溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪で活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

富士重工 ROE30%越えの理由は?

 


富士重、ROE30%超へ 15年3月期 :業績ニュース :企業 :マーケット :日本経済新聞

富士重工業の2015年3月期の自己資本利益率(ROE)は、2期連続で30%を超える公算が大きくなってきた。会社計画のROE見通しは20%台後半だが、足元の円安で業績の一段の上振れが濃厚なため。来期には自己資本比率が初めて50%を超える見通しで、配当性向の引き上げなど一段の株主配分強化にも取り組む方針だ。』

富士重の前期のROEは完成車メーカー7社中で最も高いだけでなく、自己資本が1000億円以上の上場企業(金融など除く)の中で見ても最高だった。東証1部のROE平均(9%弱)も大きく上回り、今期も上位が確実だ。』

 

2014年3月期の東証1部の平均ROEが9%弱と言う中で30%を超えるROEはずば抜けている。欧米の企業と比較しても見劣りすることはないだろう。

 

富士重工のROEの高さの要因をチェックしてみた。

なお、同社は日本基準で財務諸表を作成している。

2012年3月期:8.9%(純利益率2.53%*総資産回転率1.19*財務レバレッジ2.94)

2013年3月期:22.8%(純利益率6.25%*総資産回転率1.31*財務レバレッジ2.79)

2014年3月期:30.3%(純利益率8.58%*総資産回転率1.39*財務レバレッジ2.54)

総資産及び純資産は前期と当期の金額の単純平均を使用した。

数値は四捨五入により若干の誤差が生じる。

 

ROEを要素分解すると、当期純利益率の改善がROEの向上に大きく寄与していることが一目瞭然である。

同社は事業セグメントのうち、自動車セグメントが全体の売上の90%超であり、『リーマン・ショック後の需要急減で2年連続の最終赤字に陥った教訓から財務体質の強化』に加え、エコカー減税、消費税増税駆け込み需要、さらには円安等の追い風を上手く利用して収益性の改善に努めた結果と言えるだろう。最近5期間(2010年3月期~2014年3月期)で売上高は約70%増加している。

 

自動車各社のROEと比較してみたい。

トヨタ(米国基準)

2012年3月期:2.6%(純利益率1.53%*総資産回転率0.61*財務レバレッジ2.75)

2013年3月期:8.1%(純利益率4.36%*総資産回転率0.67*財務レバレッジ2.77)

2014年3月期:13.0%(純利益率7.10%*総資産回転率0.67*財務レバレッジ2.75)

 

日産(日本基準)

2012年3月期:10.2%(純利益率3.63%*総資産回転率0.86*財務レバレッジ3.24)

2013年3月期:9.1%(純利益率3.90%*総資産回転率0.74*財務レバレッジ3.14)

2014年3月期:8.94%(純利益率3.71%*総資産回転率0.77*財務レバレッジ3.12)

 

本田(米国基準)

2012年3月期:4.5%(純利益率2.66%*総資産回転率0.67*財務レバレッジ2.49)

2013年3月期:7.6%(純利益率3.72%*総資産回転率0.78*財務レバレッジ2.61)

2014年3月期:10.1%(純利益率4.85%*総資産回転率0.81*財務レバレッジ2.58)

 

各社数値のベースとなる会計基準事業セグメントも同じではないのであくまで目安としての比較ではあるが、やはり、富士重工の売上高当期純利益の水準(改善度合)がROEを最も差をつけた要因と言えるだろう。

 

最近の傾向として財務レバレッジを高めることでROE改善を図ることがあるが、経験からも、ROEの差異の一番の要因は利益率にあることが多い。

もちろん、財務レバレッジもROEの要因ではあるし有効に活用するに越したことはないが、本業の利益率を改善することが結局はROEの向上に直結するということではないだろうか。 

最近3期間の売上の増加率を計算すると、富士重工:59%、トヨタ:38%、日産:39%、ホンダ:38%である。固定費割合にもよるが、売上の増加率が高いほど利益率の改善度合いは大きい(特別損益の影響を排除した場合)。

 

ところで、売上高当期純利益のみであればトヨタも同様の水準であるが、トヨタとの差は総資本回転率である。総資本回転率は、固定資産等に投下した資金をいかに効率よく収益獲得(売上)に繋げたかを表す指標であり、一般に数値は大きい方が望ましい。富士重工の総資産回転率はトヨタのそれと比較しても倍ほど差がある。また、日産、ホンダの総資産回転率もトヨタと同水準であり、事業規模(日産、ホンダの売上高は富士重工の約4倍、トヨタは10倍)や多角化の度合いが影響しているのかもしれない。この点については、セグメント情報等のより詳細な分析等が必要になる。

 

ところで、記事から計算のマジックと言うか面白い点が解る。

『今後は株主配分の拡充が課題になる。今期初めて「配当性向20~40%」という株主配分政策を明示したが、「自己資本比率50%までは内部留保を優先し、配当性向は下限の20%」という方針だ。実際、前期も今期見通しも配当性向は20%と、3割弱の上場企業(3月期企業)の平均に見劣りする。』

リーマンショックで2期赤字を経験した同社は2010年3月期には自己資本比率は30.9%まで低下した。そして、その後の増収増益により2014年3月期には40.5%まで自己資本比率を回復させている。金額ベースでは、最近5期間で約2倍となった。

このように純資産(自己資本と概ね同義)が急速に回復、あるいは成長している時、純資産を前期と当期の平均を使用して計算すると期末ベースで計算するよりもよく見える。富士重工の2014年3月期のROEを期末純資産をベースに計算すると26.8%と約3.5%も低下する。これは、ベンチャー企業のような急成長している新興の会社のROEが100%を超えるのと似たような現象であり、急成長がいつまでも続かないようにROEのある意味底上げ状態もいつまでも続くわけではない。

 

ということもあって、当面は財務体質の改善を優先して配当性向は抑えるが、自己資本比率が50%程度に回復したら今度は、ROE算定の分母が大きくなるので同じ利益(率)を出しているだけではROEは逆に低下していく。そこで、今度は配当性向を高めることで自己資本を圧縮することでROEをコントロールしていく、ということではなかろうか。

 

いやはや、財務体質を改善したら今度は資産効率の改善、行ったり来たりと経営は大変である。

 

ROE100%の場合

純資産50の会社今期150の利益を出して期末に純資産が200になったとする。

【ROE】

純資産を期末ベースで算定する場合:

当期純利益150/純資産200=75%

 

純資産を期首期末平均で算定する場合:

当期純利益150/平均純資産((100+200)/2)=100%