溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

M&Aに向き合う姿勢 【日本電産 永守社長の例】

www.nikkei.com

『2015年は世界のM&A(合併・買収)の総額が500兆円を超え、過去最高となった。日本企業の海外M&Aも初めて10兆円の大台を突破。』

決して景気が回復したといえない国内市場をかんがみれば、今後もこの傾向は続くだろう。一方で、

『優良案件の奪い合いが激しくなり、買収コストも膨らんでいる。経営判断を誤れば巨額の損失を迫られかねない。』

ということで、何でもかんでも買収すれば良いということではない。

進むにしても、留まるにしても経営としては難しい問題だ。こうした経営課題に対して、国内の経営者としては数少ないM&Aの成功者と言える日本電産の永守社長が日経新聞のインタビューに応えていたので注目したい。

 

 ――15年は日本企業の巨額買収が活発でした。

 「日本企業のM&Aがある度に収益性を分析している。15年は数は多いが、いい買い物が少なかった感じだ。純資産に上乗せして払うのれんが買収額の大半を占めるほど高い製造業の例もあった。どうやって利益を出すのか首をかしげる」

 「業界での横並びを狙う海外企業買収も目立った。サラリーマン経営者にありがちだが『1社がM&Aをするとシェアの順位が変わるから、うちもやろう』と無理やり踏み切る。今は問題なくても、景気が悪化した時に巨額の減損損失に苦しむことになる」

 

⇒いわゆる高値掴みということだが、何故その会社を買うのか?、当社にとってどういうメリット(シナジー)が期待できるのか?何故その値段なのか?個人の買い物においても当然検討すべき内容であるが、実は出来ていないケースが多いのである。その理由として、業界のシェアの順位、売上高至上主義ということだが、会社を評価をシェアのみで判断する慣行を指摘している。また、M&A部門などはまさに買うことが仕事になり、高いかなと思っても買わないと仕事していないように見られることにもなるため、高値であったり、シナジーが期待できないような会社でも買収対象にしてしまうことにもなりかねない

そして、高値で買収すると、そのツケはのれんの償却、あるいはのれんの減損という形でやってくる。のれんの償却については、のれんを償却しなくて済む(日本の会計ルールではのれんは20年以内の期間で償却)IFRS(国際財務報告基準)などに会計ルールを乗り換えることによって対処できる。が、その場合であってものれんの減損は免れない。そもそも、順風満帆な会社が売りに出ることは多くなく、買収した会社は何らかの経営上の問題を抱えている場合が多い。要は、訳あり会社を買収するのだから、買って放っておいたら業績悪化は避けられない。買収先企業の業績悪化がのれんの減損を引き起こすことになる、という指摘だと思う。

これらの点は、以下の永守社長の回答にも表れていると思う。 

 ――日本電産は珍しく小型の買収ばかりでした。

 「海外で大型買収を狙ったが価格が高すぎた。数十件を検討し、実際に買おうとしたうち8社を見送った。許容できる買収額より平均5割は高い。こういう年は過去にもある。今年は高水準の株価に買収額が影響されにくい小さな企業を相対取引で7件買収した」

 M&A買収後が肝心だ。当社は3年以内に営業利益率を10%超にするなど基準がある。買収額が高いと業績を押し下げる。想定より3割高く買ったことがあるが苦労している。高値で買っていいのは、競合企業がいなくなるなど、よほどの相乗効果が見込める場合だけだ」

 

 〈聞き手から一言〉
■「1回休み」経て買収に動く年に
『巧みな買収で日本電産を世界企業に育てた永守氏はM&A成功の秘訣を「休むこと」と語る。投資回収できるかを徹底的に計算。難しいと判断した場合は、すごろくのように「1回休み」にする判断も大切だと強調する。無理な買収は財務を傷めて経営の重荷となり、本当に必要な案件を諦めざるを得なくなるからだ。』

 

⇒のれんを償却しようとしまいと、のれん分のおカネも支払って(買収して)いることには変わりがない。ということはのれん分も含めて将来の稼ぎを生み出さないとトータルでペイしないことになる。また、無理におカネをM&Aに突っ込むと本当に欲しい案件が目の前に出たときに資金不足で手が出せないということにもなる。これも当たり前の話だが、目先の利益を重視した経営だとついつい陥ってしまうワナとも言える。


 『来年に向けて「お買い得」とみるのが国内の電機・IT大手の事業や系列会社。高い技術や顧客基盤を持ち、意識改革次第で高収益体質に再生させやすいという。ほぼ1年間の休みを終えた永守氏が攻めに転じることは確実だ。』

 

⇒まず、買収相手に何を見るのか、そして何を求めるのかが明確だ。そして、M&Aして終わりではなく、必ずその後の再生、さらには既存事業とどうシナジーを発揮させるかといったPMI(ポストマージャーインテグレーション)を念頭においている。実際、買収をまとめるのも大仕事ではあるが、本当に大切なのは買った後、この点も社長自らが熟知されている点が日本電産M&Aを成功させてきた証だろう。

 

永守社長の意見は、いつ聞いても当たり前のことを当たり前に、そしてこの点が重要であるが、きっちりとやり切ることの重要性を示唆していると思う。