溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

循環取引とは何か? 【粉飾決算の1例】

 

 『クラボウは19日までに、繊維部門の営業担当だった元社員が帳簿や伝票を操作する不正取引を行い、売り上げや利益を水増ししていたと発表した。損益への影響は約4億円となる見通し。』

 

クラボウの会計不正の事例だが、この際使われた手口が『循環取引』と呼ばれるものだ。何が循環するのかというと、製品や商品ではなく、おカネと伝票が循環するのである。 

循環取引は、会計不正の手口としては古典的であり、過去にも枚挙の暇がない。

代表的な事例では、カネボウニイウスコー伊藤忠商事(子会社)、加ト吉、GSユアサ(子会社)、IXI等々

あの事件も循環取引だったのか、と思うものもあるのではないか?

循環取引は業種を問わないが、繊維業界やIT業界の印象が個人的には強い。

 

簡単なスキームは次のとおり。

A社(首謀者) 100円で仕入た商品を110円でB社へ販売

B社 110円でA社から仕入れた商品を120円でC社へ販売

C社 120円でB社から仕入れた商品を130円でA社へ販売

と、商品(実際には商品は動かない)がぐるぐるっとA~B~C間を循環する、これを称して循環取引という。

 

循環取引の動機】

何でこんな意味のなさそうな取引をするのか?という疑問を持つ方もいるだろう。いわば仲間内でボールを回しているようなものだ。そう感じた方は全くもって健全な精神の持ち主だと思う。しかし、一見無意味に思える取引も、立場によっては意味があるのである。

1つは、資金繰りに窮している会社の場合、運転資本を金融機関から借り入れ出来ているうちはよいのだが、会社の信用や景気の低迷などによって資金繰りに行き詰まると、月末の支払の資金に困ることになる。そこを乗り切れば、売上代金が回収できて資金的にも楽になるのだが・・・というときに、得意先に商品を販売して手形を入手してこれれを割り引くことによって現金化(支払に充てる)するというケースだ。モノを販売すするというよりは欲しいのはおカネ(手形)だ。取引の実態としては商品を担保にした借金をしたのと同じだ。これが循環取引金融取引と言われる所以でもある。上のケースでも、A社は、結局まわりまわって、100円で仕入れた商品を(C社から)130円で仕入れることになる。この点からも『なんて馬鹿なことを…』と感じるかもしれない。しかし、そこまでして『今のおカネ』が必要だということでもある。差額の30円は借金の利息だ。

もう1つは、売上を増加させたいケースだろう。日本の経済社会は売上高至上主義が根強い。業界首位という場合、大抵それは売上高が業界首位だろうし、売上がいくらかは会社の信用の尺度にもなる。また、上場会社にとっては業績予想を公表している手前、これを達成しないと株価下落にも繋がるといった具合で、売上を何とか予算達成、さらには増加させるインセンティブは概して強い。これは、社内の業績評価においてもいえる傾向であり、そのため、簡単に売上が創出できる循環取引は、会社ぐるみで行われる場合も担当者個人レベルで行われる場合もある。実際には商品等モノの移動は無く伝票上だけの操作になるため、タマ(商品)は無くてもさながら錬金術のように売上を生み出すことができる循環取引は使い勝手が良いのだろう。循環取引によって過去の損失の補てんという目的もあるので、売り上げだけでなくて利益も期待したいところではあるが、あまりにも利ざやを乗せるとそれはすなわちまわりまわって自分に降りかかってくることになるため(上の例では金利を自ら引き上げるようなもの)利益率が低いのも特徴と言える。

 

循環取引は何故いけないのか?】

 上記のスキームのように仲間内でおカネを融通しあったり、担保として商品を移動させること自体は不正ではない。それが経済行為として無駄かどうかは別として。問題は、それを売上として計上することだ。つまり、仲間内でボールを回す行為は会計ルール上は売上とは認められないにも関わらず売上として会計処理をすることが会計不正ということになるのである。

何故、売上として認められないのかというと、簡単に言うと、結局自分が買い戻している、つまり百歩譲って一旦販売したかもしれないが、その後返品を受けているのである。実際に返品があれば、それ以前に売上を計上していようが返品時点で売上取消(赤伝)をする。ましてやこのスキームはたまたまの返品ではなく最初から返品を前提にした取引(売上)であるため、そのような取引は売上として認められない、『架空売上』ということだ。という理屈なのだが、感覚的にも理解しやすいのではないか?

 

循環取引は何故見つかりにくいのか?】

 循環取引と似たような手口として『キャッチボール取引』がある。3社以上が関係する循環取引に対してキャッチボールは2者間で行われる。2者間で売上、仕入が繰り返し行われると、会社の帳簿上、同一の会社名が得意先にも仕入先にも登場することになる。ましてやその口座の金額がどんどん膨らむとなると、周囲からも怪しまれ足が付きやすい。これに対して循環取引は、間に他の会社を入れることで得意先と仕入先の名義を区別することができる。そして、それらの会社は実際に存在し会社との取引実績もある(そういう会社の担当者同士が内通している)ため、会社内でも目につきづらいというメリット(?)がある。また、取引関係者同士が口裏を合わせているため、『形式上』の取引に辻褄が合っているとなると会計監査でも何となく怪しいとなってもなかなか

証拠がつかめないということもあり、早期発見に至らないというケースが少なくない。

循環取引に6社関係した事例(広島ガス子会社HGK社)もあり、こうなると取引の全貌が首謀者でないと把握できないようなケースもある(おそらく、そうとは知らずに片棒を担がされた従業員も少なくないのではないか・・・)。

 

と、いうことで今回は循環取引についてつらつらと書いてみた。

なお、循環取引が発覚するのは、税務調査や関係者によるリーク、そして関与した会社が倒産して循環のスキームが崩れるなどである。税務調査はともかく、悪事のスクラムはいつかは崩れるということかもしれない・・・