員報酬開示と財務諸表の関係【日産ゴーン氏/続報】

 

www.nikkei.com

日産自動車カルロス・ゴーン元会長と同社が役員報酬について有価証券報告書に虚偽の記載をした罪で起訴されたことを受け、記載されていなかった役員報酬に絡む費用を2019年3月期決算で一括処理する方針だ。正しい決算を作成するための社内管理体制が整っていると上場企業が投資家に向けて宣言する文書、「内部統制報告書」の訂正も検討する。』(日経朝刊より)

前回のブログにも、日産の有価証券報告書の虚偽記載は、


役員報酬開示に留まるのか?
過去の決算は問題は無かったのか?


が腑に落ちないと書いた。

 

tesmmi.hatenablog.com



その疑問解消に向けて事態が動きを見せたようだ。
(もっとも僕の疑問解消のためではないが・・・)

有価証券報告書への役員報酬開示が始まった前後で、日産からゴーン氏への報酬が不自然に約10億円/年減少したということで有価証券報告書の虚偽記載、ゴーン氏とケリー氏の逮捕、そして現在に至るが、今もってなお、開示ルールに従った場合の

”あるべき”役員報酬開示額は示されていない。



また、こちらも前回ブログに書いたが、
P/Lの役員報酬総額(総額とは、基本報酬に賞与、退職慰労金等の引当額、ストックオプションの費用計上額等実質的に役員報酬と考えられる総額)とコーポレートガバナンスの状況等の役員報酬開示金額とは基本的には一致すると理解する。


もっとも、両者の整合を有価証券報告書内で取ることは開示ルール上も求められていないので、完全一致するかは分からない。もしかしたら、P/Lに費用計上されてもいないような報酬(?)まで積極的に開示する会社もあるかもしれないが、有価証券報告書の作成の実務を考えても通常は(よほどヤヤコシイ報酬体系でなければ)費用計上された役員報酬をベースに役員報酬開示を記載すると思われる。それに、役員報酬のようなセンシティブな項目を必要以上に積極開示する会社が多いとも思えない。

報道などでもしかして勘違いしているのかなと思うのは、(役員報酬の)
支払いは将来であっても役員報酬の開示対象になる
という『表現』だ。
会計ルール上、これは当たり前のことだ。
P/Lに(役員)報酬を費用計上するかどうかは報酬に見合う労働サービスが提供されたかどうかによって決まるのであり(発生主義)、支払は関係ない。
実際、流動負債に従業員への『未払給与等』を計上されている会社も多いが、それと同じだ。

支払いの有無に関係なく、役員報酬はP/Lに費用計上もされるし役員報酬開示の対象にもなる。
いずれにせよ、両者は一致する。

 

日産の役員報酬は、金銭報酬と株価連動型インセンティブ受領権のみから構成されており、それほど複雑な報酬体系でもない。
役員報酬開示が虚偽ということは、過年度の財務諸表も虚偽となるが、この点が報道等で指摘も言及もされていなかったので、不思議だったのだ。

日産のIR情報で公表されたプレスリリース(12/10)では、以下のような記載だ。


『当社は、現在、役員報酬として本来開示すべきであった額、及び有価証券報告書上の役員報酬額の訂正に伴い必要となる可能性のある、報酬費用の計上等の財務情報等に関する訂正内容 を精査しています。これらの訂正内容が確定次第、速やかに、過年度の有価証券報告書及び四 半期報告書の訂正報告書を財務当局に提出するとともに、決算短信及び四半期決算短信の訂正 を各位に開示いたします。 』

https://www.nissan-global.com/JP/DOCUMENT/PDF/FINANCIAL/TSE/2018/20181210_02_J.pdf



日経の報道よりも若干含みを持たせているが、こんなプレスリリース出すくらいだから概ねの方向性は決まっているんだろう。

『19年2月初旬とみられる18年4~12月期決算発表と合わせて開示する。日産内部では費用の一括処理案が有力。「虚偽記載の額が利益に対して小さい」(関係者)ためだ。ただ、取引所などとの今後のやりとり次第では過去にさかのぼって分割処理する案が検討される可能性もある。』(日経朝刊より)

なお、一括処理の場合は販売費及び一般管理費販管費)での処理になるだろう。というのも、特別損失となる程の金額的インパクトが大きい場合は過年度決算の遡求修正が必要となるからだ。

今回は金額的重要性は無いとのことだが、内容的に明らかに過年度の役員報酬の修正であるため、販管費で一括処理と言うのもなあ・・・

過年度決算の遡及修正になるような気がする。


さて、ゴーン氏とケリー氏が秘密裏に報酬の後払いを約束させ、他の役員はじめ経理部門は知り得なかったため適切な会計処理が出来なかった。もしその事実を知っていたら適正に役員報酬として費用処理していた。間違いを適時に発見、あるいは間違いを起こさせないような仕組みを社内に構築・運用できなかったのは我々経営陣の責任です。

