4/28日経朝刊より
『経済界が待ち望んだ法人税率引き下げが企業業績に意外な影響を及ぼしている。税率が下がり、支払う法人税は減るはずなのにむしろ下方修正の要因となる例が増えている。ズレが生じる主な理由は、税と会計の処理が異なる点にあるようだ。』
法人税率が引き下げられるのにむしろ税金が増えて減益に・・・一見奇異に感じる記事だ。
このパラドクスとも思える内容を理解するためには、まず税効果会計の仕組を理解する必要がある。税効果会計については記事にも簡単な説明があるが、以前当ブログにも記載しているので参照してほしい。
『ざっくりイメージをつかむために、飲食店のサービス券を例にとる。
1,000円持っている人が、飲食店で700円の食事をして会計の際に700円の代金は支払う
ものの次回来店時に使える500円のサービス券をもらったとする。
この時、手元には300円の現金と500円分のサービス券が残るのだが、現在の会計ルールでは手元に残った財産は800円(現金300円+サービス券500円)とカウントする。
使ったおカネから見ると700円を支払ったものの、その内500円は次回タダで使える権利をゲットしたのだから、今回使ったおカネは実質的に200円(700円-500円)と考えると帳尻が合う。
お気づきのように、800円が純資産、500円が繰延税金資産である。』
税率の引下げは、飲食店のサービス券の例に当てはめれば、定食の値段が値引きされると同時に過去に受け取った500円分のサービス券の使用価値も減額(例えば400円分へ)されるようなものである。
消費者としては、定食の値段が下がる(今後毎年納める税金が安くなる)のはうれしいが、サービス券の使用価値も下がる(繰延税金資産の価値が下がる)のは損をした気分になるのではないか?
『使ったおカネから見ると700円を支払ったものの、その内500円は次回タダで使える権利をゲットしたのだから、今回使ったおカネは実質的に200円(700円-500円)と考えると帳尻が合う。』ということで、当初は500円分得した(税金が得した)気分でいたのに、(サービス券の使用価値が400円に引き下げられたので)後になって追加で100円払ったようなものだ。所持金も800円(現金300円+サービス券500円)が700円(現金300円+サービス券400円)と100円、定食の価格改定があった時点で減額したことになる。
この場合の損は身銭を切る損ではなく、最初から400円分と言ってくれればそれはそれで良いものを一旦500円と言っておきながら後になって400円と言われることによる心理的な要素もある(400円分は依然として残っている)。
しかし、会計では業績は1年、四半期など期間を区切って報告するため通算では500円のサービス券が400円に100円減額されたことであっても、期間が異なると見え方が随分と異なることになる。
①当初、500円の使用価値ということで得たサービス券の価値を、②翌年になって100円減額された場合、
①+500・・・ 500円のサービス券受取時の価値増分(所持金500セーブ)
②-100・・・ 400円の使用価値に減額された時の価値減分(所持金100使用)
③ 400・・・ 現時点のサービス券の使用価値(所持金400セーブ)
①~③通しで見ると、結局現時点では400円の使用価値のサービス券を得た(繰延税金資産400)、当初価値を高く見積もり過ぎていたのでそんなに価値無いとわかった時点(翌年)で減額修正したということなのだが、②だけを見ると100損をしたように見える。②の100の繰延税金資産の価値の減少はP/Lでは税金費用の増加100(所持金100使用)として処理されるため、翌年の業績だけ税率が引き下げられたにも関わらず税金費用が増えたように見える。これが、税率引下げで税金費用が増加するパラドクスを引き起こしたということだ。