溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

転換社債(CB)発行が株価下落に繋がるのは何故か? 【スズキの例】

www.nikkei.com

 

売り気配で始まり、大幅反落した。前日比128円50銭(4.4%)安の2813円50銭まで下落した。』

昨日、ユーロ円建ての新株予約権社債転換社債=CB)で2000億円を調達すると発表したスズキの株価の下落のニュース。株価下落の原因は、CBの株式転換後の1株価値の希薄化の懸念ということだ。

 

CB発行が何で株価下落に繋がるの?

という疑問を持つ人もいるのではないだろうか?

 

転換社債(CB)は一定条件下で株式に転換される権利を有する社債だ。

『CBは2021年と23年を満期とする2種類を発行し、それぞれ1000億円を調達する。転換価格はいずれも前日終値の2942円より40%高い4120円。』

 

スズキの場合は、株価が4,120円を超えると社債の保有者は社債を持っているよりも社債をスズキの株式に交換してもらった方がお得になる。株価が高くなるほど社債を株式に交換して市場で売却すれば利益が出る。一方、株価が4,120円まで上がらなれば社債のまま償還期日まで保有すれば、元利が返済される。社債権者にとっては、株式の投機性(値上がり益)と債権の安全性を兼ね備えた商品ということになる。リスクとリターンは常にバランス、商品が魅力的な分、発行側の会社にとっては社債金利を抑えることができる。スズキの場合は、金利のつかないゼロクーポン債とのことだ。

 

つまりCBが株式に転換される可能性を見込んで、発行済株式の増加⇒株下落、という構図となる。

 

何故、発行済株式が増加すると株価が下がるのか?

 

端的に言えば、増資などにより発行済み株式が増加すると、株主の権利が下がるからである。

株主の権利には、会社の重要な意思決定に参加する権利(公益権)と配当などの利益を得る権利(自益権)の2つがあるが、これらはいずれも持ち株数に応じて付与される。したがって、自分以外の誰かが新しく発行される株式を取得するということはすなわち自分の権利が薄まることになる。これを『株式の希薄化』という。

例えば、Aさんがある会社の株式100株の内10株(10%)を持っているとする。新たに100株が発行されAさん以外が取得した場合、Aさんの持ち分、会社に対する影響力と言ってもよい、は5%(10株/200株)に薄まることになる。

また、会社の純資産や純利益が一定で株式が増加すると、これも既存の株主の持ち分が損なわれる。

会社の純資産総額2億円として発行済株式が1,000千株の場合、1株当たり純資産は200円だが、1,200千株に20%増加すると1株当たり純資産は167円に低下する。同様に、純利益が10百万円とすると、発行済株式が1,000千株と1,200千株では、1株当たり利益(EPS)は10円→8.3円となる。そしてコチラ(自己株式を買うとどんなメリットがあるのか? - 溝口公認会計士事務所ブログ)にも書いたように、1株当たり利益(EPS)とPER(株価収益率)の関係から1株当たり利益の低下は株価の下落要因となるのである。

とまあ、自社株取得と逆のパターンになるわけだ。

 

それもあって、スズキは、

『同価格で普通株にすべて転換された場合、発行済み株式数に対する潜在株式の比率は11%に増える。ただ、株式の希薄化を抑えるため、転換請求されてもスズキがCBを買い戻す仕組みを取り入れて交付する株数に上限を設け、潜在株式数の比率を5.5%にとどめる。』

として、既存株主への配慮によりネガティブエフェクトを弱めようとしている。

 

ところで・・・

増資は悪い事なのか?

 

事業を成長させるためにもおカネは必要だ。必要なおカネを調達する手段として増資が悪いというわけではない。調達したおカネを使って見合う成果が出せるかどうか、これ次第になる。

先ほどの例では、増資による発行済株式数の増加により1株当たり利益(EPS)が低下としたが、これは当期純利益が一定、変わらない、という前提での話だ。増資により調達したおカネで事業を成長させ利益を増加させれば必ずしも1株当たり利益(EPS)の低下にはつながらない。

例えば、増資により発行済み株式数が1,000千株⇒1,200千株に増加するが、当期純利益も10百万円⇒15百万円に増加する場合は、

1株当たり利益(EPS)は、10円(10百万円/1,000千株)⇒12.5円(15百万円/1,200千株)に上昇する。そして、1株当たり利益(EPS)の上昇は株価の上昇つながる(第3者割当増資の場合は議決権比率は低下するのでこの点は希薄化するが・・・)

つまり、増資(による発行済株式の増加)が即、株価下落につながるのではなく、増資に見合う成果を出せるかどうか、株式市場の視点では、増資に見合う成果をその会社に期待できるかどうか、によるのである。

 

翻って、スズキの場合・・・

『調達資金インド工場の設備投資資金などにあてる。市場では「競争力の源泉であるインドに資金を注入する姿勢は評価できる」(国内証券アナリスト)との声が出ていた。』

今回の増資について一定の評価は得られたようだ。現在株価のPBR(株価純資産比率)は1.23倍なので決して低い訳ではないが、転換価格は現在価格の+40%の4,120円だ。これから観ると、増資⇒インド事業拡大⇒収益性(例:1株当たり利益)改善⇒株価上昇⇒転換進む⇒発行済株式増加⇒1株当たり利益下落⇒株価下落

ということだろうか。現在の株価が下落しなくても良いのではないかと思ったり・・・