溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪で活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

配当3倍は誰が得するのか? 【大塚家具の例】


配当3倍 大塚家具会長“委任状書類”入手(日本テレビ系(NNN)) - Yahoo!ニュース

 

『大塚勝久会長が先ほど、大塚家具の株主らに向けて発送した株主総会での委任状を勧誘する書類。この中には、株主への配当を来年から3年間、現在の40円の3倍となる120円に引き上げる方針が打ち出されている。
 また、そのあとの3年間も、純利益の75%を配当に還元するとしていて、5年後の業績目標を達成した場合、配当額は一株あたり150円になるとしている。
 経営権を勝ち取るため、久美子社長側が提示している80円を大きく上回る額を示し、配当を重視する機関投資家らからの支持を得ようと株主重視の姿勢を強めたもの。』

 

『よ~し、そっちが2倍ならこっちは3倍だ!!株主の皆さん、こっちの方がお得ですよ~、是非私を選んでください!!』

と言うことだろうか・・・

いよいよもって話の方向がおかしくなってきたように思えてならない。

決して、”大塚ウォッチャー”ではないのだが、あまりにタイムリーにネタを振り込んでくれるので反応せざるを得ない・・・

 

さて、大塚家具の”経営権争奪増配競争”であるが、ご存じのとおり、配当政策は企業価値に何ら影響を与えないことは『MM理論』(MM理論 - Wikipedia)でもとっくに説明されている。もちろん、MM理論では市場を完全市場と仮定するなど一定の前提を置いていることはあるが、難しい理論を置いておいて良識ある社会人の常識を持って冷静に考えても、配当を株主にいくら払うかによって会社の値打ち(企業価値)が上がると言われてもピンとこないのでは無いだろうか?

そもそも配当は会社が稼いだ上がりをその出資者たる株主への一部還元である。売上が成長したり、利益が増加したり(=総じて会社の稼ぎの増加)こそが会社の価値を高めるのであって、配当はその稼ぎの配分にすぎない。

言ってみれば、リンゴの木に養分等を適切に与えて多くのリンゴを実らすことによってリンゴの木の価値が高まるのであり、配当、すなわちリンゴの収穫すること自体はリンゴの木の価値を高めることには無関係ということだ。

 

とはいえ、今回の騒動で大塚家具の株価は高騰している。

社長による中期経営計画(2/25)発表後は、それまでの大体@1,100円の水準から3/2には@2,000越えを突破した。しかし、これをピークに下落を始め、会長の配当3倍増の発表(3/6)後に再上昇し3/9時点では@1,766円となっている。

(株)大塚家具【8186】:株式/株価 - Yahoo!ファイナンス

企業価値の一部(株式の時価総額)が上昇するということは、一見会社の値打ちが上がったようにも思えるが、要因にもよる。

今回のような増配の場合は、我も我もと買いが殺到し一時的な需給バランスにより株価は上昇するが、中長期的に見て企業価値を増加させるものではないため、いずれ本来の価値に落ち着く。もっとも、高騰前の株価水準が大塚家具の株価の本来の価値よりも低い場合は、今回の騒動により株価が本来の価値を取り戻すきっかけになるかも知れないが・・・

とは言え、理論的な企業価値が配当政策によって不変としても心理的要因も含めた一時的な株価の変動があることも事実であり、株主がずーっと同じでない、変動することにより、株主個人間によっては損得が生じることもまた事実であろう。

 

ということで、増配によって誰が得をするのかというと、株価高騰前の安い株価で大塚家具の株式を購入した株主さんたちである。株価が高騰したのちの株主さんはその分高くで株を買っている訳だから配当を増やしてもらっても当たり前と言えば当たり前だろう。

 

また、それ以前に、どこからその配当払うんですか?という問題もあろう。

争点となっているこれからの大塚家具の事業戦略によってまずは将来の稼ぎ(キャッシュ・フロー)を増加させ、その稼ぎの一部を配当増加として株主に還元するのであれば理解も出来るが、先に増配を約束するってのは、目的は明明白白ではあるとはいえ、あまりに近視眼すぎやしませんか?と感じざるを得ないのである。

大体、大塚家具の直近3期間の平均1株当たり純利益は約35円であり、社長提案は@80配当、会長提案は@120円(さらに20年には@150円とのこと)と、現状の稼ぎで賄える水準ではない。おまけに言うと、現在の配当水準@40円でも配当性向100%超だ。

この状況が継続すれば、どうなるか想像に難くないだろう。

しかも、増配によって誰が一番得するの、となると、今の持ち株比率だと会長が約18%(350万株)を保有している筆頭株主。仮に@120円だとすると大塚家具が支払う配当金232億円のうち4.2億円が会長に支払われることになる。

何か別のことに使われるのかな~と思ってみたり…

 

今回の社長、そして会長の提案が現在の株主もしかりであるが、大塚家具の将来を考える投資家、将来の株主は良く考えていただきたい。