溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪で活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

在庫評価益!?  JXホールディングス


JX、経常益3割減に 15年3月期 原油安で在庫評価損 :業績ニュース :企業 :マーケット :日本経済新聞

 

『JXホールディングスの2015年3月期の連結経常利益は2000億円弱と前期に比べて3割強減少する見通しだ。従来予想は19%減の2450億円だった。石油業界全体の精製能力の削減が奏功し、ガソリンなど石油製品の利幅は拡大したが、原油価格の急落で会計上の在庫評価損が膨らみ利益を下押しする。』

 

『原油価格が期中に下落すると、会計上の精製コストが上昇し、在庫評価損が生じる。原油の前提を10ドル引き下げることで評価損が数百億円規模で膨らむほか、海外で手掛ける石油・天然ガス開発事業の収益を押し下げる要因になる。前期は原油価格などが期中に上昇したため、1193億円の評価益が発生していた。』

 

在庫評価損はともかく在庫評価益!?日本って時価会計でしたっけ?と思った方もいるのではないか?しかもその金額たるや相当なもんである。

 

実は、ここで言う在庫評価損益は期末に残った在庫をその時点の時価(販売価格等)に置き換える場合に発生する評価損益ではない。

 

在庫の評価方法を理解するには良い題材なので少し書いてみたい。

 

例えば、期首に@150円の商品が100個 あり、当期中に@100円で1,000個仕入れ、800個販売し、期末に300個残ったとする。

 

期首  100個 @150円

仕入 1,000個 @100円

販売  800個 @ ?円

期末  300個 @ ?円 

 

期末及び販売された在庫単価がいくらになるのか?これを計算する方法が在庫の評価方法であり、JXホールディングスは『総平均法(による原価法)』を用いている。

総平均法とは、期末在庫が期首の在庫と当期仕入た在庫が万遍なく混ざって存在している、ということであるので、単価@を計算すると以下になる。

 

期末在庫の単価=(@150円*100個+@100円*1,000個)/1,100個=104.5円

小数点第2位を四捨五入

したがって、この場合は期末在庫そして販売された在庫も@104.5円となる。

ここで、104.5円は当期の仕入単価100円よりも4.5円高い。

これは、期首の在庫単価が150円(>当期仕入単価100円)の影響である。

つまり、期首の高い在庫が無ければ期末在庫もそして売上原価(販売された在庫)も

@100円のはずが@4.5円高くなり、その分利益が小さくなってしまう(上の例だと3,636円)のである。当期のJXホールディングスもこれに似た状況であり、この結果失われる利益を『在庫評価損』(逆の場合は、『在庫評価益』)と呼んでいるのである。

 

この期首の在庫単価と期中の仕入在庫単価の影響は、『先入先出法』だともっと大きくなる。上の例で見てみると先入先出法による期末在庫単価と売上原価(販売された在庫)単価は、

先入先出法:

期末在庫単価:@100円(期末残300個は当期中仕入の1,000の内300個が残ると考える)

なので、期末在庫金額は@100円*300個=30,000円となり、

売上原価=(@150円*100個+@100円*1,000個)-30,000円=85,000円

そして、85,000円>83,636円(総平均法による売上原価)なので、利益減少(在庫評価損)がさらに1,363円拡大(悪化)する。

 

このような期首、当期中仕入単価差が利益に与える影響は多くの会社で起こる現象ではあるが、JXホールディングス(石油元売り)のようないわゆる相場モノを取り扱う会社はその影響を大きく受けることになる。同社ではIRでも常に『在庫評価損益』が利益に与える影響、もし当影響がなければ当期の利益は・・・と説明をしている。

よくわかるJXの収益・配当 | 株主・投資家情報 | JXホールディングス

期首、当期中仕入単価差が利益に与える影響を中和するためもあって、総平均法を選択しているのだろう。

 

ちなみに、期首、当期中仕入単価差の影響を最も受けにくい在庫評価方法は『後入先出法』である。後入先出法では、後に購入した在庫から先に払い出す(売上原価へ)計算前提なので、上記の例では期末在庫単価は116.7円、売上原価は80,000円となり、3つの在庫評価方法の中で最も売上原価が小さくなる(その分、利益は大きくなる)。

売上原価比較

先入先出:85,000円 利益:小

総平均法:83,636円 利益:中

後入先出:80,000円 利益:大

ただこれは仕入単価が低下しているからであって、仕入単価が上昇している場合は全く逆の関係になる。

後入先出法は、今現在の仕入単価を売上原価を通じて『利益』に反映することに意義があると言える。計算上、利益が多く/少なく出て有利/不利と言うこと以前に、実勢価格と計算される利益にタイムラグがあると社内の利益管理もやりにくくなるだろう。

 

なお、後入先出はIFRS(B/S重視)の影響もあって2010年4月1日開始事業年度以降(3月決算会社だと2011年3月期)廃止となった。