溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪で活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

マイナス金利が業績に与える影響 【ボヤキ系】

www.nikkei.com

 『日銀のマイナス金利政策の影響が、年金の負担増を通じ企業収益を圧迫し始めた。長期金利利回りがマイナス圏に下がったことで、企業が将来の年金の支払いに備えて用意する必要のある金額が増えるためだ。関連費用は判明分だけで1000億円を超えた。日清食品ホールディングス住友不動産などで今期の関連費用が膨らむ見通しで今後、上場企業に同様の処理が広がりそうだ。』

 

 『あらかじめ将来の給付額を決める確定給付型の年金の場合、企業は従業員の将来の退職金や年金の支払いに備えて現時点で必要な金額(退職給付債務)を準備する。その際、「割引率」と呼ばれる利率を使って債務額を計算する。

 適用する割引率は長期国債の利回りなどを基に決めており、市場金利が下がると割引率も低下する。割引率を下げると退職給付債務が増えるため、不足分を決算に反映する必要がある。反映させる時期や期間は企業ごとに異なる。』

 

要するに、

マイナス金利金利の低下)⇒(会計処理での)割引率の低下⇒年金債務の増加⇒利益の減少、純資産の減少

ということだ。

日清食品ホールディングスは2017年3月期に数十億円規模で関連費用が膨らみ、利益水準をその分押し下げそう住友不動産では17年3月期に費用が数億円増加し、三井金属でも数十億円の費用が生じる可能性がある。システム開発オービック2億円前後の費用を計上する見通しだ。』

 

前期までに(というか金利低下の傾向を適時に)割引率を見直した(低下させた)会社はそれほどのダメージはないかもしれない。前期に割引率引き下げを見送り、高い(1.5%以上)割引率を維持してきた会社は今回のマイナス金利(ほどの金利の低下)は大きなダメージとなるだろう。ちなみに、LIXILは1.6%、大和ハウスは1.7%。

 

 『LIXILグループは16年3月期に国内の年金関連費用が約100億円増えたことなどで、連結最終損益が200億円の赤字(前の期は220億円の黒字)に転落した。大和ハウス工業も16年3月期に関連費用849億円を特別損失に計上した。』

 

まあ、現行の退職給付会計ルールに当てはめればそういうことなんだけど・・・

 

会計ルールの設定側でも

マイナス金利になると割引率もマイナスにすべきか?』

という議論も真剣にされたとのこと。

 

将来の年金債務を現在価値に割り引くときの割引率をマイナスにするということは、

年金債務の現在価値>将来の年金債務

となり、割引率ならぬ割増率となってしまう・・・笑えないけど・・・

ということもあって(もちろんこれだけの理由ではないが)、マイナス金利であっても割引率は0の採用も可、ということになった。

 

なんだかなぁ・・・

そこで常識的な判断入れるんだったら、会計ルール自体常識的にすれば良いのでは?

と思うのだ。

 

要するに現行の会計ルールでは、金利の変化による年金債務(現在価値)の変動分や年金資産の価値変動分を全額毎年の決算(B/SとP/L)に反映しろ、ということ。

(注)P/Lについては、会社の選択により全額あるいはその一部が当期純利益に反映される。一部の場合は、残額は包括利益に反映される。

 

だから、金利が下がれば企業の財政状態、業績は悪化するし、上がれば改善する。どっちに振れるかは金融市場次第・・・

また、その影響額は本業の稼ぎを吹っ飛ばす勢いだ・・・

 

企業年金制度なんて危ない制度をやっているからこういうことになるのであって、仕方ないですよ、と言われるかも知れないが、従業員への退職後の年金制度が何で企業の存続を危うくすることになるのかピンとこない会社も多いのではないか?

 

以前(平成24年改正前)はこのような金利の変動による年金債務や年金資産の金額の変動は全てを即時に会社の決算に反映してはいなかった。

従業員の退職時期までの期間(平均残存勤務期間)にわたって償却していた。例えば、今年100の損(数理計算上の差異)が発生し平均残存勤務期間が10年とすると、毎年10(100*1/100)ずつ決算(P/L、B/S)に影響させていた。

金利の変動なんてどうなるか読めないし(その読みが外れた影響が数理計算上の差異おとなる)、従業員の退職までの期間で金利が今度は上振れして結局チャラになるかもしれない。それを毎年毎年全額、決算に反映させたら『毎年の』財政状態や業績のアップダウンが激しくなってしまう。本業が順調に推移しているとすれば、それこそ投資家をスリード(誤解)させることになる。だったら、毎年の変動は把握はするが決算への影響は漸次が良いのではないか、という考え方だ。

 

要するに考え方、価値感の違いなのだ。

従来会社は存続するもの、来年も再来年もその先もずーっと存在する。だから、今年に全部影響させなくても徐々にやっていけば良いということになる。

一方で、現在の潮流は、この変化が激しくグローバルな競争の中で明日生き残れる保証はないM&Aもある。来年云々ではなく、今、現時点の会社の価値を示すことがメインコンサーンだ。そのためには、今存在する資産も負債も全部決算に載っけるのが当然となる。

 

まあ、おカネが世界を駆け巡るということは会計ルールもグローバルにならざるを得ないわけで、世界の全体傾向がそうであるならば、仕方ないんだけど・・・

もはや日本一国だけで会計ルールを設定することは現実的でないし。

 

会計ルールは、国や時代を構成する多くの人々の価値観を反映したものであるべきだと思う。願わくば、現在の会計ルールの背景にある思想や価値観がそれを反映したものであって欲しいと思うばかりだ。