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溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪で活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

後発事象にご用心 【ホンダの例】

www.nikkei.com

3月決算の会社を想像してほしい。決算も一息ついた2015年5月に、以前から稼働が落ち込み存続を検討してきた工場の閉鎖を決めた場合、工場閉鎖に関する損失を2015年3月期の決算に損失を取り込む必要がある、と言ったら驚くだろうか?

 

現行の会計ルールでは、2015年3月期は既に終了して既に新しい事業年度(2016年3月期)がスタートしているにも関わらず、言ってみれば2か月遡って2015年3月期に(工場閉鎖に係る)損失を認識する場合がある事業年度が既に終了した以降に発生した事象であっても一定の条件を満たす場合は前の事業年度の決算に反映する、これを『後発事象』と言う。決算日終了後の出来事であっても、前の決算に取り込まなくてはならないとは、何とも気が抜けない話だ・・・

もちろん、どんな後発事象でも前の事業年度の決算に取り込むかというとそうではない。工場閉鎖の例では、『以前から稼働が落ち込み存続を検討してきた工場』という点がポイントだ。要するに、2015年3月末時点で既に工場を閉鎖を検討するような状況があった、という点だ。その状況がその後進行し、工場閉鎖の意思決定がたまたま2ヶ月後の(2015年)5月になっただけでしょう?であれば、損失金額が見積もることができ、決算に間に合うのであれば2015年3月期の決算に損失を計上すべき、となる。このような後発事象を『修正後発事象』という。

一方、決算日まで順調に稼働してきた工場が突如(2015年)5月に火事で焼失するような突発的な事象の場合は、それに係る損失は工場消失という事象が発生した2016年3月期の決算に織り込み、それが2015年3月期の決算作業中であれば、このような重要な損失が来期(2016年3月期)に発生しますよ、とう警鐘を2015年3月期の決算書に記載する。このような後発事象を『開示後発事象』という。

 

さて、ホンダの例。

ホンダは12日、タカタ製エアバッグのリコール(回収・無償修理)関連費用として、発表済みの2015年3月期の連結決算米国会計基準)に448億円を追加計上すると発表した。5月にタカタが米当局とリコール対象拡大で合意したことに伴う措置。16年3月期の業績見通し(国際会計基準)には影響しない。前期の期末配当金(1株22円)も変更しない。』

 

タカタ製エアバックのリコール関連費用約450億円を2015年3月期の決算に織り込むということなので、『修正後発事象』として取り扱ったわけだ

ポイントは、『5月にタカタが米当局とリコール対象拡大で合意したことに伴う措置』だろう。つまり、ホンダの今回の判断の直接的なトリガーとなったのは5月(正確には5月20日)のタカタの米当局との合意であるとしながらも、タカタ製エアバックのリコールを巡るホンダへの影響(損失)の可能性は2015年3月末現在既に存在したという点を重視したと考える。

 

ところで、ホンダが公表した2015年3月期決算数値の修正は有価証券報告書に記載される『米国会計基準』による決算数値とのこと

最初この発表を聞いた時に、ん?このタイミングで修正後発(事象)!?と驚いたのだが、というのは、遅くとも5月中には日本の会社法による(連結)決算の会計監査が終了しているはずだからだ。実務上、本来は前期(2015年3月期)の決算を修正すべき『修正後発事象』であっても、会社法の決算が実質的に確定(会計監査報告書日付)した後の場合は会社決算の数値と有価証券報告書に記載する会社決算数値(こちらは金融商品取引法による決算)を一致させることを重視して、有価証券報告書の決算数値を修正しない(開示後発事象として取り扱う)からだ。この点、ホンダは(有価証券報告書上)米国会計基準による決算数値を記載しているため、会社法決算との数値の一致を考慮しなかったのだろう。あまり見かけない例だ。

一方、株主総会の決議(承認)の対象となる会社法の決算はというと、修正後発事象のトリガーとなったタカタの米当局との合意が5/20会社法決算の会計監査報告書日付はそれ以前5/8のため448億円の損失は会社法決算には取り込まれない。

仮にタカタの米当局との合意が5/8以前であれば、あるいはホンダにとっての損失認識のトリガーをどう考えるかによって、ホンダの会社法決算にも448億円の影響が出たわけだ。ホンダの事業規模(全て連結:売上12兆6,500億、営業利益6,500億、当期純利益5,200億、総資産18兆、純資産6兆7,200億)からすると448億はひっくり返るほどの影響ではないものの決して小さい金額ではない。今回のタカタのリコール関連損失448億円の取扱いについて本社と会計監査人との検討の跡が伝わってくる。前向きなディスクロージャーと捉えて、余計な詮索はやめておこう。

 

(ホンダのプレスリリース)

http://www.honda.co.jp/investors/library/filings/2015/Notice_of_Events_after_the_reporting_period150612J.pdf