『ソフトバンクグループが、近く数千億円規模のドル建て社債を発行する。調達した資金は主にサウジアラビアなどと立ち上げた10兆円規模の投資ファンドへの出資に充てる。ファンドの運用資産は5年後に最大10兆円になる見通し。ソフトバンクは、出資する3兆円のうち2兆円を今後2~3年で調達する方針。足元の低金利を生かし、前倒しで資金を確保する。』
スプリント(米国)、アーム(英国)と来て、今度はサウジアラビア・・・
なんとも投資意欲の旺盛な会社(社長)だ。
『今回発行するのは償還期限のない永久劣後債。負債と資本の特徴を併せ持つ「ハイブリッド社債」の形で出す。一定の条件を満たすと資本とみなされる。欧州とアジアで需要を探り、機関投資家向けに発行する。調達額は3000億~5000億円程度とみられる。』
【ハイブリット社債って何?】
ハイブリット社債については、以前三菱商事の例をブログに書いた。
記事にもあるが、負債と資本の性格を併せ持つ資金調達(投資家側からは金融商品)だ。三菱商事が発行したハイブリッド社債の名前はなんと、
グリフィン!!
鷲の上半身とライオンの下半身を持つ、まさにハイブリット~
おしゃれなのか!?
ソフトバンクの過去5年間のキャッシュ・フロー推移を見てみると、営業活動によるキャッシュ・フローを大きく上回る資金を投資キャッシュ・フローに費やしている。ご理解のとおり、先のスプリントやアームの買収(M&A)は投資キャッシュ・フローに含まれる。要は、今今の稼ぎを上回る買い物をここ数年来してきたわけだ。当然、そのための必要資金を外部から調達する必要がある。今回のハイブリッド社債もまあその資金調達の一環だ。
【キャッシュ・フローの推移】
項目 | 2012年度 | 2013年度 | 2014年度 | 2015年度 | 2016年度 |
---|---|---|---|---|---|
営業活動によるキャッシュフロー | 813,025 | 860,245 | 1,155,174 | 940,186 | 1,500,728 |
投資活動によるキャッシュフロー | △874,144 | △2,718,188 | △1,667,271 | △1,651,682 | △4,213,597 |
財務活動によるキャッシュフロー | 471,477 | 2,359,375 | 1,719,923 | 43,270 | 2,380,746 |
(ソフトバンクのIR情報から)
ソフトバンクは、事業成長のための必要資金を社債(負債)を中心に調達している。その結果、直前期(平成29年3月期)の純資産比率は、14.6%まで低下した。実に、純資産の6倍近くの負債を背負って経営していることになる。
平成28年3月期は12.6%なので低下したという表現は適当でないかもしれないが、いずれにしても財務安全性の観点からはかなり安全性に欠ける数値だ。財務安全性が全てではないが、こうした財務状況は資金調達における借入コスト、つまり格付けにも影響が出る。
2017年5月10日時点では、JCRはA⁻だが、S&Pとムーディーズの格付けではBB+(Ba1)だ・・・
一般に、BBB以上が投資適格、BB以下は投資不適格とされる。それだけデフォルトリスクが高いとみなされる。
格付けは資金の調達コストにも影響を及ぼす。
【格付情報】
格付け機関 | 長期債 | 短期債 |
---|---|---|
BB+ | - | |
A- | J-1 | |
Ba1 | - |
(ソフトバンクのIR情報から)
『ソフトバンクの連結有利子負債は今年3月末時点で約14兆円と、自己資本の4倍に相当する。ハイブリッド債の活用により財務の悪化を抑える。』
資金は必要、しかしこれ以上の財務安全性の悪化、借入コストの上昇は抑える、ということもあってのハイブリッド債だろう。
【ハイブリット社債の目的】
ソフトバンクはこれまでにも数回ハイブリッド社債で資金調達してきたが、いずれも有期限だった。しかし、今回は償還期限なしの永久劣後債だ。その点、資本に極めて近い性格を持つ。ソフトバンクとしては、同じ資金を増資で賄うとするとその投資家は株主、おカネだけでなく口もついてくる。事業の成長に必要な資金を調達しつつも、
経営に口を挟む余地は残さない、という目的もあるのではないだろうか。また、表面上は負債なので1株当り利益も維持できる。つまり、議決権の面でも利益の面でも株式の稀薄化を避けることができる。
そして、負債を活用することで企業価値が高まる期待もある。ハイブリッド債の支払利息を税務上損金算入することによる節税効果分だけ企業価値が高まる。
対する投資家側からは、利回りの高さが魅力と言えば魅力。例えば、ソフトバンクがこれまで発行してきた無担保社債の利回りは償還期限の長短等あるので単純比較は出来ないがざっと0.7~2.0%。これに対して、これまで発行してきたハイブリッド社債は3.0、3.5%。ちなみに劣後特約社債は、2.5%で、これまでのハイブリッド社債との違いは、諸条件や償還期限などの違いによると思われる。いずれも円建てだ。
同じ発行体(ソフトバンク)の中でも、これだけ利回り(ソフトバンクから見れば調達コスト)が異なる。
劣後とは、簡単に言うと、会社に有事の際、償還(返済)される順番だ。仕入れ先、従業員、銀行借り入れなどが優先され、そこで資金が尽きれば償還(返済)されない。つまり、返済が約束されていない。今回の永久劣後債など最初から償還は想定されていない。投資家は市場で売却可能だが、通常、時価による売却なので元本保証はされない。と、いうことは、投資家から見た場合、償還(返済)が約束されていないという点で償還(返済)が優先される他の負債と比較してリスクの大きな投資となる。そのリスクの高さが、利回りの差となって表れる(ハイリスク・ハイリターン)
今回の永久劣後ハイブリッド社債は償還期限無し(永久劣後)でかつドル建てなので、さらに調達コストは高くなるだろうな。
それにしても、事業のライフサイクルが成熟期、あるいは衰退期に達し、一方で内需が細る中、思い切った新規事業開拓が出来ず悶々として資金をため込んでいる会社には、少しこの貪欲さを見習って欲しいなと思ってみたり。