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溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪で活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

不正事例から考える内部統制の意義


椿本興業:数億円詐取か…架空工事で代金 元幹部逮捕 - 毎日新聞

『大手機械商社「椿本興業」(東証1部、大阪市北区)から架空の工事の発注代金をだまし取ったとして、大阪府警捜査2課は28日、椿本興業の名古屋支店(当時は中日本営業本部)元幹部の籾井(もみい)新一郎容疑者(56)=懲戒解雇=ら男3人を詐欺の疑いで逮捕した。府警は、不正な取引で数億円が籾井容疑者側に還流した可能性があるとみて全容の解明を進める。』

 

容疑者逮捕の報道は先月(10/28)であったが、問題となった不正な取引の発覚は平成25年3月であった。

不正な取引の内容と財務数値に与える影響、そしてこの不正な取引は平成19年ごろから継続的に発生とのことから、何故発覚までに長期間を要したのか、その要因について考えてみたい。

 

会社公表の時系列

平成25年3月 『当社従業員による不正行為について』

平成25年5月 『当社元従業員による不正行為に係る決算訂正について』

平成25年5月 『東京証券取引所への「改善報告書」の提出に関するお知らせ』

平成25年6月 『財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ』

 

『改善報告書』によれば、平成25年3月に被疑者(元SD長)が関与する取引の『たな卸資産』の膨張に違和感を持った内部監査から発覚に至ったとのことである。内部監査からとはこれまた珍しい(不正摘発の手段として最も多いのが内部/外部通報)。

 

不正な取引の手段は、取引実績の有る/無い会社を利用した水増発注、架空工事発注、循環取引である。このような業種は『人』の介在する余地が他業種と比較しても多く、その分様々な『工作』の余地が多くなる傾向がある。後ほど長期間見逃してしまった要因でも触れるが、そもそも不正の発生の可能性が高いエリアである。しかも、取引先と共謀していることも早期発見を免れた要因であろう。

 

不正取引の財務数値への影響額

『改善報告書』によれば、不正な取引が連結ベースの主要決算数値に与える影響を平成19年3月期~平成25年3月期の約7年度に亘って示している。

その中で、売上高、当期純利益の傾向を見ると(単位は百万円)、

年度 売上高 不正額 修正後売上高 当期純利益 不正額 修正後純利益

19年 93,749  △540  93,209    1,170  △244   925

20年 98,094  △626  97,468    1,351  △208  1,143

21年 88,776  △816  87,960    1,136  △150     986

22年 62,743  △883  61,859            59  △208      △148

23年 74,101 △1,090  73,010     574  △168   406

24年 81,665 △1,568  80,097     858  △304   554

25年 59,459 △1,548  57,911     601  △225   375

(25年度は第3四半期まで)

 

年々不正な取引の規模が拡大しているのが確認できる。平成25年3月期(第3四半期まで)では、当期純利益の37.6%が不正な取引による影響として修正されている。他の不正事例を見ても同様の傾向がうかがえる。誰しも不正を働くとなると最初は恐る恐る始める。ところが、ばれないとわかると次第に手口が大胆になっていく。そして、着服したカネの使い道にもよるが、着服金を当てにしだすので必要なカネも段々と大きくなっていくのである。そしてそれが発覚につながる、いわゆる墓穴を掘るというやつである。

 

連結純資産に与える影響は平成25年3月期(第3四半期まで)累計で、1,751百万円とのことである。純資産の13.3%(利益剰余金ベースでは23.8%)が吹っ飛んだことになる。

 

一方、同時期の株価をチェックすると同社のPBR(大きく1割れ)もあり下方弾力性が低いのかそれ相応の動きとはなっていない。こういうところも会社が内部統制を真剣に考えない要因の1つに思えるが・・・

椿本興業(株)【8052】:株式/株価 - Yahoo!ファイナンス

 

早期に発覚できなかった要因

 同社は以下を要因として挙げている。

①役職員におけるコンプライアンス意識の希薄さ

②人事異動の少なさ

③営業担当者に対する広範な権限付与による日常営業事務処理

④小規模事務所における閉塞感

⑤小規模事務所における管理部門の牽制不足

⑥工事案件収益管理の甘さ

⑦営業取引の実在性チェックの不備

⑧不完全な内部監査活動

ここぞとばかりに出るわ出るわ・・・だったら何で今までやってなかったの(不足していたの)?と聞きたくなるが、これがコンプライアンス意識の低さというこなのだろう。仮に意識があったとしても、その意識がモニタリングの強化等の行動に薄さなかったということだろうと思う。

最近の不正な取引の傾向をみると、『小規模』、『ノンコア事業』エリアが危険度が高いことが伺える。

同社の例を見ても舞台となった中日本営業本部は63名(平成25年3月末)であり、150名超の東日本、西日本営業本部と比較しても小規模である。また、主たる事業が機械商社であることから、工事案件は派生的に生ずる事業であると推察される(報告セグメントは地域別に区分され、当期の業績説明からも工事事業についてのコメントがない)。

要するに会社の中でもニッチ、本社の目が届きにくいエリアがヤバい。さらには、社内規程上は職務分掌(分担)が明確になっていたとしても、そのようなエリアは人員が不足していており、結果として職務権限が順守されず一定の個人の兼務が横行していることがままある。典型例が営業担当者の購買兼務である。更に加えて販売、購買データのシステム入力なんてことまで1人でやってしまう(出来てしまう)環境は危険度レベルマックスである。同社のようにこれが、営業責任者となると周りからは完全にブラックボックス化しやりたい放題の状態になる。

 

導入当初は会社に多大な負担を強いて文句を言われ、今や誰も何も言わないほど下火となり早くも負の遺産のような体のJ-SOXであるが、会社のこのような不正の根幹的な原因はJ-SOXで言うところの『全社統制』にあることが多い。

椿本興産の事例にしても、

リスク評価の甘さ、現地トップの裁量範囲の拡大、本社からのモニタリングの不足、コンプライアンス意識の不徹底、これらはまさに全社統制である。

 

対岸の火事と高をくくっている会社も、もしかしたら同じ状況にあるかも知れない。

 

 なお、不正な取引で得たカネの使途であるが、『飲食代のほか、「愛人に貢いでいた」などと説明』。不正の事例を調査していると、この手の使途が多いように感じる。生活に困窮しての不正を認める訳ではないが、会社の資金がこんなことに使われたかと思うとなんとも遣る瀬無い・・・

『改善報告書』http://www.tsubaki.co.jp/ir/pdf/release/13/13052401.pdf