溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

大塚家具の株主総会に思う 【株主リテラシーの向上】

波乱の株主総会が終わり少し落ち着いた感もあるが・・・

先週、3/27に開催された大塚家具の定時株主総会で、周知のとおり株主提案(大塚会長)が否決され、会社側の役員選任案等の議決案が選択された。表現はあまり好きではないが、マスコミ的に言うと

”世間を騒がせた大塚家具のお家騒動はかぐや姫勝利”で閉幕した。

 

事前の報道等では、株主総会直前の支持率(事前に支持を表明している株主)は

会長側約28%、社長側約21%と会長側の優勢が報じられた。ところが、総会当日、蓋を開けてみれば、社長側提案が議決権総数の61%の賛成を獲得した(会長側は36%)。事前に支持を表明していなかった機関投資家個人投資家の約8割が社長側の提案に賛成をしたことになる。

添付の記事(大塚家具の株主総会詳報)にも、数名の株主の質問、意見が掲載されているが、株主の立場を理解した上での冷静かつ中長期目線での意見が印象的だった。

これも報道では対比的に扱われるが、久美子社長の『理』に対して会長の『情』。現在の株主に対しては具体性に欠ける大塚会長の『情』は通用しなかったようだ。

『久美子社長の経営計画がいい、と言っているわけではない。どっちも問題がある。ただ、今の会長は、聞く耳を持たない。株主提案では年間配当を(40円から)120円に上げるといっているが、その先がない。勝久会長は筆頭株主だから、自分が一番配当金をもらえる。それにも納得がいかない。』
『あなた(久美子社長)にも、直してほしいところはある。だが、二者択一だったら、あなただ』

株主発言の抜粋である。そもそも同じ土俵で戦っていない、かみ合っていない両者を的確に指摘していると思う。会社は人間が構成するものであるから、当然『理』だけでは動かない部分もある。が、『理』の無い『情』には説得力がない。

大塚会長がもし『何故自分の思いが株主に伝わらなかったのか』、『何故これだけの実績を築いた自分が否定されるのか』をこの際じっくりと考えていただきたい。

 

この種の件になると2007年の『ブルドックソース事件』ブルドックソース事件 - Wikipediaを思い出す。大塚家具の件とは当事者同士の関係、買収者の買収目的、提案内容も異なるが、当時のブルドックソースの株主が『理』ではなく『情』に流された(ように思われる)事例だ。

買収者であるスチールパートナーズの高値(公開買い付け時の時価の18%増)でのTOB提案をほとんど全ての株主がNOを突き付けた(株主総会で議決権総数の約83%が反対)。つまり、カネじゃない、とっとと帰ってくれ。あんたたちに用は無い。我々は今の経営者に引き続き経営をしてもらいたいんだ、ということだがその根拠がよく分らない。経済的合理からすると理解に苦しむ意思決定であるが、察するに、金銭的な利益とは異なる要因、操業100年超の日本の老舗企業が経営をする気もない外国の投資ファンドにカネにモノを言わせて乗っ取られるという事実に理由なく拒否反応を抱いたのではないかと考える。

敵対的買収と言った場合、誰と誰が敵対しているかというと、買収者と現経営陣が敵対をしているのであり、買収者と株主が敵対しているわけではない。株主からすれば、買収者=新経営者が自身が保有する株式の価値をより高めてくれるならばその方が合理的な選択であると言える。ちなみに、当時株主総会で株主からの圧倒的多数で信任を得たブルドックソースの経営陣は、その後スチールパートナーズの買収劇での株価を上回る株価を達成できていない(どころか大幅に下落)。

果たして、当時の株主の選択は正しかったのだろうか・・・

 

今回の大塚家具の株主総会を見るに、この10年足らずで日本の株主のリテラシーは随分と向上したように思うのである。