溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

伊藤忠・デサント 40%TOBの意味  【会計士のつぶやき】


maonline.jp

 

今回が事務所ブログ200回目の投稿。

かれこれ4年、早いなあ(遠い目)・・・

 

今回は、200回記念ということで(?)、

伊藤忠デサントに対するTOBの意味

について思うところを書いてみたい。

 

伊藤忠デサントの持ち株比率は約30%

それなりの影響力はあるが、実質的な経営支配権を持つまでには至らない。

 

デサント1984年と1998年の2度にわたる経営難の際に伊藤忠からの出資、支援を受けて経営再建してきた。それ以前はデサントの経営は創業家が中心だったが、94年以降、3代続けて社長は伊藤忠から送り込まれていた。ところが、2013年に創業家(石本社長)が復権創業家が悲願の経営権奪還ということだろうか、韓国市場を重視するなど独自路線を展開した。しかし、これが伊藤忠との経営方針の違い、軋轢を生んだ。業を煮やした伊藤忠は、デサントを子会社化し同社の経営権を握る目的で今回のTOB(株式公開買い付け)に踏み切ったということのようだ。

 

しかし、このような経緯からすれば、TOBにより取得する持ち株比率が40%というのは理解に苦しむ。株主総会での重要議案の拒否権の1/3は取得できるものの、過半数には届かない。

この点は、他方のメディアや識者からも呈されている。

何か理由があるんだろうな、とは思ってはいたが、どうにも合点がいく理由が見当たらなかった。

なんでかな、と考えていたところに、この記事や他にもいくつか同様の視点で書かれた記事を読んで、なるほど、と思った。

 

ここからは、その”なるほど”を説明するのだが、特段の根拠があるわけではない。

あくまで

一会計士の妄想的ファンタジー

として理解いただきたい。

 

日本では、敵対的買収は難しいと言われて久しい。

そもそも、何をもって敵対的買収と言うかも曖昧な場合が多いが、伊藤忠デサントのケースを見ても、よくあるパターンは買収者対経営者だ。

有名なところでは、スティールパートナーズによるブルドックソース明星食品の買収、王子製紙北越製紙買収、村上ファンド阪神電気鉄道買収などだが、ことごとく失敗に終わっている。

買収の成否も曖昧ではあるが、分かりやすい例では、50%超の議決権を取得することだろう。金商法により、買付け後の株券等所有割合が3分の1を超えるような株式取得をする場合はTOBによる必要がある。大量保有報告書(通称:5%ルール)もあるので秘密裏にこそっと取得というのは難しい。

 

買収失敗と言うことは、会社の既存の株主(旧株主)が買収者(新株主)に対して株式を譲渡することを拒否したということだ。上場会社であれば、オーナー家の持ち株比率は相当に低下していることが通常だ。デサントは特に経営難の際に伊藤忠の支援を受け入れていることもあり、創業家の持ち株比率は5%に満たない(有価証券報告書から推察)。

創業家だが、オーナー家とは言えないレベル

だ。

要するに、経営者兼オーナーであれば、買収者はまさにインベーダー(侵略者)であり、これを拒絶するのは分かる。しかし、会社の経営者でもオーナーでもない株主が、さながら経営者と自身を同一視して、買収者を侵略者とみるのはどうにも不思議だ。特に相手が外国人(外資)の場合は、その傾向が顕著に表れる。『日本の伝統や価値ある資産を外国に奪われても良いのか』というナショナリズムを煽ったり、『奴らは買収したら会社を切り刻んで売却して利益を得ることしか考えていない、従業員が不幸になる』と被害者感情を煽ったりすることも要因としてはあるのだろう。

しかし、冷静に考えると、TOBは通常、現在の株価にプレミアムを付けて提示される(デサントの場合も約50%のプレミアム)。また、そもそも買収ターゲットとされるのは、本来の会社のポテンシャルに対して成果が見合わない経営をしているからともいえる。そのままの経営を継続して、TOBで提示された価格より株価を高められるかは相当に怪しい

企業買収というと、一見、買収される側が被害者であり可哀想、買収する側が憎き悪者とされるが、皮肉にも実際には、

企業買収によって利益を得るのは買収される側の株主

であることが多い。

 

しかし、このような構図で企業買収を括るのを多く見かける。 

 

そして、この構図の理解こそが、

今回のTOBスキームの背景にあるのではないかと推察する。

 

要は、日本の企業や経済社会には、資本の論理が根付いていないということだ。

資本の論理や法律云々よりも社会の合意形成を重視する国民性。きっちり決めごとを結ぶのは相手を信用していない証拠ととらえる。例えば、取引基本契約書を取り交わしていないケースもごまんとある。

資本の論理を振りかざして50%超のTOBを仕掛けること自体にアレルギーを感じるのだ。買収の理由はさておき、当事者以外の直接関係ない社会全体までもが買収者を悪者扱いするきらいがある。

 

伊藤忠はそれを避けたかったのではないだろうか。

 

無理矢理に経営支配権を奪えば、デサントの株主や従業員も反発する。仮に、デサントの現経営陣に問題があったとしても、却って彼らの立場を良くしてしまうことにもなる。買収成立後にごたごたが続けば、デサントの経営が停滞し株価も低迷するだろう・・・

 

また、そのような影響を感じたデサント株主が応じないと、TOBは不成立となる。メディアは伊藤忠TOB失敗』と報じるだろうし、その結果、伊藤忠の株価が下落なんてことにもなり得る。

 