でも、実際に悪いことをしたのはこの人たちです。

と、いうことだろうか。
もちろん、実際にこの通りかもしれないが、どうも、
肉を切らせて骨を断つ感がぬぐえない。

そして、訂正の対象となる役員報酬は総額90億円であり、これは日産の今期の純利益見込みは5000億円の2%未満、各年度決算では約10億円程度となるので各年度の純利益を5,000億円とすれば0.2%インパクトは僅少で、おそらくこの程度であれば監査報告書も不適正意見とはならないとの見立てもあったのではないか・・・

(根拠のない想像)



しかし、今もってなお釈然としないのは、後払いとされたゴーン氏の報酬が果たして確定債務、あるいは引当金の対象となり得たのかと言う点だ。


これは後払いされる金額の名目による。例えば、実質的に毎年の役員報酬として確定したものを単に後払いということであれば、確定債務として長期未払金として計上すべきだ。日産のプレスリリースや報道はこのパターンを言っているのだろう。

しかし、仮に役員としての労働サービス等の役務の提供があったとしても、金額が流動的で金額の見積もりが困難とか、支給が条件付である場合には、引当金の要件を満たすかどうかについて疑問が残る。

(ゴーン氏のケースでは、10億円/年過小との報道から金額見積もり困難は考えにくいかも)

 

引当金については☟を参照。

tesmmi.hatenablog.com

 

このような場合は、引当金の要件を満たさないため報酬として費用処理が不要であり、その代わり偶発債務として貸借対照表(B/S)への注記が必要となる。

P/Lの役員報酬費用処理額と役員報酬開示の金額が異なるとすれば、このようなケースが考えられるだろうか。

 

この点は、日産そして監査法人含めて慎重に検討されることになるだろう

是非、訂正の会計的根拠を説明して欲しい。


ただねえ・・・
役員報酬開示前後で急にゴーン氏の役員報酬が減額になったら社内(人事や経理や)も監査法人も何で?ってなると思う。そして、普通はエビデンスを確認するはず。

そのプロセスでフツーはオカシイとなるはずだけど・・・

エビデンスも含めて形式的には整備していたということだろうか?
それとも、治外法権化して、一般的な常識(資料の整備や保管)は通用しないということだろうか。

監査法人が当たり前の資料の閲覧を依頼しても、『失礼な!、今(口頭で)説明したじゃないか!私が信じられないとでも言うのか』とか言って強引に押し通したとか。

ま、あり得るな・・・

日産ゴーン氏の役員報酬虚偽記載報道で疑問に思うこと

 

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181126&ng=DGKKZO38164790V21C18A1CC1000

 

日産自動車カルロス・ゴーン元会長(64)の報酬過少記載事件で、ゴーン元会長が年約10億円の報酬受け取りを退任後などに先送りし、この分を有価証券報告書に記載していなかったことが25日、関係者の話で分かった。受領を先送りした報酬は2011年3月期~18年3月期の8年間で約80億円に上るとみられる。』

 

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先週、突如、日産のゴーン元会長の逮捕が報じられた。

その事実にも驚かされたが、同時に、罪状が金融商品取引法違反

しかも、有価証券報告書の虚偽記載だという。

それも、ライブドアオリンパス東芝のような

粉飾決算(今風に言えば、不適切会計処理)ではなく、

役員報酬開示の虚偽記載とのこと。

 

なんとまあちっちゃい・・・

 

というか、

それ個人の問題か?

有価証券報告書をまさかゴーン氏個人で作成しているわけじゃなかろうし・・・

 

もちろん、

粉飾決算だろうが役員報酬開示虚偽記載だろうが、

不正は不正、虚偽は虚偽、

大きいも小さいもないと言えばそのとおりだ。

 

有価証券報告書の虚偽記載の罰則】 

個人の罰則は、

10年以内の懲役若しくは1,000万円以下の罰金、あるいはその併科

法人への罰則は、

7億円以下の罰金

 

なので、決して軽いとは言えない

アメリカと比べれば軽いけど・・・)。

 

とはいえ、あれだけの大物経営者を、検察特捜部が動いて、ってことを考慮すると

やはり釈然としない・・・

 

日産の公表でも複数の重大な不正行為として、

役員報酬の虚偽記載 だけでなく、

社内経費・投資資金の不正流用

があったとされる。

 むしろ本命はこっちか?であれば、個人の逮捕ってのも頷ける。

粉飾決算でもいきなり代表取締役の逮捕は聞いたことがないし・・・

 

ゴーン氏については、毎日のように新しい情報が報道されるので、正直何がどうなっているかは分からない。

ましてや最終的に捜査がどこまで及ぶかは当然ながら知る由もない。

 

報道を見聞きするに、ゴーンさんも人の子なのね、と人間の性を

感じたりしていたのだが、最近の報道に疑問に思うことがある。

 

虚偽記載の根拠は何か?

