溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

損益計算書(P/L)の往復ビンタ!? 【日本板硝子の例】

www.nikkei.com

日本板硝子は31日、2016年3月期の連結最終損益(国際会計基準)が500億円の赤字(前の期は16億円の黒字)になるとの見通しを発表した。従来予想(75億円の赤字)から大幅に下振れし、同社として過最大の赤字となる。中国など新興国でガラスの価格競争が激化。不採算事業の撤退に伴う減損損失繰り延べ税金資産の取り崩しなどで425億円の損失が発生する。』

 

中国の子会社『ピルキントンソーラー(太倉)有限公司』の事業不振により事業撤退、同社は清算するとのこと。

(プレスリリース:http://www.nsg.co.jp/~/media/NSG%20JP/ir/Press%20Releases/2016/31Mar2016ExitfromBusinessinChina_J01.ashx

撤退から見込まれる同子会社の減損損失は75億円と見込まれる。

それ以外にも、建築用ガラス事業及びブジル自動車に係る減損損失150億円、そして、これらに伴う繰延税金資産の取り崩しによる税金費用の増加120億円と発表された。

(プレスリリース:

http://www.nsg.co.jp/~/media/NSG%20JP/ir/Press%20Releases/2016/31Mar2016RecognitionofExceptionalCosts_J01.ashx

 

減損損失で225億円に加えて税金費用も更に120億円!?

(合計で345億円で記事の425億円との差異80億円は別途、売却益を見込んでいた資産売却案件が延期されたことによるもの)

泣きっ面に蜂!?、悪い時には悪いことが重なる・・・

と思うかもしれないが、会計の世界ではある意味必然なのだ。

 

【連鎖反応】

 固定資産の減損損失は、プラントや製造設備などの固定資産を投じた事業が不振に陥り、今後も復調の目途が絶たないような状況と判断される場合に、事業の評価を固定資産に代表させて、事業の固定資産の帳簿価額をその時点の回収可能額(今後見込まれるキャッシュインフローか売却価額の大きい方)まで切り下げる(減損損失)ことだ。

要は、その事業がうまくいっていなく、今後も抜本的な回復の目途が立たない状況、それこそが固定資産の減損損失の原因となる。

(過去記事参照:減損損失の季節がやってきた・・・【トクヤマの例】 - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

繰延税金資産が何たるかは過去記事を参照されたい 

北海道電力の電力再値上げ申請の陰に『繰延税金資産』 - 溝口公認会計士事務所ブログ

繰延税金資産の計上ルール変更は会社にとって得なのか? - 溝口公認会計士事務所ブログ

繰延税金資産は、企業会計と税務会計の(費用として認められるタイミングの)差異が生んだ『法人税の前払い』という資産。飲食店のサービス券のような、言ってみれば、将来『使える権利』だ。ただ、お店にサービス券を提示してもキャッシュバックされるわけではない。飲食した代金から『控除』と使い方が限定されている。おまけに通常は、使える『期間』も限定されている。換金価値のない、使い方と期限が限定された条件付き権利、ということだ。繰延税金資産も同様である。

将来の税金を安くすることができる権利。ただし、将来の(法人税の元になる)課税所得がある場合に繰延税金資産に相当する金額を『控除』できる、が、将来の使用『期間』が限定(繰越欠損金の場合7年ないしは9年)されている。

と、言うことは、(将来の)限定された期間に課税所得が発生しなければどうなるか?そう、繰延税金資産というサービス券は残念ながら期限切れ・・・使いきれずに紙くずとなる

この状況が、『繰延税金資産が取り崩される』ということだ。

では、将来の限定期間に課税所得が発生するかしないかはどう判断するのか?

将来のことは誰も分からない。分からない場合、何を頼りに将来を見込むか?

過去実績となる。もちろん、従来と将来の事業内容が大きく異なる場合はその限りではない(過去実績のない事業の予測はそれはそれで難しいが)が、事業内容に大きく変更がなく従来事業を継続する場合は、例えば、過去数年来不振、赤字が続いているならば、将来においてもこの状況を前提に事業計画を立てることになる。この場合、赤字(とは限らないがかなり厳し目)の事業計画となり、結果としてその将来見込み課税所得では繰延税金資産が使いきれない⇒繰延税金資産の取り崩し、となる。

 

おわかりだろうか?

 

要するに、固定資産の減損損失も、繰延税金資産の取り崩しも継続した事業の不振という同じ原因で発生するのである。

ということで、固定資産の減損と繰延税金資産の取り崩しはセットで発生することが多い。

注:一部の固定資産の減損損失が発生しても他でカバーしうる場合は繰延税金資産の取り崩しは要さない。減損損失はキャッシュジェネレーションユニット(おカネを生み出す単位)ごと、繰延税金資産取り崩しは会社ごと、で判断の単位が異なる。なので、日本板硝子のように(海外)子会社の場合は、1事業1会社という単位なので減損損失繰延税金資産の取り崩しがセットで起こりやすい。

 

そのため、(同一の原因にも関わらず)PLの利益が減損損失繰延税金資産(取り崩し)と税前利益ダウン、当期純利益更にダウン、と損の追いうちのように悪化してしまう。この状況を『往復ビンタ』と言うとか言わないとか・・・

 

固定資産の減損損失が発生するということは、すでに事業が不振⇒営業利益に悪影響が出ているわけだから・・・

 

同一の要因:事業の不振により

 

事業損⇒営業利益の悪化

 +

減損損失⇒税前利益の悪化

 +

繰延税金資産取り崩し⇒当期純利益の悪化

 

と、なる。

往復ビンタならぬ、トリプルビンタか・・・