溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

今更聞けない『減価償却』って実際どういうこと?

 

多くのビジネスパーソン減価償却(費)という会計用語を耳にしたことはあるだろう。

新聞記事などにも『設備投資により次期以降の減価償却負担が見込まれる』と報じられることも多く、会計用語の中でも広く一般に認知されている用語の一つと言えるだろう。ところが、実は意味や仕組がイマイチ分かっていないという声も耳にする。

 

そこで、今回は減価償却について少し書いてみたい。

 

減価償却とは何か?

まず、そもそも減価償却とは何か?だが、『減価』という語感から、何らかの『価値が減っていく』様子をうかがえると思う。機械装置や車両などをイメージするとわかりやすいのだが、『形あるものはいつか壊れる』、いつまでも新品というわけにはいかず、使用に伴う劣化により価値が下がったり、あるいは、より機能の高いしかも安い新製品の開発により経済的な価値が下がったりする。多くの資産の価値は購入時点から徐々に下がっていくというイメージを持ってほしい。

さて、機械装置や車両などは、会計では『有形固定資産』に区分される。有形固定資産を取得すると、以下の会計処理がなされる。

100の有形固定資産を現金で購入した場合、

借)有形固定資産 100 貸)現金 100

有形固定資産は、購入時に費用として処理されずに一旦『資産』として貸借対照表、すなわちB/Sに計上される。では、1年後、2年後、3年後・・・のこの有形固定資産の値打ちは100のま維持されるのかというと、そうではなく、使用や時間の経過とともに減っていく。とすると、一旦100と置いたB/Sを資産の価値が下がったのであれば下がったように金額を修正する必要がある。つまり、減価償却は購入した固定資産の金額(価値の)修正と言うことになる。

 

減価償却で減った固定資産の価値はどこに行くのか?

固定資産の価値が使用や時の経過とともに減っていくのは分かるとして、減った分はどこに行くのか?

以下の例を見てほしい。

100で購入した自動車を5年で使いきるとする。

       購入時 1年後 2年後 3年後 4年後 5年後

自動車の価値   100      80         60      40      20        0・・・B/Sの金額

減価償却費      20      20       20      20      20        -・・・P/Lの費用

 

100の自動車の価値が、時を経るごとに徐々に減少して最終的に0になる。減った分は、P/Lに減価償却費(費用)として消えてくことになる。回数券をまとめ買いして使用するごとに徐々に手持ちの回数券が無くなっていくようなイメージだ。あるいは、値の張る品物(例えばバッグ)を購入する場合、10年使う、あるいは一生モノと考えればアリかな、という考えをする人もいるのではないか?10万円のバックを10年使うとすると1年当り1万円の使用料(コスト)と考えることができ、使用料が減価償却ということになる。

 

減価償却方法の意味は?

①のように、減価償却が固定資産の価値の修正とすると、定期的に固定資産の価値を鑑定評価して、価値の目減り分を減価償却費とすることが望ましい。しかし、鑑定評価には時間も費用も発生する。毎年のことであるため、これでは会社の負担も大き過ぎるということで、何とか別のやり方は無いのかということになる。そこで、『減価償却方法』の登場となる。減価償却方法には定額法、定率法などがあるが、いずれも固定資産の価値が継続的に減っていく前提に立った見做し計算である点は共通する。そして、この見做し計算により会社は固定資産の鑑定評価をせずとも簡単な計算によって減価償却費、そして固定資産の価値の目減り分を把握することができるようになる。都度都度の固定資産の価値を正確に表そうとすると鑑定評価が良いのだが、経済的な費用対効果を考慮し(鑑定評価と言っても必ずしも絶対的価値を把握できるとも限らない)、むしろ、計算は誰が行っても同じ結果になる(客観性)を重視した結果と言える。また、減価償却計算は継続的に行うことが求められる。今年は利益が出たからやります、今年は利益が出ないからやりませんというのはダメだ(税務ではアリだったりするけど・・・)。これは、製造業のように減価償却費が製造原価の一部を構成する場合、同じ製品を毎期製造しているのに、減価償却費が人によって変わったり予測できない(この点は鑑定評価も同じ)と予算も立て辛くなるということも背景にあるだろう。

 

減価償却方法や耐用年数は変えられるのか?

見做し計算とは言っても、本来は固定資産の性質や使用状況に応じて減価償却方法も耐用年数も会社独自に決定すべきだIFRSはこの立場)。耐用年数は固定資産が何年持つかと言う期間であり、例えば、同じ機械設備であっても、1日8時間操業の場合と24時間操業の場合では痛み方も持ちの長さも違うだろう。ところが、一般的には法人税法の規定による減価償却方法(からチョイス)と固定資産の種類ごと(使用状況に関わらず)耐用年数を使用することが多い。これは、会社独自に決定した減価償却方法や耐用年数が税務で認められないと、結局税法に規定によった方法により再計算の手間等が発生する、ということもあろう。

では、一旦決定した減価償却方法と耐用年数は変更できるのかというと、「出来る」減価償却方法や耐用年数によって計算される減価償却費は変わる。例えば、一般に定率法と定額法では定額法の方が減価償却費は小さくなる。また、耐用年数も長くすれば1年当りの減価償却は小さくなる。減価償却費《費用》が小さくなるということは、利益は大きくなる。つまり、減価償却方法や耐用年数の変更は会社の業績を変えずとも利益を増額することにつながることになり、無制限に認めると会社が錬金術的に利益を生み出すこと余地を与えることになるため、上場会社や事業規模の比較的大きな(公認会計士等の会計監査が必要な会社は)一定の制約のもとに認められるという条件付ではある。

 

参考になれば幸いである。