溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

有価証券の時価変動の会計処理 ~スギHDの例~ 

 


スギHD純利益3%減 14年3~11月、有価証券評価益が減少 :業績ニュース :企業 :マーケット :日本経済新聞

 

スギホールディングスが6日発表した2014年3~11月期の連結決算は、純利益が102億円と前年同期比3%減った。調剤事業などが伸びて売上高と営業利益は増えたが、営業外収益の有価証券評価益が前年同期に比べて少なかった。』

 

ん?スギHDってスギ薬局のことだよね?営業外収益の有価証券評価損?

と言うことで、ちょっと気になったのでチェックしてみた。

同社の有価証券報告書、四半期報告書で確認すると、しっかり、P/Lの営業外収益に『有価証券評価益』が計上されていた。と、言うことは・・・とB/Sには流動資産に『有価証券』が計上されていた。

前期と当期の第3四半期(累計)では、有価証券評価益は約16.5億円から約4.5億円と大幅に減少していた。

 

有価証券の会計上の取り扱いは、その保有目的による。

 

有価証券の保有目的は、(1)売買目的有価証券(2)満期保有目的の債券(3)子会社及び関連会社株式(4)その他有価証券に分類し、保有目的ごとに評価が異なる。

満期保有の債権は別として、例えばA社という会社の株式を購入する場合であっても、売買目的の場合、子会社にする場合、あるいはその他の目的の場合と保有する目的によってB/S上の表示(名称、位置)も、そして評価方法も異なるということである。

 

例えば期末時点の評価について、保有する有価証券の時価が上昇した場合、それを短期売買目的(上記(1))で保有しているのであれば、時価上昇分を利益に計上するが、長期的な保有を意図(上記(1)以外)したのであれば、一時的な時価の上昇は利益の計上には時期尚早と考えるため利益は計上しない(上記(4)の時価変動分はB/Sの純資産の部に『その他有価証券評価差額金』として計上)。このように有価証券の保有目的に応じて評価の会計処理が異なるので、「保有目的」による有価証券の分類がなされる。

 

保有目的投資の成果評価
売買目的有価証券 売買利益を得る目的。時価の変動は投資の成果。 時価評価し、評価差額をP/L(営業外収益・費用)に計上
満期保有目的の債券 満期まで保有し利息と償還を受ける目的。時価の変動は投資の成果と考えない。 取得原価のまま(または償却原価)
子会社・関連会社株式 事業投資であり、時価の変動を投資の成果と考えない 取得原価のまま
その他有価証券 長期的には売却も想定される。が、直ちに売却するとはいえないため、時価の変動を投資の成果と考えない。 時価評価し、評価差額は損益とせず純資産(その他有価証券評価差額金)に計上

  

上記分類の内、(1)売買目的有価証券は時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券である。短期の資金運用、要するにキャピタルゲイン狙いの財テク目的である。このような売買目的有価証券への投資の成果は時価の変動をもってすでに発生していると考えるので、期末時点で時価評価し、評価差額をP/Lに計上する。これが、スギHDの例に当てはまる。つまり、スギHDは本業とは別に財テク投資をしており、それによって会社全体の業績が左右される結果となった、ということだ。

 

同社の証券投資の担当部門にはどれだけの人材が配置されているのだろうか?

『営業外』取引というくらいだから本業とは言えない程度の組織、体制だと推察する。どのような投資方針で運用しているのかも気になる。外部に公表される情報には営業外の取引関連は当然ながら薄い。証券投資の分野は当然ながらそれを本業とするプロがひしめく。そしてプロでも必ずしも利益を挙げられるとは限らない。いつまで利益を出し続けることができるのか疑問だ。余剰資金の活用と言うことかも知れないが、株主や投資家からすればその会社が最も情報、経験、ノウハウを持つ事業、すなわち本業へ資金を投じ成果を挙げて欲しい と考えるだろう。まさにその点に期待してその会社に投資をしているのだから。当第3四半期では、総資産の約10%が短期資金運用の有価証券であり、現金及び預金を合わせた余剰資金は総資産の約40%を占める。社内のガバナンスはこの点をどう考えているのだろうか、この記事からそんな疑問を持った。