溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

厳格監査、それとも幻覚監査? 

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相次ぐ会計不祥事に監査法人が対応を迫られている。東芝の利益水増しを見抜けず、行政処分を受けた新日本監査法人提携先の国際会計事務所や外部有識者によるチェックを導入。トーマツビッグデータ分析で不正リスクを洗い出す。決算書の適正さを保証する公認会計士への信頼が失われれば、投資家の疑心暗鬼は深まるばかりだ。組織として監査の質を高める手立てが欠かせない。』

 

決算書は投資判断の要であり、監査法人は企業から報酬を受け取って適正かどうかを保証する。東芝の事件は監査への信頼を揺るがした。投資家が抱く不信感に企業は敏感だ。30日には富士フイルムホールディングスが2017年3月期から監査人を新日本からあずさに変えると発表した。』

 

会社の会計監査を担当する監査法人への風当たりが益々厳しくなるようだ。

もっとも、何やらよくわからないが難しい資格を持った賢そうな人たちがやってるから大丈夫なんだろうな~と思っていたらそうでもなかったということが世間一般の知るところになってしまったのだから無理もない(初めてのことではないが・・・)。

 

となると、不信の目で見られる監査法人としても何らかの対応をせざるを得ない。

それは分かる。が、問題はその方向だ。

 

例えば、

新日本:提携先の国際会計事務所の品質管理担当者が駐在。外部有識者によるチェックも。

トーマツビッグデータを使った不正リスクの洗い出し

あずさ:会計士の補助作業をするスタッフを5年間で2~3倍の400~500人に

 

これを聞いて、株主・投資家はどう思うだろうか?

『今まではちゃんとやってなかったのか?』

という反応が目に浮かぶ・・・

(会計監査の)品質管理もろくに出来ないインターンみたいな連中がやっていたのか?

今まで不正リスクを適当に抽出していたのか?人手不足で本来するべき監査手続きをしていなかったのか?

今までの会計監査は、それこそ信頼して良いものなのか?余計に心配になるのではないだろうか?

 

PwCあらた:パートナーに続き、補佐する会計士も最大7年間で担当企業を交代

 

よく指摘される『慣れ合い』監査の防止である。長いこと同じ会社を担当し続けると慣れ合いの関係になり、会計不正を指摘できなくなる、ということだ。

同じような指摘として、そもそもおカネ(監査報酬)もらっている相手にキツいこと言えるのか?もある。

よ~く指摘される点なので、世間一般ではそうなる人が多いのだろう・・・

 

どうなんだろうか?

世間的には『これで体質改善が期待できるな』という反応が期待できるのだろうか?

自分が会計監査の業界にいたからかもしれないが、どうも改善の方向が違うように思えてならないのだ。

 

そもそも、会計監査人(公認会計士)に最も重要な資質は『精神的独立性』だ。

どれだけ会社と関係が長期になろうが、担当者と仲好くなろうが、自信の責務に対して忠実であり続ける精神性だ。もちろん、責務とは投資家・株主などのステークホルダーに対して会社の会計情報の適正性についての(監査)意見表明をすることだ。

なので、担当が7年だろうが、100年だろうが、それで精神的独立性が揺らぐような人は会計監査なんかやってはいけない。個人的には大丈夫という会計監査人であっても、例えば監査法人にいると担当会社数やその報酬総額が法人内出世の要件になり、会社(クライアント)と会計処理を巡って揉めたりしてチェンジを要求されたりすると出世に響く。また、こういう場合は得てして法人内部の機関とも揉めるので社内評も下がるので、これまたマイナス・・・という理由であってももちろんダメ←パートナー職のケース

 

手続きや監査スキルの問題(不正リスクのビッグデータを使った洗い出しや補助者の増加)も、これが本当に根本的な問題なのかな?と首をかしげたくなる。

そもそも、1円2円の会計処理の間違いが問題となっているのではない東芝では数千億円規模の間違(というか、意図した間違い)が問題になったのであって、それは手続きを増加させれば解決につながるようなものと質が違うように思うのだ。

それだけのインパクトのある不適切な会計処理の間違いが発生するような監査リスクや財務諸表のエリアを見逃すというのはちょっと考えれらない。普通に会計監査の訓練と経験を積んだ会計監査人であれば、『ちゃんと目を開けて』監査すれば問題なくクリアできる程度の話に思える。問題は、『ちゃんと目を開けて』監査できない/していない事情にあるのではないかと思うのだ。

例えば・・・

監査法人)組織といっても合併合併の繰り返しで融合しきれないままモザイク的な組織で、見た目上同じ看板を掲げているだけで実はお互いがアンタッチャブルということもある(と思う)。そうなると、監査法人内の小集団の会計監査人のスキルや経験など結局は品質も属人的にならざるを得ない。そういった中、会計監査の品質向上という名目で監査手続きが増強されると現場の会計士は夥しい数の手続きをこなすことに精いっぱいで1つ1つの監査手続きの意味を考えなかったり、それだけならまだしも、よくよく考えれば発見できた会計不正や会計処理の間違いを見逃すことにもなり得る。

また、良かれと思って導入している定期的に担当者を交代する、ローテーション制度も、会計監査の品質や会計監査人のアティテュードにはマイナスな部分もあると思う。

会計不正や会計処理の間違いの起こりやすいエリアは会社の事業によって異なる。そして、その事業や不正リスクを理解するには一定の経験年数が必要となる。一概に何年ということは難しいが、それを定期的に交代させるということは逆の言い方をすれば、監査チームには常にその事業や不正リスクに精通した人材がいないことを意味する。また、どうせ何年かで交代するということが分かっていれば、その期間内だけ問題がないように過ごそうというネガティブな意識が芽生えるのはこの業界に限らずであろう。

監査法人が中途半端に企業化している状態が良くないのではないかと思う。そもそも、監査法人公認会計士の集まりであり、基本的には専門家集団、経営者といっても果たして・・・

 

話は戻るが、そもそも世間一般には会計監査は何なのか、ちゃんと理解されているだろうか?

今回の例もしかり、会社の会計不正の問題が起こると監査法人の責任が問題となる。

しかし、くれぐれも断わっておくが、会計不祥事を起こしたのは会社であって監査法人ではない。監査法人の問題はあくまで会計不正を見抜けなかった、あるいは会計不正の事実を監査報告書を通じて表明しなかった、と言うことだ。

それはそれで大問題ではあるが、まるで会社とグルになって会計不正を働いたような印象を持たざるを得ない報道もある。

実際の会計監査の役割と機能、会計監査に対する社会からの期待とのギャップ、期待ギャップ、会計監査に付きまとう問題だ。

長きにわたって存在する期待ギャップを一掃するのことは容易でない。 

しかし、監査報告書が添付された決算書が投資判断の要、というその重要性を考えれば、その監査報告書がどういうプロセスを経たものなのかを会計監査の受益者である株主、投資家といった会社の会計情報の利用者にも理解してもらうことが肝心であるように思う。会計監査の信頼回復というのであれば、そういった方向の改善活動が必要になると思う。

何やっているかよく分からない人、僕は信頼しないので・・・