そうなれば、伊藤忠は益々立場が悪くなる

 

しかし、50%超に至らないレベルのTOBであれば、デサント株主のアレルギー反応も抑えて、実質的な利得を考えてTOBに応じる可能性が高まる。また、TOBに応じなかった株主にとっても株価上昇の恩恵を得ることができる。

伊藤忠TOB公表TOB価格の2,800円)は1月31日TOB公表直前の株価1,871円の1.5倍だ。2/1の終値は2,771円まで上昇した。記事を書いている3/27時点では2,826円とTOB価格をさらに上回った。

役員構成も、伊藤忠から2名、デサントから2名、+中立的な社外役員2名を提案し、こちらもあからさまな経営支配はしないポーズを示している。あくまで会社の重要意思決定は合理性を重視してのことという体を作る。

実際どうかは分からないが、強かなやり口だ。

 

また、伊藤忠TOB成功という実績も重視したのではないだろうか。同じ40%の議決権を取得したにせよ、50%超を狙っての40%と40%を宣誓しての40%では成否のイメージが異なる。増して、40%を超える株主となれば、多くのデサント株主が今回のTOBに賛同している印象づけることができる。今回のTOB成立の結果、石本社長が退任して新たに伊藤忠から社長が派遣されることなった。この事実を見ても、

40%TOBであるが、さながら買収成立を彷彿

とさせる。

 

伊藤忠の岡藤社長はデサント連結子会社したいという報道もあった。

現在の持ち株比率約30%は会計上は関連会社として持分法適用会社だ。これを連結子会社化しても、財務的な影響はさほどない。

例えば、利益に与える影響は無い

むしろ、連結子会社とした場合、デサントの総資産が連結財務諸表に取り込まれるためROAなど一部の財務指標は悪化すると思われる。

したがって、連結子会社とする理由は財務的な目的よりも、グループ会社としての位置づけを持分法適用会社から連結子会社に引き上げることで、伊藤忠デサント経営への関与の度合いを深めることを目的としたのではないだろうか。

少々実務的な話になるが、例えば経理実務においても持分法適用会社と連結子会社では親会社が入手できる情報が相当違いがある。親会社の要求を通しやすいかどうかということだ。情報や資料の要求に際しては、相手方の作業を必要とすることもあり、持分法適用会社の場合、通常は他にマジョリティを持っている株主がいることが多く、要求を通しにくい(要求しにくい)。デサントの場合は、伊藤忠筆頭株主ではあるが、創業家出身の社長の体制下では経理だけでなく、様々な経営判断に必要な情報の入手が困難だったのではないだろうか。

ところで、説明が前後するが、

40%の持ち株比率でも連結子会社とすることは可能だ

もちろん、どんな場合でも可能ということではないが、現在の会計ルールでは、連結子会社の判定は議決権比率だけでなく、トータルで見て実質的に支配しているかどうかで判断する。極端な例では、0%の議決権比率でも連結子会社となる場合もある。

伊藤忠のように40%の議決権を有している場合には、これ以外に、

人事、資金、取引等を通じてデサントの意思決定機関を実質的に支配していると推察される場合は連結子会社と判定される。

実際にどのような判定になるかは、TOB成立後の最初の決算期の決算で明らかになるだろう。

 

このように考えると、今回の伊藤忠デサントに対する40%TOBの意味は、

チェスでいうところの”チェック”の状態といえるのではないか。

また、名実ともにデサントを子会社化するとの意向をデサントの株主や社会全体に示すとともにお伺いを立てる、一定の猶予期間を設ける意味を持つのではないかと考える。

 

資本の論理を振りかざさない、力ずくでない企業買収。

合意形成を強調しながらも、実質的には徐々に経営支配を強め実効支配に至る。

 

つらつらと書いてきたが、要するに、今回の伊藤忠によるデサントに対するTOBは、

 

日本の国民性を意識した新型の敵対的買収

 

ではないかと思う。

 

今後、このタイプの買収が増えるのではないだろうか。 

 

なお、そうは言いつつも、

実効支配が既成事実化した段階では50%超の議決権を押さえにかかる、

とみるが、果たしてどうだろうか・・・

 

セブンイレブンの24時間営業の是非     【会計士のつぶやき】


www.nikkei.com

 

セブンイレブンの24時間営業が社会問題となっている。

フランチャイズ(FC)加盟店のオーナーが、本部に営業時間の短縮を求めているが、

これは高騰する人件費を抑制するため、自ら度重なる深夜業務に疲弊してのことだ。

セブンイレブン本部でも一部店舗で時短営業の実験を始めるらしい。

 

我々消費者にとっては、事が急に動いた感があるが、実際にはこのような

問題は以前から起こっていたのだろう。

コンビニ経営をしている(加盟店オーナー)も本部からの要請が厳しい

というボヤキを耳にした記憶がある。

 

24時間営業も『粗利分配方式』も本部と加盟店オーナーの間の契約に基づくものである限り、法的には問題ないし、互いに遵守すべきものだろう。

”しんどい”という理由だけで加盟店側の主張が通るならば、互いのビジネスが成り立たなくなってしまう。

 

また、契約内容も最初から不合理なものであったならば、これだけ多くの加盟店を抱えるFCビジネスには成長しえなかったのではないかとも思う。

 

粗利分配方式では、粗利(=売上高―売上原価(加盟店の本部からの商品仕入

を一定割合で本部と加盟店が分け合う(記事には本部取り分が4割~6割)とある。

店舗運営で必要となる人件費、店舗の維持管理費等の経費は加盟店の負担となる。

店舗経費の中でも人件費の占める割合が大きいとのこと。

 

