溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

為替換算調整勘定とは何か? 【為替変動への対応 最近の傾向】

http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO98344750R10C16A3DTA000

『企業が新興国通貨安への対応を急いでいる。為替差損による収益の目減りを抑えるのが狙いだ。進出先の子会社が抱えるドル建ての借り入れを圧縮したり、為替予約を活用したりしている。』

以下は、企業対応の具体例だ。

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例えば、『ユニ・チャームは16年12月期、親会社が新興国子会社に貸し付けているドル建て資金の一部を資本金に切り替える。通貨安が進んだインドネシアやブラジルなどの子会社が対象だ。』

 

親会社であるユニ・チャームが、ブラジルなどの海外子会社に例えばドル建てで貸し付けている資金を子会社の資本金へ振り返るという。これはどういう効果があるかというと、

現地通貨が対ドルで下落すると、ドル建て負債を持つ子会社の返済負担が増してしまう。会計上はこの差額を為替差損として計上する。返済負担のない資本金に切り替えれば、通貨安は連結貸借対照表自己資本のマイナスとして処理するため、損益には影響しない

 

ということだ。

紹介されている3つの手法

・負債の資本への切り替え

・現地通貨建取引へ移行

・為替予約の活用

のうち、1番目の『負債の資本への切り替え』がどう為替変動リスクの低減につながるのか理解しにくいかな、と思う。

 

ユニ・チャームと全く同じ設定ではないが、簡単な例を使って説明したい。

 

日本の親会社(P社)が海外子会社(S社)に1,000ドルのドル建て貸し付けたとする。貸付時の為替レートが@100円/ドルとして、その後の決算時の為替レートが@80円/ドルにと、円に対してドルが2割下落したとする。

この場合、P社の単体貸借対照表(B/S)では、貸付時には100,000円(1,000ドル*@100円)であるが、決算時には貸付金は期末時点の為替レートで換算するため800,000円(1,000ドル*@80円)貸付金が200,000円(1,000,000-800,000)目減りすることなる。P社の決算ではこの目減り分200,000円をP社の『為替差損』として費用処理する。

S社の現地での決算はドルベースとすると、ドル建ての借入金は換算の必要が無いため、S社では為替変動の影響(為替差損益)はない

そして、P社単体で認識された為替差損200,000円は連結決算でもそのまま残ることになる

 

では、P社がこの貸付金をS社に対する投資に振り替えた場合はどのような変化があるだろうか。

外貨換算の会計ルールでは、子会社に対する投資は取得時(投資した時点)の為替レートで期末決算時点でも換算することになるので、取得時の為替レートが@100円/ドルとすると、その後の為替レートが80円、120円と変化したとしても@100円/ドルで換算し続けることになる(ものすごい為替変動や子会社の業績悪化などによる評価損が必要な場合は別)。したがって、貸付金の場合と異なりP社において為替差損益は生じないことになる。

 

一方のS社では、以下のようになる(実は、S社では貸付金の場合とおおむね同様なのであるが・・・)

例えば、S社のB/Sが

資産 1,000ドル / 資本金(P社の投資) 1,000ドル 

のみとする。

 

出資時点の為替レートが@100円/ドル で、その後の決算時の為替レートが@80円/ドルに変動したとする。P社の『連結決算』上、ドルベースのS社の決算書を『円』ベースに換算する必要があるが、その際、資産1,000ドルは決算時の為替レート@80で換算する。ところが、資本金は出資を受けた時点の為替レート@100で換算する。

そうすると、現地通貨ベースではS社のBSは

資産 800,000 / 資本金 100,000

なり、左右のバランスが崩れることになる

そこで、会計ルールではこのような場合の調整として

資産 800,000 / 資本金       100,000

          為替換算調整勘定 △20,000

という調整を入れることによって円ベースでのB/Sのバランスを維持している。

 

『為替換算調整勘定』(英語ではCTA cumulative tranlastion adjustment)という名前は何ともややこしそうな印象を持つかもしれないが、実は読んで字のごとくそのままの意味である。S社のB/Sの各項目を全部同じ為替レート(例:期末時の為替レート)で換算するとしたらこのような差額調整は必要が無い。ところが、実際には、ある項目は期末時の為替レート、ある項目は期中平均レート(P/Lの費用や収益)、ある項目は発生時の為替レート(P社からの投資)といったように換算レートが複数存在するため、結果として円ベースになった時に左右の金額がバランスしないことになる。要するに、『為替換算によって生じた差額を調整してバランスさせるための勘定』ということである(実は、S社の決算書の円ベースへの換算によってこのような為替換算調整勘定が生ずるのは借入金の場合も同様)。連結決算では、円換算されたこの状態のS社のB/SをP社のB/Sにくっつけることになる。したがって、借入金(P社にとっては貸付金)の際に生じた『為替差損』が発生しないため連結決算上は為替変動の損益インパクトを低減することができたことになる。

これが、記事でいうところの『通貨安は連結貸借対照表自己資本のマイナスとして処理するため、損益には影響しない。』に当たる。

 この点は、以前過去記事にも記載しているので参考まで。 

過去記事『為替レートが動くと決算書のどこに影響が出るのか? - 溝口公認会計士事務所ブログ