溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

2人目の社外取締役ってどんな人が適任?

2017年最初の記事はどんな内容にしようとあれこれ考えている内に、1月も半ばが過ぎてしまった・・・

 

で、結局、コーポレート・ガバナンス ネタ(汗)

 

コーポレートガバナンス・コード(CGコード)導入を機に一気に火がついた社外取締役

日本取締役協会の公表によれば、

東京証券取引所コーポレート・ガバナンス情報サービスを利用して、8月1日に集計した結果では、東証1部上場企業1,970社における、独立取締役の数は昨年比で1,301名増えて4,271名となり、取締役総数(18,304名)の23.3%を占める
独立取締役を2名以上選任している企業は、昨年比で31.2%増加して80.3%(1,583社)に、うち3人以上選任している企業は、昨年比で2倍の25.6%(505社)

とのこと。

(参照:

http://www.jacd.jp/news/odid/cgreport.pdf#search=%27%E7%A4%BE%E5%A4%96%E5%8F%96%E7%B7%A0%E5%BD%B9+2%E5%90%8D%27

ここまで急激に増えるとはちょっと驚きだ。

というのも、供給サイド、社外取締役のなり手が確保できるのかという問題があるからだ(後述)。

社外取締役の急増の要因の1つとして、純増以外に会社の機関設計を監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行したことが挙げられる。

(参照:最近流行りの『監査等委員会設置会社』って何? - 溝口公認会計士事務所ブログ

監査役会設置会社では、社外監査役が半数以上(よく見られるのは2名以上)が必要となるが、社外監査役も社外役員であり、監査等委員会設置会社へ移行することによって、社外監査役社外取締役横滑りさせることで、実質的に社外取締役を増員することなく、社外取締役の人数を増加することができる。2016年には、こうした会社が相当数(350社超)に上った。

 

ともあれ、CGコードで要求される項目のうち、社外取締役の複数化への対応は、CGコードへの対応が形式的にも実質的にも進めていることを社内外へアピールしやすいということもあるだろう。

 

ところで、2人目の社外取締役ってどんな人が適任なのだろうか?

 

そもそも1人目がどんな人材かにもよるが、自身が社外取締役を務めていることから1人目は僕のような『士』業ないしは学者を前提として話を進める(笑)

とはいえ、例えば、社外監査役と言うと、期待役割的にも弁護士、公認会計士、税理士のような士業が目立つし、これらを横滑りさせて社外取締役にするとすると社外取締役に占める割合もやはり多いのではないかと思う。

それに、(社外)取締役は株主総会で選任されるため、何故この人なのか?株主に分かりやすく説明できる、ということもポイントだ。その点、士業は法務、経理財務、税務などの専門知識と経験を有し、これらの観点から会社の経営に対する意見を期待できる、という座りの良い説明が可能になる。

そして、大きな声では言えないが、実際のところ、会社の経営に対してあれこれ口出ししない(ことが多い)というのも見逃せない(笑)

⇒会社の意向もあって、僕は色々口出しさせてもらっています、念のため

 

とまあ、1人目の社外取締役が士業のようないわゆる専門家として、では2人目となると、『経営(者)や会社の事業に精通した人材が望ましい」という声が少なくない。

僕も、まあそうかな、と思っていた。

 

しかし、話を進めていくと、そう簡単にもいかないことが分かった。

例えば・・・

 

・供給の問題

要するに、適任者が少ない、ということだ。考えてみれば当たり前の話で、企業経営者であればまず自身の会社を経営しているし、有能であればあるほど通常は多忙であろうから、新たに他社の社外取締役を担うのが物理的に困難ということだ。また、会社の事業内容に精通した人材ということで、例えば他社で技術者として活躍した人材についても、先の経営者と同様に有能であればあるほど困難であろうし、また、競合他社へ移籍することへの不文律を持つ業界もあるだろう。なお、弁護士なども会社との利害関係の点からから社外取締役を引き受けることが難しくなっているとも聞く。社外取締役独立社外役員として、会社からの独立性が問われる。つまり社外の人間であっても顧問弁護士など会社との利害関係が相当に認められる場合は不適格となる。同じ理由で、グループ会社の役員を起用するのも規制が働く。このようにみると、そもそもそんな人材が世の中にどれほどいるのだろうか?上場会社がざっと3,500社として、2人/社とすると、ざっと7,000人…会社経験もあり(とは言えダメ経営者ではそれこそダメなので)、会社の事業にも精通していて、なおかつ、時間的にも融通も利く人材、考えただけでも相当少なそうだ。これが、1人が社外取締役を何社も兼務する背景にあったりもする(それに対して、会社が何社も社外役員を兼務するような人は選任しませんと自主規制をひいて更に選任を難しくしている状況…)

 

この点は、以前にも『怒れ、社内取締役!』として(タイトルは違うけど・・・)社内取締役にエールを送った記事を書いたのでそちらも参照してほしい。

東証新ルール 社外取締役複数化へ 【ボヤキ系記事】 - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

・業績改善の実現可能性

CGコードの掛け声は『攻めのガバナンス』コーポレートガバナンスと言うと、エージェンシー問題の低下に資するというか、会社の経営者が出資者である株主の利益を無視した経営をしないように経営者を監視監督することによって会社に損害を与えないようにすることがまずもっての目的だ。

これを『守りのガバナンス』(というか本来のガバナンスだが…)とすると、攻めのガバナンスは、社外取締役にもっと直接的な業績改善への役割を期待する。経営に対してあれこれアドバイスして、場合によっては手も出して、会社の売上、利益、ROEなどの財務指標を改善する、という期待だ。とはいえ、上述のように有能で会社にとって社外取締役になってほしい人材こそ多忙だろうし、月1回の取締役会で意見を述べるのが関の山だろう。取締役会で、仮にどんな素晴らしい意見を言ってくれたとしても、それを実現するのは残された会社のリソースである、ここが問題だ。要するに社外取締役の意見を理解する力、実現のためのプランニング、実行するためのリソースなどが社内にあって初めて、社外取締役のアドバイスが具現化される、ということだ。

なんらかの要因で、そのような社内のリソースが抑圧されており、社外取締役の出現によりそういった圧力から解放されて潜在的な力がいかんなく発揮できるといった会社であれば別だが、そうでなければ、既に実現できているか、あるいはアドバイスだけもらっても現状は変わらない、ということになるのではないかと思う。

つまり、期待される業績改善という役割に即結び付けにくいのではないかと思うのである。

 

これに対して、専門家の社外取締役はどちらかと言うと、そもそもの期待が守りのガバナンスであることが多いし、会社の事業戦略そのものに対する意見よりも、社内の意見形成プロセスに対する意見が多いように思う。そのため、ある意味意見がプロセスの改善などのような成果に結びつきやすいこともある。

 

このように考えると、2人目の社外取締役の選任はなかなか難しい問題に思えるのだが、上場会社のほとんどが2名以上の選任がなされているとのこと。

どのような人選か、興味のあることろだ。