溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪で活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

自己株式を買うとどんなメリットがあるのか?

www.nikkei.com

ソフトバンクグループは15日、今後1年間に5000億円を上限に自社株買いを実施すると発表した。株数では1億6700万株と発行済み株式数(金庫株を除く)の14.2%にあたる。株主への還元を強化し、低迷する株価の下支えを狙う。同社が一度に設定する自社株買い枠としては過去最大規模になる。』

 手元資金のほか保有資産の売却、約7兆5000億円の上場有価証券に加え、簿価で1兆円超の非上場株、の売却資金も一部活用するのこと。

 ソフトバンクの株価は12日に4133円と13年3月以来の安値水準に下落とのことで、米子会社スプリントの経営を巡る先行き不透明感なども影響しているとの報道。

 

それにしても5,000億規模の自己株式とは・・・恐れ入る。

株式市場では、この規模の自己株式を取得できる体力がスゴイという声も聞かれるどだ。

 

そして、この自己株式購入の発表後、株価は3日間続伸。前日比815円(16%)高の5915円まで上昇する場面があった。

 

ソフトバンクに限らず、HOYA、GMOTEなど最近自己株式の購入を発表し、株価が上昇する会社が相次いでいる。

 

自己株式の購入を発表すると何故株価が上昇するのだろうか?

 

孫正義社長はこの時、「株価は実力より安い。(投資先として)ソフトバンク株が一番リターンがいい」などと語っていた。』

 

1点目は、会社のことを一番良く知っている会社自身が自己株式を購入ということは、株価が割安となっていることを株式市場にアピールすることになるためだ。”今がお買い得ですよ~!”とアナウンスすることによって、投資家は”今が買い!”と買いが入るので株価が上昇するというわけだ(アナウンスメント効果)。

 

2点目は、1株当たり利益の計算上、発行済株式数から自己株式は控除されるため、1株当たり利益が大きくなる。例えば、当期純利益が100百万円、発行済株式数が1,000,000株とすると、1株当たり利益は100円(100百万円÷1,000千株)となる。

仮に、自己株式を200,000株(20%)取得すると、1株当たり利益は125円(100百万円÷(1,000-200千株))となり、25%増加する。

株価と1株当たり利益の関係はPER(株価収益率)であり、株価÷1株当たり利益で表される。要するに、株価が利益の何年分期待できるかということで、年数が長くなればなるほど期待度が高い=PERが大きい=株価が高い、ということになる。

とはいえ、PERも青天井ではなく、そこは一定の水準(10倍とか15倍など)があるため、例えば、一定のPERであれば1株当たり利益が大きくなるほど株価は高くなる。

例)PERを10倍とすると、

1株当たり利益100円*PER10倍=株価1,000円

1株当たり利益125円*PER10倍=株価1,250円

 

3点目は、自己株式を取得すると、財務レバレッジ(総資産÷自己資本)が高まることでROEが上昇する。これを投資家が好感して、株価が上昇することがある。

自己株式は会社が株式市場からおカネを払って購入する『資産』であるが、一方で会社にとっては、株券を発行することによって調達した『資本金』を株券を買い戻すことで回収する(資本金の払い戻し)ことにもなる。会計ルールでは、この点を重視して貸借対照表(B/S)の資産ではく、純資産の部にマイナス(△自己株式)として計上する。直接資本金を減額しないのは、自己株式の取得は意味合い的には資本の払い戻し(減少)であるものの、会社法では実際に資本金を減少(減資)するには株主総会の特別決議という厳格な手続きが必要となるため、手続きを経ずに資本金を減少させるのはマズいためだ。

こういった理屈で、自己株式を取得すると純資産が減少し、相対的に負債の割合が高なりレバレッジが高まることになる。

ROE=当期純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ

という関係から財務レバレッジの上昇はROEの上昇につながる。

 

ところで、取得した自己株式はその後どうなるのだろうか?

自己株式は、1株当たりの利益の計算上発行済み株式数から控除されるのであるが、実際には存在している株券なので当然会社が再度株式市場に売却することもできる。ところが、当然と言えば当然であるが、そうすると、発行済み株式数が元に戻るため1株当たり利益も元に戻ってしまう(シンデレラ効果)。

 

とはいえ、取得した自己株式は『処分』するか『消却』するかになる。

再度株式市場に売却するのも『処分』の方法の1つであるが、他に、

・役員、従業員等への新株引受権の授与

・従業員等への退職金の支給原資

株式交換によるM&A

などに活用できる。

役員や従業員への報酬として(自己)株式を譲渡したり、退職金の支給原資することは、彼らのモチベーションを高めるとともに会社の業績アップにもつなげる効果を期待できる。また、既に発行済みの株式を再利用するので新株を発行する手続きやコストも省ける株式交換によるM&Aも然りだ。通常会社を買収するには多額の資金が必要であるが、発行済株式を活用することで資金をセーブすることができる。また、株価を高めればその分交換する株式数が少なくすむメリットもある。

自己株式の消却は、文字通り自己株式を消滅させるこである。1株当たり利益の計算上は自己株式を取得した時点で効果が出るため、消却をしたところで計算上は影響はないが、株券を消滅させることで、その後株式市場に再売却して元の木阿弥とする道が絶たれるため、株価に対してはポジティブな影響ももたらすことになる。

 

自己株式の取得や活用は、会社の財務指標や株価に好影響をもたらす可能性があり、財務戦略の1つとして検討する余地はある。同時に、株式市場から調達したおカネを使いきれませんでした、として返却することにもなる。できるものならば、せっかく調達したおカネ、出してからすれば会社に対する期待、会社の事業に有効に活用して成果につなげて欲しいと思ってみたり・・・