溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

M&Aの会計処理 ~のれん~ 【サントリーによるJTベンダー事業買収の例】

zasshi.news.yahoo.co.jp

サントリー食品インターナショナルJTの飲料自販機オペレーター事業と飲料ブランド「桃の天然水」「Roots」を1500億円で買収する、とのことだ。

 『買収対象には飲料ブランド「桃の天然水」「Roots」も含まれるが、実質“おまけ”のようなもの。サントリー食品は缶コーヒー、フレーバーウォーターのどちらにおいても、「南アルプスの天然水」「BOSS」といった販売数量で勝るブランドを持っており、買収するメリットは小さい。あくまで狙いは自販機事業にある。』

ベンダー事業のガリバー、コカ・コーラの83万台に対して今回の買収により既存の49万台に26万台がオンされることで合計75万台と、コカ・コーラの背中が見えてくる。

『全国に26.4万台の自販機を持つJTの自販機事業は、飲料メーカーにとって魅力的な買収先。それを手に入れることで、自社商品の自販機販路を一挙に拡大することができるからだ。』

ベンダー事業はベンダー台数がそのまま業績を左右するとも言われ、サントリーとしては悲願の首位奪取に拍車がかかり今回の買収額1,500億円となったのかも知れない。多少の割高は覚悟の上かも知れないが、果たして1,500億円は妥当なのだろうか?この点はインターネット上の記事も多数掲載され、ジャパンビバレッジの平成26年3月期の決算データを使うと、例えば、EBIT倍率は75倍超、EDITDA比率*は15倍超(*同社の決算公告資料から減価償却費をざっくり100億円と想定)、PERは132倍、PBRは3.7倍と、やはり一般的な水準からすると高いと言わざるを得ない。 それほどまでに、欲しかったということだろう。

 

さて、晴れてJTのベンダー事業の買収には成功したわけだが、問題は高い買い物のツケだ

M&Aの成否は、勝った時点で決まるのではなく、勝った後、つまり、買う前よりもより大きな利益をもたらしてこそ本当のM&A成功と言える

その際、買収した会社にとって頭が痛いのが、M&Aによって発生する『のれんの償却費』だ。

日本の会計ルールでは、のれんは20年以内の一定期間にわたり定額法により償却償却費は販売費及び一般管理費に計上)される。

 

JTの自販機事業の中核子会社・ジャパンビバレッジホールディングス(以下JB)の純資産は、584億円(2014年12月期)だが、サントリー食品が今回取得するのは、JBの発行済み株式の70.5%。つまり、サントリー食品の資産となるのは、411億円程度だ。この額と買収額の差が今後のれんとして収益を圧迫するが、仮に20年の定額償却とした場合、年間ののれん償却額は、およそ54億円にのぼる。』

年間のれん償却額=(1,500億円-411億円)/20年=54.45億円

となり、年間約54億円の固定費(買収した年度は月割)が営業費用となり、営業利益を圧迫する。

ジャパンビバレッジの業績が平成26年3月期の水準で推移するとすると、

M&A後のジャパンビバレッジのP/L

     (単位:億円)

   売上高     1,600

   売上総利益   780

   販管費     750 ←従来の営業利益はここまでで約30億円

   のれん償却費    54 ←買収による新たな負担

   営業利益     △24

のれんの償却費がなかりせば営業利益は約30億円だが、のれんの償却費を加味すると営業赤字となる。

サントリー食品としては、M&Aが成功した、つまり、ジャパンビバレッジをグループに取り込むことで追加的な(営業)利益を生み出した、とするには、追加で24億円の年間営業利益が必要になる。

この点、『サントリー食品の鳥井信宏社長は、「当社の自販機オペレーター子会社と、資材の共同調達や配送ルートの効率化などを行えば、コストシナジーが期待できる」と説明する。それらの取り組みによって、今後数年で70億~80億円の収益改善を見込んでおり、実現すれば黒字化も可能という見解だ。』

一方で、記事には『近年は円安による資材高騰や、トラックドライバー不足による物流費高騰の折にあり、コスト削減は容易でない。思惑通り営業利益を急伸させられるかは不透明だ。』との厳しい見立てもあり、買収の成否がどう評価されるのか今後の動向に期待したい。

 

と、ここで、もしかしてこんなこと考えいるのかな~?と思ったり。

サントリーは先の大型M&A、ビーム社の買収において発生した買収差額(今回ののれん相当額=1,500-411=1,089億円)の内、約60%を『商標権』と認識しており(パーチェスプライスアロケーションと言う)、実際にのれんとして認識したのは約40%だ。そして、商標権償却年数が見込めないとして非償却とした。その分、償却費は発生しない訳だ。今回の例に単純に当てはめると、1,089億円の内、約40%をのれんとした場合、のれんは約436億円、償却年数を20年とした場合の年間償却費は22億円となる。

この場合、

M&A後のジャパンビバレッジのP/L

     (単位:億円)

   売上高     1,600

   売上総利益   780

   販管費     750 ←従来の営業利益はここまでで約30億円

   のれん償却費    22 ←買収による新たな負担

   営業利益        8

 

まさかね・・・