溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

中小企業には内部統制は不要!?

会社の不祥事とともに内部統制という言葉がニュースで取り上げられることも次第に多くなってきている。10年前だとワードでも『ない舞踏性』と転換されたが、最近は『内部統制』と一発転換されることも内部統制の認知の向上を反映しているようだ。

 

このような背景もあってか会社法金融商品取引法の規定によって強制的に対応が求められる大企業はもちろんであるが、中小企業の経営者からも内部統制について相談を受けることが増えている。よく聞かれることは、

『大手はともかく、うちみたいな中小企業にも内部統制は必要なのか?』

と言うことだ。

法制度の影響もあり、内部統制と言うと真っ先に思い浮かぶのが、

・規程類の整備(文書化)

・社内ルールの明確化

・日々の業務のチェック

という面倒な『作業』ということらしい。

 

『理想は分かるんですけどね、でも、うちみたいな中小企業にそんなのを杓子定規に当てはめたらかえって業務が不効率になって採算も悪くなる

という意見もよく聞く。それに対して、

『(貴社には)既に内部統制はありますよ』と答えると、

『どういうことですか?規程もしっかり整備できていないんですよ』とキョトンとされる。

 

前言撤回と言うわけではないのだけれど、こういう意見を聞くに、内部統制がまだまだ根本的に理解されていないと思うのだ。

 

そもそも『内部統制』とは、事業を経営者の思う方向に向かって遂行するために経営者自身が社内に敷く仕組みだ。会社には経営者以外の従業員がいる。すべての従業員が経営者と同じ事業の考え方、知識、経験、能力ではない。経営者はそういった従業員を使って自身の事業目標を達成していくのである。もしかしたら、ミスがあるかもしれない、サボる者がいるかもしれない、不正を働く者も出るかもしれない、このような事があると、売上や利益の目標未達、コンプライアンス違反、社会的信用の失墜、つまり事業目標の達成を阻害することになる。内部統制はこれらを防止したり早期に発見したりする仕組み、つまり、『経営者のための仕組み』である。なので、経営者に『うちに内部統制は必要か?』と聞かれると、なんとも返答に困るのである・・・

 

内部統制は必ずしも文書とは限らない。内部統制なんかムダだという経営者に理由を問うと、『ワシが全部見とる』と言われることがある。社長が従業員に口頭で目的や指示を与え伝票もすべてチェックしている。その結果、社内にミスや不正が起きないようになっているのであれば、これも立派な内部統制と言ってよい(経営者がそれをやるべきかどうかはここでは不問)。この場合、その経営者こそが内部統制なのである(経営者は自覚がないかもしれないが・・・)。規程類の文書化や社内ルールの明確化など、内部統制を形式的にとらえるのでなく、(文書やルールは明確でないのだけれど)何故社内にミスや不正が起こりにくいのか?、何が効果を発揮しているのか?を考えると、その何かが見つかると思う。それこそが、既に会社に根付いた内部統制だ。海外の機関投資家からも、日本企業はルールの文書化が十分でない割にはミスや不祥事が(海外の会社に比べて)起きいにくいとの評もある。社内で従来行われている朝礼、報連相、飲みにケーションなどが意外に功を奏しているかもしれない。そういう意味で、『(貴社には)既に内部統制はありますよ』と答えている。

 

とはいえ、組織の規模によっては『ワシが全部見とる』とも言えなくなる。こうなると自分の考えやノウハウの実施を一部他者に代行させる必要があるし、従業員の入れ替わりもあるだろう。すべて直接口頭で伝達することは難しくなるため、やはりある程度の文書化は必要だし、直接個人間でコミュニケーションを取るよりも効率的であろう。形式に陥らず、既に社内に根付いた実質的な内部統制活かしつつ必要な形式を整える対応が望ましい(具体的な助言は会社の実態即して行っている)。

 

『ワシが全部見とる』経営者も、自身は少なからずチェック作業をするわけだし、社内オペレーションに問題を見つければ指摘や改善を求めることになる。業務の流れだけを重視するれば、これだって無い方が効率的だ。しかし、人間がやることには必ず意図するかしないに関わらず間違いがあり得る。間違いが無いと信じ込んだり、見て見ぬふりをしたりすれば、その場は済むかもしれないが後で大きな問題になる。会社の問題=経営者の損だ。内部統制=チェックなど不効率の極みだ、と言う経営者も無意識にそれを感じ、だからこういう業務では間違いが起こりやすい等、自分が必要と思うチェックはするのだ。要は、自分が不要と感じるチェックを(法の要請として)強いられることに違和感を感じているのではないかと思う。自分が何故このチェックは必要と考えるのか?何故これは不要と考えるのか?その背景を明確すれば、結果、自身必要と考えるチェック=制度上必要とされるチェックとなるはずである。そうならないとすれば、自身の考えが他者に伝わっていないか、会計監査等の制度の担い手が形式主義に陥っているからだろう。

私は内部統制を『車のブレーキに例えて説明する。一見、ブレーキはできるだけ踏まない方が目的地に早く到着すると思うかもしれないが、必要な時に適度にブレーキを踏まないと目的地に到着することすら実はままならない。F1などのカーレースでは、(速く走るために)ブレーキングが重要だと言われる。事業の規模や性質に応じた内部統制(=ブレーキ)を整備して適切に運用(=踏む)ことが結果的には事業を目標に近づける(=速く走る)ことに繋がる。中小企業にとっても内部統制の本質的な意味を理解して活用することは事業運営には重要だと思うのだ。