溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

富士重工 ROE30%越えの理由は? その2 【収益性、効率性について】

 

 

前回のブログで富士重工のROEの高さをデュポンモデルで要素分解することで確認した。

その結果、競合他社と比べて富士重工は特に収益性(当期純利益率)、効率性(総資産回転率)が高いことが分かった。

 

そこで、富士重工の収益性の高さ、そして効率の高さについて2014年3月期の『有価証券報告書(有報)』の記載をざっとチェックしてみた。 

比較対象には、会計基準富士重工と同様に日本基準であることから日産を抽出した。また、売上高規模が富士重工と同等であるスズキの有報の情報も参考にした。

 

【収益性】

富士重工

2013年3月期:総利益率21.5% 営業利益率6.3% 経常利益率5.3% 純利益率6.3%

2014年3月期:総利益率28.2% 営業利益率13.6% 経常利益率13.1% 純利益率8.6%

 

日産

2013年3月期:総利益率16.6% 営業利益率5.0% 経常利益率5.8% 純利益率3.9%

2014年3月期:総利益率17.6% 営業利益率4.8% 経常利益率5.0% 純利益率3.7%

 

スズキ

2013年3月期:総利益率25.6% 営業利益率5.6% 経常利益率6.0% 純利益率3.1%

2014年3月期:総利益率27.1% 営業利益率6.4% 経常利益率6.7% 純利益率3.7%

 

売上総利益率では、日産と比較すると2014年3月期では約10%の差がついた。

対前期比で売上高は約26%増加(販売台数14%増、期中平均ドル円レート11.5%円安(88.5円/ドル→98.7円/ドル)に対して、売上高総利益額は65%、その結果、売上高総利益率は6.7%改善しており、販売台数の増加による限界利益の増加による影響が大きいと思われる。富士重工の地域別の売上割合はざっと、日本:3、北米:5.5、その他:1.5と海外売上比率が7割を超える。一方、『設備の状況』から国内の生産割合が海外(北米)での生産を大きく上回っている(国内の生産拠点が米国の生産拠点の数倍規模)ことからも相対的に円安が財務的に好影響となる傾向が伺える(もっとも、輸入資材については悪影響になるが)。『事業等のリスク』には『主に円高局面では当社グループ業績と財務状況はマイナスに作用し、円安局面ではプラスに作用する可能性があります』ともある。

 

(参考)富士重工:2014年3月期

機械装置及び運搬具簿価:国内78,282百万円 米国13,804百万円

従業員数:国内123,775人 米国9,418人

 

日産は、対前期比で売上高は約20%増加(販売台数5.6%増)したが、売上高総利益額は28%、売上高総利益率は1%の改善に留まった。日産の地域別の売上高割合は、ざっと日本:2 北米:4、欧州:1.5、アジア:1、その他:1.5と富士重工同様海外での売上高割合が高い。『事業の状況』の当期の業績の説明では売上全体の約95%の自動車事業について、『販売費、商品性向上・品質関連コストの増加などによる減益はあったものの、為替影響、購買コスト削減(原材料含む)、販売台数の増加、車種構成の改善による増益による』とあり、プラス、マイナスの両面を指摘している。また、為替変動の与える影響については、『当社グループが生産を行う地域の通貨価値が上昇した場合、それらの地域の生産コストを押し上げ、当社グループの競争力の低下をもたらす可能性がある』として、必ずしも円安が業績等にとってプラスでないことを示しているのは面白い。『生産、受注及び販売の状況』の同社の現地生産の進行とも整合する内容だ。この点は、富士重工と対照的とも言えるだろう。

 

一方、スズキとは売上総利益レベルでは同水準であるが、営業利益率では大差(2014年3月期で7.2%)がついた。両社の売上高販管費率を比較すると、

2014年3月期

富士重工:14.7%(内、研究開発費2.5%)

スズキ :20.7%(内、研究開発費4.3%)

であり、両者の比率的な差の主要因は研究開発費であることがわかる。なお、スズキのMD&Aセクションでは販売費及び一般管理費の増加について広告宣伝費等の販売費を増加を主要因としている(スズキは販売費を対前期比約18%、約100億円増加)。

また、スズキの地域別の売上高割合は、ざっと日本:4 インド:2.5、その他:3.5と富士重工、日産とはエリアは異なるものの海外売上比率は6割程度であり、やはり為替の変動が損益、財務状況に与える影響は少なくない。この点について同社の『事業等のリスク』では『日本から世界各国へ二輪車。世輪車、船外機並びにそららの部品などを輸出しています。また、海外の生産拠点からも、それらの製品や部品を複数の国々へ輸出しています。為替レートの変動は、当社グループの業績及び財政状態、また、競争力に対して悪影響を及ぼす可能性があります』と記載している。

 

【効率性】

総資産回転率

富士重工

2013年3月期:1.31回 2014年3月期:1.39回 

日産

2013年3月期:0.74回 2014年3月期:0.77回

スズキ(参考)

2013年3月期:1.08回 2014年3月期:1.10回

総資産は期首、期末の平均で算出した。

 

数値では富士重工が最も高く、全体としての資産の効率性が高いと言える。

効率性については、日産との差が顕著なので日産との差異の中身をみてみる。総資産に占める割合は、

2014年3月期

流動資産     富士重工:67.4% 日産:58.6%

有形固定資産   富士重工:24.4% 日産:32.4%

投資その他の資産 富士重工:  7.4% 日産:  8.5%

流動資産では、現金及び預金、たな卸資産の総資産に占める割合は、むしろ富士重工の方が高い(その分効率性が低下)が、日産は『販売金融債権』が総資産の34.2%を占めており、これが両社の総資産回転率の差の主要因となっている。

一方、有形固定資産比率については、土地を除く有形固定資産の減価償却進行度合を比較すると、富士重工が約74%に対して日産は約54%(2014年3月期)であり、富士重工の方が2割程度減価償却が進行している(その分古い設備を保有)ことがわかる。『設備の状況』の設備の新設計画を見ると、来期中に土地を除く有形固定資産簿価の42.1%に相当する設備投資を計画していることもうなづける。ちなみに、日産は、12.8%に相当する設備投資を計画している。

 

2014年3月期 総資産に占める割合

現金及び預金:富士重工18.6% 日産5.6%

たな卸資産 :富士重工12.9% 日産7.8%

 

『販売金融債権』は、日産のグループ会社の内、(車両の)リースや車両購入のための資金を融資する事業会社があり(融資を受けた顧客が日産の車両を購入)、これらの事業会社の貸出債権と思われる。

日産のセグメント情報では、報告セグメントを『自動車事業』と『販売金融事業』に区分しており、売上高は自動車事業が全体の90%超であるが、セグメントに投じた資産では自動車事業と販売金融事業は均衡している。販売金融事業の総資産うち65.9%(2014年3月期)が販売金融債権である。

日産の総資産回転率は、仮に自動車事業だけであれば1.1回(2014年3月期)と富士重工、スズキと同水準となり、改めて販売金融事業の販売金融債権が効率性の差の 主要因であることが確認できる(販売金融事業の総資産回転率は0.1回程度)。

なお、販売金融事業の(営業)利益率は24.1%(2014年3月期)と高く、全社ベースの利益率に寄与していることがわかる(自動車事業だけだと3%程度の営業利益率)。

 

以上、ざっとしたチェックのみなので漏れや不正確な点はあると思うが、有価証券報告書から色々な情報が読み取れることが伝われば、と思う。