いよいよか、過去ブログでも何度か紹介してきた売上に関する会計ルールの改正が具体的になった。我が国の会計ルールの設定機関であるASBJ(企業会計基準委員会)が、7/20に
『収益認識に関する会計基準(案)』を公表した。
日経朝刊(7/21)の記事はこれを受けての抜粋だ。
記事には、
『国際会計基準(IFRS)や米国会計基準で予定する新基準とほぼ同じ内容で、2018年4月以降に適用可能となる。売上高として認められない取引が発生するため、百貨店など幅広い業種で影響が出そうだ。』
として、これまで実務的な慣行として取り扱われてきた会社の売上計上に関する取り扱いが変更を余儀なくされる可能性を示唆している。記事にある百貨店の売上高の例もその1つだ。
売上計上のルールが慣習?と疑問を持つ人もいるかもしれない。
実は、今回の会計基準案にも明記されているように、
『我が国においては、~中略(実現基準に従って収益認識している旨)~収益認識に関する包括的な会計基準はこれまで開発されていなかった。』
売上高と言えばP/Lのトップライン、事業規模を表すなど会社を代表する数字である売上高が慣習によって取り扱われてきたというと驚かれることも少なくない。
大原則に従って価値観を同じくする者同士が、まあまあで何となくやっている分にはそれほどの不都合もなかったが、取引が複雑化、グローバル化するとそうもいっていられない。日本基準だけでなく、諸外国(といっても、実際に対象となるのは米国基準とIFRS)の会計ルールとの整合も会計数値の比較可能性を保つためには必要となる。
『公開草案は10月までに意見を募り、来年3月までに最終案を決める。企業は18年4月以降に始まる会計年度から新基準を早期適用でき、21年4月以降から強制適用される。3月期決算企業の場合、19年3月期から早期適用でき、22年3月期から強制適用となる。』
これまでは、会計士協会からの意見書(中間報告:
が存在したが拘束力は無い。会社が自主的に従来の慣習ベースから意見書に従った会計処理に改めるのであればどうぞ、という程度だった(内容的にはほぼ今回の会計基準案)。
また、今回の会計基準案のベースはIFRS(とそれと統合を進めている米国基準)なので、既に日本基準からIFRSへ会計基準を乗り換えている会社はいち早く収益計上ルールの変更の洗礼を浴びた格好になっている。
この点については、過去ブログにもいくつか書いているので添付しておく。
・『日本基準はガラパゴス化する!?』
日本会計基準はガラパゴス化する!? - 溝口公認会計士事務所ブログ
・『売り上げはいつ『売上高』になるのか?』
売り上げはいつ『売上高』になるのか? - 溝口公認会計士事務所ブログ
・『売上高が激減する!?』
売上高が激減する!? 【収益認識基準の動向】 - 溝口公認会計士事務所ブログ
意見書(中間報告)が平成21年(2009年)だからな・・・長きにわたってようやくという感じだろうか。
主な変更点のうち、よく取り上げられるのが記事にもあるように
『売上高の額』
だ。
売上高の額については、過去ブログの電通や総合商社、あるいは日経記事の百貨店のようなケースだ。会計基準案(適用指針)では、『本人と代理人の区分』に該当する。簡単に言うと、自らが取引の当事者(本人)かそれとも取引の当事者をサポート(代理人)するのかの立場によって売上高の金額が変わる、ということだ。取引の仲介業や取引の場を提供し実質的に手数料を取るような業態は、手数料部分が真の売上高という考え方だ。
『新基準で売上高が大きく目減りしそうなのは百貨店だ。百貨店は商品の所有権を取引先に残したまま陳列し、販売と同時に仕入れ・売り上げ計上している。新基準では売上高として販売額でなく、販売額から仕入れ値を差し引いた手数料部分のみを計上する。利益には影響しない。』
このような例は他にもある。
『新基準ではこのほか、メーカーの小売店向け販売奨励金(リベート)をあらかじめ売上高から引くため減収要因となる。従来はリベート支払いの可能性が高まったときに費用計上するなどしていた。』
従来は、一旦は100の売上に対して達成リベートが10見込まれる場合は、
売上100とは別に販売奨励金10を販管費に計上する。これを、実質的な値引と考えて、売上高を90と認識するようになる。営業利益は変わらないが、売上高が減少
することになる。
これまでは、日本基準からIFRSなどの他の会計基準に自ら変更する会社にとっての影響だったが、日本基準の改正により従来から日本基準を採用する多くの会社に影響が及ぶことになる。
これもモノサシの変更により表面上の数字の見え方が変わるだけで、会社の実態が変わる訳ではない。2021年の強制適用までに進めなければならないのは会社の業績を見る目が変わったという価値観のアップデイトだろう。会計基準の改正によって売上高が減少してしまう、困ったどうしよう、ではないのである。