加盟店側の損益構造をざっくりまとめると、

 

限界利益-固定費=利益

 

となる。限界利益は店舗の粗利(本部分の粗利分配後)のことだ。

小売業では粗利=限界利益となる。

なお、ここでは便宜上、粗利と限界利益を使い分けるが、その意味は同義として取り扱うこととする。

 

店舗の限界利益から店舗に係る固定費を差し引いた利益が店舗利益となり、その多くは加盟店オーナーの報酬(所得)となるのだろう。

このビジネスモデルがそれなりに機能していた時期は、加盟店は限界利益で固定費が賄えたのだろうと思う。

 

それが、昨今は厳しくなってきた原因としては、

 

限界利益の減少

・固定費の増加

 

のいずれか、または両方が考えられる。

 

限界利益の減少の要因として、まず店舗売上高の減少が考えられる。1店舗当たりのコンビニの売上高がそれなりに見込めた時代は、仮に粗利の6割を本部に持っていかれたとしても、手元に残る粗利(限界利益)は”一定の金額”を確保することができたのであろう。しかし、コンビニ店舗数の増加や深夜の購買客の減少などの外部環境の変化により店舗売上高が減少すると、粗利すなわち限界利益は減少する。

また、粗利率の低下の可能性もあろう。具体的には小売価格の低下や仕入価格の増加などが考えられる(実際の例は把握していない)。しかし、セブンイレブンは24時間営業を継続する(したい)理由の1つとして、24時間営業を前提とした商品の生産システムや物流システムを維持することを挙げている。一般的にこれらは店舗側から見ても仕入価格が低下するだろうから、むしろ店舗の粗利率の改善につながるのではないかと思う。

 

一方で、店舗の固定費の増加については、店舗の維持管理費用の増加、中でも店舗人件費の高騰が主要因と考えられる。

 

店舗の限界利益が減少して、固定費が増加すれば、利益は減少する。

 

会計的に見れば、このような状況がセブンイレブンのFC加盟店で起こっているのではなないかと思う。

 

そして、この状況が、特定の店舗、加盟店の努力不足ではなくセブンイレブンの店舗の98%を占めるFC店のほとんどで起こっているとなれば、もはや個別の問題ではなく、構造的な問題と言えるだろう。

 

これに対して、本部は利益分配比率を見直したとのことだが、それで十分かどうかは検討の余地はある。また、例えば、従来店舗経費として固定費扱いにした店舗人件費の内、店舗の営業時間に比例的に発生する人件費については仕入代金と同様に売上から控除後でロイヤリティ計算する等、粗利分配方式の見直しも必要になるかもしれない。

 

問題はFCビジネスの根幹である加盟店の事業継続の可否であり、24時間営業の是非ではないように思う。

 

現在起こっている問題が、24時間営業を止めれば解決するのであればそれで良い。しかし、本部が24時間営業を継続する理由はそれによって店舗の売上が伸びると考え得るからだ。ニュースによれば、24時間営業を止めたら昼間の売上も含めて店舗売上が3割低下した例もあるらしい(真偽のほどは明らかではないが)。

仮に24時間営業を止めて店舗の売上が下がれば、限界利益も低下する。これに対して、時短営業による店舗固定費がそれを上回らなければ、店舗の利益は悪化する。

また、時短営業によって24時間営業を前提とした生産、流通システムから加盟店が得られたコストメリット仕入金額等の低下)が失われる可能性もある。これも、粗利率の低下→限界利益の減少となる。

 

24時間営業は、現在のセブンイレブンのFCビジネスモデルの1つのピースだ。部分的に変更することでビジネスモデル全体が機能不全を起こすこともある。加盟店オーナーが気の毒といった感情的衝動による対応は賢明とは思わない。

仮に、本部が店舗人件費の一定割合を負担しても店舗の売上高規模を維持するメリットの方が大きければ、本部にとってもFC加盟店にとっても24時間営業を継続した方が得策かもしれない。

その場合は、大枠は現状のビジネスモデルを維持しつつ、本部とFC加盟店の負担関係の見直しという対応が望ましい

 

一方、セブンイレブンの本部が、24時間営業の”原則”と言ったり、24時間営業を見直すつもりはない、とするのもどうかと思う。数店舗の店舗閉鎖や加盟店の解約であればFC体制全体としては維持できるが、多くの加盟店がやっていけない、事業継続が困難ということであれば、いかに本部が24時間営業の原則と声高に叫んだところでビジネスモデルが成立しない。この場合は、現状のビジネスモデルの改革が必要となるだろう。

 

ビジネスモデルやそれを支える管理会計の仕組みは、外部環境などを踏まえた事業戦略を支援するための手段、ツールだ。会社の目指すゴールは同じであっても、外部環境の変化により事業戦略が変われば、それを支援するビジネスモデルや管理会計の仕組みもまた変化が求められる。ビジネスモデルは、早晩改廃される、宿命だ。

 

セブンイレブンが、24時間営業やそれを前提とした生産、物流システムを構築するのに多大な時間やコスト、努力があったろうことは想像する。

 

とはいえ、それを維持することが目的となると本末転倒になりはしないだろうか・・・

 

 

 

 

 

 

上場株式の時価変動の決算数値への影響 【バフェット氏のボヤキ】

https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20190226&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO41713430V20C19A2EE9000&ng=DGKKZO41713430V20C19A2EE9001&ue=DEE9000

 

保有株評価損で赤字 10~12月、米株安が直撃』 

(日経朝刊より 2/26/2019)

 

ついに来た!!

