溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

上昇基調の総還元性向


利益の大半を株主に配分 カシオ9割、アマダ全額 :日本経済新聞

 

『上場企業が配当と自社株買いによる株主への利益配分を一段と増やす。カシオ計算機や金属加工機械のアマダは利益の大半を株主配分に充てる。2015年3月期は約600社が増復配し、全体の株主配分額は10兆円に迫る。業績回復と資本効率改善への意識の高まりが背景にある。』

 

時代の潮流とも言えるだろう。計画無く何となく心配だからと言う理由の内部留保は許さないという(外国人)株主からの警鐘への対応だろうか。

行く当ての無い内部留保、つまり当期の利益の内株主への配当金等外部へ支払いを控除した残り、はその分純資産を押し上げるため、(当期純)利益率を一定とした場合ROE(当期純利益/純資産)は悪化する。

今や国策とも言えるROE改善、上昇に対してもマイナスであることも総還元性向(当期純利益に対する配当金と自社株買いが占める割合)が高まる背景ではないだろうか。

 

 

 

当期の稼ぎ以上に株主還元する会社もあれば、まだ稼いでもいない将来の利益を当てに株主還元を約束する会社の例もある。

ところで、会社が利益を溜めこむ(内部留保)する理由の1つは将来の(設備)投資のためである。将来の(設備)投資は、会社の事業の売上、そして利益の成長のためであり、株主・投資家にとっては投資額の利殖を目的とする。

では、何故、内部留保を配当金、あるいは自社株買いで株主に還元するのかというと、会社が内部留保金を特段の当てなく溜めこみ将来投資に回さないからである。

このような内部留保金は貸借対照表上、資産の『現金及び預金』として保持されており、株主からすれば間接的に預金に投資していることになる。

株主からしてみれば預金で持つよりもリスクは高いがその分(高い)リターンを期待して株式投資しているのだから、(投資先の)会社が預金で持つのであれば自分で預金します、だったら自分で預金するなり投資先を決めるから還元して欲しい、ということかもしれない。

同様に、会社が将来のために投資するといっても、株主の期待利回りに応えられないとやはり還元してくれ、ということになるだろう。

 

いずれにせよ、総還元性向が高い、あるいは高めざるを得ない会社は、株主からの期待リターンを維持継続できない状況にあるとも言える。

これは、会社の成長ステージにも関係がある。成長期にある会社は、アマゾンのように配当に回す金があるなら事業成長のために投資することが株価成長に繋がり、結果として株主に報いることになる。

一方で、成長期を過ぎ成熟期、衰退期にある会社にとっては、将来の成長よりも現在のビジネスで安定的に獲得する利益を(過去の蓄積と共に)株主に還元することが株主への報い方ということかもしれない。

逆に内部留保を『現金及び預金』で保持する会社の株式市場からの評価は概して低く、株価低迷、例えばPBRは1割れ、この点においても株主に報いているとは言い難い(会社にとっては買収のリスクも高まる)。

 

つまり、配当性向、自社株買いといった総還元性向の高い低い自体が問題なのではなく、会社のライフサイクルとマッチしているかどうかというアングルからの評価が必要になるだろう。