溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

IFRSで世界で儲ける力が磨かれる!?

 

 

IFRSつながりでもう1つ。

 

日経ビジネス2014.10.27』 ~Special Report~

IFRS適用拡大で2極化する日本企業

会計基準が磨く世界で儲ける力』

と言うレポート。

 

冒頭、『国際会計基準(IFRS)任意適用する企業が急増している。

狙いは海外M&A(合併・買収)の推進や、物差し統一による経営刷新。

成長を第一に掲げる先進企業とその他の企業の格差が広がりつつある。』

 

タイトルからしてやおらIFRSを煽るような印象。

性格が素直でない僕はすでに眉をひそめてしまう・・・

 

そして、なんだかなあ・・・という点と、ちょっとした発見もあったので書いてみたい。

 

まず、なんだかなあ・・・な点。

・LIXILの例

LIXILは、2016年からIFRS移行を予定。移行過程において世界で戦える体制作りに舵を切った、とのことで、その対応例とてグループ内の会計基準と決算期の統一が紹介されている。

例えば決算期の統一に関しては『(会計基準や)決算期が共通でないと、経営判断が遅れるし、間違いも起こしかねない』とは同社専務のコメント。

 

日本基準でも(親子間の)決算期は統一が原則なんですけど・・・

 

連結会計ルール設定の際にグループ内の決算期統一をマストとすると、子会社の決算が間に合わないとか、子会社の着地点が見えてから連結決算の落としどころを考えたいという経済界からの要望もあって、3か月間の猶予期間(例 日本:3月、海外::12月)が容認規定として設けられたように理解してるけど・・・

 

日東電工の例

『IFRSでは工場や事業が将来にわたって収益を生めなくなったと想定された場合に、全て本業の費用収益とする。日本基準で計上する特別損益や、土地の売却など特別利益の項目は存在しない。本業の収益力を示す営業損益とは、一般的な要因も含めて測定さえるべきものとしているからだ』(記事)

 

会計監査で、どう見ても営業費用の項目を(経常利益を死守しようとして)無理からの理屈を立てて特別損失に計上しようとする会社、少なくなかったな・・・(遠い目)

 

『B/Sマネジメントが重要な時代だと痛感した』とは同社経理部長の談。同社は、『効率が低く減損などの損失が将来、起きる可能性がある事業や工場を売却し、新たな投資に振り向けるといった選択と集中に本腰を入れた。』

 

同社は本腰を入れたとのことだが、こちらは腰を抜かした。いまままでは投資した資金が投資に見合うだけの成果を発揮しているかどうかの定期的なレビューをしていなかったのですか?同社の状況を知りえないので何とも言えないが、よほど太っ腹な(ので投じたカネのことをいつまでもネチネチ言わなくても良い)のだろうか。

 

三井物産の例

得意のキャッシュフロー経営を強化、ということで、『IFRSでは、保有する工場や店舗、株式などの資産を毎期、時価評価する必要がある。(中略)それが低くなりすぎると、価値が落ちたとして減損が必要になるというものだ。これが同社を規律づける。投資した価値に見合う収益がなければ、資産の入れ替え候補にせざるを得ないからだ。』

 

絶句・・・日本基準にも当然、固定資産の減損ルールはあるし・・・なぜ日本基準だとできなくて(どちらかと言うと受容したくない印象)、IFRSだと前向きになれるのだろうか・・・

 

と、言う具合。

日本基準にももちろん企業の実態に合わない部分もあるし、改善すべき点もあると思う。しかし、外部公表向けの会計基準はともかくとして、上記3例は少なくとも社内の意思決定や内部管理上はやっていて然るべきではないのか?

とは言え、いずれもあるべき方向に進んでいることはその通りだと思うので、まあ良しとするか。そのきっかけがIFRSということなのだろう。

 

一方、ちょっとした発見、というか考えさせられたこと。

 

ソフトバンクの例

IFRSと日本基準との重要な差異の1つに『のれんの償却』がある。この差異は、修正国際基準(日本版IFRS)でも同様に差異である。IFRSでは、のれんは非償却(定期的な減損評価)であり、『M&Aのたびに資産が積みあがっていくことなる。以前買収した企業や事業が不振に陥れば、巨額の減損をしなければならず、期間損益が大きく揺さぶられる可能性がある。多くの日本企業はこれを嫌っている。』

この点が、日本基準とIFRSの差異の背景にもなるのだが、これに対してソフトバンクは、

M&A事業を積み重ねるためだけではなく、入れ替えるためにもある』(同社執行役員

なるほど、である。

日本企業は一度始めた事業、買収した企業は半永久的に継続し続ける。売却、清算するのはよほど業績が悪くなった時のみとの記事の指摘もある。

過去の(誰かの)意思決定を否定できないのか、はたまた一度決めたことを道半ばで放りだすことを良しとしない日本人のメンタリティなのか、経験的に納得がいく話である。

それに対して、始めるも止めるも、買うも売るも、戦略の一環という訳だ。

確かに売却を前提とした場合、のれんが償却されてしまうと売却にあたって、いくらで買った会社をいくらで売却したのか、その結果、いくら得(損)したのか(⇒ここがその投資の成否の判定になる)が見極めにくくなる。

ところが、何事もなければ買った会社を継続維持する前提(の日本企業)であれば、前述のとおりネックとなる。

この点においても、会計基準(ルール)というのは、スタンスの理解が必須だな、と再認識した。

 

個人的にはIFRSへの移行については中立、ニュートラルであるが、移行するにせよ、しないにせよ、なぜそうするのか?に対して明確な意見があってのことだと、やはり考えるのである。

何でもそうだが、形だけの導入は画竜点睛を欠く、どころか、かえって弊害の方が勝ることになるかもしれない。

 

記事も最後に、

『IFRSは会計基準にすぎない。これを起点に強い会社を作り、利益を押し上げられるかどうかは、結局、IFRSを使う経営者の覚悟にかかっている。』

とある。

 

その通りだと思う。無論、覚悟だけでは十分とは言えないが・・・