 

ということだ。

 

疑問の内容は後述するとして、まず、

本件の端緒となった役員報酬開示について少し書いてみたいと思う。

 

 役員報酬開示の義務化】

そもそも、有価証券報告書の虚偽記載箇所を以下に示す。

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日産の有価証券報告書の目次を見ると、

第4「提出会社の状況」の

6「コーポレート・ガバナンスの状況等の内訳

として記載されていることが分かる。

 

役員報酬の開示は、コーポレート・ガバナンス強化の一環として

2010年3月期から有価証券報告書への記載が義務付けられた。

それ以前は、役員がいくらの報酬を受けているかは個別には不明だった。最近、株式会社の役員報酬ラインキング等が報道されるようになったのは、この開示制度がきっかけだろう。

 

1億円以上の役員報酬は、開示初年度の2010年3月期には289人(166社)だったが、2018年3月期には538人(240社)へ増加している。

 

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1億円の線引きは、金融庁によれば、当時の役員報酬のレベル等を勘案して決定したらしい。1億円以上の報酬を受ける役員が以降右肩上がりで増加するが、いわゆる国内外からのプロ経営者の増加、あるいは、他社がそうならウチもといった、免罪符的な意味での相乗効果もあったのかもしれない。

 

制度改正により役員報酬開示が義務付けられたのは以下の3点。

 

①役員の区分別・報酬種類別による総額

②連結報酬が1億円以上の役員の個別報酬

役員報酬の決定方針

 

【日産の役員報酬開示】

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株式会社は所有と経営の分離を前提としている。会社の所有者たる株主が経営者に対して経営を委託する形式をとる。受託者たる経営者が自身の報酬を自由に決定することは、株主の意に反して株主の持ち分を減らすことにつながりかねない。そのため、会社法上も、会社の経営者の報酬は原則として株主総会で決議される。実務的には、役員報酬の総額の上限を株主総会で決議して、個別には取締役会等で決定している会社が多いと思われる。したがって、上記①は株主総会の招集通知にも同様の記載がされる。一方、②については会社法では要求されていない。有価証券報告書のみに求められる記載だ。上場会社に対してより開示が強化されているのは、上場会社の株式は株式市場で自由に売買が可能、そして誰もが株主になることができ、株主も頻繁に入れ替わることが想定されるため、非上場会社よりも広い範囲での情報開示、説明責任が求められるとの理由からだ。

 

といった経緯もあり、個人情報と言うこともあり、下世話な野次馬根性もあり、とかく②の役員個人の報酬情報に注目があつまりがちだ。

 

しかし、開示の趣旨からは①と③が重視されるべきと思う。②はその結果であって(結果から制度の妥当性を検討することもあるが)、どのような報酬体系・プロセスで役員個人の報酬が決定されるのか、が会社のガバナンス上は重要だ。

報酬体系については、日産のストック・アプリシエーション権(SAR)も然りだが、ストックオプション等、経営者の目線を短期のみでなく、中長期の業績へ向かせるなど株主が監視できるモニタリングシステムをどう構築するか、ということにつながるし、総額は株主総会で決議するとしても、個別の報酬についてどう決定されるかは社内の意思決定プロセスの妥当性にもつながるだろう。

 

記事によれば、

『ゴーン元会長には、役員報酬の総額上限内で個々の役員の報酬額を決める権限があったという。』

 

有価証券報告書の記載には、

取締役会議長が、代表取締役との協議の上、決定する、とあるが、

実際のところはどうだったのだろうか?

役員とて、報酬決定がゴーン氏に一任されていたとすれば、果たしてゴーン氏に対して物が言えたかどうかは怪しいだろう。

 

【財務諸表との関係】

現時点で指摘される日産の有価証券報告書の虚偽記載は、上記の内、②の部分だ。

②の連結報酬が1億円以上の役員の個別報酬には日産本社からの報酬だけでなくグループ会社(連結子会社)からの報酬も合計される。これに対して①は有価証券報告書の提出会社である親会社(例:日産本社)に限定した役員報酬の情報だ。

 

①と②では役員報酬の範囲が異なる

 

ところで、ゴーン氏の役員報酬の虚偽記載は役員報酬開示に限ってのことなのか、という疑問もある。

 

役員報酬開示内容と財務諸表の関連

と言う点では、

 

①の役員の区分別・報酬種類別による総額については、その総額が親会社の販売費及び一般管理費役員報酬、役員賞与引当金繰入額等の関連する費用項目の金額合計と基本的には一致すると理解している。

 

 

役員報酬の開示ルール(内閣府令)によれば、

開示対象となる役員報酬

報酬等とは、報酬、賞与その他その職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益であって、当事業年度に係るもの及び当事業年度において受け、又は受ける見込額が明らかとなったものをいう。」

と説明している。

 

