溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

何故、内部留保がやり玉に挙げられるのか?

m.newspicks.com

 

夏休みもなくドタバタしていたら、気づけは前回のブログから1か月近く経過していた・・・

 

内部留保に関するニュースが掲載されていたので久しぶりに内部留保について書いてみる。

 

財務省が1日発表した法人企業統計調査によると、企業が利益を蓄積した「内部留保」は2016年度末時点で過去最高の406兆2348億円となり、初めて400兆円を超えた。』

 

内部留保については以前もブログに書いた。2015年1月だったので、約2年半前。その時は内部留保が約330兆円だったから、それからさらに70兆円超増加したことになる。

 

『景気回復を背景に企業が資金をため込んでいる実態が浮き彫りとなり、投資や賃上げを求める圧力が一段と強まりそうだ。』

 

具体的には・・・

 『内部留保が増加している背景には、好業績に見合った賃上げや投資が控えられている側面がある。』

 

過去ブログも麻生大臣の内部留保をため込む企業は守銭奴という指摘だった。


 内部留保は企業の利益から税金や配当金、役員賞与など社外へ流出する分を差し引いた残りを積み上げたものだ

この手の指摘は、まず内部留保を現金及び預金(=おカネ)と見做している。で、

おカネをため込んで使わないとは何事か!、

そのせいで景気が回復しない。

賃上げや設備投資におカネを回して経済に貢献しろ!

 

あるいは、おカネをおカネのまま留め置くことは、利益を生まない資産を寝かせることになるので会社の総合的な収益性を表す指標である

ROEROAの悪化につながる

というものが多いように思う。

 

内部留保は利益をベースとするが、売掛金があれば利益は上がるが現金は未回収となりその分が違いなどにより、必ずしも利益=おカネとはならない。また、仮に現金商売、在庫も残らないという場合は一旦、利益=内部留保となるが、現金がその後、設備投資などに充てられるとするとこの場合もおカネ(の増減)=利益(の増減)とはならない。例えば、1,000の設備投資をするとおおカネは1,000出て行くが、利益は毎年減価償却分(例えば、10年定額償却であれば100(=1,000*1/10))が影響することになる。

いわゆる利益(の積み上げの内部留保)とおカネの差異

ということだ。

なので、おカネをため込む=悪、ということであれば、内部留保と言わずに、ストレートにB/Sの対岸であるおカネの大きさ、あるいは増加に着目すれば良いのに、回りくどいなあ、という意見もあるだろう。

 

もちろん、その通りで、内部留保が積み上がっても、設備投資や企業買収におカネを投じていれば、おカネはビジネスに投資されているので、内部留保だけでを見ておカネをため込むという先の指摘には当たらない。そして、その投資は一時に費用として利益に影響はもたらさないものの、減価償却を通じて徐々に影響を与える。なお、ここでは賃上げの是非の議論はちょっとわきに置く・・・

つまり、利益(=内部留保)とおカネの減り方のタイミングにはズレはあっても、積極的に投資していれば利益も減るので内部留保はそんなに積み上がらない。

内部留保がどんどん積み上がるのは結局のところおカネも適切に使えていないからだ

ということになる。

  

また、B/Sの現金(及び預金)は、毎年の会社の儲けや設備投資といった事業に関する要素だけでなく、財務取引などその他全ての会社の活動の結果であるので、例えば、儲けが出ても(内部留保は増加しても)それ以上に借入の返済をすれば現金(及び預金)は減少することになる。

好業績に見合った賃上げや投資が控えられているかというと、それ以外に要素が多く入り込むことになる。

 

したがって、あの会社、

こんなに儲かったくせに使わずに貯めこんでいる、(しかも

株主へ配当を支払った後にも関わらず)

という状況を指摘しようとすると、

内部留保がどれだけ積み上がったか

を見るのが分かりやすい、ということで

内部留保がやり玉にあげられやすいのではなないかと思う。

 

『一方、企業側は「合併や買収など、将来の経営に必要な資金」と繰り返しており、内部留保をめぐる議論は今後、激しさを増しそうだ。』

 

対するに、企業側の言い分。将来何があるかは誰も分からない。いざという時に頼りになるのは何といってもおカネだ。しかし、だからと言って、無目的にため込むのは経営者としてはやはりどうかとも思う。将来の合併や買収におカネが必要ということであれば、それを経営計画で示す必要があるだろう。こうした会社は過去に大きな成功を収めたがPLCが成熟期、衰退期を迎え次なる一手を出せずにいることも少なくない。会社将来の合併や買収を具体的な計画が無いことの言い訳に使ってはいけないと肝に銘じておきたい・・・