溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

東芝の『のれん』評価に疑問あり!?

一向に東芝の不適切会計に係る問題が収束しそうにない。

先日の異例の”土曜日”第2四半期決算の決算発表にも、またその理由(*)にも開いた口がふさがらなかったが、立て続けに米国子会社(ウエスチングハウス、以下WH)の減損処理を東京証券取引所の適時開示ルールに従って公表していなかった点が指摘された。

(*)社外取締役の日程調整がつかなかったとの説明だが、肝心な時に集まれない社外取締役って果たして適格要件満たしているのか疑問・・・

東証の適時開示ルールでは、連結純資産の3%以上の増減の発生が見込まれる場合は速やかに公表することが求められる。東芝によれば『うっかり』とスルーしてしまったそうだが、この原因となったのがWHにおける2012年と2013年度ののれんの減損処理ということだ。東芝の11/7のプレスリリースでは、2012年度には約760億円、2013年度には約400億円ののれんの減損処理がWHで行われたとのこと(東証の適時開示ルールに抵触したのは2012年度)。

 

東芝は2006年から2011年にかけてWHを買収しており、この買収で新たに発生したのれんが2015年9月期の決算説明資料によると約3,400億円あるらしい。そして、2006年ののれん発生以来、東芝ではWH買収に関するのれんは一切減損処理がされていない。東芝によるとのれんの減損は必要ない、とのことである。

ちなみに、東芝米国会計基準で決算書を作成しているため、のれんの償却は不要である。

 

おそらく、一般の方にとっては、これの何が疑問なのか、あるいは何がどうなっているのか、それこそ疑問に思うだろう。

 

そのそもここでいう資産の減損は主に製造設備などの固定資産が対象となるが、減損処理をするしないの判定を『どの単位』で行うのかという問題がある。工場内の生産設備1台(固定資産台帳にはこの単位で記載)ごとに行うかというとそうではない。製造ライン一式とかあるいは工場単位とかのような最終的に外部に販売してキャッシュを稼ぐための製造設備一式を1つの資産グループとして認識し、この資産グループごとに減損の判定をすることになる。これを資産の『グルーピング』と言い、難しい言い方をすると、グルーピングは独立したキャッシュ・インフローの最小生成単位(キャッシュ・ジェネレーション・ユニット)ごとに行う。

WHで言えば、燃料、オートメーション、サービス、新規建設、と4つの事業に資産グループを区分している(2013年には、燃料、オートメーション・フィールドサービス、、エンジニアリング・機器・大型工事、新規建設)。今回減損の対象となったのれんは、米国会計基準では原則的に各資産グループに配分する(日本ルールではできれば配分する)ため、WHではそれぞれの資産グループにのれんが配分されていて、例えば2012年度は、オートメーションと新規建設事業の収益性が悪化した(儲からなくなった)ということで、それぞれ200億円、560億円ののれんの減損処理を行ったということになる。

東芝はWHの87%親会社であるが、2006年当時にいわゆる相場の倍以上の価額の6,000億円超でWHを買収した。その際に発生したのれんが先の約3,400億円の主たる要因である。普通に考えれば、東芝はWHのそれぞれの事業、つまり資産グループを約3,400億円のイロをつけて買ったことになるだろう。とすると、この約3,400億円も本来はWHの各事業(資産グループ)に配分すべきということにはならないだろうか?言ってみれば、例えば、WHのオートメーション事業に対するのれんはWH分が200億円、東芝分が800億円と2階建てになっており、2012年度はそのうちの1階部分の200億円が価値なしと否定された格好になる。この時、果たし2階部分は大丈夫なのだろうか、というのが疑問なのだ。

仮に3400億円の半分が価値なしと判断されるとすれば、東芝の連結純資産はさらに約1,700億円が吹っ飛ぶということになる・・・

 

子会社であるWH自身が価値が下がったと認めているにも関わらず、親会社である東芝安心してください、価値はしっかりありますよ、と言っているのだ。

 

これに対して東芝の見解は以下の通り。

詳細はプレスリリース(http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20151117_1.pdf

を参照していただくとして、簡単に説明すると、

WHでは4つの事業ごとに減損判定をしているが、東芝ではWH会社全体(にさらにWH事業部(以前はWH統轄事業部)を加えた)で減損判定しており、全体としては利益は出ているので翻ってどの事業の減損も必要ない、ということだ。

1つ1つの事業を見ればダメな事業もあるかもしれないが、他の事業がそれをカバーしているので、全体としてみればOK、ということでWHでの資産グルーピングと東芝の連結レベルでの資産グルーピングが異なるということを説明している。

まあ、無くはないけど・・・

確かに、資産グルーピングは個別と連結では異なることはある。例えば、製造子会社、販売子会社のそれぞれを資産グループとして製造子会社の固定資産を減損処理したとする。しかし、連結ベースでは製造販売を一体とした製品ごとを軸に事業管理(これをキャッシュ・ジェネレーション・ユニット)する場合だ。

東芝の場合はどうなんだろう。少なくとも、WHの資産グループはそれぞれがキャッシュを生み出す単位として完結しているはずだ。というか、だからこそ、WHでは各事業ごとに資産グループを区分している。

 

さらに、東芝は組織再編により2014年度からWHの事業だけでなく国内の原子力事業も合わせて原子力事業部全体で減損判定をするように資産グルーピングを変更したとのこと(参照:http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/pr/pdf/tpr2015q2.pdf 34p)。

アメリカで赤字でも日本の黒字で相殺できるなら良いってことか・・・さらにドンブリが大きくなったようだ。ここまで来るとさすがに・・・監査法人どういう理屈で変更も含めて認めたんだろう・・・何となく舞台裏は想像つくけど・・・

 

というか、監査法人が認める認めない以前に、こういうことやっていると、損益管理甘くならないか??

 

最近の報道では、東芝監査法人新日本監査法人)が交替されることになりそうだ。後任はどうもあの監査法人になりそうだが、この資産グルーピングを受け入れるのかどうか、Noの場合追加損失(のれんの減損もさることながら繰延税金資産の取り崩しも)・・・東芝の不適切会計問題、まだまだ終息しそうにないかもしれない。