と言う感じの記事。

以前から書こうかなと思っていたところにジャストミートで掲載されたので

乗っからせてもらう。

 

新しい時価評価は純利益に気まぐれで、

荒っぽい変動をもたらす」

(日経記事より抜粋)

 

何とも歌詞っぽい表現ではないか、やるな日経(笑)


バークシャーが同時に発表した18年10~12月期決算は最終損益が253億ドルの赤字だった。前年同期の325億ドルの黒字から一転して赤字に転落した。
米国では17年12月以降に始まる会計年度から、企業が保有する上場株の評価損益を

純利益に反させる会計基準が適用された。米会計基準トヨタ自動車は持ち合い株の評価損などで、19年3月期通期の純利益予想を引き下げた。』

(日経記事より抜粋)

 

バークシャーの赤字要因は、保有する上場株式の評価損益に係る会計ルールによるとのこと。

記事にもあるが、バークシャーの記事に先立って日本企業でも米国会計基準を採用するトヨタやワコールが同様の決算発表を行っていた。

 

www.nikkei.com

ワコールホールディングスは25日、2018年10~12月期に有価証券の評価損で135億円を計上すると発表した。この期間の世界的な株安を受けて、取引関係がある政策保有株を中心に評価損が発生した。』

(日経記事より抜粋)

 

トヨタでも同様の記事があったが、記事を読んだ当初、

この記事の意味が一般に理解されるのだろうか?

と疑問だった。

 

その疑問が通じたのだろうか、その後こんな記事が掲載された(笑)

企業が保有する上場株式の評価ルールが日本とアメリカでは異なる。

日米間の会計基準差異GAAP差異)だ。

 

日本基準を採用する会社では、保有する上場株式の時価変動が業績へ影響を

及ぼすことはないが、ワコール、トヨタと言った米国会計基準を採用する会社

では株価変動が業績へ影響(P/Lインパクト)をもたらすことになる。

 


ここで簡単に、日米間の上場株式の時価評価ルールの相違をまとめる。

 

保有する上場株式の時価変動の会計処理@決算時

日本:時価評価/評価差額は純資産(B/S)へ計上

米国:時価評価/評価差額は純損益(P/L)へ計上

 

ちなみに、IFRSでは以下の通り。

IFRS時価評価/評価差額は純損益(P/L)、あるいはその他包括利益(OCI)のいずれかへ計上(選択可)

OCI:その他包括利益(other comprehensive income)

 

日本基準では、例えば、保有上場株式の時価が100から80へ下落した場合、差額の20は純資産を20減少させる処理になる(厳密には税効果部分は繰延税金資産として計上)。したがって、日本基準を採用する多くの日本企業は、保有上場株式の時価変動の影響はP/Lへは表れない

 

企業が保有する上場株式の会計ルールの違いの背景には、両国の企業を取り巻く外部環境の違いや投資家の企業に対する期待の違い等様々な違いがある。

例えば、米国でも一般の事業会社においては、この会計ルールが企業損益へ多な影響を与えることは少ないと言われる。事業会社が他の上場会社の株式を保有する割合が少ないためだ。株主、投資家の企業に対する期待は、自分たちが投じたおカネを事業へ投資してリターンを得ることだ(そして、そのリターンを投資家へ配当、自社株等で還元)。したがって、投資から集めたおカネで他社の株式を取得することはある意味裏切り行為となる。こうした資本の論理がある意味会計ルールへ反映された結果ともとれる。

他社の株式を買ったら、

時価評価して業績へ反映させるぞ!!

ということだ。

ところが、バークシャーのような(金融)資産運用会社にとっては、保有する上場株式の時価変動が会社の業績へ直接的なインパクトを与える。

もっとも、株式の時価は常に変動するため、下落することもあれば上昇することもある。上がって下がって、結局年間通してみればプラスマイナス0ということもあろう。

しかしながら、上場会社の決算は四半期ごとに公開されるため、株価変動のような一時的な保有資産の価値変動が四半期ごとに業績へ反映され、それが当該企業の株価へ影響を与えることにもなる。

 

以前、当ブログでトランプ大統領が四半期開示制度を廃止すべきといったtweet発言があったと紹介した。

tesmmi.hatenablog.com

 

その発言の元になったのが、バフェット氏の以下のコメントだ。

 

『企業が四半期決算に縛られると、数字合わせという操作に走り、企業の長期的重要関心事に反する愚かなことをするものだ。この操作は一旦始めるとやめられなくなる傾向がある。最高経営責任者(CEO)がxxドルなどと四半期利益予測を出し、その企業の業績が改善された例など見たこともない。結果的に、企業は誤った情報を発信していることになる。私はマネジャーたちに、50年続く同族企業に居るつもりでやれば、正しい決定ができるものだと説いている。私は20ほどの企業の顧問をしているが、目標達成が困難になると数字を操作するという悪癖に陥りがちだ。しかも一度始めたらやめられなくなる。IR部門が風評被害を恐れ口を挟み、愚かなことをしがちなのだ』

 

四半期情報のアメリカの企業へ投資家全般に対する弊害への警鐘というよりも、自社の業績への悪影響は勘弁してくれ、という叫びにもとれる(笑)

 

へ~、アメリカは大変だね、と対岸の火事を決め込んでもいられない。

 

会計ルールは常に改正の可能性がある。そして、改正の方向のキーワードは国際的な調和だ。国際間のルールの差異を解消する方向でルール改正が進行していることは歴然とした事実だ。先述のとおり、米国に限らずIFRS保有株式の時価評価差額をP/Lへ影響させるとしている(IFRSは選択の余地はあるものの)。

ということは、近い将来に日本も米国と同様の会計ルールへ改正されることも十分に考えられる。

日本企業は解消が進んでいるとは言うものの、未だ政策保有株式、いわるる企業間持合い株式が多いと言われる。

これは、バークシャーのような金融機関において顕著だが、先のトヨタ、ワコールのような一般の事業会社も同様だ。

このような状況で保有上場株式の時価評価損益のP/L計上へ会計ルールが変更されたら、企業業績に対するかなりのインパクトが予想されるのではないだろうか?

