溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

株式持ち合い解消の現状 クッキーの賞味期限との関係!?

www.nikkei.com 

『上場する3月期決算企業は、2016年3月期末までの1年間に、取引関係の維持などを目的に保有する持ち合い株式を実質で1兆円強削減した。効率化を促す企業統治指針の導入が背中を押し、利益の出にくい株安局面でも売却を優先した。企業数では約半分が持ち合い解消に取り組んだとみられる。』

『15年度末の合計は46兆5000億円で、14年度末(54兆4900億円)から8兆円近く減った。この年は中国景気の減速懸念などで東証株価指数が約13%下落。試算では、株安による目減り分を除いた実質的な売却額は1兆600億円になった。株式を減らしたとみられる企業は1024社と全体の47%になった。』

 

持ち合い株の解消が進んでいるようだ。

持ち合い株、株式持ち合いについては、以前こちら☟

株式持ち合いって何の意味があるの? - 溝口公認会計士事務所ブログ

でも書いたが、過去には安定株主対策などを目的に一世を風靡した(というか当たり前にやっていた)株式持ち合いも、今や忌まわしい過去の悪しき風習コーポレートガバナンスの御旗の前では速やかに解消すべし、を受けての会社の対応だ。

まあ、確かに、安定株主と言っても取引先がどれだけ役立っているかも分かりにくいし、実際のところ、じゃあといって安定株主でない株主がどれほどアクティビスト的に会社の経営者に要求を突き付けたり、株主総会が荒れたり、さらには買収の危険にさらされていたかというと、今と比べれば大したことないという会社が一般的だったのではないかと思う。また、取引関係強化と言っても、株式持ち合いがどれだけそれに見合う効果があったかも判然としないだろう。

多くの会社が、そういった期待(幻想?)はあるものの、まあ他社もやっているしということでの消極的対応ではなかっただろうか。

 

と言うことで、傾向としては株式持ち合いは減少(解消)傾向にあるのだが・・・

 『安定株主の確保にこだわり、持ち合い解消を先送りする企業はまだ多い』との指摘もある。

 

また、持ち合い株式は貸借対象表(B/S)では『投資有価証券』として表れ、上場株は決算ごとに時価で評価される。そして、含み損益は純資産に影響することになる。

 

『持ち合い株は減少傾向にあるとはいえ、全社の残高は前期の純資産合計(347兆円)の1割強もある。株式の含み損益のすべてが決算に反映されるわけではないが、株価低迷が長引いた場合に着実に財務をむしばんでいく。』

 

含み損の場合は、純資産の減少、そして配当可能額の減少にもなる。

(ちなみに、含み益の場合でも配当可能額は増えない)

 

と、言うことで、持ち合い株式を処分(売却)する場合、株価動向も会社としても気になるところだろう。

持ち合い株式を売却する場合に発生する売却損益は、損益計算書(P/L)の特別損益に反映される。そのため、持ち合い株の解消がある意味業績の調整弁に使われる傾向もあるように思う。つまり、株式持合いの解消と言う国全体の方針の中で、どのような時間軸で解消していくかは会社の方針による。

会社は、持ち合い株をある程度のカテゴリーに区分(即座に売却可能、原則継続保有など)して、即座に売却可能(と区分した)な持ち合い株式については、固定資産の減損損失が発生する場合に持ち合い株式を売却して含み益を実現させ減損損失インパクトを軽減するのだ。このような利益調整的な会計手法を、あたかも好きなだけクッキーをつまむに見立てて、クッキー・ジャー会計と言う。

ところが、IFRSでは、持ち合い株式(上場株)の含み損益は決算ごとに包括利益(P/L)、その他の包括利益累計額(B/S)に反映され(ここまでは日本の会計ルールも同様)、実際に持ち合い株式を売却した際の損益はP/Lに反映されない。ここが日本の会計ルールと異なるところだ。

一旦、包括利益で認識した利益を当期純利益に再計上することを

リサイクリング(組換調整)と言うが、日本の会計ルールでは現状、リサイクリングを認めている。だから、上記のように、含み損益が持ち合い株式売却により特別損益になるのだ。これに対して、

IFRSではリサイクリングは認められない。と、言うことは、部分的な持ち合い株式の売却によって他の損失の穴埋め(クッキー・ジャー)ができないのである。

日本の会計ルールが、昨今、IFRSに沿って変更されていることを考えると、クッキーがいつまで湿気らずに食べられるか・・・

賞味期限はそれほど長くないかも知れない。