報酬の定義が一義的に決まるほど明確ではないと感じるのではないだろうか。一律に名目を定義するのではなく、会社ごとに実質的に報酬と考えられる、会社から受け取る財産上の利益、を報酬として開示する、と言う趣旨だろう。それはそれでごもっともだと思う。その結果、何をもって役員報酬とするかは会社によって多少ばらつくことになるだろう。

役員報酬開示が義務化された以降、様々なリサーチ機関から上場会社の役員報酬開示の事例や傾向が発表されるのもある程度のばらつきを示唆していると思う。

   

役員報酬の定義と言うか範囲が会社ごとにばらつくからこそ、役員報酬額の大部分についてはP/Lに費用計上されると役員報酬相当額とコーポレート・ガバナンスに関する状況等に開示される金額は一致すると思われる。

 

有価証券報告書作成の実務を考えても、そうでなければ大変だろう。
役員報酬等として開示する金額とP/Lに費用計上した役員報酬等の金額が異なるとなれば、別途、役員報酬の定義づけ、金額把握等の作業が必要になる。
投資家から見ても、役員報酬として開示された金額が会社の決算書の数値とは別の話だと言われれば、当惑するのではないか。

 

例えば、ストップオプションに関して金融庁は次のように説明している。

 

「原則、費用計上額(総額ではなく期間按分した額)が該当する」

金融庁の考え方 89より)

https://www.fsa.go.jp/news/21/sonota/20100331-8/00.pdf

 

開示ルールには、損益計算書(P/L)の役員報酬等の金額と整合をとることは明記されてはいない

が、ストックオプションに関する記載からも基本的には金融庁も両者は整合すると考えているのだろう。

  

 

ちなみに、日産では役員報酬等の該当する勘定科目が財務諸表への記載が省略されているため両者の整合はチェックできなかった。

 

②の連結報酬が1億円以上の役員の個別報酬ついても、基本的には連結ベースの役員報酬の総額と連結P/Lの販管費役員報酬(関連する勘定科目合計)とは整合するだろう。しかし、上記に加え、実際には、通常、役員全員の報酬が個別開示されることは無いし、また、役員報酬が連結ベースの役員報酬の金額が連結損益計算書へ開示されることは少ないことなどから、外部から数値間の整合をチェックすることは困難だ(日産も同様)。

 

ちょっとややこしくなってきたので、まとめると、

 

役員報酬開示の趣旨からすれば、基本的には、単体も連結も

 

役員報酬の開示金額=販管費役員報酬(*) 

(*)役員報酬、役員賞与引当金、役員退職慰労金等該当する勘定科目合計

 

となるだろう。

(内部調査等では詳細なデータが入手できるため、両者の整合の確認は可能だろう)

 

と言うことは、

P/Lに費用計上されていなければ、普通に考えれば

役員報酬開示の対象にもならない。

 

役員報酬が虚偽記載(過小)ということは、

P/Lに費用計上されているにもかかわらず、役員報酬の開示をしなかった、つまり、

 

役員報酬開示<P/Lの費用(該当部分)

 

ということだろうか? 

であれば、財務諸表自体は正しくて、役員報酬開示のみが虚偽記載ということになる。

 

冒頭の疑問と言うのはこの点だ。

 

何が問題なのかがいまいち分からない。

 

例えば、受領を先送りした80億円について記事には、以下が記載されている。

 

役員報酬の個別開示が義務化されると、ゴーン元会長は高額報酬への批判を避けるため、各期に受け取る金銭報酬を10億円程度にとどめ、差額分の約10億円は退任後などに受け取ることにしていたという。』

 

東京地検特捜部は、ゴーン元会長が報酬として受け取っていなくても、日産側の支払いが確定していれば各期の有価証券報告書に記載すべきだったと判断しているもようだ。』

『報酬の先送りについては、社内でもグレッグ・ケリー元代表取締役(62)らごく一部しか把握していなかったもよう。日産の社内調査で関連する内部文書が見つかったが、取締役会には諮られておらず、資金移動がないため監査法人なども気づいていなかったとみられる。』

 

開示ルールにある、当事業年度に将来受給される金額が明らかとなった状況

とは何か?

会社としてゴーン氏の退職後に支給することを金額とともに確定した、

と考えるのが普通ではないだろうか?

 

役員会にも諮られていない退職後給付は会社として支払う義務があるのだろうか?

一体誰と約束したのだろうか?