(一般事業会社もさることながら、金融機関の業績悪化⇒融資先の企業への波及的影響が恐い・・・)

 

もちろん、ルール改正に当たっては事前に環境整備もするだろうから、今以上に急ピッチで持合い株式の解消が促進されるとは思うけど。

未だ判然としない一括計上された92億円の根拠 【日産の例】

www.youtube.com

日産の19年3月期第3Qの決算発表動画。

 

以前から報じられていたが、日産は過年度に過小計上されていたとされるゴーン氏に対する報酬等をこの第3Qに一括費用処理した。

その額ざっと92億円

普通の会社であれば、過年度遡及修正になりそうな金額だが、日産のビジネスボリュームからは過年度遡及修正には該当せず、当期の決算への影響のみとのこと。

 

ゴーン氏の逮捕当初から、今回の修正対象となるゴーン氏に対する過年度の報酬等の金額が一体どういう内容なのか不思議だった。

検察は確定した報酬の単なる後払いと主張、これに対して、ゴーン氏側は未確定要素を含む金額と主張が対立していた。当然、いずれの主張に基づくかは会計処理にも影響を与える。

ということで、早速決算短信を見てみた。

 

☟日産の19年3月期第3四半期決算短信

https://www.nissan-global.com/JP/DOCUMENT/PDF/FINANCIAL/ABSTRACT/2018/20183rd_financialresult_875_j.pdf

 

 


f:id:tesmmi:20190213164450j:plain

一括費用処理の対象となる金額が9,232百万円であることが分かる。

そして、これが、販管費『給料及び手当』に含めて計上されていることが記載されている。

取締役としての報酬、役員報酬としたのだろう。

 

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連結P/Lを確認すると、前期と当期の第3四半期累計会計期間の販管費の『給与及び手当』は、それぞれ、約3,000億円、約3,060億円なので、60億の増加要因の内の多くが今回の一括費用処理の影響であることが推察される。

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興味があったのは、過年度に過小とされたのが報酬なのか、退職金なのか、それともコンサルティング料等の他の名目なのか、だ。

過去ブログにも書いたが、支払の名目によって過年度の費用計上の必要性、さらには今回の一括費用処理の要否への影響もあるからだ。

 

これに対して、日産は『役員報酬』と定義した訳だ。

 

詳細は後述するが、ということは、日産は一括費用処理の92億円を確定した債務として認識したということだと理解した。

 

【想定される会計処理】

借方)給料及び手当 92億円 /貸方)長期未払金 92億円

 

連結B/Sではそれらしき勘定科目が見当たらないが、

固定負債の『その他』が8,634億円から8,680億円に約45億円増加しているので、ここに計上されているのかなと思うが、これだけでは疑問は晴れない。

 

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役員報酬は、株主総会、取締役会等の承認プロセスを経て決定される。支払のタイミングは後払いであっても会社にとって支払い義務は年度ごとに確定しているはず、これが一つ。しかし、ゴーン氏やケリー氏が主張するようにそのような意向で話はしていたが不確定要素がある場合は、必ずしも確定した債務(ゴーン氏等にとっては権利)とは言えない。

支払のタイミングは同じ後払いであっても、金額の性格が異なると思われる。

 

tesmmi.hatenablog.com

 

前者であれば、

確定債務⇒長期未払金

 

後者であれば、

未確定債務⇒引当金

となる。

 

この点をどうしたのか、会計処理を通じて知りたかったのだが、残念ながら決算短信からは分からなかった。

 

とはいえ、役員報酬であれば、株主総会や取締役会等のドキュメントに記録、保管されているはずで社内や会計監査の過程で当然チェックされるはずだから、それを決算処理上も、(有価証券報告書等の)開示上もスルーすることは考えにくい。

したがって、個人的には後者、未だ確定したとは言えない債務(引当金)なのだろうと考えた。そして、役員の報酬は上述のように法定の承認プロセスを経て決定されるわけだから、普通に考えてそれが不確定であることは考えにくい。もちろん、インセンティブのような条件付の報酬(賞与のような)は考えられるが、今回の件ではそういう話は聞こえてこない(日産の役員報酬体系は、基本報酬+株価連動型インセンティブ受領兼のみでそれほど複雑なものではない)。

 

したがって、日産が今回の一括費用処理の対象となる金額を役員報酬と定義づけたということは、確定債務であり長期未払金と考えた訳だ。

ところが、決算短信の注記には『入手可能となった情報に基づく最善の見積り額』と記載され、19年3月期第3Qの決算説明会では、会場からの質問に対して、西川社長もCFOの軽部氏も、処理対象となった92億は『保守的に見積もった金額』と回答されている。

 

今もって過年度の役員報酬の金額を確定できない理由って何だ?

