溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪で活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

内部留保課税は誰が得をするのか?

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内部留保課税案が再燃しているとのこと。

政府は進まない設備投資、賃上げにいらだちを隠せないようだ。

 

昨年の麻生財相による内部留保を貯めこむ奴は守銭奴”発言について以下の記事を書いた。

内部留保の定義や何が問題視されているのか等々について書いているので、参考にしてほしい。

内部留保蓄積は『守銭奴』 ~麻生財務相発言に思う~ - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

政府としては、ここまで言ったのにまだ改善が進んでいないのはどういうことだ!と痺れを切らしたのだろうか。

 

前記事の繰り返しになるが、貯めこんでないでおカネを使え、そして使い道は設備投資と賃上げだ、ということであれば、直接的には内部留保ではなくて貸借対照表の現金預金などの余剰資金の残高を指摘すべきだ

ちなみに、別記事では「企業が持つ現金と預金は15年度に約199兆円と内部留保全体の半分強だ」、また「企業全体の運転資金の1.6カ月分」ということで必ずしも「おカネ」を貯めこんでいるとも言えないとの指摘。

 

<内部留保>増え続け377兆円 賃上げ、投資 迫る政府 (毎日新聞) - Yahoo!ニュース

 

もっとも、設備投資や従業員の給料を上げれば当期純利益が減少するため、当期以降の内部留保の蓄積は抑えることはできる

 

内部留保は、簡単に言うと

当期純利益から株主への配当を控除した残額の蓄積

の記録だ。

なので、例えば設備投資も在庫投資も、あるいはM&Aもおカネは使うがそれだけでは内部留保は減らない

 

したがって、内部留保のこれ以上の積み上げを抑制するには、例えば、

 

①配当性向を上げる

 

減価償却費増加(設備投資による)&賃上げ

 

といったアクションが必要になる。

②が企業に対する政府の注文に当たる。

 

ちなみに、これらは今以上の内部留保の積み上げを抑えるということであって、現在のレベルよりも減らすとなれば、当期純利益を上回る配当を継続、赤字までの設備投資&賃上げが必要となる・・・

 

これって誰が得するのだろうか?

 

①最近、株主還元を強化するため増配や自社株買いする会社も増えている。株主からすれば、投資リスクに見合ったリターンを期待して事業(会社)に投資したのだから、リターンを配当として要求するのは当然だろう。配当を要求しないとすれば、結果的にその事業に再投資するということで、元々、内部留保はそういうものだ。内部留保配当として果実(インカム・ゲイン)食べてしまうよりも事業に再投資した方が事業(という果樹)がより大きくなる(キャピタル・ゲイン)という株主の判断とも言える。

したがって、今後の事業の飛躍的な成長は期待できないから、事業の成長に当てるよりも今株主に還元して欲しいということになる。

企業が使いきれずに持ちあぐねているおカネが株主に還元される場合、株主にとっては過去に配当されるはずが内部留保された分も含めて還元されるのであり、また投資先を改めて意思決定できるという点ではこの施策は株主のため(得)と考えられる。もっとも、他のよりリターンが期待できる投資先を見つけることが前提となるが。どこからもポンポンと還元されるのもどうかと思うが・・・

 

そして、②

政府が企業に促している設備投資による減価償却増加&賃上げ

はどうだろうか?

設備のサプライヤー企業は得するというか業績は上がるだろう。ただ、多くの企業が収益性の改善の伴わない設備投資を毎期するとも思えない。というか、設備投資が促進しない最大の要因は、

・設備投資先が見つからない

・長期投資が不安視される外部環境

ではないだろうか?

かつて成功を収めた企業のビジネスライフサイクルが成熟期、衰退期を迎え、

次なる矢が見い出せない、要は①のように株主還元を強化する企業では将来の稼ぎに繋がるような設備投資のネタが見いだせないことが考えられる。

また、ライフサイクルが速いとか競合状況の激しい製品のメーカーや為替変動の影響を受けやすい企業であれば、

目下の環境下での長期的な設備投資を躊躇するかもしれない。

もちろん、こういった企業を擁護するつもりはない。同じ環境で投資機会を見出し成長している企業もある。ただ、現に二の足を踏む企業をこのような形で追い込んだからと言ってすぐに有効な投資案は見出しにくいのではないか。全員がスーパースターなわけじゃない。

ところで、間違った設備投資や賃上げで経営が傾くような企業が増加したら、どうなるのか?

例えば、法人税収は悪化するがこれは織り込み済みなんだろうか?

法人税収以前に、

設備投資、賃上げも何も肝心要の企業の存続が危うくなっては元も子もないのではないか…

 

従業員はどうか?

賃上げによる可処分所得増加となれば得になると考えても良いだろう。が、

それを引き金に消費税増税となると果たしてどうだろうか?

(消費税だけでもなさそうだが・・・)

賃上げの程度にもよるが、そのうちの幾ばくかは増税により減殺されるだろうし、心理的に悪影響となれば消費の拡大に繋がるかは不明だ。

 

また、いまや政府公認の財務指標のROE、これはどうなるのか?

設備投資による減価償却費の増加、従業員給与の増加によって当期純利益が減少すれば、当然ながらROEは低下する。

 

設備投資、賃上げは必須、かつROEも上昇させろ・・・

 

ん~かなり厳しい。

もっとも、それ以上に売上増加、粗利を上げれば良いということかもしれないが・・・

 

そして、内部留保課税だ。

ここまで言っても設備投資&賃上げしないのであれば、内部留保に課税する、というこだが、よく指摘されるように、内部留保の元になる(税引後)当期純利益は課税済みであり、これに課税するのはいわゆる二重課税となる。

同じ所得に対して2回税を課すわけであるから、これは当な正統性が必要になる。

おカネを貯めこんだ(おカネじゃないんだけど…)罰=ペナルティ

ということなんだろうけど、大義としては、

企業が自発的におカネを使わないのであれば、

国が代わりに国民のために使ってやる

ということだろうか?

 

設備投資も賃上げ、あるいは内部留保課税も

その多くは国の懐に収まるように思えてならない。

国民思いの政府に期待するしかなさそうだ・・・