溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

為替予約は何のためにするのか?

http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO94512290X21C15A1DTA000

www.nikkei.com

 

『カジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは2016年8月期に海外からの仕入れで約900億円の費用抑制が見込めそうだ。為替予約の活用で現行より安価にドルを調達し支払いに充てられるため。円安に伴う輸入コストの上昇分を一定程度吸収し、商品の価格競争力の維持につなげる。』

具体的には、

 『為替予約は将来必要な外貨をあらかじめ決めたレートで売買する取引ファストリが27日、関東財務局に提出した有価証券報告書によると、今期は1ドル=95円11銭の平均レートで36億ドルを予約している。今期の想定為替レートは1ドル=120円。単純計算では想定レートで支払う場合に比べ、1ドルあたり25円程度安く商品を調達できる。』

記事にもあるように、為替予約は将来の決済レートをあらかじめ契約(通常は、会社と銀行間で)する取引だユニクロのように商品を海外から輸入していて外貨建ての仕入債務がある場合、為替レートが円安に振れると円ベースでの支払代金が膨らむ。例えば、仕入した時点で為替レート(円ドル)が@120円で6か月後の決済時点で円安が進行して@130円となると、1ドル当たり10円の損をするということだ。それを、仕入時点で6か月後の決済時点でのドルの調達レートを銀行と@125円で契約しておけば、1ドル当たり5円(130-120円)損を抑えることができる。

ところで、6か月後の想定レートはどのように決まるかであるが基本的には2国間の金利差と現在の為替レートで決まる

例えば、

日本の金利 2%

アメリカの金利 5%

現在のレート @120円

とすると、

1ドルを半年間アメリカで預金すると、

1ドル+(1ドル*5%*1/2)=1.025ドル になる。

一方、120円を日本で預金すると、

120円+(120円*2%*1/2)=121.2円 になる。

双方が等価値になるように為替レートは調整されるので、

1.025ドル=121.2円 ⇒1ドル=118.2円 と算定される。

このケースでは、6か月後は(@120円に比べて)円高に振れることになる。

一般的に、2国間の金利差が広がるほど金利の低い通貨の方が高くなる。例えば、アメリカの金利が引き上げられるとより円高が進行するということだ。

もちろん、実際には他の要素も考慮されるのでこれほどシンプルではないが基本的な考え方はこんな感じだ

 

予約レートは契約当事者間でエイや!で決めてるわけではなく、それなりの前提とロジックを使って算定されるので、現実の経済がその前提の通りに進行すれば為替予約をしてもしなくても影響はない(というか同じ)ことになる。つまり決済時点の実勢レート=予約時点の決済時レート。

ところが、やはり未来は神のみぞ知る。予測は予測、実際とは異なるのが常だ。

ということで、為替予約によってユニクロのように得をする会社もある訳だ。もちろん、将来の為替動向の読みを間違えて逆に為替予約で損をする会社もある。例えば、@130円で仕入代金の為替予約を契約したが決済時点の実勢レートが@125円であった場合、為替予約を契約したばっかりに@5円分損をすることになる。

何を基準に為替予約の損得を考えるかだが、仮に為替予約をしなかった場合と比べて支払金額が多くなったら損、少なかったら得ということであれば、これはどちらとも言えない、ということになる。

 

ところで、為替予約は将来のキャッシュ・フローを固定する、という効果もある。

将来の為替レートはその時点になってみないと分らない。ということは、外貨建ての取引をしている会社にとっては決済時点に一体いくらおカネが入ってくるのか、出ていくのか予想できない(円ベースで)。これは当然ながら当期の業績や必要な資金量の予測にも影響する。経営はそれでなくとも(将来の)不確定要素が多い中で更に不安材料を抱えることになる。つまり、為替予約によって将来の不確定要素をあらかじめ排除することができるということだ。

為替予約は、決済時点の実勢レートと比べて受け取る/支払うおカネが多い少ないの損得だけでなく、将来の不確定要素を排除する、という効果もあるのである。