当然ながら役員の退職慰労金の支払も株主総会の決議事項だ。役員退職金規程に則ったものであれば、そのスキームに従う限り会計上は当期発生分の費用計上はできるが、ゴーン氏のこのケースはおそらくイレギュラーな扱いだろう。

であれば、そんな状況で引当金として会計処理する方がおかしい。  

 

ちなみに、毎年の役員報酬の一部を退職後に支払う覚書云々の報道もあるが、その場合でも、正しく会計処理されていれば、支払が将来であっても報酬額自体はP/Lに費用計上されているはず。

  

とすれば、80億円の将来給付分については、

P/Lの費用にもなっていないし、役員報酬として開示もされていない。

 

役員報酬開示=P/Lの費用

 

となるが、それで役員報酬開示が過小となれば、そもそも費用計上が過小、

つまり、財務諸表が不適切ということになる・・・

となると、会計監査は適正に実施されたのか、も問われるだろうし、

更には、報酬総額(2018年3月期実績:約19億円)が実は株主総会で決議した上限(約30億円)を超えていたか、も問われるだろうし・・・

 

役員報酬、役員賞与、退職慰労金、業績連動報酬、ストックオプションなどそれぞれに会計処理のルールがあり、会計処理はそれらに従って行われる。

そしてまた、役員報酬は開示ルールに従って行われる。

日産が、会計ルールに従って引当金の要件を満たさないため80億円を費用に計上しなかったとしたら、会社として費用認識していない役員報酬を開示するとも思えない。 

 

税務調査で交際費として会計処理されている項目が、役員賞与と認定されるケースがあるが、それは法人税法の規定に則った判断をしたため、会計ルールと齟齬が生じるわけだ。ルールが異なることによって解釈の差が生じることはあるが、今回のゴーン氏の件はどうだろうか。

金融商品取引法有価証券報告書の虚偽記載

と言うからには、あくまで、役員報酬開示ルール、そしてそのベースになる会計ルールに照らして適切かどうか、ということだと理解する。

 

であれば、

ゴーン氏の役員報酬開示が会計ルール、開示ルールのどの部分に抵触しているのかを明確にして欲しいし、報道もそこを強調して欲しいと思う。

 

80億円、100億円と注目を集めるため誇張して報道するのは構わないが、ルール違反と言うからには、本来あるべき金額を示す必要があるのではないか。

報道では、開示と申告を混同することもしばしばで、ホントに分かって報じているのかなと思う…

 

報酬のもらい過ぎ(これだって何を基準にとなるが)、会社を食い物にしている、従業員、取引先に辛い思いをさせて自分は良い思いをしている、といった感情的な部分で判断されるのは違うように思う。

それはそれで別のところで問われれるべきで、だから有価証券報告書もきっと虚偽記載していたはず、とはならない。

 

対象となる役員報酬の範囲にしても、開示ルールに明確な定義が無い以上、会社ごとに独自の解釈が入る余地はある。

仮にこれまで都度当局から指導等無いままに、事後的に異なる物差しを持ち出して、これは役員報酬に該当する、開示していないからアウト、と言うのであれば、日産に限らず全ての上場会社が慌てるのではないだろうか。

 

ここ数日、ニュースで新しい情報が報道される度に、疑問は深まるばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

RIZAPの下方修正は何が問題なのか!?【割安購入益って何?】


www.nikkei.com

 

RIZAP株式が連日のストップ安265円(2018/11/16時点)・・・

先日の19年3月期第2Qの決算発表を受けての株式市場の反応だ。

RIZAP株式は昨年、17年11/24に最高値1,545円を付けて以来ほぼ一貫して下落し、

ついに今年度の最安値となった。

(追記:11/19 最安値更新248円 ううう・・・)

 

『フィットネスジム経営を軸に積極的なM&A(合併・買収)で多角化を進めてきたRIZAPグループの経営が転換点を迎えた。14日に2019年3月期の連結最終損益(国際会計基準)が70億円の赤字になりそうだと発表した。159億円の黒字との従来予想から一転、大幅な赤字となる。今後は新規のM&Aの凍結と不採算部門の撤退で収益性を重視していく。』

 

RIZAPはここ数年、積極的な企業買収を繰り返し、直近18年11月時点では連結子会社は85社、グループ従業員は約7000人に達したとのこと。

買収した会社の再建が思うように進まず、不採算事業の整理などに伴い155億円の損失を計上する見通し。

 

RIZAPは過去の決算説明資料の中で、M&Aの方針について以下のように語っている。

 f:id:tesmmi:20181120175841p:plain

 (2018年3月期 決算説明会より)

 

(何故その会社を買うのかの事業戦略的な論点)

RIZAP事業とキーワード”自己投資”で関連する企業に対するM&Aであること

それによって、主軸事業のノウハウが活かせシナジー効果が期待できること

 

(いくらで買うのかの財務戦略的な論点)

適正価格でM&Aすること

 

(買った後の管理(PMI)の論点)

同じ船に乗る、M&A後の統合を進めること

 

と、僕の解釈に間違いがなければ、

RIZAPのM&Aに対する基本的な考え方は間違っていないと思う。

 

基本的な考え方、は、ね・・・

 

ちなみに、この資料は19年3月期第1Qの決算説明会の資料だ。第2QではM&A凍結へ方針転換したが、そのつい3か月前まではM&Aに対する積極的な姿勢を見せていた。

 

実際、この3年間で連結会社数が約55社増加している。

 

2015年3月期:連結会社数 19社

2018年3月期:連結会社数 75社

 

