溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

決算発表ポイント解説ブログ その3 【のれんの正体とは!?】

 

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記事は暖簾に対する監査の厳格化の潮流についてだが(それはそれで別の機会に書いてみたい)、のれんも減損の対象になるんですか!?との質問も受けることがあるので、今回はのれんの減損を取り上げる。

 

端的に言って、のれんは貸借対照表(B/S)上、無形固定資産

の区分に計上される。つまり固定資産、だ。減損会計(ルール)の対象は固定資産なので、のれんも当然減損のになる。

 

と結論を先に言ってしまった後で・・・

『特に焦点となっているのが「のれん」という無形資産の会計処理だ。のれんとは、企業が買収先の純資産を上回る価格でM&A(合併・買収)を実行した際に生じる。買収事業の収益見通しが狂った場合、企業はのれんの価値を下げ、その分を減損損失として計上しなければならない。

 最近の代表例はなんといっても債務超過に転落した東芝だが、のれんを減損する企業は他にも少なくない。楽天は2016年12月期に米動画配信関連事業などで、243億円の同損失を計上。セブン&アイ・ホールディングスは百貨店ののれん価値などを引き下げ、17年2月期に減益となる。キリンホールディングスはブラジル子会社ののれんの減損などによって、15年12月期に初の最終赤字に転落した。』

と、まあ、最近の事例を見てものれんの減損を要因とした業績悪化は少なくない。記事にもあるがその背景には、日本企業のM&Aがあり、M&Aが結果として上手くいかないとのれんの減損となる。日本企業のM&Aが今後も増加する傾向を考えると、企業業績に与えるのれんの減損損失の影響は今後も益々大きくなるだろう。

 

ところで、ここで今一度のれんの正体を確認しておきたい。

のれんは一般的に(会計の業界では)『超過収益力』と言われる。

ある会社を定価を上回る理由、ということだ。書いてから見て定価を超える何らかの価値を見出した結果、ということだ。ここで、定価は買収する会社の簿価純資産(BV)だ。要はBV100 の会社を200で買う場合に、単純差額100がのれん、ということになる。

ところが、厳密には100が全額のれんになるわけではない。100の内、個別に把握される無形資産は別途認識する必要がある。例えば、買収先の会社が持っている

商標権やブランド、顧客リスク、商圏といったものだ。

これらも、買い手の会社にとってはもちろん、というか、通常はそれらこそが高い値段を出す理由だろう。

のれんは、買値とBVの差額の内、これら無形資産として把握されなかった以外の部分、となる。定価以上の価値で商標権やブランド、顧客リスク、商圏でもないバリュー・・・はて、いったい何だろう?

実は、買収価額(買値)は個別の無形固定資産の評価の積み上げで決まるわけではなく、(いろいろなアプローチがあるが)その会社が将来稼ぎ出すおカネの合計の現在価値をベースに決める場合(DCF法)や、同業他社の利益や剰余金などを参考地として決める場合(マルチプル法)などがある。

お分かりだろうか?そうなのである。要は、直接にのれんの価値を測定して金額把握している訳ではないのだ。あくまで、結果論、

 

のれん=買収価額‐個別に把握できる無形資産‐BV

 

差額、ということだ。言い方を変えれば、直接的に説明できない金額

のような存在ともいえる。もしかしたら、競争入札の際、

勢いでもう一声!の結果かもしれない・・・

 

ということで、のれんはそれ自体明確に価値を測定・評価された金額ではないのである。つまり、買収した会社の事業が(買収する際の)計画通り進捗してこそ、結果として価値が維持していると考えれらる存在であり、逆に業績が悪化すると、いの一番に減損の対象となるのがのれんなのだ。

 

M&Aの増加⇒高値での買収⇒のれんが多額化

 

⇒のれん減損リスク大

高く買えばそれを上回る業績を期待せざるを得なくなるから、ハードル上がるしね・・・

 

ちなみに、日本の会計ルールでは減損損失はその後業績が回復しても戻し入れ(減損がなかったことにすること)を認められないが、IFRS(国際財務報告基準)では一定の条件を満たせば減損の戻し入れは可能だ。しかし、のれんに限っては減損を戻し入れることは認めていない。それぐらい存在が危うい無形固定資産なのである・・・