溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

直視すべき原発のスイッチングコスト


原発廃炉の損失、1基210億円 経産省作業部会が試算提示 (SankeiBiz) - Yahoo!ニュース BUSINESS

 

同様の記事が、11/25の日経朝刊で以下の記事が掲載されていた。

http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO80052840S4A121C1KE8000

 

経産省の試算では、廃炉を決めると資産価値がなくなるため、核燃料で120億円程度、発電設備で80億円程度の計約210億円の損失計上が見込まれる。

 巨額損失を一括計上することになれば、電力大手が廃炉の回避を優先して適切な判断ができない可能性がある。そのため損失を複数年に分けて計上できるような仕組みなどを導入する見通しだ。』

 

平成元年に制定された『原子力発電施設解体引当金』により、電力会社各社は原発廃炉に必要な金額を毎期引当処理している。しかし、毎期の引当金額は運転終了までの見込総発電量に対する当期の発電量の割合に応じて計算されるため、若い原発稼働率の低い原発などは『未引当』の金額が大きい。

また、他の関連する引当金を含めて引当の対象となっていない発電機や原子燃料などの対象資産の減損損失等を考慮すると、廃炉を決定した場合に見込まれる追加的な損失が@210億円ということなのだろう。

一説には、平成23年当時で原発を全廃すると原子力発電設備と核燃料の減損処理で約1兆5,500億円という試算も ある。 

そして、廃炉決定によって生じる損失を一気に損益に反映させると債務超過に陥ってしまう電力会社も数社あるようだ。

 

という事情もあってか『巨額損失を一括計上することになれば、電力大手が廃炉の回避を優先して適切な判断ができない可能性がある。そのため損失を複数年に分けて計上できるような仕組みなどを導入する見通しだ。』ということになる。

 

要するに、本当の姿を見せないようにする訳だ。目くらまし、である。

 

しかし、こと今の原発廃炉の流れは電力会社の経営が招いたとも言えないし(もちろんそれ以外の点で経営要因の不採算はあると思うけど)、国のエネルギー政策の転換によるところが大きいと思うので、仮に債務超過となっても通常(?)の債務超過とは区分して考えれば良いのではないかと思うのである。

そのために、わざわざ会計ルールを変更する必要もないのではないか?

 

趣旨からすれば、廃炉決定によって発生が見込まれる減損損失(が主とすると)を一時処理(その期の損失としてP/Lに反映)ではなくて、以降数年間で分割処理することで廃炉決定の期の利益悪化、そして純資産比率の低下を和らげよう(債務超過転落を防ぐ)ということだろう。

理屈を言えば、原発の施設等の固定資産は既に購入ずみであり、廃炉決定によりその資産を今後使って収益を稼ぐ可能性が無いことが明確になるのであるから過去の設備投資は将来の『金を生む木』から『無用の長物』に変わり、投資したお金は一切返っ来ないことになる。残存簿価が100億円あれば、その100億円を捨て去ることを決定したと同義なのだ。つまり、過去の投資の精算をしただけであり100億円の損失を将来にわたって分割処理する理由などないのである。

 

それに、分割処理をすると1期当たりの損失が薄められるため、(廃炉決定が)一体どの程度のインパクトを電力会社に与えたのかが見えにくくなる(むしろそれが狙いかもしれないが・・・)。

これは逆の影響もあって、来期以降何年かにわたって繰り延べられた毎年の損失負担額が業績を圧迫することになる。業績報告の度に、『本業は順調でしたが、〇年の廃炉決定による損失の当期負担額××億円の影響により営業利益は対前年同期比△%減となりました』とするのだろうか・・・

(安易に水に流させないという意味ではこれもありかもしれないが)

 

個人的には原発についてはニュートラルであるが、原発が担っている日本のエネルギーのポーションを他発電リソースに移管する場合、コストは1つの重要な検討ファクターであると考える。であれば、廃炉決定によって生じる関連施設の減損損失もそのスイッチングコストとして把握し、政府、電力会社そして国民での負担関係を議論し決定するべきだと考えるのである。それを見えなくする方向への会計ルールの変更は果たして正しい意思決定に繋がるのだろうか・・・

 

と、こんな記事を発見。

http://toyokeizai.net/articles/-/14605?page=3

どこまでも、あざとい・・・