 

また、決算発表会の西川社長と軽部CFOによれば、実際に支払う金額とは異なる(西川社長の見解では、支払うつもりはない)とのことだ。もしかしたら、過年度の報酬自体は確定債務なのだけど、今回明らかになったゴーン氏の様々な不適切な行為のペナルティとして権利はく奪ということを言いたいのかもしれないが、確定債務とは考えていないという印象だ。仮に、将来の支払の可能性が高くないとなれば、引当金の要件すら満たさない、92億円の一括費用処理は不要となる。

 

仮に支払わなければ、今回一括費用処理した92億円は将来戻入れ

つまり利益となる…

 

昨年の11月19日の金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽表示)による衝撃的なゴーン氏逮捕。

それから3ヵ月が経過しようとする今もってなお、個人的には一旦何が問題で、何が判明したのかがよく分からないし、何を根拠に92億円を一括費用処理するのかも分からない。

そんな中で、過小とされる金額を一括費用処理して早期に幕引きを図ろうしているように思えてしまうのだ。

 

決算説明会での記者の質問は6名で11個。そのうち、一括費用処理については2つのみ。

日産の将来(ルノーとのアライアンス、仏政府との交渉、北米での事業戦略等)ももちろん重要だが、もう少し決算数値の妥当性についても突っ込んで欲しいなと思う。

 

 

無形資産の割合だけで評価しちゃって良いの? 

www.nikkei.com

 

1/23/2019の日経朝刊にこんな記事が記載された。

 

収益性、効率性(資本の効率性)、事業構造、無形資産と論点が飛び散りまくりで散漫な様相・・・

もう少し論点絞った方が良いのになあ、と思いつつ、要するにあれこれ引き合いに出して、

 

欧米に比べて

 

日本の経営は

遅れている、劣っている

 

ということを言いたいのだろうか。

 

このような主張は今に始まったことではないし、実際、改善すべき点は多々あるとは思うので、そういう意味では欧米の優良な会社を参考にするという点については賛成だ。

 

しかし、だからといって、不適切な情報を引き合いに出してこの点も劣っている、というのはいただけない。もう少し丁寧にやって欲しいな、と。

 

この記事では、知識産業への転換度合いを示す指標として総資産に占める無形固定資産の割合を比較している。

 

『米国の成長を支えるのは製造業や小売りなど現実のモノを扱う産業から知識集約型産業への転換だ。米国企業の持つ資産を調べると技術力を示す特許やブランド力を示す商標権といった無形資産が4.4兆ドルと10年前の2倍以上に増えた。工場や店舗など有形固定資産を17年に上回っている。』

(記事より)

 

『日本企業の無形資産は約50兆円。総資産の6.4%で米国の26%に遠く及ばないが、10年間で2.2倍に増えた。』

(記事より)

 

 

 

 

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一般に知的産業や知的財産と言うと、どんな資産をイメージするだろうか?

 

記事にもあるように、特許、ブランド、商標権のような資産をイメージするのではないだろうか?

 

だとすれば、必ずしも総資産に占める無形資産の金額の割合が知識産業への転換度合いを示しているとは言えないのではないか。

 

会社が発明、構築、創出した特許、ブランド、ノウハウはその価値がバランスシート(B/S)に表現されるわけではない

 

この点は、以前も当ブログに書いたが、例えば、自社で発明した特許権や商標権等の権利であれば、B/Sに計上される金額のほとんどは特許等の権利取得にかかった事務手数料だ。特許や商標などの市場価値ではない。

ましてや、ブランド、ノウハウ、あるいは人材についてはB/Sへは一切表れない

 

詳細はこちらを参照☟

 

tesmmi.hatenablog.com

 

 

これは欧米の会社も同様だ。

 

但し、例外がある。

他社から特許、ブランド、ノウハウなどを他社から取得する場合、あるいはこのような無形資産を有する会社をM&Aする場合だ。

 

自社で創出した特許等がB/Sに計上されない理由は、その価値を客観的に測定が難しい点にある。しかし、他社から取得する際には、相対取引とは言え、実際に金銭の収受が伴うため、客観的な価値測定がなされたとみなすわけだ。

 

つまり、同じ特許等であっても、自社で創出した場合はB/S上の金額は小さい、他社から取得した場合は大きい、となるので、金額や総資産に占める割合だけを見ると、無形資産の多寡だけではなく取得手段の影響が混入することになる。

 

また、ノウハウの中には研究開発による技術ノウハウなどが含まれる。

日本や米国では、研究開発費用(R&D)は発生時に全額費用として会計処理される。つまり、いくらR&Dに時間もお金を費やしても、その結果なんらかのノウハウを得たとしても、その事実がB/Sに反映されることはない

 

一方、IFRS国際財務報告基準)では、R&Dの内、開発ステージ(*)で発生した費用は即時償却せずに一旦資産計上して将来の収益に応じて償却する。

(*)R&Dの内、具体的にどのプロセスに係る費用が資産計上の対象となるかは会計基準にしたがって個別に判断される。

 

仮に同様のR&Dから同様のノウハウが得られたとしても、適用する会計基準の違いによって結果としてB/Sに計上される金額は異なる。つまり、無形資産の金額や総資産に占める割合に入って、実際のノウハウの蓄積状況だけでなく会計基準の影響が混入することになる。

 

そんな訳で、単に無形資産の金額や総資産に占める割合だけで知的産業への転換云々を論じるのは荒っぽいなあと思うのだ。

 