急ピッチなM&Aの展開を危惧する意見もあろうが、事業戦略上、計画を早期に進める必要があるのではあれば、個人的にはそれ自体は問題ないと思う。

 

それをやりきるだけの、ノウハウとリソースがあれば、ではあるが・・・

 

しかし、下方修正と言うことは、何らかの見込違いがあったと言うことであり、

それが、不可避的な外部要因なのか、それとも、内部要因、つまりRIZAPの事業戦略あるいは経営管理に問題がなかったかどうかを分析することは、今後のRIZAPの業績を予測する上でも重要だと思う。

 

【RIZAPの下方修正の問題点】

 

今回のRIZAPの下方修正について、以下の点に疑問を感じる。

 

・買収後の経営再建プロセスの遅延

 

M&AがRIZAPが掲げる基本方針通りに実行されていたのだろうか?

 

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 (2019年3月期第2Q決算説明資料より)

 

後述の割安購入益にも関連するが、RIZAPが買収した会社の中には足元の業績が悪化している会社も少なくない。そのような会社を放置しておけば当然ながら赤字が継続するだろう。

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(日経朝刊より)

 

M&Aを成功させるには、買収後にRIZAPのノウハウやリソースと掛け合わせることで業績を回復する必要がある。この点は、RIZAPの重々に承知しているはずだ。

 

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 (2019年3月期第2Q 決算説明会資料より)

しかしながら、今回の下方修正の要因の1つは、このような会社の経営再建の遅れ(約71億円)という。構造改革費用等も同種の内容が含まれるとすると、ざっくり今回の下方修正の原因の半分以上になる。

 当初から分かっていたはずの買収後の経営再建が想定通り進んでいないということは、買収時には予測しえなかった事態が発覚、あるいは発生したのか、

それとも、あるべきプロセスをやっていなかったのだろうか?

 

努力はしたものの、買収後の統合過程において非買収会社との経営再建方針の折り合いがつかず思ったように再建が進まなかったということは考えられるが・・・

 

ここまでは理解できる。

 

『瀬戸社長は「グループシナジーが見込めない事業については積極的に縮小、撤退、売却を検討していく」と述べ、拡大路線を百八十度転換し、新規のM&Aは凍結する姿勢を示した。』 

とある。

 

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 (2019年3月期第2Q 決算説明会資料より)

 

基本方針ではRIZAPとのシナジー効果が見込める企業を買収対象とするとしていたはず。

買収時にはシナジーが期待できたが、買収後に期待薄となったということだろうか?

そうであれば買収時のデューデリジェンス(DD)が適切に行われたのかと言う疑問は残るが、それ以上に、もしかして買収自体が目的になっていなかったか?と言う点が気になる。

 

経営目標、それを実現するための事業戦略の一環としてのM&A、つまり経営目標という目的を達成するための手段としてのM&Aそれ自体が、目的に変わっていたのではないか?と言うことだ。

 

その疑問を助長するのが以下だ。

 

・割安購入益の活用

 

『路線変更は、RIZAPの利益に大きく貢献してきた会計処理が今後は使えなくなることも意味する。この会計処理とは、割安な買収の際に発生する「負ののれん」だ。

負ののれんとは買収額が買収先の純資産を下回った場合、その差額を買収したタイミングで利益として一括計上するもの。企業を割高に買収した際に発生する「のれん」とは逆だ。経営不振の赤字企業を中心に買収してきたRIZAPでは、18年3月期の営業利益(135億円)のうち、6割以上を負ののれんが占めた。』

 

負ののれんの概要は記事に書かれているとおりで、以前当ブログでも取り上げているので参考にして欲しい。

 

【参考過去ブログ】

tesmmi.hatenablog.com

tesmmi.hatenablog.com

 

負ののれんは、異常な存在だ。どのくらい異常かというと、会計ルール(企業結合に関する会計基準 110、111項参照)にも、『異常利益』としてそもそも勘違いかも知れないからもう一回ちゃんと負ののれんが発生するかどうか再考しろ、とあるぐらいだ。

https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/ketsugou_1.pdf

 

そもそも、仮に会社を安く買収したとして、買っただけで利益が出ること自体疑問に思う人もいるのではないか(それは極めて正しい感覚だ)。

 

【負ののれんの発生要因】

そもそも、どういうケースで負ののれんが発生するのか。

例えば、足元の業績が悪化しており、このまま事業を継続すれば徐々に企業価値が下落すると考えられる企業を買収するケースだ。現時点では未だ実現していない将来の企業価値の目減り分M&Aでは買収金額に織り込んで評価するため、純資産>買収金額となるわけだ。ということは、買収する企業にとっても、買収時に一時的に利益(割安購入益)を得たとしても、買収した企業が以降損失を発生し続ければせっかくの割安購入益が帳消しになる。

当たり前と言えば当たり前。

世の中そんな都合の良い話は無い

 

