溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

一際異彩を放つ『負ののれん』とは何だ?

会計が苦手だというヒトの中に、『勘定科目が分かりにくい』という意見がある。”漢字の羅列の意味が分からない”というのが主な理由らしい・・・数字が苦手なので会計と聞くとしり込みするというのは分からなくもないが、漢字の意味するところが分かりにくいとなるとこれはどうしたものか、と思わなくもないが(笑)

売掛金、たな卸資産、有価証券、前渡金、前払費用・・・確かに暗号チックでもあるか・・・

 

いろんな事情があって(笑)、B/SやP/L等の財務諸表の項目(勘定科目と言う)の名称は”漢字”がほとんどだが、その中で目立つのが『のれん』だ。漢字の中で唯一といっていい”平仮名”、これは目立つ。

のれんについては、これまでも何度かブログで書いてきたが、今回は『負ののれん』について書いてみたい。

初めて耳にしたときは、文字通り耳を疑った(笑) のれんでも結構思い切ったなあ、と思ったのに『負ののれん』て・・・それ自体に名前はないんかよ、と。

ロナウドの小さい方、でロナウジーニョみたいなものか・・・

 

さて、この『負ののれん』だが、そうそうお目にかかれる代物でもない。というのも、前回のブログ『PBR1倍割れ株は割安なのか?』

 

tesmmi.hatenablog.com

 

に書いたが、通常は会社の株価>純資産(B/S)、つまりPBR>1、となり、企業買収(M&A)では『のれん』(敢えて言うと『正の』)が発生する。

負ののれんということは、株価<純資産(B/S)、つまりPBR<1、で会社を買収するということになる。この関係が通常ではないことは先のブログでも説明したとおりである。会社の純資産が商品の定価だとして、商品の人気が高く通常、市場ではプレミアがついて取引がされているなかで、ある商品はディスカウントして販売されているようなものである。つまり、『ワケあり商品』ということだ。定価で売れない何らかの事情がある場合に『負ののれん』は発生する。事情は色々考えられるが、例えば買収会社に係争中の損賠賠償訴訟のような偶発債務の負担が確定しそうな場合やスカイマークの例のようにリース債務(簿外債務)の引き受け可能性が高まっている場合、あるいは買収と同時に事業リストラも予定しておりこれに伴い発生が見込まれる割増退職金を含んで買収価額をけってする場合等々である。

 

いずれにせよ、普通じゃないよね・・・ということで、会計ルール上は、『負ののれん』は発生時に特別利益(P/L)として処理することになる。のれんが20年以内の一定期間に亘って償却販管費)されるのとは対照的に一括処理となる。

注目すべきは、特別利益とはいえ、会社を安く(純資産未満で)、お買い得に買収すると、瞬間的に利益が発生する、ということだ。そう言えば、その昔、ライブドアがこの仕組を利用してたなあ、他意はないです。

 

最近の負ののれんの発生事例(P/Lでは負ののれん発生益(特別利益))を少し拾ってみると・・・

H27/3月期

KADOKAWA DOWANGO 223億円

・山喜㈱ 2.3憶円

・リアルビジョン 7.4億円

 

H28年/3月期

・オカモト 8.7憶円

・オンキョー 2.3憶円

東邦銀行 76億円

ヴィア・ホールディングス 2.7憶円

アルコニックス 20億円

 

意外にあるな・・・

ちなみに、KADOKAWA DOWANGOは負ののれん発生益を特別利益に223億円を計上する一方で事業構造改革費用(51億円)、のれん減損損失(58億円)を同時期に計上している。連結税前利益が134億円なので、負ののれん発生益なかりせば連結赤字となっていたことになる。