溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

内部留保蓄積は『守銭奴』 ~麻生財務相発言に思う~


Yahoo!ニュース - 内部留保蓄積は「守銭奴」=麻生財務相が企業体質批判 (時事通信)

  『麻生太郎財務相が5日の信託協会の新年賀詞交歓会で行ったあいさつで、企業の内部留保蓄積が328兆円にまで膨らんでいることを指摘し、「まだカネをためたいなんて、ただの守銭奴にすぎない」と批判したことが6日明らかになった。
 守銭奴はカネに執着する人を指す。「守銭奴」発言は、企業に内部留保を賃上げや設備投資に回すよう求める中で出たもので、財務相は「ある程度カネを持ったら、そのカネを使って何をするかを考えるのが当たり前。今の企業は間違いなくおかしい」とも語った。』

 

う~ん、言いたいことは分からないでもないが・・・

会社にも色々事情が・・・という深い話はちょっと置いておいて、麻生財務相発言を会計的な観点で整理してみたい。

 

 まず、内部留保。利益剰余金を指すと思われるが、これは、毎年の利益(より正確には、利益から配当等の外部流出分を控除した部分)の積み上げであり、B/Sの純資産の一部である。

 

麻生財務相は、別記事で『 麻生氏は「内部留保は昨年9月までの1年で304兆円から328兆円に増えた。毎月2兆円ずつたまった計算だ」と指摘。』したとあり、これはB/Sの純資産(利益剰余金)が24兆円増えたということだろうが、ここでは会計上の利益とキャッシュの関係(違い)は無視するとして、仮に一旦、24兆円カネ(現金および預金)がB/Sの資産に増加したとしても、それがそのままカネとして残っているかどうかは分からないのである。

 

換言すれば、内部留保(利益剰余金)とカネ(現金および預金)は発生後、別々の動き方をするのである。

 

内部留保は基本的に毎年の利益(より正確には、利益から配当等の外部流出分を控除した部分)の発生額がそのまま累積していくので、その後赤字や年度利益を上回る(内部留保を取り崩すような)配当金といったことがない限り、増加し続ける。

一方で、カネ(現金及び預金)は使えばその分減る。費用(赤字)や配当金などの場合は内部留保が減ると同様にカネ(現金および預金)も減るが、内部留保は減らないのにカネが減る場合もあるのである。

設備投資や企業買収などがその例だ。生産設備の増強であれば、設備投資した時点でカネ(現金および預金)は減る(その分有形固定資産が増える)が、内部留保への影響は即座には表れない(将来に亘り減価償却により影響する)。また、企業買収、M&Aでは、カネで会社の株式を買うので買収額分のカネが減り、代わりに株券(注:単体決算では株券(関係会社株式)であるが、連結決算では被買収会社の個々の資産・負債項目がカネの代償として増加)が増加することになる。この時重要な点は、カネは減っても、その分の内部留保は減らないということだ。逆に言えば、内部留保が増えていてもそれは必ずしもカネが同様に増えているとは限らないのである。

だから、内部留保(利益剰余金)が増加しているからと言って、儲かったカネを使っていないとは言い切れない。内部留保の増加=守銭奴 というのは物事の片面しか見ていないのであってB/Sの左側(資産)のカネ(現金および預金)がどうなっているのか?使うあてもなく溜め込まれているのかどうか、を見る必要がある。

 

とはいえ、内部留保(利益剰余金)の厚い会社は往々にしてライフサイクル的にも成熟期以降、人間に例えるとシニア世代、つまり過去の蓄積としてのカネ(貯蓄)はあるが、旺盛な消費意欲は乏しくなる。つまり稼いだカネ(現金および預金)を持ちあぐねているケースも少なくはない。このような事業投資に回らないカネ(現金および預金)はROAROEを低下させる原因にもなり、この点を麻生財務相は指摘したとも考えるが、会計的には若干言葉が不足かなあと思った次第。それから、それとは別に、そうは言っても会社は経営者の一存でそんなにポンポンとカネは使えないんですよ、それなりのプロセスがありますから・・とボヤいてみたり(笑)