溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪で活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

東芝の改善状況報告書に思う

 

www.toshiba.co.jp

(改善状況報告書はこちら)

http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20160818_1.pdf#search='%E6%9D%B1%E8%8A%9D+%E6%94%B9%E5%96%84%E7%8A%B6%E6%B3%81%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8'

 

「・・・に思う」シリーズが一部で好評なので(笑)

 

昨日、8/18、「東芝が不適切会計問題への対応」プロセスの一環として「改善状況報告書」を公表した。

3/15に公表された「改善計画・状況報告書」に次ぐ進捗状況の報告だ。

改善計画・状況報告書では、不適切会計の要因とて以下が記載された。

歴代社長による目的達成へのプレッシャー

・当期利益重視の業績評価・予算制度

CFOや財務・経理部門等の業務執行部門における牽制機能の不全

・内部監査部門の機能不全

・取締役会等による歴代社長及び執行役への監督機能の不全

・歴代社長及び執行役における適切な財務報告に向けての意識の欠如や歴代社長らの意向を優先したことによる財務・経理部門における適切な財務報告に対する意識の低下

これら複合的な要因との認識だ。

要するに、経営トップのエゴ、つまり、地位や名声といった精神的な自己満足とお金などの経済的な自己満足のために会社利用し、会社内部の部門は保身のためにそれに従い、経営トップを監視監督すべき会社の機関は見て見ぬふりをした、とうことだ。

少しきつい書き方になるが、まあそう言わないと仕方がないということもあろう。

 

それに対して、どのような改善が図られたかというと、大きく4点

・経営トップらに対する監督強化

・内部統制機能の強化

・マネジメント・現場の意識改革

・開示体制の改善

 

特に印象的だったのが2点 

社外取締役の活用強化

横の連携強化

だ。

社外取締役の活用強化、については、例えば、

社外取締役の人数を過半数の6名(10名中)へ

・取締役会議長を社外取締役

・指名委員会、報酬委員会、監査委員会を社外取締役のみで構成

社外取締役のみで構成される取締役評議会の設置

・監査委員会室による社外取締役への支援体制

などが挙げられている。

経営トップの暴走を防ぐためには、社内から登用された役員では無理(自分を役員に引き上げてくれたいわば恩人に意見するなどありえない)やはり、経営トップとしがらみがなく、かつ社会的な地位や名声があり、その道のプロとして第一線で活躍している社外取締役こそその担い手として期待される(社長も耳を傾けるだろう)、ということだろう。東芝はもともと指名委員会等設置会社だったから、各委員会の過半数は社外取締役だったが、少数とはいえ代取が委員会にいると遠慮もあるかということで社外取締役のみで構成とした。社外取締役はどうしても社内の情報が不足するため、その支援体制もうなづける。また、取締役会議長を社外取締役にすることも取締役会の議論の活性化につながるだろう。

ちなみに、監査委員会の委員長が従前は元CFOだったため、自己監査になるためともすると自己弁護的になり監査が甘くなるとか、経理財務に精通した社外取締役がメンバーにいなかったというのは何とも残念だったが、その点も今回改善されたということだ。

 

それ以外にも、

内部通報制度の強化

内部通報先に監査委員会を追加。(従来も社外の法律事務所といった社外へのパスはあったのだが)社外取締役で構成される監査委員会へ直接内部通報(タレこみ)のパスを設けることで機能強化を図った。従来、執行側の社内部門(法務部など)が受け皿だとあったので、驚いた。社内にリークなんて危険なこと誰がするか、そちら側に関係者がいたらどうなることか・・・内部通報は社外の受け皿が必要だが、同時に、通報者保護が十分でないと実質的な機能は期待できない。通報者が裏切者、危険分子として会社から報復人事を受ける事例も少なくない。

(有名な事例は、オリンパス事件)

《判決全文》オリンパス内部通報者の配転を無効に、東京高裁 - 法と経済のジャーナル Asahi Judiciary

 

内部監査部門の強化

目的を従前の事業コンサル的な位置づけから会計監査・業務監査に集中(名称も、経営監査部から内部監査部へ変更)させ、人員も増強(約40人→約60名)。監査委員会に直結させ社内的な独立性も強化させた。

 

次に、横の連携強化については、以下が挙げられる。

 

 CFOと監査委員会の連携強化

CFO代表取締役に逆らえなく、言いなりになってしまうと不適切会計に繋がりかねないとの反省から、社外取締役と連携することによりそのようなリスクの発現を防止、あるいは早期発見を期待。

 

カンパニー経理部と本社財務部の関係

横の連携とは少し異なるが、カンパニー経理部は従前カンパニー(長)に帰属していたが、これを本社財務部に属させた。カンパニー主導の不正に関しては、カンパニー経理部は本社の隠密的な役割(という意味で横)になるので一定の牽制機能が期待できる。ただし、本社主導の不正についてはその限りではない。

 

CFO、監査委員会と外部会計監査人の連携強化

会計監査人も役員ではないが、外部のリソースであり、効果的に活用していきたい。会計監査で従来、CFO監査役または監査委員会とは年数回のコミュニケーションをとってはいるがその頻度、密度を上げるとのこと。

会計監査人は、事前に関与させることで会社にとってはコンサルや保険的な機能も期待できる。

 などなど

 

事業部やカンパニーなどの縦割り組織はどうしても情報が閉鎖的で外から見ると状況が把握しづらく、意図的でなくとも、気づいてみればコンプライアンス違反をしていた(ので隠ぺい・・・)なんてことにもなる可能性もある。縦割り組織に横の連携を入れていくのはそういったリスクを低減するには効果的だろう。

 

ここで紹介した以外にも、改善報告書には他にも様々な取り組みが記載されている。これでもか!と言わんばかりの取り組みだ。まあ、ああいった事件があった後だから、やり過ぎて過ぎることはないということだろうし、ステークホルダーを始め社会に対して一定の理解というか納得感を持ってもらうためにはこの位しないといけないんだろうな、というのが正直な感想だ。

 

ところで、だ。

東芝は、指名委員会等設置会社も他社に先んじて導入し、コーポレートガバナンスの優等生として評価されてきた会社だ(そういえば、内部統制の模範例として自社の取り組みを紹介していた書籍もあったなあ・・・)。体制や組織といった形式的な仕組みは以前から十分といえば十分な会社のはずなのだ。実際、東芝ほどの人員も人材も資金余力もなく、体制や仕組みで劣っている会社は数多い。

何が言いたいかというと、肝心なのはその運用だということだ。そして、そのためには経営トップを含めた全社的な意識付けが重要になる(改善事項の3点目)。

もちろん、先の不適切会計に関しても今回改善されたような形式面での不備はあろうし、それを改善することは望ましい。が、それだけで十分かというとそうではない。皮肉にも、当時内部統制、コーポレートガバナンスの優等生と評された東芝こそがそれを証明している。