三菱商事が発行する「ハイブリッド社債」ってどんな債券? | ZUU online
『6月12日、三菱商事が発行する償還期間60年の「ハイブリッド社債」が2000億円に膨らむ見通しとなった。投資家からはすでに、6000億円を超える需要があり、こうしたニーズに対応するために当初予定の1000億円から2倍の発行が決まった。』
ということで、三菱商事が発行する『ハイブリッド社債』が資本市場で人気らしい。
ハイブリッドという単語は今や様々な分野で使われているが、『異種のものを掛け合わせる』という意味だ。
『格付け会社は発行額の50%について実質的な資本として認める見通しとのこと。つまり、貸借対照表上は「負債」となるが、格付け機関が、発行額の半分を「資本」と認定するため、格付け上は「資本」が増え、財務体質が強化されることになる。』
見た目は負債だが、実質的には(その内の50%)は資本、負債と資本の掛け合わせ、ということらしい。見方によって負債にも資本にも見えることから、内での当プロジェクトのコードネームは『グリフィン』とのことらしい。
記事には、ハイブリッド債の特徴の詳細記述があるが、期待収益、弁済順位、価値変動リスクなど、いずれも、社債(借金)と資本(株式)の中間的な位置づけだ。
三菱商事は当期(2015年3月期)のROE7.74%を2020年にROEを12~15%に引き上げる目標を立てている。
であり、財務レバレッジ(総資本/自己資本)を大きくすることでROEの改善に繋がる。財務レバレッジを大きくすることは、要は借金体質になることだ。
何事も程度が肝心である。借金もある程度までならばROEの計算式のとおりでROEも改善し株価にも好影響だと考えられるが、行き過ぎると逆に財政基盤が不安定(財務リスクの上昇)となり格付けの低下、金利の上昇、さらには資本コストの上昇に繋がり、ROEにも株価にも悪影響となる。したがって、実際問題、ROE改善のために借金を増やす(財務レバレッジを効かす)といっても限度があるのだが、このハイブリッド債は見た目には借金でも(その一部が)格付け上は資本と認識されるということで、表面上財政基盤が不安定と見なされるような水準に低下したとしても、格付けの実質判定では格付けの引下げ⇒金利の上昇などに繋がらないことになる。三菱商事にとっては、財務の健全性を維持しつつROEの改善にも繋がる資金調達手段となり得る。
とは言え、今回の2,000億程度のハイブリッド債では、自己資本比率は33.2%(2015年3月期)から32.8%、財務レバレッジに置き換えると3.01⇒3.05程度の影響だ。ROEは、7.74%(2015年3月期)⇒7.84%と約0.1%の改善にしかならない。
仮にこのスキームでROEを10%まで引き上げようとすると、自己資本比率を約25%まで低下(財務レバレッジは約4倍)する必要がある。その場合のハイブリッド債の発行額は5.5兆円となる。これが実現可能かはともかく、それでも目標ROEには到達しないのであるから、やはりB/Sの右側をいじくるやり方だけではね・・・ということだ。
それにしても、よくもまあ新手の趣向を凝らした金融商品を次から次へと考えるものだ。リキャップCBもなんだかなあと思ったが、リキャップCBはまだB/S上の資本と負債のバランスを変化させるので見た目と評価(ROEなど)が一致する。ハイブリッド債は、見た目は負債のままで評価は資本・・・見た目の自己資本比率が低下して財務安全性が悪化したように見えても、『あっ、ウチ全然大丈夫っすよ。それ実質負債じゃないんで!』となるのか・・・何のための財務諸表だ?
当然、こういうのは注記対応するのだろうが、裏返せば会社の財務内容を評価する場合には、財務諸表本編だけでは不十分で財務諸表の注記を読み込むスキルが必要ということか。
投資家、株主の財務分析に関するさらなるリテラシーの向上が求められるのは間違いなさそうだ・・・