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溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪で活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

売り上げはいつ『売上高』になるのか?

『みなさんの会社では、売上はいつ上がりますか?』

売上が上がる、とは、どの業務、手続等のアクションをしたら会社として

得意先、顧客に対する売上を認識するか、ということだ。

 

『出荷じゃないの?』

 

という声が聞こえてきそうだ。

製品や商品を出荷した時点で売上を立てている会社は実際のところかなり多いと思われる。

 

会計では売上を上げる、立てることを『計上する』するというが、では売上を計上するタイミングは『出荷』のみか、というとそうでもない。

 

通常の製品販売で考えられる売上の計上時期を挙げると・・・

・契約締結時点(受注時点)

・製造完了時点

・出荷時点

・到着時点(納入場所への)

検収時点(得意先の)

・請求時点

・代金回収時点

ざっとこれぐらいが候補としては考えられる。

全ての会社が『出荷』で売上計上という訳ではなく、例えば、製造ラインの主要設備などは得意先の指定場所へ納入し、据付、試運転を経て量産OKサインが得意先から出た時点(検収時点)で売上を計上している会社が多いのではないだろうか?得意先指定の仕向地に到着した時点ということもあり得るし、受注時点、いやいや代金回収しないと怖くて売上なんてあげられないよ・・・と言う会社もあるかもしれない。

 

となると、本来いつの時点で売上を計上すべきなのか?、会計ルールはどうなっているのか?という疑問がわくのではないだろうか。

 

まず、日本には収益認識に関する包括的な会計基準はないが(これも驚き・・・)、従来『実現基準』により収益は認識されてきた。

この実現基準では、この時点で売上を計上しなさいとは言っておらず、

①財貨の移転又は役務の提供の完了

②対価の成立

の2つの要件を満たした時点で収益、つまり売上を計上すべき、としている。

平たく言うと

①はお客さんから依頼されたモノを引き渡した(サービスを提供した)

②は①の結果、お客さんから代金を回収した、あるいは支払う約束を取り付けた

と言うことだ。

①②の要件が整うタイミング、時点は具体的にどういう場合だろうか?製品、商品をイメージすると『所有権が移った時点』と考えることができるだろう。所有権が移転するためには、依頼した側は依頼した製品、商品を品名、数量、そして品質に問題なく受け取って(①)初めて、代金を支払う意思表示をする(②)。これは、製品、商品の所有権が実質的に売り手から買い手に移転したと考えても差し支えないと考える。

実際、国をまたぐ貿易では書面にて所有権の移転条件が明記され、その条件にしたがって売上計上される。

ここで問題なのは、日本国内では、とりわけ日々繰り返し行われる商取引においては、取引基本契約等で取引対象の所有権移転条件が明記されることが少ないことだ

そのため、商取引のプロセスのいつの時点で①②の要件が満たされたのか(所有権が移転したと考えられるのか)を検討して決定する必要性が生じる。

 

 ここで改めて『出荷基準』を考える。出荷の時点は、実現基準の①②の要件を満たしているか?

例えば、商品を搬送中に事故で商品が破損した場合(保険は度外視)、売り手では『出荷後』であるため売上は計上済みであるが、買い手は『では仕方がない、代金はお支払しましょう』とはならないだろう。

ということは、売り手の倉庫から商品を出荷しただけでは①②の要件を満たしていないことになる。会計監査の実務でも、期末時点の売り手の買い手に対する売上債権残高(買い手にとっては仕入債務残高相当)を買い手に書面で確認する(確認手続)が、(売り手)出荷済み(買い手)未検収品については『当社未検収のため』と言う理由で不一致(買い手は債務認識していない)となる。

つまり、一般的にもっともポピュラーで売上計上基準の原理原則ともされる『出荷基準』は実は実現基準の原理原則を満たしていないということだ。むしろ、検収時点の方が実現主義の下では原理原則だ。

 

では、何故、出荷基準で売上を計上している会社が多いのか?

誤解を恐れずに言えば、実務上の都合、であろう。

『実務上の都合』というのは、数年に1度の高額なしかも慎重な取扱いが必要な精密機器であればともかく、日々繰り返される商取引ごとに実現基準の2つの要件を厳密に満たそうとすると、得意先である買い手から商品を受け取った、支払の意思表示を都度入手する必要が生じる。これは手続きが煩雑になり、とりわけ日本の会社の得意先の手を煩わせることを避ける商習慣になじまない。かといって、何の理由もなく原理原則を踏み外すこともできない。

(ここからは完全に私見であるが)

そこで、

・品違い、数量違い、欠陥品はまずない

・国土が狭く出荷から納入まで数日程度

・道路事情、治安も良く出荷された商品はまず間違いなく到着

・一回決めたらずっと出荷基準で売上計上(良いとこどりしない)

ということで、原理原則とはちょっと違うけどまあそう遠くないんじゃないかな~

『合わせ技一本!!』である。

法人税法基本通達(2-1-2)に『例えば出荷した日』と例示しつつも『その販売に係る契約の内容等に応じその引渡し日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日』としており、実務に迷う多くの会社にとっては福音となったのではないかと思われる。

 

ところで、昨今、IFRSを採用する、あるいはしようとしている会社にとってIFRSになると出荷基準が使えなくなることが1つのハードルになると耳にする。

IFRSによれば、売上計上は『着荷基準』で行うべし、という理解からなのだが、果たしてIFRSでは売上計上(収益認識)について何を求めているのだろうか?

2014年に公表されたIFRS第15号 「顧客との契約から生じる収益」は収益に関する新基準で顧客に財またはサービスを引き渡す契約に適用される。この中で、収益の認識については、一時点、一定期間の違いはあるものの、企業が履行義務を充足した時点で(又は充足するに応じて)収益を認識するとしている。具体的には、

・顧客が支払いを行う現在の義務を負う

・顧客が物理的に占有している

・顧客が法的所有権を有している

・顧客が所有に伴うリスクと経済的価値を有している

・顧客が資産を検収した

という状況を指す。

どうだろうか?実質的に実現基準と違いは無いように思われるが、占有や法的所有権という具体的な状況が要件に盛り込まれており、従来の実現基準と比較すると(実現基準の)抽象的な表現に対する解釈の余地は狭まった感はある。

なお、IFRS15号は2017年からの適用で、従来のIAS18号の要件は実現基準の要件に相当(我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)-IAS第18号『収益』に照らした考察-)である。

 

個人的には、出荷だ、着荷だという会計基準の表面的な部分に振り回されるのではなく、実現基準に厳密に言えば従っているとは言えない『出荷基準』を何故我が国の多くの会社がこれまで採用してきたのか、そして、それが果たして経済社会にどれほどの悪影響を与えてきたのか、実質それが意味するところを理解して対応することが重要だと思う。そして、この点はある意味国民性からの決別にもなるが、誰かのお墨付を期待するのではなく、自分の責任において意思決定することが大切だと思う。

日本のルールには『例外規定』が多すぎて気味が悪いと言われます(笑)