溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

ROEを高めるためには結局・・・ ~リキャップCBに限界~ 【日本ハムの例】

www.nikkei.com

 

日本ハム新株予約権社債転換社債=CB)の発行と自社株買いを組み合わせるいわゆる「リキャップCB」を過去2回実施しているが、その理由が笑えない・・・

そもそも日本ハムは、自己資本利益率(ROE)を計算する際の分母にあたる自己資本が減り、ROEを改善できるということでリキャップCBを発行した。

『1回目は2010年3月。日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)が主幹事で、300億円のCBを発行し、自社株買いを164億円実施した。残りを既存借入金の返済などにあてた。この時に発行したCBは利息支払いのない「ゼロクーポン債」。金利コストを増やさず自社株買いに必要な資金を手当てできるのがリキャップCBの大きな特長だ。狙い通り資本効率は改善し、ROEは10年3月期に5.8%と前の期より5.2ポイント上昇した。』

ということで、ここまでは狙い通り。

 ところが・・・

アベノミクス相場の追い風もあり、日本ハムの株価は大きく上昇。CBはほぼすべて株式に転換され、発行済み株式数が約1割増えたのだ。「転換を前提としてはいたが、本当にすべて転換するとは思わなかった」(畑副社長)』

なんともまあ・・・笑うに笑えない

結局、株式転換で自己資本が再び増え、ROEが低下・・・

リキャップCBは利息払いは無いが、当然ながらその発行には発行手数料がかかっている。手数料の払い損ということだ。

『そこで14年3月、「やむを得ず選んだ」のが2回目のリキャップCBだ。第三者割当方式でSMBC日興グループが引き受けた。』

この期に及んで同じ手を2回する神経がスゴい・・・

とはいえ、日本ハムばかりではない。ROEは14年3月期に8%、15年3月期に9.2%まで上がったとのこと。こういう『戦略』を財務戦略として評価するそういう投資家がいることもまた事実だ。

 

なんだかなあ・・・

 

とまあ、ここまではボヤキなのだけれど、このような小手先の手口は本質的な企業価値の向上にはつながらないことは日本ハムも投資家も理解はしているようだ。

 

ROE=当期純利益率*総資本回転率*財務レバレッジ

であり、リキャップCBは、財務レバレッジ(総資本/自己資本)を大きくすることでROEの改善に繋げようとする手法だ。だが、ROEを高めるには、他に利益率を上げる、資産効率を上げる、というアプローチがある。

というより、どう考えてもそちらの方が健全だろう。難しいことを考えなくても、

利益率を上げる、資産効率を上げる、借金比率を上げる、どれが一番会社にとって良いかを考えれば自ずと答えは出るだろう

日本ハムの売上高純利益率は15年3月期に2.6%にとどまり、16年3月期の日本ハムの連結純利益は11%減の275億円の見通し。売上高純利益率も2.2%まで下がる。肝心のROEも7%台に下がる見通し。

 

 『安易な財務テクニックに頼らずに、収益性や資本効率性をどう高めていくか日本ハムは新たな試みを始めている。』

 

ということで、日本ハムでは今期から3つの事業本部でROIC(投下資本利益率)がどれだけ改善したか四半期ごとに点検するようにしたとのこと。

 ROICは一般に、利益を自己資本と負債の合計値で割って計算する。

通常は、ROIC=税引後営業利益(NOPAT)/投下資本(Invested Capital)

ROAに近いコンセプトで、自己資本だけでなく他人資本(借入金)も合わせて調達した資金を効率よく使用して稼ぐ(利益)力を示す指標だ。

ROICでのポイントは、ROEのようにいたずらに自己資本を減らす、あるいは借金をして自社株買いをするといった手法は通用しないということだ。

つまり、利益率を改善する、おカネを効率よく使う、と言った会社本来の取り組みの成果を反映する指標といえる。もちろん、(自己資本比率が一定ならば)ROEも改善することになる。

 

『リキャップCBという試行錯誤を経て、日本ハムは本業の収益力向上を通じた持続的なROE改善を急ぐ。』

 

なんでも過渡期にはいろいろ紆余曲折があるものだ。

ともあれ、あるべき方向に舵を切った日本ハムの今後に期待したい。

 

色々と注文するつもりはないが、ROICは投下資本に対する利益を評価するので、いまだ事業に投資されていない資金は考慮されない。つまり、現金預金や有価証券といったいわゆる余剰資金を多く持っていてもその不効率は指標に反映されない。現状の会社(全体)の評価というよりは『事業』の評価という意味合いともいえる。そういう意味では、結局はROAを改善するような施策を考えることが会社にとっては最善ではないかと思ったり。