溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

日本郵政 年金債務7,000億円一括処理に違和感・・・

日本郵政、年金債務7000億円を一括処理 上場に備え :日本経済新聞 

 

日本郵政が、2015年の株式上場に備えて年金債務7,000億円を一括処理するという。

 

問題の年金債務は『日本郵政(親会社)』の負債なので一括処理のための『資金』を子会社の『ゆうちょ銀行』から調達する。スキームは、日本郵政が保有するゆうちょ銀行株のうち25,017,500株(16.67%)を1兆3,000億円でゆうちょ銀行へ売却(ゆうちょ銀行にとっては自己株式の買取)するというもの。日本郵政は、1兆3,000億円の内、7,000億円を年金債務の一括処理へ、残りの6,000億円を日本郵便の成長投資へ投じるとのこと。なお、売却株の割合(16.67%)と単価(51,964円)から日本郵政保有のゆうちょ銀行株が7兆8,000億円(内、今回1兆3,000億円分を売却)であることもわかった。

 

記事によれば、『日本郵政は旧郵政省時代の恩給を支払う義務を負っている。将来にわたって支払い負担が生じるため投資家が問題視しており、株式上場の障害になっていた。』ということで今回の一括処理ということらしい。一括処理は、年金信託設定で信託銀行が債務を引き継ぐ。

 

まず思ったのが、

旧郵政省時代の恩給の債務なんて大昔の債務の支払い準備(恩給の支払原資手当)なんかとっくにしておくべきだろ(ゆうちょ銀行から今回資金を回さなくても)

と言うことと、

今回の資金移動で日本郵政には年金債務の支払資金が補充できたのだから、要は資産と負債が両建て(同額)となり、後は粛々と恩給を支払っていく(資産と負債を取り崩す)だけなのに、何でそれが株式上場の障害にまでなるのか?記事では、ゆうちょ銀行のROEも高まる、とあるが、日本郵政の連結ベースで見た場合にはROEは変動しないはず(総資産回転率と財務レバレッジで相殺)。

 

また、こんな記事もあった。

日本郵政:年金債務を一括処理 来年上場へ7000億円 - 毎日新聞

気になったのは、『1959年以前に働いていた従業員や遺族の年金などを、毎年の利益から給付している。』

毎年の利益から給付?これは、おそらく『利益』と『お金』を混同しているのだろうと思うが、もしかして、資金の手当てはおろか費用の手当(恩給支給総額の引当処理)も終わっていないのか?

 

ということで、日本郵政の決算書をチェック。

http://www.japanpost.jp/financial/pdf/2014.pdf

平成26年3月期のB/Sでは、

関係会社株式が9兆1,952億円、このうち7兆8,000億円がゆうちょ銀行株ということか。

懸念の年金債務7,000億円は退職給付引当金8,177億円に含まれるようだ。

現金及び預金は1,951億円とこれでは7,000億円の年金債務の一括処理(支給)はできないので今回のスキームに至ることが理解できる。

 

さて、ここで違和感。

何故に遠の昔に退職した従業員の年金債務(恩給)が『退職給付引当金』に含まれるのか?

そもそも『引当金』というのは将来の債務に対する一定の準備金であり、現時点ではいまだ金額(債務も)が確定せず将来における変動要素を含んでいる。

現在の会計ルールでは、従業員の退職時期やその時点の退職年金総額を『見積もって』退職が見込まれる時期(例えば30年後等)に向かって毎年着々と引当金を積み上げていく(イメージ:退職年金見込み総額が1,000万円であれば、その1/30づつを引き当てる)。しかし、実際に退職する時期は人それぞれであり、またその間の見積もり要素も変動を受けることもあり、想定した退職年金総額と実際の支給額は異なることがある。だから、『(退職給付)引当金』なのである。

 

しかしながら、恩給の年金債務7,000億円の対象者はすでに退職した従業員である。ということは、各人への支給額(支払うという債務も)が『確定』しているのではないか?確定しているのであれば、もはや引当金ではなく『未払金』となるはず。

この措置の背景には、上場に向けて、負債の中に含まれる国営時代の債務を整理し、資金繰りの透明性を高めて、投資家が不安に駆られることのないようにしたいとの配慮があったというが、そんなややこしいことしなくても、『未払金』として退職給付引当金と区分すれば、透明性も高まるのではないかと思う。

 

何故そうしないのかと思いつつ日本郵政の『決算公告』の退職給付引当金の注記を確認すると、

 『退職共済年金負担に要する費用のうち、逓信省及び郵政省(郵政事業に従事)に勤務し昭和34 年1月以降に退職した者の昭和33 年12 月以前の勤務期間に係る年金給付に要する費用(以下「整理資源」という。)の負担について、当該整理資源に係る負担額を算定し「退職給付引当金」に含めて計上しております。
数理計算上の差異については、発生時における対象者の平均残余支給期間以内の一定の年数(10年)による定額法により按分した額を発生の翌事業年度から費用処理しております。過去勤務費用については、発生時における対象者の平均残余支給期間以内の一定の年数(10 年)による定額法により費用処理しております。』

 

やはり、である。

恩給の年金債務部分も退職給付引当金に含まれていた。そして、驚いたのが、数理計算上の差異の償却期間が『平均残余支給期間以内の一定の年数(10年)』とある。

要するに、通常は退職金の支給に備えてあらかじめ準備しておくのが引当金であるが、これは支給がすでに開始されているにもかかわらずまだ支給の準備をしている、ということを意味している。まさに、自転車操業

現役世代の稼ぎ(社会保険料)で年金受給者への給付を賄うという、日本社会の縮図かと思えてしまう。

 

そもそもこんな会計処理はどうなのだろうか?恩給制度について明るくないのではっきりとしたことは言えないが、恩給の支給総額が確定しているのであれば、過去の確定債務の積立(認識)不足分を将来に繰り延べる根拠は乏しい。

とすれば、国営時代はともかく郵政民営化による日本郵政グループ発足(07年)時に積立不足分を一時に穴埋めしないといけなかったのではないか?日本郵政は今までずーっと過去の負債(恩給相当)を『簿外債務』としたままやり過ごしてきたことになる。

さらに、 年金資産(株式も一定割合を占める)の価値が運用成績や景気変動によって将来的にも変動し、日本郵政追加補てん、突然の利益の圧迫要因になるとすると・・・

やはり、投資家は敬遠するだろうな・・・

 

今回の一括処理では、これまでの積み残し分が一気に顕在化することになるが、果たしてどの程度の追加費用が発生するのか?要チェックだ。

 

おっと、記者会見を見ると、当の年金債務の処理については社長の恨み節も聞こえてきますね(笑)理屈というよりも、過去の負の遺産を目の届かない遠くへと追いやってしまいたかったのだろうか・・・

日本郵政株式会社の社長会見(2014年9月29日)‐日本郵政