溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

営業赤字でも減価償却費をプラスして営業キャッシュフローが黒字なら良いのではないか?

 

前回の『失敗しない経営の意味』で、生き延びるためのポイントの一つに

固定費を抑えて利益の出やすい体質を作る

を挙げた。

これについて幾つか質問をもらったので補足したい。

質問は、

減価償却費はキャッシュアウトを伴わない費用だから、営業赤字であっても減価償却費を含めずに黒字なら良いと考えてはダメか?』

というもの。

キャッシュフロー経営を意識した意見である。減価償却費は費用に計上されその分営業利益を引き下げるが、おカネが出て行くわけではない。だから、以下のような状況でも、キャッシュフローはプラスなのだから悪くはないのではないか、と考えるのも頷ける。

 

例を挙げる。

    ×1年度

売上     100

費用       50 ・・・減価償却費以外、原料費、人件費等のキャッシュアウト費用

減価償却費  100

営業利益 △50 ・・・営業利益は赤字(△50)

減価償却費  100 ・・・キャッシュアウトしないので足し戻す

営業CF  50 ・・・×1年のキャッシュは50プラス(儲け)

確かに、P/Lの営業利益は赤字だが、キャッシュベースでは50の黒字だ。

利益はともかく、おカネは1年で50増えたのだから問題なさそうにも思える・・・

ここでもう一歩突っ込んで考えてみたい。減価償却費分稼げていなくても毎年のキャッシュは黒字になるが、減価償却費の元である設備への投資額の回収はどうなるだろう?

先ほどの減価償却費100は、営業開始時に500の設備投資を5年/定額法で減価償却計算したものとする。とすると、

設備投資回収期間

①営業CF50の場合:営業CF50*10年-設備投資額500=0

②営業CF100の場合:営業CF100*5年ー設備投資額500=0

①は、上の例の場合、つまり営業利益が△50で営業CFが50の場合である。この場合、設備投資500分を取り戻すためには10年必要となる。

一方、②、営業利益が0(損益トントン)で営業CFが100の場合では5年で初期投資500を取り戻すことができる。この5年は減価償却の期間(耐用年数)に相当する。

つまり、減価償却費を上回る営業利益を意識することは、減価償却期間(耐用年数)で設備に投じたキャッシュを取り戻すことに繋がる。仮に、キャッシュベースでトントンで良い(上の例で、営業利益△100で営業CF0)と高を括っていると、初期投資500は永久に取り返すことができなくなるのである

 

もっとも、減価償却期間より長期化しても最終的に投資額を回収できれば良い、という意見もあろう。否定はしないが、外的要因に影響を受けやすい業種は特に投資額はできるだけ早期に回収するに越したことはない。また、往々にしてそう言う場合、では具体的に何年で投資額を回収するのかの計画がないことが少なくない…