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 (2018年3月期 RIZAPグループ決算説明資料より)

 

上の決算説明会資料からも分かるように、RIZAPもそんなことは当然織り込み済みだ。しかし、結果としては再建が思うように進められていないことが問題だ。

が、ここまでは理解できる。

 

しかし、次は解せない。

 

『瀬戸社長によると負ののれんは「2年ほど前から業績予想に織り込んでいた」。19年3月期も、買収が実現していないにもかかわらず、期初の利益予想にあらかじめ織り込んでいた。M&Aの凍結でこれが消え、総額100億円を超える利益が押し下げられる。』

  

RIZAPは、負ののれんによる割安購入益を業績予想に織り込んでいたという。

自社の事業戦略、事業ポートフォリオに見合った買収先企業をタイミングよく見つけられること自体当たり前にあることじゃない。その上、さらに割安に買収できる機会なんてそうそう期待できるものでもない。

 

M&A路線が凍結すれば当然、予算計上していた割安購入益が未達となる(これも下方修正要因)。

 

 

この点、監査法人は予算の妥当性を監査していなかったのか?との指摘もあるが、監査法人は会社の予算に対して監査意見は述べない。企業の継続性、固定資産の減損、あるいは引当金の妥当性など、来期あるいは当期の会計監査プロセスにおいて会社の予算を確認することはあるが、仮にその予算はちょっと・・・と思ったとしてもそれを修正させるまでには至らない。

 

そういえば、数年前、イギリスで大手流通企業のTescoの業績予想が不適切だったとのことで罰金処分が下ったが、業績予想にまで会計不正が及ぶのかと驚いた。しかし、

gumiのように上場後即の下方修正など、株式市場に与える影響の大きさからすれば日本で同様の措置が必要になるかもしれない。

 

キャッシュ・フローに表れるM&A戦略の歪み】

 

このようにみると、

RIZAPは当初のM&A方針から逸脱し、M&Aを繰り返すこと自体が目的化したのではないかという疑問が浮かぶ。

 

それを裏付けるのが、キャッシュ・フローだ。

 

過去3年間のキャッシュ・フローを要約すると以下の通りだ。

 

               (単位:億円)

                      2016/3       2017/3     2018/3

営業CF        8,680    1,755           876

投資CF    △ 39,731   29,147 △ 34,952

財務CF         51,375 110,885    227,252

【参考】

当期純利益          15,878      76,781        92,503

 

さらに、直近2期の詳細は以下のとおり。

 

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 (RIZAPグループ 2018年3月期有価証券報告書より)

 

まず目につくのが、当期純利益と比較した場合の営業キャッシュ・フローの小ささだ。普通に健全な会社であれば、営業キャッシュ・フロー当期純利益は2倍~3倍だ。ところが、RIZAPの場合は2倍どころか当期純利益に圧倒的に満たない、2018年3月期などは当期純利益の1%に満たないレベルだ。

営業キャッシュ・フローの内訳から、営業債権、たな卸資産の増加が主たる要因であることが分かる。RIZAPの基幹事業であるフィットネスサポート事業は通常、前金入金、在庫も不要と言ったキャッシュ・フロー的には有利なビジネスだ。買収した会社が売上債権、在庫などの運転資本が必要な会社であること、さらには、それらの会社の売上債権、在庫の不効率が要因ではないかと考える。

 

次に目につくのが投資キャッシュ・フローだ。M&Aには買収先の株式の取得に資金が必要(「子会社の取得による支出」が該当)となり、その結果

投資キャッシュ・フロー合計はマイナスとなるのが通常だ。

RIZAPのように多数のM&Aを繰り返すのであればなおさらだ。ところが、2017年3月期など投資キャッシュ・フロー合計はプラスとなっている

2017年3月期には、マルコ、ジーンズメイトタツミプランニング、ぱど等約10社のM&Aを行った年度だ。投資キャッシュ・フローは当然マイナスになると予想される。

投資キャッシュ・フローの内訳を見ると「子会社の取得による収入」と言う奇妙な項目が目を引く。会社の株式を買収したのにキャッシュが増加(収入)?一見理解しがたい項目だが、簡単に言うと、100億円で買収した会社が150億円のキャッシュを保有している場合、ネットで50億円のキャッシュが会社に流入する。投資キャッシュ・フローの内訳には、このネット・キャッシュ・フローを記載するため「子会社の取得による収入」ということも起こり得る。

 

RIZAPはM&Aによって業績を拡大してきたが、事業によるキャッシュ獲得能力が乏しい。そのため、M&Aによる拡大路線を進めるためにも割安に買収できる会社を探して買収することが必要だったと思われる。

 

もしかして、事業戦略上買収すべき会社よりも割安で買収できる会社を優先したのだろうか・・・

 

さらに、M&Aに必要な資金を借入、増資によって賄う。財務キャッシュ・フローが継続的にプラスなのはその表れだろう。そして、資金調達を円滑に効果的に行うためにも見栄えの良い業績を作り上げる必要がある。