新聞記事なので、ある程度のバイアスというか主張を導くための材料としてデータを活用することは理解できるが、もう少し丁寧に扱ってもらいたいな、と。でないと、データに潜む示唆を見逃すことにもなる。

 

読者にとっては、必ずしも目にする情報が額面通りではないという理解すると同時に、その真贋を見分けるスキルを身に着ける必要があるな、とこの記事を読んで益々思うのだった。

 

 

 

ドモホルンリンクルのCMに思う・・・ 【仕損品の会計処理】

www.youtube.com

 

再春館製薬所のドモホルンリンクルのCMが物議を醸しているようだ(強引)。

 

問題となっているのは現在放送されている

「お試しセットで試されるもの」篇だ

再春館製薬所のウエブサイトでは既にオンエアCMから除外されているよう・・・)。

CMでは多数のお試し用の製品が並べられ、

ナレーションで「これは検品ではねられたドモホルンリンクルのお試しセットです」と説明。

さらに、「理由はこのキズ」としてパッケージに付いたかすかなキズを紹介し、「無料でお届けするお試しセット、1本1本すべて検品しています」と高品質であることをアピールしている。

 

これに対してインターネット上では、

『もったいない』、『時代錯誤』、

『その分安くして販売すれば良いのに』

などといった批判が寄せられているようだ。

 

こうした批判は、自分たちは関係ないけど会社がもったいないことをしている、といったニュアンスで聞こえるが果たしてそうなのだろうか?

 

職業柄かもしれないが、このCMのおびただしい量の不良品を目の当たりにして最初に思ったのは、

不良品分の製造コストが売価に転嫁されるんだろうな

だ。

 

不良品とは言え、材料費、加工費がかかっている

加工費は不良と判断される工程までの分だが、例えば、最終工程終了後の品質検査で不良と判断されるとすると、ざっと良品の製品と同じだけの製造コストが消費されていることになる。

 

不良品の製造コストはどう処理されるのだろうか?

 

簡単に言うと、不良品の製造コストは

良品の製造コストへ加算

されることになる。

 

例えば、ある月に材料費1,000千円、加工費2,000千円で製品を100個製造したが、品質検査でその内10個が不良と判定されたとする。

 

100個すべてが良品であれば、1個当たりの製造コストは30,000円(3,000千円÷100個)となる。しかし、10個は不良であり外販できず廃棄されるとすると、極端な例ではあるが1個当たり30,000円で販売すると不良品部分が常に赤字となってしまう。また、生産管理や品質管理を徹底等により不良率を改善することも考えられるが、かえって製造コストが膨らむ場合がある。であれば、ある程度の不良率を許容することによって製造コストをコントロールしているという見方もできる。

上の例では、10個の不良を許容することによって90個の良品を製造することができる。つまり、10個の不良品の製造コストは90個の良品の製造コストの一部であるという考え方だ。

したがって、1個当たりの製造コストは33,333円(3,000千円÷90個)となり、この製造コストをベースに販売価格を設定すると、90個の製品で不良を含む100個の製造コストを回収できることになる。

 

会計では、このような何らかの理由による製造工程での失敗を

『仕損じる』、『仕損』

と呼び、仕損によって生じた失敗作を『仕損品』という。

 

ちなみに、これは製造工程上ある意味不可避的に発生する仕損の会計処理であり、例えば、災害等の突発的な原因で発生した通常の不良を大幅に上回る仕損は異常仕損として製造コストではなく非原価処理(特別損失など)する。

 

何が言いたいかもうお分かりだろう。

 

ドモホルンリンクルのCMでのおびただしい数の不良品が多ければ多いほど良品の製造コストが高まる

そして、会社がそれで利益を出そうとすれば、その分販売価格が高くなる、ということだ。

 

なお、これは試供品(の不良)なので、会計上は試供品の製造コストは他勘定振替販売費及び一般管理費見本費、あるいは販売促進費などで処理されていると思われる。

厳密にいえば良品の製造コストへの影響はないが、その場合であっても営業利益レベルの採算管理では不良発生による見本費等の上昇分を販売単価の上昇により補う必要があるので結局は同じことだ。

 

経済原理を考えれば当たり前のことなのだが、一見、会社が顧客や消費者へのサービスとしてやっている行為であっても

そのコストは誰かが負担することになる

高品質をアピールするのであれば、できるだけ不良を出さないような生産管理、品質管理を徹底して欲しいものだ。とはいえ、その結果、製造コストがかえって上がりましたというのは避けて欲しいけど・・・

 

監査法人さん、出番ですよ!!

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181227&ng=DGKKZO39422430W8A221C1M10800

 

しつこいようだが、またしてもゴーン氏の続報。

だって、未だにこんな記事が掲載されるし・・・

 

カルロス・ゴーン元会長が有価証券報告書に記載しなかったとして問題になったのは、既に受け取った報酬ではなく、受け取りを先送りしたとされる報酬だ。先送り分の支払いが確定していたか否かを巡り、東京地検特捜部の判断とゴーン元会長側の主張は真っ向から対立している。』〜日経記事より〜

 

信じられないことに、平成30年12月27日日経朝刊の記事。

 

まだこんなことやってる。

わざと焦らしているのか?

