溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

会計監査の信頼が遠く霞んだ日・・・ 【東芝の限定付適正意見】

www.nikkei.com

東芝は10日、2017年3月期の正式な連結決算(米国会計基準)を発表した。同期の有価証券報告書(有報)について「限定付き適正」の意見を監査法人から受け取り、有報も関東財務局に提出した。米原子力事業の損失の認識を巡って監査法人と意見が対立し有報提出の法定期限を6月末から延長していたがようやく決着した。大きな経営課題を1つクリアしたが、再建の道筋はまだ見通せず正念場が続く。』

 

大きな経営課題を1つって・・・会社も会社なら報道も報道か・・・

と毒づいてしまうぐらい、この監査意見ってどうよ。

 

【何が起こったのか?】

事前の「限定付適正意見」との報道に、まさか~と思ったが、まさか本当にこうなるとは・・・

で、もしや何ゆえに限定付適正意見なのかについての説明が(監査報告書に)書かれるのではないかほのかな期待をしてあらた監査法人東芝に対する平成29年3月期の監査報告書を確認してみたが、案の定、定型的なもの。

 

もしかしたら、多くの人は、東芝監査法人でモメたウエスチングハウス社のS&W社取得に係る特定工事契約に関連する損失(工事損失引当金)6,522億円の計上時期(2016年3月期に認識すべき損失では無かったのか?)の問題を『除けば』それ以外は

適正意見を出せるレベルの決算だということを監査法人が示した、と理解しているのではないだろうか?

さらに、もしかしたら、得体の知らぬ不安感じゃなくて、問題点が明確な分その点を割り引いて評価すれば良い、と思う人もいるのではないか・・・

 

東芝の決算、あるいは東芝の将来に対して事業関係者や市場関係者がどう評価をするか、これは、それぞれの立場で判断してもらえば結構と思う。

 

が、会計監査にそういった判断をさせるのは筋が違うように思う。

 

【何が問題なのか?】

このような事例において、果たして限定付適正意見が出せるのか?ということだ。

 

限定付適正意見というのは、定義では、

 一部に不適切な事項はあるが、それが財務諸表等全体に対してそれほど重要性がないと考えられる場合には、その不適切な事項を記載して、会社の財務状況は「その事項を除き、すべての重要な点において適正に表示している」と監査報告書に記載する。』

分かりやすい「会計・監査用語解説集」:監査意見の種類 | 日本公認会計士協会

 

その事項を除き、とあるので問題点を除外すれば他の部分は適正と読めなくもない。「部分適正」といった報道もあった。

しかし、限定付適正は問題点を除外してそれ以外の部分はOKという趣旨ではない

問題点はあるが、それを

『含んだとしても』全体として会社の決算書は適正

と判断される場合にのみ表明される監査意見なのだ。

そうでないと、不適正意見との違いは何だ?ということになる。

不適正意見は、問題点が大きすぎて、会社全体の決算数値が歪められてしまう場合に出される。

要するに、会計上の問題点のインパクトの大きさによって限定付適正、不適正意見となるのであって、この問題点は脇に置いておいて・・・としたら、不適正意見など無くなってしまう。

 

そもそも、会計監査は会社の決算書が全体として適正かどうかについての監査意見を表明する制度であり、この部分は適正、この部分は不適正といった部分的な意見表明はしない。それが良いか悪いかは別議論であって、現状の会計監査制度はそうなっている。

 

繰り返すが、会計上の問題点があったとしても、会社全体の数字としては概ね会社の財務状況を正しく表している、というのが限定付適正意見であり、果たして今回の東芝のケースはどうか?

 

問題となった工事損失:6,522億円

 

東芝の決算数値抜粋(2017年3月期有価証券報告書より)

    2016年3月期  2017年3月期 

             (単位:億円)

売上高     51,548     48,707

当期純利益    △4,600           △9,656

純資産            3,288            △5,529

 

会計監査でいうところの決算書が「全体として適正」というのは、決算書の読者が会計数値から会社の業績や財政状態を概ね正しく判断できる、

スリードさせない、程度に正しいという状況だ。

現状では、6,522億円の損失は2017年3月期に含まれている。これを仮に2016年3月期の損失として2016年、2017年の決算数値を組み替えると・・・

 

       2016年3月期  2017年3月期 

             (単位:億円)

売上高     51,548     48,707

当期純利益     △11,122           △3,134

純資産         △3,234                  993

 

となる。どうだろうか?

工事損失の組替前後で東芝の決算の全体としての印象が変わらなければ全体として重要性なし、となるのだろうが、赤字が1/3に減少したり、純資産が債務超過から復活したり、とここまでの大きな数字の変動を重要性無しというのはどうも無理があるように思う。

少なくとも僕の経験からは、このようなケースで限定付適正を出せたかというと無理だと言わざるを得ない。

絶対的な基準値があるわけでは無いが、監査法人ごとに基準値を置いており、利益でいうと税前利益の5%程度の会計上の問題(誤りなど)であれば無限定適正であり、それを超えると限定付適正、もっと大きくなると不適正となる。

 

ということで、会計監査の制度の立てつけや、個人的な経験を基にした感覚では、今回のようなケースでの限定付適正意見は釈然としないのだ。

 

そんなことは、あらた監査法人も重々承知のことだろうし、だとすると何でこういう結果になってしまったのだろうか、という疑問が生じる。

 

分かっていながら、「その事項を除き」と言う表現を利用した、印象操作に思える。

 

【何でこうなったのか?】

要はそこに何らかの高度な政治的判断が入ったのではないか、ということなのだが、それはそれで結構だと思う。会社の大小で語るべきことではないが、それでも東芝のような会社をどうこうするとなれば事務的な形式的な判断に留まらず、というのは有りうべきことだと思う。

 

しかし、会計監査を使うなよ、と思うのだ。

 

会計監査は会計監査制度に則って会計の専門家が粛々と独自の判断を下せば良いことだ。会計監査の重要な意義の1つに独立性がある。会社と利害関係の無い第3者である会計の専門家が会社の決算に対して意見表明することに意義がある、ということだ。

そこに別の目的や恣意が介入すべきではない。

 

度重なる会計不祥事を受けて(まあ起こしたのは会社なのだが)、公認会計士協会は会計監査の社会からの信頼回復に向けて取り組んでいるが、

こんなことしてて会計監査が社会からの信頼を得られると思っているのか・・・

 

会計監査で不適正意見だったとしても、それで即上場廃止としなければ良いだけの話だろう。会計の専門家はこう言っている、それを受けて証券取引所なりが取り扱いをどうするのかを判断すればよいだけの話だ。

 

もちろん、これは限られた情報を基にした個人的な感想にすぎない(その割に、刺激的な見出しになったが・・・)。もう少しちゃんと調べればなるほど、『なるほど、それで限定付適正なのね』、と僕の誤解であることを切に願うばかりだ。