 

買収後の経営再建の遅れが予算を圧迫し、それがまた新たなM&A(による割安購入益)によって覆い隠さないといけなくなる・・・という循環になっていたのではないだろうか。

 

そう考えると、いずれこの流れが続かなくなるかもしれないと思いながらも、もはやM&Aをやめられない、止まらない、買収し続けないと転ぶ、ある意味の自転車操業的な状況に陥っていたのではないか。

 

もちろん、想像の域は出ないけど…

 

以上、つらつらと今回のRIZAPの業績下方修正の問題点を自分なりに考えてみた。

平たく言えば、

やるべきことをちゃんとやっていない。

当然把握されるリスクに手を打てていない。

手段が目的化している。

要は、身の丈に合った成長を超えてしまった

ということかもしれない。

良いか悪いかと言えば、良いことではないだろう。

しかし、分からないでもない・・・

 

 とはいえ、RIZAPは基幹事業は堅調とのこと。

そして、プロ経営者の松本氏の経営への参画。

また、いろんな社内の軋轢(これが性急な拡大路線を後押ししてしまったのかもしれないが・・・)の中、松本氏の意見を受け入れた瀬戸社長。

今後のRIZAPの業績回復に期待したい。

会計ルールが営業スタイルを変える? 【不思議系記事】

www.nikkei.com

『「新ルールの導入で現場の営業スタイルが変わった」。国際会計基準IFRS)採用の花王の担当者は目を見張る。』

 

花王の担当者は新ルール導入の効果に目を見張ったらしが、

僕はこの記事に目を見張ってしまった・・・

 

ウソやろ~ 

 

なるほど、そう営業すればよかったのか!

会計ルールが変わって初めて気が付きました

 

これ、本当なんかな・・・

 

IFRSは2018年度から収益(売上高)計上に関する新ルールを強制適用した。同ルールを前倒しで適用した花王は17年12月期から、従来は売上高に含めるとともに費用に計上していた取引先へのリベートを売上高から控除する方法に変更。結果、前期の売上高と営業費用がともに400億円以上目減りした。

同社の営業社員はこれまでリベートを取引先に払うことが売り上げの増加に直接つながったが、新基準ではリベートをいくら積んでもその分は売り上げの増加にはつながらない。「本社でリベートと売上高のバランスがより見えやすくなった」(花王)という。』

 

現在の日本の会計基準では、リベートの取り扱い(会計処理)は明確に定められていない。業界や個社のこれまでの会計慣行にならった会計処理をしていることが多い。

対して、IFRSではリベートの性質により、値引きに相当するリベート(達成リベートなど多くは値引きに該当する)の場合は売上高から控除(値引き処理)し、得意先の販促費等を実質的に負担する場合は販促費(販管費として会計処理する。

 

もっとも上場会社や会社法の大会社など監査法人の会計監査が入っている会社においては、日本の会計ルールを適用していたとしても客観的そして会計の専門家の見地からリベートの性質に応じて値引き、あるいは販管費として適切に会計処理されているとは思う。とはいえ、

 

『従来からこう処理していますし、御法人の先生方にも認めてもらっていました!』

と言われると・・・な部分もあろうが

 

現状、多くの日本企業はリベートを販管費(販促費)処理している会社が多いのではないだろうか。

販管費として処理しようが、値引として処理しようが、営業利益に与える影響はない。しかし、売上総利益、そして売上高は減少する。

平成も終わろうとしている時代に売上高至上主義と言うものどうかと思うが、伝統的に日本の会社(というか経済社会)は売上高を重視する傾向が根強い。

 

しかし、これはあくまで財務会計のルール、つまり

外部報告用の会計処理について、

のことだ。

 

花王は売上高総利益率(粗利益率)が適用前の56%(16年12月期)から適用後に44%(17年12月期)になった。競合する米国基準を適用する米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は49%だ。「世界のライバルと同じ基準で財務指標を比べることで、会社にどんな改革が必要なのかがわかりやすくなった」(花王)という。』

 

あるいは、冒頭の

 

「新ルールの導入で現場の営業スタイルが変わった

 

これをどう受け止めればいいのだろうか・・・

 

以前はどのように他社と比較していたのだろうか?

何を経営上の重要指標(KPI)としていたのだろうか?


財務会計のルールは共通のルールではあるが、それが必ずしも個社の事業の評価に適しているとは限らない。財務会計のルール以前に、自分たちのビジネスの競争優位性はどこにあると考えいたのだろうか。会社の事業の評価、また進捗の管理に適した利益やKPIは会社が自ら考えて設定するべきものではないだろうか。


ウチでは以前から「管理上」はこうしていたけど、結果的に財務会計のルールと同じになった的な受け止め方かと思ったが・・・


ま、会計が少しは会社の役に立ったということで良しとするか(正しい方向に営業スタイルが変わったという前提で)(笑)