溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

不適切な会計 最近の傾向と抑制のキーは?

www.nikkei.com

東京商工リサーチは15日、2016年に不適切な会計処理を開示した上場企業が57にのぼり、08年の調査開始以来、最多だったと発表した。前年から5社増えた。全体の8割強を会計処理の誤りと粉が占めている。同社は「会計士が監査を厳格化している影響が出た」とみている。』

少し前(3月)に発表された2016年度(1~12月)のデータである。

不適切な会計処理が調査開始以来最多となった。

データの出どころはブログ末尾にリンクから確認して欲しい。

増加の要因として、

コンプライアンスの欠如

②知識の不足

③過度なノルマ要求

④監査体制の強化

が挙げられる。①③は厳しい事業環境の中で目標数値の達成を目指すが故にという部分もあろう(とはいえ許されることではないが・・・)。②④はこうした事業環境における会社のアクションに対する規制や摘発の厳格化の影響と推察される。④はCGコードによるところもあろう。

『内容別にみると「厚生年金拠出額の科目誤り」など経理ミスと、「棚卸し資産の水増し計上」など粉飾がそれぞれ24社あった。「会社資金の私的利用」など着服・横領は9社だった。東証1部が27社と最も多く、ジャスダックは13社、東証マザーズは10社だった。』

誤謬(間違い)と粉飾がほぼ半々でこの2つで約85%を占める。上記要因と関連付けると、誤謬が②知識の不足に関連し、粉飾が①③④と関連するイメージだ。

誤謬も粉飾も当然、良くないが、特に粉飾は経済全体の景気や事業環境が厳しくなると増加する傾向がある。事業を取り巻く環境が悪化すると、売上や利益と言った業績数値は悪化する。しかし、素直に悪化しましたと言いたくない言えないのが人情

それでも何とかしようとして、売上や利益を出そうと努力している内は良いのだが、例えばそれが行き過ぎたノルマ達成へのプレッシャーとなり、会計の数字をいじるようになると粉飾、会計不正となる。察するに、最初から粉飾(決算)ではなく、徐々に、そしていつの間にか

経営努力と粉飾決算の一線を越えてしまったという事例も相当数あるのでないかと思う。

事業環境の悪化などによっては当初の事業計画が達成困難になる場合もあるだろう。だからと言って、無理に当初の事業計画を達成するために粉飾決算をしてしまっては本末転倒だ。経営努力を怠ることを推奨するつもりは毛頭ないのだが、適切に事業計画を下方修正することも必要になるだろう。当然、投資家、株主にとってはバッドニュースであり、株価などへは通常は悪影響となるし、経営者の評価も下がるかもしれない。

しかし、CGコードにもあるが、その際ポイントになるのが

株主、投資家と会社(経営者)の双方向のコミュニケーション

だろう。もちろん、有事だけではなく常日頃から会社(経営者)が何を考えて(計画)いるのか、株主、投資家が会社に何を期待しているのか、について議論を重ねることだ。これによって、期待ギャップが縮小しお互いの信頼も強まる。そして、短期的な結果だけで判断されるのではなく、何故そうなるのか?それを受けて今後どう対応していくのか?といった、中長期的なプランとプロセスを評価につながるのではないかと考える。

また、 会社全体の粉飾だけでなく、最近の傾向として、

子会社・関係会社の不適切な会計処理の増加が目立つ。2105年からは若干減少しているが、2016年度でも全体(57社)の内、24社が子会社・関係会社で起こっている。

子会社・関連会社の場合は、計画未達を本社に報告したくないという理由が少なくないと思われる。子会社・関連会社の経営者の立場からすれば想像に難くない。その点では、本社の製造部門、販売部門などの部門における事例と類似する点が多い。東京商工リサーチの記事に紹介されている日鍛バルブ社の例もそうだが、月次計画の大幅未達を工場外の上長に報告、相談できず(在庫を水増し処理した)、とある。

先ほどは、会社(経営者)と株主、投資家と言った外部のステークホルダーとのコミュニケーションの重要性を指摘したが、今度は会社内部のコミュニケーションが重視される。

皆まで言うな、あるいは空気を読め、と、どちらと言うと(相手が)言わなくても察する、日本人の美徳されてきた部分もあるが、ともすると、

言わないそして察しない、と悪しきに流れた例かもしれない。

 

『業種別では製造業が15社、運輸・情報通信業が10社、卸売業が8社など。「海外子会社などの販売管理の体制不備が目立った」(情報本部)』

そういったコミュニケーション不足やミスコミュニケーションの影響が色濃く出るのが

海外子会社・関係会社だ。

最近の事例では、東芝富士フィルムを始め、LIXILやOKIも記憶に新しい・・・

 

会社(経営者)と外部ステークホルダーとのコミュニケーション

会社内部でのコミュニケーション

本社と海外子会社・関係会社とのコミュニケーション

いずれも相手あってのこと、確かに手間がかかることではあるが、1つ1つは決して難しいことではない。

会社内外のコミュニケーションの強化不適切な会計の抑制、早期発見に効果を発揮するのではないかと考える。

 

【追加】

コミュニケーションと言うと、『言うのは簡単ですがなかなか大変なんです。何か便利なツールを下さい』と殊、海外子会社となると頼まれることもしばしば・・・そのようなコミュニケ-ションツールを開発して提供するようなコンサルティングサービスも行ってはいるが、その前にメールでも電話でもとりあえず連絡をとって担当者の顔と名前、業務内容と趣味程度は確認しておいて欲しい、とお願いしている(笑)

 

http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20170315_01.html

2016年全上場企業「不適切な会計・経理の開示企業」調査 : 東京商工リサーチ