この状態を楽しみたいとしか思えない・・・

 

当ブログでも再三(2回だけど)ゴーン氏の役員報酬過小記載については書いた。

ゴーン氏逮捕から1か月半経過してまだこんなことが争点になっているとは驚きしかない。

個人的には、逮捕時点に既に検察は、先送りされた報酬が確定あるいは引当金、つまり、各年度のゴーン氏に対する報酬としてあるいは費用計上されていた、あるいはされるべきである確証を得ていたとばかり思っていた。

 

内閣府令は報酬の開示について、実際に支払われた額だけでなく、未払いでも「見込みの額が明らかとなった」時点で開示義務が生じると規定。特捜部は「先送り分も支払いは確定し、有価証券報告書に記載する義務があった」と判断している。』

 

この点も過去ブログに書いたが、完全一致を条件としてはいないものの、P/Lに費用計上された役員報酬総額(基本+変動+賞与、退職慰労引当金等)と役員報酬開示対象額は基本的に一致する。

 

『ゴーン元会長らは各期の▽本来の「総報酬」▽その期に受け取った「支払い済み報酬」▽受領を先送りした「延期報酬」――の額を記した「報酬合意事項」と題する文書を作成。ゴーン元会長の退任後にコンサルタント料などの名目で支払う報酬を記載した「雇用合意書」も作成されていた。特捜部は、こうした文書や側近らの証言などを基に「確定」を立証する方針とみられる。
一方、ゴーン元会長は「退任後の支払いはその時点の最高経営責任者(CEO)が決める。経済情勢や業績が変動する恐れがあり、支払いは確定していなかった」とし、先送り分の記載義務はなかったとしている。』〜日経記事より〜


であれば、争点となっている確定ないしは引当金の対象とすべきかどうかは、会計的な判断を重視すべきだろう。

(債務債務は法的な要件を重視すべきだが、依然争点のまま・・・)

 

この点、新聞はじめメディアは、弁護士などの有識者の意見が取り上げられるが、果たして会計基準にしたがった意見なのか疑問を感じる。

個人の見解は結構なのだが、費用計上の是非会計基準にしたがって判断されるべきだ。

 

そして、それを検討、判断する立場にあるのは日産を担当する監査法人だ。

会計監査は、あくまでも財務諸表の全体としての適性性に対する意見表明をすることであり、個々の取引の是非について意見表明をするものではない

立て付けはその通りだが、ことこの状況において沈黙を貫くのは果たしてどうなのか。

会計監査が、経済社会の発展や証券市場の円滑な運営に資するという大義からは、ここまで社会的な注目を浴びている以上、その判断の合理性について意見を述べるべきではないだろうか。

これまで、日産からどういう情報、資料を入手し、それに基づけばどう判断するのか。

実際、日産は対象となる金額を過去の決算では費用処理していなかったので、結果として監査法人も費用計上は不要と判断したことになる。

しかし、日産から提示された情報や資料に不足や事実と異なる点があった場合、それらが是正されたとすれば判断は変わるのかどうか、だ。

 

公認会計士はあまり意見を主張をしない。矢面に立つのを避ける傾向がある。主張をするのであれば、どこからも誰からも突かれない完ぺきな状況を望む習性がある。一部でも例外がある場合、Yesとは答えたがらない。

余談だが、だから、話が長くなる。簡潔に答えることで例外を端折ることを嫌がる(あるいは知らないと思われることを嫌う)。

僕自身も、ビジネススクールで教鞭をとり始めた頃は、いかに簡潔に説明しつつ例外を端折らないかに苦心した覚えがある。

 

要するに批判を避けたいのだ。

業務の性質上なのか、元来の性格なのか、

やたらダウンサイドのリスクに敏感な人が多いからなあ・・・

 

仮に公認会計士から見たら妥当な判断であっても、言い方は悪いが、会計のを”カ”の字も知らない有識者が、自身の経験則や主観だけでそれはおかしい!と言われ、それによって世間的な批判に晒されるリスクは理解できるが、何といっても会計に関する判断だ。専門家でない意見が空中戦を繰り広げる中、やはり、会計の専門家としての主張ををして欲しい。

でないと、この議論、収まらなように思う。

 

監査報告書も短文式(定型フォーマット)ではなく、KAM(Key Audit Matters)の記載など監査報告書の”透明性”を求めらるようになっている。

会計監査も、これまでの監査法人から投資家への一方通行から、利用者との対話を重視する方向へ進んでいると思う。

なお、KAMについては近く当ブログ取り上げたいと思う。

 

ところで、私自身も先送りされた報酬は費用処理(役員報酬開示)すべきだったと思うか?を訊かれることがある。その場合、

 

『何とも言えない』

 

と答えるのだが、そうすると、『やはり専門家でも見解が分かれるんですね』

と言われる。もちろん、見解(判断)が分かれることもあるだろうが、最大の理由は先送りされたというおカネの名目だ。

ゴーン氏に支払われるとされる90億円はゴーン氏の何に対する支払なのかによって判断は変わるということだ。

報酬であれば、報いと言うぐらいだから、何らかの役務の提供に対する代償だろう。

であれば、

 

1.対象となる役務提供は完了したのか

2.役務を受ける側が支払いを約束ないしは約束が合理的に見込めるか

3.報酬とされる金額が確定ないしは合理的に見積可能

 

詳細は☟を参照。

tesmmi.hatenablog.com

 

報酬の種類、名目にもよるが、これらの条件を満たすかどうかエビデンスと共に検証しての判断になる。

ファクトが整えば、それほど判断はブレないと思うがどうだろうか。

 

と言うより、そのファクトの認識が日産、検察とゴーン氏の間で相違しているので、何とも言えない状況が続ているのだが・・・

 

モヤモヤを抱えたままの年越しとなりそうだ。