溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

IPO(新規株式公開)審査強化に思う 

http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO85064220Q5A330C1DTA000

以下、日経朝刊より

日本取引所グループは新規株式公開(IPO)企業への審査を厳格にするよう証券会社や監査法人に要請する方針だ。経営者による不正な取引がないかをチェックする狙いで、日本取引所がIPO関連で証券会社などに注意喚起するのは異例。日本取引所は企業にも業績見通しの具体的な根拠を示すように指導する。』

 

この理由として、最近、上場直後の業績下方修正や不正発覚が相次いでおり、投資家の信認回復を急ぐ、としている。

金融危機後、低迷が続いたIPO市場だが、株高を追い風に14年度の新規上場数は前年度より33社多い86社になった。15年度は100社前後に達するとの見方もある。最近ではIPO主幹事を巡り証券各社の争奪戦となっており、取引所も含め審査が甘くなっていた可能性もある。』

 

 

そして、IPO審査強化は

・証券会社や監査法人による経営陣の不正チェック強化

東証などが企業に業績予想の根拠を示すよう指導

を中心としている。

 

取引所としては特に前者、つまり、主幹事(証券会社)や監査法人は公開準備会社に(取引所と違って←心の声?)何年も関与しているんだからもっとちゃん指摘、指導してくれないと困る、ということなんだろうなあ。

今回問題となった事例も経営者による不正、上場直後の大幅下方修正

前者は経営者の人となりだったり倫理観、経営方針、経営哲学といった企業風土に大きく影響する、いわば統制環境の問題だし、後者は予算管理制度の問題、いずれも上場審査の過程では厳しくチェックされる項目のはず。何でこういうところで問題が起こるのか首を傾げたくなる。

 

証券会社も監査法人もビジネスでやっているんだから、公開させれば手数料も入るし審査も甘くなるのでは?という指摘もある。監査法人は成功報酬は無いが、監査クライアントが公開企業になると監査報酬のレベルも上がることが通常なので、若干はそういう気持ちもあるとは思う。しかし、監査法人の役割はあくまでIPO審査対象期間の提出資料(財務諸表)に監査証明を表明することなので、会計監査に手心を加えるなんてことはあってはならないことだ。

 

分ってやっているのであれば確信犯なのだが、むしろ気になるのはそういったリスクが見えてなかったのではないか?ということだ。

 

ここからはあくまで経験に基づく直観的推論なので、その点は了承願う。

 

【見えていないと思われる点】

①経営者の人となり、経営に対する考え方

②ビジネスそのもの

 

①は、過去の会計監査を取り巻く問題もあって、会社(経営者)と監査法人の関係が希薄になっていることがあるのではないか。この傾向は最近は多少薄れてきてはいるが、依然として監査法人の(監査クライアントからの)独立性重視という点から、会社(経営者)から一定の距離を置く傾向がある。会計の数字は機械的に算出されるのではなく、やはり会社(経営者)の会計に対する考え方が反映される部分も多いため、日ごろの会社(経営者)との付き合いの中から監査法人はその傾向、リスクをつかみ取らないといけないのだが、それがしにくい環境にある。そして、問題は監査法人にとってこのような環境が『言い訳』になってしまっているのではないか、という点だ。例えば、監査の責任者は一定期間以上特定の監査クライアントに継続して関与してはいけないという会計監査のルールがある。確かに長年の付き合いの中での”なあなあの関係”を防止することにはなるが、一方で担任制ではないが任期が決まっており、自分の監査クライアントであるという意識が薄れるという弊害もあろう。このような意識の欠如は、会社(経営者)への積極的な関与を阻害することにつながる。

 

②は、会計監査の現場を含めた話。端的にいうと、どういう仕組で会社が儲けているのか、が分っていないのではないかということ。会計監査は、ある意味異常値や不自然な点を見つけるのが仕事なので、いわゆる通常、ノーマルな状態を理解することが大前提なのだが、最近の複雑高度化する会計ルールに対する対応や、数字ばかりを追いかける傾向が、会社のビジネスモデルの理解等の基本的な点をおろそかにしてしまっているのではないかと思うのである。また、言いたくないが、IPOクライアントは監査法人にとってはシーズ、種まきのステージであり採算があまりよろしくないことが多いため、リソースをあまり割きたくないという台所事情もあり、担当者がころころ変わったり、年次の低い会計士の担当が多かったりということも背景にあるのではないかと思う。 

 

こういった会計監査、監査法人を取り巻く問題はなかなか一般社会には見え難いが、上場会社が問題を起こすと広く社会に影響することになる。

上場審査の重要性は言わずもがなだが、審査の厳格化が手続の増加に終始するのではなく、当たり前の審査手続が当たり前になされているかどうかを今一度確認して欲しいと思うのである。